【民事訴訟法入門14】判決によらない訴訟の終了を総整理!訴えの取下げ・請求の放棄・認諾・訴訟上の和解を徹底解説

監修者
講師 赤坂けい
株式会社ヨビワン
講師 赤坂けい
【民事訴訟法入門14】判決によらない訴訟の終了を総整理!訴えの取下げ・請求の放棄・認諾・訴訟上の和解を徹底解説
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チェック
この記事を読んで理解できること
  • 訴えの取下げ
  • 請求の放棄・認諾
  • 訴訟上の和解

この記事は、

  • 訴えの取下げ、請求の放棄・認諾、訴訟上の和解の違いを知りたい
  • 訴えを取り下げた後に、もう一度訴えられるのかを知りたい
  • 訴訟上の和解に納得できないときにどうすればよいのかを知りたい

といった方におすすめです。

民事訴訟は、必ず判決で終わるとは限りません。

むしろ実務では、判決に至らずに終わる事件のほうが多いくらいです。

当事者が自分の意思で訴訟を終わらせる方法として、民事訴訟法は、訴えの取下げ、請求の放棄・認諾、訴訟上の和解という3つの制度を用意しています。

これは、処分権主義の3つ目の内容、つまり「どのような形で訴訟を終わらせるか」を当事者の意思に委ねるという考え方が、具体的な制度になったものです。

処分権主義については、本連載第7回で解説していますので、あわせてご覧ください。

【民事訴訟法入門7】処分権主義と申立事項の限界を判例で解説

ここでつまずきやすいのは、3つの制度が「結局どこが違うのか」が整理されないまま、名前だけを覚えてしまうことです。

しかし、①紛争解決の基準が示されるか、②相手方の関与が必要か、という2つの軸で比べると、驚くほどすっきりします。

 

紛争解決の基準

相手方の関与

訴えの取下げ

示されない

(訴訟がなかったことになるだけ)

場合により被告の同意が必要(261条2項)

請求の放棄・認諾

示される

(請求の当否そのもの)

不要

(一方的な意思表示でできる)

訴訟上の和解

示される

(請求内容と異なる基準も可)

必要

(両当事者の合意)

そこで、この記事では、

第1章で訴えの取下げについて、

第2章で請求の放棄・認諾について、

第3章で訴訟上の和解について、

それぞれ解説します。

基礎知識をわかりやすく簡潔に説明しますので、初学者の方はもちろん、民事訴訟法をひと通り学んだ方のまとめ用にも最適です。

第1章 訴えの取下げ

1-1 訴えの取下げとは何か

まずは、訴えの取下げとは何なのかを解説します。

民事訴訟法の条文を読んでみましょう。

(訴えの取下げ)

第二百六十一条 訴えは、判決が確定するまで、その全部又は一部を取り下げることができる。

2~6(略)

訴えの取下げとは、訴えによる審判の要求を撤回する、裁判所に対する原告の意思表示のことをいいます。

【事例】

Xは、Yに対し、甲土地の売買契約に基づく代金1000万円の支払を求める訴訟を提起した。

ところが、訴訟の途中でYから「今すぐ800万円を現金で支払う」と持ちかけられたため、Xは訴訟を続けるのをやめることにした。

ここで押さえておきたいのは、訴えを取り下げても、「Xの請求に理由があるのか」は一切判断されないという点です。

紛争解決の基準は何も示されないまま、訴訟だけがなかったことになります。

この点が、あとで扱う請求の放棄・認諾や訴訟上の和解と決定的に違うところです。

なお、取下げは原告が一人ですることができます。

裁判所の許可も、(後述する場合を除いて)被告の承諾も要りません。

1-2 いつまで取り下げられるのか

261条1項は「判決が確定するまで」と定めています。

つまり、第一審で判決が言い渡された後であっても、控訴期間中であれば取り下げることができます。

「判決が出たら終わり」ではない、という点は意外と盲点です。

1-3 被告の同意が必要な場合がある

訴えの取下げは原告の一方的な行為ですが、いつでも自由にできるわけではありません。

第二百六十一条

2 訴えの取下げは、相手方が本案について準備書面を提出し、弁論準備手続において申述をし、又は口頭弁論をした後にあっては、相手方の同意を得なければ、その効力を生じない。ただし、本訴の取下げがあった場合における反訴の取下げについては、この限りでない。

なぜ被告の同意が必要なのでしょうか。

被告からすれば、いったん争う姿勢を示して反論の準備をした以上、「請求棄却判決を勝ち取りたい」という利益があるからです。

もしこの段階で原告が自由に取り下げられるとすると、被告は原告の敗色が濃くなるたびに取り下げられ、何度でも訴えられかねません。

そこで、被告が本案について防御活動を始めた後は、被告の同意が必要とされているのです。

■「準備書面を提出し」で足りる

条文をよく読むと、「本案について準備書面を提出し」とあります。

提出で足りるので、その準備書面を口頭弁論で陳述するところまでは必要ありません。

答案では条文の文言どおりに認定することが大切です。

1-4 取下げの方式

訴えの取下げは、書面でするのが原則です(261条3項)。

もっとも、口頭弁論や弁論準備手続の期日であれば、口頭ですることもできます(同条4項)。

この場合、裁判所書記官がその期日の電子調書に取下げがされた旨を記録します。

また、被告が取下げの書面の送達を受けた日から2週間以内に異議を述べないときは、同意したものとみなされます(同条6項)。

【注意】

令和8年5月21日に施行された法改正により、261条は5項構成から6項構成に変わりました。

同意の擬制は、改正前は5項でしたが、現行法では6項です。

条文を引くときは必ず現行法で確認してください。

なお、当事者双方が期日に欠席し、1か月以内に期日指定の申立てをしないときなどは、訴えの取下げがあったものとみなされます(263条)。

これは処分権主義の表れというより、熱心に手続を追行しない当事者に対する規制です。

1-5 訴えの取下げの効果

■訴訟係属の遡及的消滅

(訴えの取下げの効果)

第二百六十二条 訴訟は、訴えの取下げがあった部分については、初めから係属していなかったものとみなす。

2 本案について終局判決があった後に訴えを取り下げた者は、同一の訴えを提起することができない。

取り下げられた部分については、訴訟は初めから係属していなかったことになります(262条1項)。

もっとも、消えるのはあくまで訴訟法上の効果です。

訴え提起に伴って生じた実体法上の効果(催告としての効力や、訴状でした解除の意思表示など)まで消えるわけではありません。

■再訴の禁止

262条2項は、終局判決が出た後に訴えを取り下げた者は、同じ訴えを提起できないと定めています。

せっかく裁判所が判決まで出したのに、原告がこれを取り下げて振り出しに戻すのは、裁判所の労力を無駄にする行為だからです。

では、「同一の訴え」とはどこまでを指すのでしょうか。

この点について、最高裁が明確な基準を示しています。

・最判昭和52年7月19日民集31巻4号693頁

【判旨】

民訴法二三七条二項は、終局判決を得た後に訴を取下げることにより裁判を徒労に帰せしめたことに対する制裁的趣旨の規定であり、同一紛争をむし返して訴訟制度をもてあそぶような不当な事態の生起を防止する目的に出たものにほかならず、旧訴の取下者に対し、取下後に新たな訴の利益又は必要性が生じているにもかかわらず、一律絶対的に司法的救済の道を閉ざすことをまで意図しているものではないと解すべきである。したがつて、同条項にいう「同一ノ訴」とは、単に当事者及び訴訟物を同じくするだけではなく、訴の利益又は必要性の点についても事情を一にする訴を意味し、たとえ新訴が旧訴とその訴訟物を同じくする場合であつても、再訴の提起を正当ならしめる新たな利益又は必要性が存するときは、同条項の規定はその適用がないものと解するのが、相当である。

※判文中の「民訴法二三七条二項」は旧法の条文で、現行法の262条2項にあたります。

ポイントは2つあります。

①再訴禁止は、裁判を徒労に終わらせたことへの「制裁」だということ。

②だからこそ、制裁を加える必要のない場合、つまり再訴を正当化する新たな利益や必要性があるときは、262条2項は適用されないということ。

したがって、「同一の訴え」といえるためには、当事者と訴訟物が同じであるだけでは足りず、訴えの利益・必要性の点でも事情が同じであることが必要になります。

【コラム】訴えの交換的変更に要注意

訴えの交換的変更は、「新しい訴えの追加」と「古い訴えの取下げ」を組み合わせたものと理解されています。

つまり、問題文に「訴えを取り下げた」と書かれていなくても、訴えの交換的変更がされていれば、その時点で取下げがあったことになります。

前掲の最判昭和52年7月19日も、まさに控訴審で訴えの交換的変更がされた事案でした。

「取下げ」という言葉を探すのではなく、実質的に取下げにあたる行為がないかを探す癖をつけましょう。

1-6 取下げの有効性が争われた場合

■「取り下げていない」「取下げは無効だ」と主張したいとき

訴えの取下げがあったかどうか、有効かどうかで当事者の言い分が食い違うことがあります。

この場合、取下げの不存在や無効を主張する当事者に期日指定の申立てをさせ、口頭弁論を開いて審理することになります。

審理の結果、取下げが有効だと判断されれば、裁判所は「本件訴訟は訴えの取下げにより終了した」旨を宣言する判決(訴訟終了宣言判決)をします。

逆に、取下げが不存在・無効だと判断されれば、訴訟はまだ係属していることになるので、そのまま本案の審理を続けることになります。

■だまされて取り下げてしまった場合

では、原告が詐欺や脅迫によって訴えを取り下げさせられた場合はどうでしょうか。

訴えの取下げは訴訟行為です。

訴訟行為は次々と積み重なって手続の基礎になるため、後から意思の瑕疵を理由に効力を覆すと、手続の安定が害されます。

そのため、訴訟行為には原則として民法の意思表示に関する規定は適用されないと考えられています(本連載第10回参照)。

【民事訴訟法入門10】訴訟行為の意義と分類を基礎から解説

もっとも、訴えの取下げは訴訟を終わらせるだけの行為であり、その上に別の訴訟行為が積み重なることはありません。

そこで、判例は次のように述べています。

・最判昭和46年6月25日民集25巻4号640頁

【判旨】

訴の取下は訴訟行為であるから、一般に行為者の意思の瑕疵がただちにその効力を左右するものではないが、詐欺脅迫等明らかに刑事上罰すべき他人の行為により訴の取下がなされるにいたつたときは、民訴法四二〇条一項五号の法意に照らし、その取下は無効と解すべきであり、また、右無効の主張については、いつたん確定した判決に対する不服の申立である再審の訴を提起する場合とは異なり、同条二項の適用はなく、必ずしも右刑事上罰すべき他人の行為につき、有罪判決の確定ないしこれに準ずべき要件の具備、または告訴の提起等を必要としないものと解するのが相当である。

※判文中の「民訴法四二〇条一項五号」「同条二項」は旧法の条文で、現行法の338条1項5号・同条2項にあたります。

この判例は、答案で使える2つのことを言っています。

判示事項

内容

①取下げは無効

刑事上罰すべき他人の行為による取下げは、再審事由を定める338条1項5号の法意に照らし、無効になる。

②有罪判決は不要

再審の訴えと異なり、338条2項の適用はない。有罪判決の確定も、告訴の提起も必要ない。

②が出てくる理由も押さえておきましょう。

再審は、いったん確定した判決の効力を覆す手続なので、有罪判決の確定という厳格な要件が課されています(338条2項)。

これに対して、訴えの取下げの無効を主張する場面では、確定判決の効力を覆すわけではありません。

だからこそ、同じ要件を要求する必要がないのです。

1-7 訴えの取下げの合意

訴訟の外で、当事者が「この訴えは取り下げよう」と約束することがあります。

これを訴えの取下げの合意(訴え取下げ契約)といいます。

【事例】

Xは、Yに対して建物の所有権確認等を求める訴訟を提起したが、控訴審の途中で話合いがまとまり、

「YがXに200万円を支払い、Xは本件訴訟を取り下げる」という合意が成立した。

Yは200万円を支払ったが、Xは気が変わって訴えを取り下げようとしない。

原告が約束どおり取り下げてくれれば問題はありません。

困るのは、この事例のように原告が翻意した場合です。

この点について、判例は次のように述べています。

・最判昭和44年10月17日民集23巻10号1825頁

【判旨】

原判示のような訴の取下に関する合意が成立した場合においては、右訴の原告は権利保護の利益を喪失したものとみうるから、右訴を却下すべきものであり、これと結論を同じくする原審の判断は相当である。

つまり、取下げの合意があったことが訴訟で証明されれば、原告はもはや権利保護の利益を失っているので、裁判所は訴えを却下することになります。

ここで気をつけたいのは、「却下」であって「棄却」ではないという点です。

裁判所は、Xの請求に理由があるかどうかを判断しているわけではありません。

訴えの利益という訴訟要件を欠くために、門前払いをしているのです。

第2章 請求の放棄・認諾

2-1 請求の放棄・認諾とは何か

この章では、請求の放棄・認諾について解説します。

 

誰がするか

内容

請求の放棄

原告

自分の請求に理由がないことを認め、もはや争わないという意思表示

請求の認諾

被告

相手の請求に理由があることを認め、もはや争わないという意思表示

訴えの取下げと違い、請求の当否そのものについて決着がつく点が特徴です。

そして、訴えの取下げ(被告の同意)や訴訟上の和解(両当事者の合意)と違い、一方的な意思表示だけでできてしまいます。

(請求の放棄又は認諾)

第二百六十六条 請求の放棄又は認諾は、口頭弁論等の期日においてする。

2 請求の放棄又は認諾をする旨の書面を提出した当事者が口頭弁論等の期日に出頭しないときは、裁判所又は受命裁判官若しくは受託裁判官は、その旨の陳述をしたものとみなすことができる。

2-2 どのような場合にできるのか

請求の放棄・認諾が認められるためには、大きく次の3つが必要です。

①当事者が訴訟物について自由に処分できること

②(認諾の場合)その権利関係が公序良俗や強行法規に反しないこと

③訴訟能力があること

②について、たとえば利息制限法の制限を超える利息の請求を被告が認諾しても、その認諾に効力を認めることはできません。

当事者が「認めます」と言えば強行法規を潜脱できてしまうからです。

■不適法な訴えでの認諾

では、そもそも訴え自体が不適法だった場合はどうでしょうか。

【事案】

過去の事実を報告する書面について、その偽造の確認を求める訴え(証書真否確認の訴え)が提起された。

この書面は、一定の現在の法律関係を証明するものではなく、証書真否確認の訴えの対象にならないものであった。

ところが、相手方はこの請求を認諾した。

・最判昭和28年10月15日民集7巻10号1083頁

【判旨】

同条の証書真否確認の訴は、前示のごとき証書の真否の確定を求めるものでなければ不適法であるから、本訴のような請求に対し、たとい相手方がその請求を認諾しても、その認諾は、証書真否確認の訴を認めた立法理由に背反しその訴訟上の効果を生じ得ないものといわなければならない。

請求の放棄・認諾は、裁判所が本案判決をしたのと同じ効力を持ちます。

本案判決をするには訴訟要件が備わっていることが必要ですから、放棄・認諾にも原則として訴訟要件の具備が必要だ、というのが判例・通説の考え方です。

2-3 請求の放棄・認諾の効果

放棄・認諾がされると、裁判所書記官が電子調書を作成してファイルに記録します。

これによって「確定判決と同一の効力」が生じます。

(和解等に係る電子調書の効力)

第二百六十七条 裁判所書記官が、和解又は請求の放棄若しくは認諾について電子調書を作成し、これをファイルに記録したときは、その記録は、確定判決と同一の効力を有する。

2 前項の規定によりファイルに記録された電子調書は、当事者に送達しなければならない。この場合においては、第二百五十五条第二項の規定を準用する。

【注意】

令和8年5月21日に施行された法改正により、267条の見出しは「和解調書等の効力」から「和解等に係る電子調書の効力」に変わりました。

条文の文言も「調書に記載したとき」から「電子調書を作成し、これをファイルに記録したとき」に改められ、送達義務を定める2項が新設されています。

さらに、電子調書の更正決定を定める267条の2も新設されました。

具体的な効果は次のとおりです。

  • 訴訟終了効:訴訟はその時点で当然に終了します。
  • 執行力:認諾には執行力が生じます(民事執行法22条7号)。これに対し、請求の放棄は原告が「請求に理由がない」と認めるものなので、執行力は生じません。
  • 既判力:これは訴訟上の和解と共通の問題なので、第3章でまとめて扱います。

第3章 訴訟上の和解

3-1 訴訟上の和解とは何か

訴訟上の和解とは、訴訟の係属中に、裁判官の面前で、両当事者が一定の内容で紛争を解決し、かつ訴訟を終了させることに合意するものをいいます。

裁判所は、訴訟がどの段階にあっても和解を試みることができます(89条1項)。

口頭弁論の期日だけでなく、弁論準備手続の期日や、和解のための特別な期日で行うこともできますし、口頭弁論終結後や上告審でもすることができます。

■放棄・認諾との大きな違い

請求の放棄・認諾は、あくまで「請求に理由があるかどうか」についての決着です。

これに対して訴訟上の和解では、訴訟物以外の法律関係を盛り込んだり、第三者(利害関係人)が参加したりすることができます。

【事例】

Xは、Yに対し、貸金500万円の返還を求める訴訟を提起した。

和解に際して、①Yは300万円を分割して支払う、②Yが所有する甲土地に抵当権を設定する、という内容を定めた。

②は訴訟物である貸金返還請求権とは別の法律関係ですが、このような和解もできます。

この柔軟さこそが、訴訟上の和解が実務でもっとも多用される理由です。

なお、当事者が出頭しにくい場合のために、あらかじめ提示された和解条項案を書面で受諾する制度(264条)や、当事者の共同の申立てにより裁判所が和解条項を定める制度(265条)も用意されています。

264条については、令和8年5月21日施行の改正で2項が新設され、当事者双方が出頭困難な場合にも書面受諾による和解ができるようになりました。

3-2 訴訟上の和解の効果と既判力

和解も、電子調書に記録されることで「確定判決と同一の効力」を生じます(267条1項)。

訴訟終了効と執行力が生じることに争いはありません。

問題は、既判力が生じるかどうかです。

まず、最高裁は既判力を肯定しています。

・最大判昭和33年3月5日民集12巻3号381頁

【裁判要旨】

裁判上の和解は確定判決と同一の効力を有し既判力を有するものと解すべきである。(少数意見がある。)

ところが、これで話は終わりません。

別の判例を見てみましょう。

【事案】

仮差押えの目的となっていたジャムが一定の品質を有することを前提として、これを代物弁済として引き渡す旨の訴訟上の和解が成立した。

ところが、そのジャムは粗悪品であった。

・最判昭和33年6月14日民集12巻9号1492頁

【判旨】

原判決は、本件和解は要素の錯誤により無効である旨判示しているから、所論のごとき実質的確定力を有しないこと論をまたない。

・最判昭和38年1月25日集民64号217頁

【判旨】

裁判上の和解は、確定判決と異なり、一面私法上の契約たる性質をも有し、私法上の無効原因があるときは、初めから無効である。

この3つを並べると、判例の考え方が見えてきます。

訴訟上の和解には、原則として既判力があります。

しかし、訴訟上の和解は、裁判所が公権的な判断を下したものではなく、当事者が自分たちで作った紛争解決基準です。

そうである以上、その和解自体に錯誤などの無効原因がある場合にまで、「もう争えません」と言い切るのは行き過ぎです。

そこで、和解に既判力を認めつつ、意思表示に瑕疵がある場合には無効・取消しの主張が遮断されない、と考えることになります。

これを制限的既判力説といいます。

請求の放棄・認諾についても、同じ考え方が当てはまります。

3-3 和解に納得できないときはどうするか

制限的既判力説に立つと、実際の議論の中心は「既判力があるかどうか」ではなく、「無効・取消しをどうやって主張するか」に移ります。

一般に、次の3つのルートが挙げられます。

主張の方法

メリット

デメリット

①期日指定の申立て

もとの訴訟をそのまま続行できるので、手続が無駄にならない。

上級審で和解した場合、和解の瑕疵について三審制が保障されない。訴訟物以外の法律関係や第三者を入れた和解には対応できない。

②和解無効確認の別訴

①のデメリットの裏返しで、三審制が保障され、第三者を巻き込んだ和解にも対応できる。

もとの訴訟の手続が無駄になる。

③請求異議の訴え(民事執行法35条)

強制執行を止めたい場合に直接的である。

②と同様。

どれを選ぶべきかは、紛争の焦点がどこにあるかで決まります。

たとえば、建物明渡訴訟で「建物を明け渡す代わりに別の建物を貸す」という和解が成立した場合、争いの中心はもはや「別の建物に住めるか」に移っています。

このような場合に、もとの明渡訴訟を復活させてもあまり意味がありません。

むしろ、新しい訴訟として和解無効確認の訴えを提起するほうが適切です。

3-4 和解が守られなかったときはどうなるか

最後に、和解はしたけれども相手が約束を守らない、という場面を考えます。

【事例】

Xは、Yに対する建物収去土地明渡訴訟において、「Yが分割して解決金を支払う」という内容の訴訟上の和解をした。

ところが、Yは2回目以降の支払をしなかった。

そこでXは、和解を債務不履行により解除した。

和解を解除できること自体に争いはありません。

問題は、解除によってもとの訴訟が復活するのかどうかです。

・最判昭和43年2月15日民集22巻2号184頁

【判旨】

訴訟が訴訟上の和解によつて終了した場合においては、その後その和解の内容たる私法上の契約が債務不履行のため解除されるに至つたとしても、そのことによつては、単にその契約に基づく私法上の権利関係が消滅するのみであつて、和解によつて一旦終了した訴訟が復活するものではないと解するのが相当である。

判例は、訴訟は復活しないとしました。

解除によって消えるのは私法上の権利関係だけであり、訴訟終了という訴訟法上の効果には影響しない、という理解です。

したがって、Xとしては、あらためて新しい訴えを提起することになります。

そして、もとの訴訟は復活していないのですから、この新訴が重複起訴(142条)にあたることもありません。

【解法】和解の「瑕疵」と「解除」を区別する

和解に納得できない場面は、次の2つに分けて考えてください。

①和解そのものに瑕疵がある場合(錯誤・詐欺など)

 → 和解は初めから無効なので、3つのルートのどれで主張するかが問題になる。

②和解自体は有効だが、後から履行されなかった場合

 → 解除の問題であり、口頭弁論終結後の新たな事由なので、新訴を提起する(最判昭和43年2月15日)。

この2つを混ぜて論じてしまう答案が非常に多いところです。

第4章 まとめ

■第1章まとめ

訴えの取下げとは、訴えによる審判の要求を撤回する原告の意思表示であり、紛争解決の基準は示されません。

被告が本案について防御活動を始めた後は、被告の同意が必要です(261条2項)。

取り下げられた部分については訴訟は初めから係属していなかったことになりますが(262条1項)、終局判決後に取り下げた場合には再訴が禁止されます(同条2項)。

「同一の訴え」とは、当事者と訴訟物が同じであるだけでなく、訴えの利益・必要性の点でも事情を一にする訴えをいいます(最判昭和52年7月19日)。

刑事上罰すべき他人の行為による取下げは無効であり、この主張には有罪判決の確定を要しません(最判昭和46年6月25日)。

訴えの取下げの合意が証明されたときは、権利保護の利益を欠くとして訴えが却下されます(最判昭和44年10月17日)。

■第2章まとめ

請求の放棄は原告が、請求の認諾は被告が、それぞれ一方的な意思表示でできます。

電子調書に記録されることで「確定判決と同一の効力」が生じ(267条1項)、認諾には執行力も生じます。

もっとも、訴訟要件を欠く不適法な訴えにおける認諾は、訴訟法上の効力を生じません(最判昭和28年10月15日)。

■第3章まとめ

訴訟上の和解は、訴訟物以外の法律関係や第三者を取り込むことができる点で、放棄・認諾よりも柔軟です。

判例は和解の既判力を肯定しますが(最大判昭和33年3月5日)、和解に無効原因があるときは実質的確定力を有しないとしており(最判昭和33年6月14日、最判昭和38年1月25日)、制限的既判力説と整理されています。

瑕疵の主張方法には、期日指定の申立て・和解無効確認の別訴・請求異議の訴えの3つがあります。

和解が債務不履行により解除されても、いったん終了した訴訟は復活しません(最判昭和43年2月15日)。

この記事では、初学者の方にもわかりやすいように、一般的な考え方をざっくりと解説しています。

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【民事訴訟法入門15】既判力とは何か。意義・作用・働く3つの場面を初学者向けに徹底解説

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【民事訴訟法入門13】文書提出命令と自己利用文書を判例で解説

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