【民事訴訟法入門13】文書提出命令と自己利用文書を判例で解説

監修者
講師 赤坂けい
株式会社ヨビワン
講師 赤坂けい
【民事訴訟法入門13】文書提出命令と自己利用文書を判例で解説
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この記事を読んで理解できること
  • 書証と文書提出命令の仕組み
  • 文書提出義務
  • 除外事由をめぐる判例
  • 提出命令に従わない場合の効果
  • 試験答案の構成方法

「相手方が持っている文書を、こちらの手元に出させることはできるの?」

「銀行の内部文書のように、外部に見せない前提の文書はどうなるの?」

「提出命令に従わなかったら、どうなるの?」

民事訴訟法を学ぶ中で、こうした疑問を持った方は多いのではないでしょうか。

前回までに、弁論主義と自白を通じて、事実と証拠の収集が当事者の権能と責任に委ねられていることを確認しました。

もっとも、証拠を集めるのは当事者だといっても、決定的な証拠が相手方や第三者の手元にしかないことは珍しくありません。

そこで民事訴訟法は、一定の文書について提出義務を課し、裁判所が提出を命じる制度を置いています。

これが文書提出命令です。

現行法は、平成八年の改正により、文書提出義務を一般義務化しました。

すなわち、220条4号は、除外事由に当たらない限り文書の所持者は提出義務を負うという建前を採っています。

そのため、実際の争いは除外事由の解釈に集中し、とりわけ「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」(自己利用文書)をめぐって重要な判例が積み重ねられてきました。

本記事では、書証の申出と文書提出命令の手続を確認したうえで、220条各号の提出義務、除外事由をめぐる判例、そして提出命令に従わない場合の効果を解説します。

この記事で学べること

  • 【初級】書証の申出の方法と、文書提出命令・文書送付嘱託の違い
  • 【初中級】220条1号から3号までの提出義務と、4号による一般義務化
  • 【中級】インカメラ手続(223条6項)の意義と留意点
  • 【中級】公務秘密文書(4号ロ)と職業の秘密(4号ハ)をめぐる判例
  • 【中上級】自己利用文書(4号ニ)の三要件(最決平成11年11月12日)
  • 【中上級】提出命令に従わない場合の効果(224条)

第1章 書証と文書提出命令の仕組み

1-1 書証の申出の方法

文書に記載された内容を証拠とする証拠調べを書証といいます。

書証の申出は、①文書を自ら提出する、②文書の所持者にその提出を命ずるよう申し立てる(文書提出命令)、のいずれかによります(219条)。

このほか、裁判所が文書の所持者に送付を嘱託する文書送付嘱託(226条)の制度もありますが、これは所持者の任意の協力を前提とする点で、提出を強制する文書提出命令とは異なります。

1-2 文書提出命令の手続

文書提出命令の申立てでは、文書の表示、文書の趣旨、文書の所持者、証明すべき事実、文書提出義務の原因を明らかにしなければなりません(221条1項)。

裁判所は、申立てに理由があると認めるときは、決定で文書の所持者に提出を命じます(223条1項)。

第三者に提出を命じる場合には、その第三者を審尋しなければなりません(同条2項)。

除外事由に当たるかどうかの判断は、文書の中身を見なければできないという難しさがあります。

そこで裁判所は、必要があると認めるときは、刑事事件などに関するものを除き、文書の所持者にその提示をさせることができ、この場合、何人もその提示された文書の開示を求めることができません(223条6項)。

これをインカメラ手続といい、裁判所限りで文書を見て除外事由該当性を判断する制度です。

もっとも、申立てが却下された場合にも事実上裁判官の心証形成がされるおそれがあるとして、慎重な運用をすべきであるとの指摘があります。

第2章 文書提出義務

2-1 220条1号から3号まで

220条は、1号から3号までで個別的な提出義務を定めています。

①当事者が訴訟において引用した文書を自ら所持するとき(引用文書。1号)、②挙証者が文書の所持者に対しその引渡しまたは閲覧を求めることができるとき(2号)、③文書が挙証者の利益のために作成され、または挙証者と文書の所持者との間の法律関係について作成されたとき(利益文書・法律関係文書。3号)です。

法律関係文書の典型例は、挙証者と所持者との間で締結された契約についての契約書です。

かつては一般義務規定がなかったため拡張的に解釈されることが多かったのですが、4号が置かれた現在では、無理に拡張する必要はないという考え方も有力です。

なお判例は、220条3号後段の文書には、文書の所持者が専ら自己使用のために作成した内部文書は含まれないとしています(最決平成12年3月10日判時1711号55頁)。

2-2 4号による一般義務化と除外事由

220条4号は、1号から3号までに当たらない文書についても、次の除外事由に当たらない限り提出義務を負うものとしています。

これが文書提出義務の一般義務化です。

除外事由

内容

4号イ

文書の所持者等が刑事訴追等を受けるおそれのある事項が記載された文書(196条に対応)

4号ロ

公務員の職務上の秘密に関する文書で、その提出により公共の利益を害し、または公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの(公務秘密文書)

4号ハ

医師・弁護士等の職務上の秘密や、技術または職業の秘密に関する事項で黙秘の義務が免除されていないものが記載された文書(197条1項2号・3号に対応)

4号ニ

専ら文書の所持者の利用に供するための文書(自己利用文書)

4号ホ

刑事事件に係る訴訟に関する書類等

イとハは、証人尋問における証言拒絶権(196条・197条)に対応しています。

証言を強制できない事項については、書証の場合にも提出義務がないとしたものです。

第3章 除外事由をめぐる判例

3-1 公務秘密文書(4号ロ)

4号ロは、①「公務員の職務上の秘密に関する文書」であることと、②「その提出により公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれ」があることの二つを要求しています。

判例には、県が漁業補償交渉の際に作成した手持ち資料について、総額算出の過程の数値が開示されると漁協による組合員への補償額の決定・配分に著しい支障が生じ、今後同様の交渉を円滑に進める際の著しい支障ともなり得るとして、4号ロに当たるとしたものがあります(最決平成16年2月20日判時1862号154頁)。

交渉ごとという性質上、内部で考慮したことが開示されると今後の公務としての交渉が困難になる、という判断です。

他方、労働基準監督官が作成した災害調査復命書について、そのうちの私的な情報の部分は、①「公務員の職務上の秘密」には含まれるものの、②の要件には当たらないとした判例もあります(最決平成17年10月14日民集59巻8号2265頁)。

「公務員の職務上の秘密」には、公務員の所掌事務に属する秘密のほか、公務員が職務を遂行する上で知ることができた私人の秘密であって、それが公にされることにより私人との信頼関係が損なわれ、公務の公正かつ円滑な運営に支障を来すこととなるものも含まれる、とされている点が重要です。

3-2 技術または職業の秘密(4号ハ)

4号ハに関して、判例は「技術又は職業の秘密」(197条1項3号)の意義について、「その事項が公開されると、当該技術の有する社会的価値が下落しこれによる活動が困難になるもの又は当該職業に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になるものをいう」としています(最決平成12年3月10日民集54巻3号1073頁)。

同決定は、技術上の情報が記載された文書であるというだけでは足りず、開示による不利益の具体的内容の認定が必要であるとしました。

その後の判例は、職業の秘密を理由とする証言拒絶に関する判断枠組みを前提に、保護に値する秘密であるかどうかを比較衡量によって決すべきであるとしています。

金融機関が所持する文書について、開示による顧客の不利益が小さく、金融機関の業務に対する影響も軽微であり、当該情報部分の証拠価値が高いことなどから、保護に値する職業の秘密に当たらないとした例があります(最決平成20年11月25日民集62巻10号2507頁)。

3-3 自己利用文書(4号ニ)

4号ニは、「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」を除外しています。

これを自己利用文書といい、とくに多くの重要な判例があります。

その基本となるのが、銀行の貸出稟議書について自己利用文書に当たるとした決定です(最決平成11年11月12日民集53巻8号1787頁)。

同決定は、自己利用文書に当たるための要件として、次の三つを示しました。

  • ①専ら内部の者の利用に供する目的で作成され、外部の者に開示することが予定されていない文書であること(内部文書性・外部非開示性)
  • ②開示されると個人のプライバシーが侵害されたり個人ないし団体の自由な意思形成が阻害されたりするなど、開示によって所持者の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがあると認められること(不利益性)
  • ③特段の事情がないこと

①は、何のために作られた文書なのかという過去の作成の事情を問題にするものであり、②は、今後開示されたらどのような不利益が生じるのかという将来の予想を問題にするものと考えると理解しやすいでしょう。

③は「ない」ことを要求する消極的要件です。

③の特段の事情について、判例は、信用金庫の貸出稟議書が問題となった会員代表訴訟の事案で、「特段の事情とは、文書提出命令の申立人がその対象である貸出稟議書の利用関係において所持者である信用金庫と同一視することができる立場に立つ場合をいう」としたうえで、会員代表訴訟は会員が理事の責任を追及することを許容するにすぎず、会員として閲覧・謄写することができない書類を信用金庫と同一の立場で利用する地位を付与するものではないとして、特段の事情を否定しました(最決平成12年12月14日民集54巻9号2709頁)。

その後も、市議会の会派が政務調査費による調査研究について作成した報告書や、弁護士会の綱紀委員会の議事録について、三要件に即して自己利用文書該当性が判断されています(最決平成23年10月11日判時2136号9頁等)。

答案では、この三要件を正確に示し、①については文書の作成目的と開示の予定の有無を、②については開示によって生じる具体的な不利益を、③については申立人が所持者と同一視できる立場にあるかを、それぞれ丁寧にあてはめることが求められます。

第4章 提出命令に従わない場合の効果

当事者が文書提出命令に従わないときは、裁判所は、その文書の記載に関する相手方の主張を真実と認めることができます(224条1項)。

相手方が当該文書の記載に関して具体的な主張をすること、および当該文書により証明すべき事実を他の証拠により証明することが著しく困難であるときは、裁判所は、その事実に関する相手方の主張を真実と認めることができます(同条3項)。

当事者が相手方の使用を妨げる目的で提出義務のある文書を滅失させたときも同様です(同条2項)。

これに対して、第三者が文書提出命令に従わないときは、決定で過料に処せられます(225条1項)。

当事者と第三者とで制裁の仕組みが異なる点は、押さえておきましょう。

第5章 試験答案の構成方法

5-1 文書提出命令の可否が問われる事案

相手方や第三者が所持する文書について提出命令が申し立てられたという事案では、以下の流れで答案を構成することが考えられます。

【答案構成の流れ】

  • 問題提起:当該文書について文書提出義務が認められるか(220条各号)を問題とする
  • 個別義務の検討:まず1号から3号までに当たらないかを確認する。とくに3号後段の法律関係文書該当性が問題となることが多いが、判例は自己使用のために作成された内部文書は含まれないとする(最決平成12年3月10日)
  • 一般義務の検討:4号により、除外事由に当たらない限り提出義務が認められることを示す
  • 除外事由のあてはめ:自己利用文書(4号ニ)が問題となる場合、①専ら内部の者の利用に供する目的で作成され外部への開示が予定されていない文書か、②開示により所持者の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがあるか、③申立人が所持者と同一視できる立場に立つなどの特段の事情がないかを順に検討する(最決平成11年11月12日、最決平成12年12月14日)
  • 結論と効果:提出義務が認められれば提出を命じることができる。義務があるのに当事者が従わない場合には、文書の記載に関する相手方の主張を真実と認めることができる(224条1項)

公務秘密文書(4号ロ)が問題となる事案では、「公務員の職務上の秘密」に私人の秘密も含まれうること(最決平成17年10月14日)を踏まえ、開示によって公務の遂行に著しい支障が生ずるかを具体的に検討します。

職業の秘密(4号ハ)であれば、当該職業に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になるかという基準(最決平成12年3月10日)を用いたうえで、保護に値する秘密かどうかを比較衡量することになります。

まとめ

文書提出命令について、本記事では以下の点を解説しました。

  • 書証の申出は、自ら文書を提出するか、文書提出命令の申立てによる(219条)。任意の協力を前提とする文書送付嘱託(226条)とは異なる
  • 220条1号から3号までが個別的な提出義務を定め、4号が除外事由に当たらない限り提出義務を認める(一般義務化)
  • 除外事由該当性の判断のために、裁判所限りで文書を見るインカメラ手続(223条6項)が用意されている
  • 公務秘密文書(4号ロ)では、「公務員の職務上の秘密」に私人の秘密も含まれうるが、公務の遂行に著しい支障が生ずるおそれが別途必要である(最決平成17年10月14日)
  • 自己利用文書(4号ニ)は、①内部文書性、②看過し難い不利益、③特段の事情の不存在という三要件で判断される(最決平成11年11月12日)
  • 当事者が提出命令に従わないときは文書の記載に関する相手方の主張を真実と認めることができ(224条1項)、第三者の場合は過料の制裁がある(225条1項)

次回記事では、判決によらない訴訟の終了を扱います。

訴えの取下げ、請求の放棄・認諾、訴訟上の和解という、当事者の意思によって訴訟を終わらせる制度を、判例に即して解説します。

第一回で学んだ処分権主義の三つ目の内容が具体化する場面です。

【民事訴訟法入門14】判決によらない訴訟の終了を総整理!訴えの取下げ・請求の放棄・認諾・訴訟上の和解を徹底解説

前回記事
【民事訴訟法入門12】裁判上の自白の要件と効果を判例で解説

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