【民事訴訟法入門15】既判力とは何か。意義・作用・働く3つの場面を初学者向けに徹底解説

監修者
講師 赤坂けい
株式会社ヨビワン
講師 赤坂けい
【民事訴訟法入門15】既判力とは何か。意義・作用・働く3つの場面を初学者向けに徹底解説
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チェック
この記事を読んで理解できること
  • 既判力とは何か
  • 既判力の作用
  • 他の効力との区別
  • 既判力はどこまで及ぶのか

この記事は、

  • 既判力という言葉の意味が、いまひとつつかめない
  • 既判力が実際の訴訟でどう働くのかを知りたい
  • 既判力と争点効・信義則の関係を整理したい

といった方におすすめです。

民事訴訟法を学んでいると、必ず「既判力」という言葉に出会います。

そして、多くの初学者がここでつまずきます。

理由はわりとはっきりしています。

既判力は、「既判力とは何か」という定義だけを覚えても、まったく使えるようにならないからです。

定義を覚えた直後に出てくるのは、基準時、客観的範囲、主観的範囲、争点効、信義則といった論点の山で、どれも「既判力がどう働くのか」が頭に入っていないと手がつきません。

逆にいえば、既判力の働き方が頭に入っていれば、この先の論点はすべて同じ発想の応用として理解できます。

そこで、この記事では、

第1章で既判力とは何かについて、

第2章で既判力の作用について、

第3章で他の効力との区別について、

第4章で既判力がどこまで及ぶのかについて、

それぞれ解説します。

基礎知識をわかりやすく簡潔に説明しますので、初学者の方はもちろん、民事訴訟法をひと通り学んだ方のまとめ用にも最適です。

第1章 既判力とは何か

1-1 判決が確定すると、もう争えなくなる

まずは、民事訴訟法の条文を読んでみましょう。

(既判力の範囲)

第百十四条 確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有する。

2 相殺のために主張した請求の成立又は不成立の判断は、相殺をもって対抗した額について既判力を有する。

既判力とは、確定した終局判決の判断内容が後の訴訟において通用する力のことをいいます。

もう少し具体的にいうと、次の2つを意味します。

  • 当事者は、後の訴訟で、前の判決の判断に反する主張をすることができない
  • 裁判所は、後の訴訟で、前の判決の判断に反する判断をすることができない

【事例】

Xは、Yに対し、貸金1000万円の返還を求める訴訟を提起した。

しかし、Xは金銭を交付した事実を証明できず、請求棄却の判決が確定した。

その後、Xは、同じ貸金1000万円の返還を求める訴訟を、もう一度Yに対して提起した。

この事例で、2回目の訴訟でもう一度同じ審理をやり直せるとしたら、どうなるでしょうか。

Yは、いつまでも同じ主張に付き合わされ続けることになります。

これでは、何のために判決が出されたのか分かりません。

そこで、1回目の判決が確定した以上、Xは「貸金返還請求権は存在する」と主張することができず、裁判所も「存在する」と判断することができないことになります。

これが既判力です。

【注意】既判力が生じるのは「結論」であって「理由」ではない

ここは初学者がもっとも誤解しやすいところです。

請求が棄却される理由は、ひとつではありません。

  • お金を渡した事実が証明できなかった
  • お金は渡したが、すでに弁済されていた
  • お金は渡したが、消滅時効が完成していた

どの理由で棄却されたとしても、判決の主文に表れるのは「原告の請求を棄却する」、つまり「貸金返還請求権は存在しない」という結論だけです。

114条1項が「主文に包含するものに限り」としているのはこの意味で、お金を渡したのかどうか、弁済があったのかどうかといった理由中の判断には既判力は生じません。

したがって、後訴で遮断されるのは「貸金返還請求権が存在する」という主張と、それを導くための主張です。

「お金を貸した事実を主張できなくなる」と理解してしまうと不正確なので、注意してください。

※正確には「どの時点において存在しないのか」という問題があります。この点は次回扱う予定です。

1-2 なぜ既判力が認められるのか

既判力が認められる理由は、大きく2つです。

この2つは、以後の論点をすべて貫くので、ここで必ず押さえてください。

根拠

内容

①紛争解決の実効性

(法的安定)

裁判所がわざわざ判決をしたのに、同じ紛争を何度でも蒸し返せるとしたら、訴訟制度の意味がなくなる。紛争を終わらせるためには、判断に終局性を与えなければならない。

②手続保障に基づく

自己責任

当事者は、前の訴訟で主張・立証をする機会を十分に与えられていた。それにもかかわらず主張しなかった以上、その結果を引き受けるべきである。

①だけだと、「当事者の言い分を聞かずに紛争を打ち切る」ことまで正当化されてしまいます。

そこで②が必要になります。

逆に、②が満たされていない人、つまり主張・立証の機会を与えられていなかった人には、既判力を及ぼすべきではありません。

この発想は、既判力が誰に及ぶのか(主観的範囲)という論点で、そのまま使うことになります。

【コラム】既判力の「本質」をめぐる議論

既判力の本質については、既判力によって実体法上の権利関係そのものが確定されると考える実体法説と、判決の判断内容が後訴の裁判所を拘束するにとどまると考える訴訟法説があります。

現在は訴訟法説が通説です。

初学者の方は、「既判力は、実際の権利関係を変えるものではなく、後の裁判所の判断を縛るものだ」と理解しておけば十分です。

たとえば、本当は貸金債権が存在していたとしても、請求棄却判決が確定すれば、裁判所はもう「存在する」とは判断できません。

権利が消えるわけではないが、裁判では主張できなくなるということです。

1-3 既判力が生じるのはどの判決か

既判力が生じるのは、確定した終局判決です。

ポイントは次の2つです。

■「確定」していること

判決が確定するのは、上訴期間が過ぎたとき、当事者が上訴権を放棄したとき、上告審の判決が出たときなどです。

判決が言い渡されただけでは、まだ既判力は生じません。

■「終局判決」であること

訴訟を終わらせる判決であることが必要です。

したがって、訴訟要件を欠くとして訴えを却下する訴訟判決にも、既判力は生じます。

もっとも、この場合に既判力が生じるのは「その訴訟要件を欠いていたこと」についてであり、請求に理由があるかどうかについては生じません。

【注意】却下判決の既判力は、その訴訟要件についてだけ

訴えの利益を欠くとして却下された場合、既判力が生じるのは「訴えの利益を欠いていたこと」についてです。

したがって、訴えの利益が備わる事情が後から生じたときは、あらためて訴えを提起することができます。

「却下判決にも既判力がある」と覚えただけで、「もう二度と訴えられない」と考えてしまう答案が多いので注意してください。

第2章 既判力の作用

2-1 2つの作用

既判力の働き方は、当事者に向けたものと、裁判所に向けたものの2つに分けて整理されます。

作用

誰に向くか

内容

消極的作用

当事者・裁判所

前訴判決の判断に反する主張や証拠の申出は許されず、裁判所もこれに反する判断をすることができない。

積極的作用

後訴の裁判所

後訴の裁判所は、前訴判決の判断を前提として、そのうえで判断しなければならない。

言い換えると、消極的作用は「これ以上争わせない」という働きで、積極的作用は「この結論から出発しなさい」という働きです。

同じことの裏表ですが、答案では場面によって使い分けることになります。

なお、「前訴判決の判断」とは、正確にはどの時点の権利関係についての判断なのかという問題があります。

結論は事実審の口頭弁論が終結した時点(これを基準時といいます)ですが、この点は本連載第16回で詳しく扱います。

2-2 有利でも不利でも生じる

既判力は、当事者の一方に有利に働くとか、不利に働くとか、そういう区別をしません。

前訴で勝った側にも負けた側にも、同じように及びます。

【事例】

Xは、甲建物の所有権がXにあることをYが争ったため、Yに対し、甲建物の所有権がXにあることの確認を求める訴訟を提起し、請求認容判決が確定した。

その後、甲建物の敷地である乙土地を所有するYが、Xに対し、乙土地の所有権に基づいて甲建物を収去して乙土地を明け渡すよう求める訴訟を提起した。

Xは、建物を取り壊す義務を免れたいので、「甲建物は自分の所有ではない」と主張したいと考えている。

Xは前訴で勝っています。

しかし、前訴で「甲建物の所有権はXにある」という判断に既判力が生じているので、Xはこれに反する主張をすることができません。

自分が勝ち取った判決が、次の訴訟では自分に不利に働くわけです。

2-3 当事者が持ち出さなくても考慮される

既判力の有無は、裁判所が職権で調査すべき事項だと考えられています。

当事者が「前に同じ訴訟がありました」と指摘しなくても、裁判所はこれを考慮しなければなりません。

既判力は、当事者の利益のためだけにあるものではなく、紛争を終わらせるという訴訟制度自体の要請に基づくものだからです。

2-4 既判力が働く3つの場面

ここが、初学者がもっとも整理できていない部分です。

既判力は、後訴の訴訟物が前訴とどういう関係に立つかによって、3つの場面に分けて考えます。

場面

後訴と前訴の関係

具体例

①同一関係

後訴の訴訟物が前訴とまったく同じ

貸金返還請求が棄却された後に、同じ貸金の返還を求める

②先決関係

前訴の訴訟物が、後訴の判断の前提(先決問題)になる

所有権確認が認容された後に、同じ物について所有権に基づく明渡しを求める

③矛盾関係

後訴の訴訟物が、前訴の訴訟物と両立しない

Xの所有権確認が認容された後に、Yが同じ物について自己の所有権の確認を求める

■①同一関係

前訴と同じ訴訟物について、もう一度訴えが提起された場面です。

ここは、前訴で負けた側が訴えたのか、勝った側が訴えたのかで処理が変わります。

誰が同じ訴えを起こしたか

処理

ⓐ前訴で敗訴した側

既判力が働く。後訴では基準時後に生じた事由だけが審理の対象になり、そのような事由がなければ請求棄却となる。

ⓑ前訴で勝訴した側

既判力の問題ではない。すでに判決を得ているので、あらためて訴える必要がなく、訴えの利益を欠いて却下される。

例外:時効の完成猶予のために必要な場合や、判決原本が滅失して執行正本が得られない場合には、訴えの利益が認められる。

1-1の事例は、ⓐにあたります。

Xは前訴で敗訴しているので、後訴で審理されるのは基準時後に生じた事由だけです。

そのような事由がなければ、やはり請求棄却になります。

■②先決関係

前訴で確定した判断が、後訴の判断の前提になる場面です。

【事例】

Xが、Yに対し、甲土地の所有権がXにあることの確認を求める訴訟を提起し、請求認容判決が確定した。

その後、XがYに対し、甲土地の所有権に基づいて明渡しを求める訴訟を提起した。

後訴の訴訟物は明渡請求権ですが、その前提としてXの所有権が問題になります。

前訴でXの所有権には既判力が生じているので、後訴の裁判所は、Xの所有を前提として判断しなければなりません。

これが積極的作用です。

■③矛盾関係

後訴の訴訟物が、前訴で確定した判断と両立しない場面です。

Xの所有権確認が認容されて確定した後に、YがXに対して同じ土地の所有権確認を求めたとしましょう。

一つの土地について、XとYの両方が所有者であることはありえません。

したがって、Yが自分の所有権を主張することは、前訴判決の既判力に反することになります。

【解法】まず3つの場面のどれかを特定する

既判力の問題が出たときの手順は、次のとおりです。

①前訴の訴訟物と、前訴判決の結論を特定する

②後訴の訴訟物を特定する

③両者が同一関係・先決関係・矛盾関係のどれにあたるかを判断する

④そのうえで、後訴で何が主張できなくなるのかを示す

この手順を飛ばして「既判力が及ぶので許されません」と書くと、ほとんど点になりません。

既判力は「及ぶか/及ばないか」ではなく、「何について、どう働くか」を書く論点です。

【発展】3つの場面は「目安」にすぎない

この3分類は便利ですが、これで全部というわけではありません。

たとえば、前訴で賃借権の確認を得た人が、後訴(所有権に基づく明渡請求)でその賃借権を占有権原として主張する場面を考えてみてください。

前訴の訴訟物が、後訴では抗弁になっています。

前訴と後訴の訴訟物は、同一でも先決でも矛盾でもありません。それでも相手方は、基準時前の事由でこの賃借権を争うことはできません。

このように当てはまらない型に出会ったら、無理に3分類に押し込まず、「前訴で何が決まったのか」「もう審理できないとされたのは何か」という既判力の出発点に戻って考えてください。

司法試験の採点実感でも、3つの場面の一般論を述べるだけでは評価されないと指摘されています。

第3章 他の効力との区別

3-1 執行力・形成力との違い

確定判決の効力は、既判力だけではありません。

初学者がよく混同するので、ここで切り分けておきます。

効力

内容

生じる判決

既判力

判断内容が後訴で通用し、当事者と裁判所を拘束する

確定した終局判決すべて

執行力

強制執行を求めることができる

給付判決(民事執行法22条1号)

形成力

判決によって法律関係が発生・変更・消滅する

形成判決

たとえば、「YはXに1000万円を支払え」という給付判決が確定すると、既判力と執行力の両方が生じます。

これに対して、Xの所有権を確認する確認判決には既判力は生じますが、執行力は生じません。

確認判決は、何かを命じているわけではないからです。

3-2 判決によらずに訴訟が終わった場合

訴訟は、判決以外の方法でも終わります。

請求の放棄・認諾や、訴訟上の和解です。

これらについて電子調書が作成されてファイルに記録されると、「確定判決と同一の効力」が生じます(267条1項)。

そこで、既判力も生じるのかが問題になりますが、判例は既判力を肯定しつつ、和解に無効原因があるときは実質的確定力を有しないとしています(制限的既判力説)。

この点は本連載第14回で詳しく扱っているので、あわせてご覧ください。

【民事訴訟法入門14】判決によらない訴訟の終了を総整理!訴えの取下げ・請求の放棄・認諾・訴訟上の和解を徹底解説

3-3 既判力ではないもの

次の2つは、既判力とは別のものです。

・参加的効力(46条)

補助参加人は、被参加人が敗訴した場合、後の訴訟で被参加人に対して判決の内容が不当であると主張できなくなります。

これは当事者間に生じる既判力とは性質が異なるものです。

・事実上の影響力

同じ争点について先に出た判決は、後の訴訟でも事実上重視されます。

しかし、これは裁判官が心証を形成するうえで参考にしているだけであって、法的な拘束力ではありません。

第4章 既判力はどこまで及ぶのか

4-1 「主文に包含するもの」に限られる

ここまで読むと、既判力はかなり強い効力のように思えます。

ところが、114条1項をもう一度読むと、「主文に包含するものに限り」と書かれています。

「主文に包含するもの」とは、訴訟物についての判断のことです。

つまり、既判力が生じるのは訴訟物についての判断だけであり、判決理由中の判断には生じません。

なぜ理由中の判断には既判力が生じないのでしょうか。

理由は2つあります。

①民事訴訟の目的は、訴訟物の存否を確定することにあります。そうであれば、訴訟物についての判断に既判力を認めれば、それで足ります。

②理由中で判断される事項は、訴訟物と比べれば二次的なものです。当事者が本気で争うとは限りません。そこに拘束力を認めてしまうと、当事者にとって不意打ちになります。

【事例】

Xは、Yから建物を買ったとして、売買契約の履行としてYに建物の明渡しを求める訴訟を提起した。

Yは「売買契約は詐欺によって取り消した」と抗弁したが、裁判所はこの抗弁を排斥し、Xの請求を認容した。この判決は確定した。

その後、Yは、売買契約が詐欺により取り消されたことを理由として、所有権に基づき、Xへの所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴訟を提起した。

前訴の判決は、理由中で「売買契約は有効である」と判断しています。

ということは、建物の所有権はXにあるという判断もされているように見えます。

それなら、後訴でYが「自分の所有だ」と主張することは、既判力に反するのではないでしょうか。

この点について、最高裁は次のように述べました。

・最判昭和44年6月24日判時569号48頁

【判旨】

…訴訟物である本件建物の明渡請求権および右契約不履行による損害賠償としての金銭支払請求権の有無について既判力を有するにすぎず、本件建物の所有権の存否について、既判力およびこれに類似する効力(いわゆる争点効、以下同様とする。)を有するものではない。

前訴の訴訟物は、あくまで建物明渡請求権です。

建物の所有権がどちらにあるかは、その判断の前提にすぎず、判決理由中の判断です。

したがって、所有権の存否には既判力が生じません。

■争点効とは

判旨に出てくる「争点効」とは、前訴で当事者が主要な争点として争い、裁判所がこれを判断した場合には、判決理由中の判断であっても後訴で拘束力を認めるべきだという考え方です。

学説として主張されましたが、この判例はこれを否定しました。

なお、既判力は裁判所が職権で考慮しますが(2-3)、争点効を認める見解でも、争点効は当事者が援用して初めて働くものとされています。

この点は反射効も同じです。

【注意】争点効は「判例が否定した学説」

答案で、争点効を正面から採用するのは危険です。

判例が明確に否定しているからです(仮に採用する場合、判例とは異なる立場を採用する理由を説得的に説明する必要があります)。

もっとも、争点効という考え方がなぜ主張されたのか、つまり「理由中の判断にまったく拘束力がないと蒸し返しを招く」という問題意識は理解しておく必要があります。

この問題意識は、次に述べる信義則による処理につながっていきます。

■では、どうすればよかったのか

この判例は、答えも書いています。

【判旨】

…上告人は、別に被上告人を被告として、本件不動産の所有権確認訴訟を提起し、右所有権の存否について既判力を有する確定判決を求めることができることは、いうまでもない。

所有権の存否について既判力ある判断が欲しいのであれば、所有権確認の訴えを提起すればよい、ということです。

既判力の範囲は、自分が何を訴訟物として選んだかによって決まります。

ここは処分権主義(本連載第7回)とつながるところです。

【民事訴訟法入門7】処分権主義と申立事項の限界を判例で解説

4-2 既判力が及ばなくても、蒸し返しが許されないことがある

もっとも、既判力が及ばないからといって、どんな後訴も自由に提起できるわけではありません。

当事者は、信義に従い誠実に民事訴訟を追行しなければならないからです(2条)。

【事例】

Xの先代が所有していた土地について、農地の買収処分と第三者への売渡処分がされた。

Xは、売渡しを受けた者からその土地を買い戻したと主張して、所有権移転登記手続を求める訴訟を提起したが、請求棄却の判決が確定した(前訴)。

その後、Xは、そもそも買収処分が無効であったと主張して、あらためて所有権移転登記手続を求める訴訟を提起した(後訴)。

Xは前訴でも買収処分が無効であると述べていたうえ、後訴の請求を前訴で主張することに支障はなく、後訴提起時には買収処分から約20年が経過していた。

前訴の訴訟物は買戻しを原因とする移転登記請求権、後訴の訴訟物は買収処分の無効を原因とする移転登記請求権です。

訴訟物が異なるので、既判力は及びません。

それでも、最高裁は後訴を許しませんでした。

・最判昭和51年9月30日民集30巻8号799頁
判旨は、前訴と後訴は「訴訟物を異にするとはいえ」と述べたうえで、次のように結論づけています。

【判旨】

…本訴は、実質的には、前訴のむし返しというべきものであり、前訴において本訴の請求をすることに支障もなかつたのにかかわらず、さらに上告人らが本訴を提起することは、本訴提起時にすでに右買収処分後約二〇年も経過しており、右買収処分に基づき本件各土地の売渡をうけた右三由寅吉及びその承継人の地位を不当に長く不安定な状態におくことになることを考慮するときは、信義則に照らして許されないものと解するのが相当である。

つまり、既判力が及ばない場合であっても、信義則によって後訴が遮断されることがあるということです。

この判例が挙げた事情を分解すると、次のようになります。

①後訴が実質的に前訴の蒸し返しであること

②後訴の請求を前訴で主張することに支障がなかったこと

③相手方の地位が不当に長く不安定になること

②に注目してください。

前訴でその主張をすることができたのに、あえてしなかった。この経緯そのものが、後訴を縛っているわけです。

既判力の根拠である手続保障と自己責任が、ここでも顔を出しています。

【解法】既判力と信義則は別のブロックで論じる

①まず、既判力の客観的範囲を検討する。訴訟物が何かを特定し、前訴判決の判断が後訴に及ぶかを判断する。

②既判力が及ぶのであれば、それで終わり。信義則を論じる必要はない。

③既判力が及ばないことを確認したうえで、はじめて信義則を検討する。

この順序を守ってください。

既判力の検討を飛ばして「信義則に反するので許されません」と書くと、条文の検討を落としたことになります。

4-3 既判力の論点

この記事では、既判力そのものの意味と働き方を扱いました。

この先に、次の論点が待っています。

論点

問い

扱う回

時的限界(基準時)

いつの時点の権利関係について既判力が生じるのか

本連載第16回

客観的範囲

何について既判力が生じるのか(114条1項・2項、一部請求)

本連載第17回

主観的範囲

誰に既判力が及ぶのか(115条)

本連載第17回

なお、114条2項(相殺)については、「相殺をもって対抗した額」の意味が受験生のつまずきどころになっています。

この点を掘り下げた記事を別に用意していますので、あわせてご覧ください。

既判力と相殺の論点の基本を総整理。複数のパターンを網羅的に覚え予備試験に対応しよう。

第5章 まとめ

■第1章まとめ

既判力とは、確定した終局判決の判断内容が後の訴訟において通用する力です。

当事者はこれに反する主張ができず、裁判所もこれに反する判断ができません。

根拠は、紛争解決の実効性(法的安定)と、手続保障に基づく自己責任の2つです。

既判力が生じるのは主文に表れた結論であり、請求が棄却された理由そのものには生じません。

訴訟判決にも既判力は生じますが、その訴訟要件を欠いていたことについてのみ生じます。

■第2章まとめ

既判力には、当事者と裁判所に反する主張・判断を許さない消極的作用と、後訴裁判所に前訴の判断を前提とさせる積極的作用があります。

有利不利を問わず双方に及び、当事者が主張しなくても裁判所が考慮します。

働く場面は、同一関係・先決関係・矛盾関係の3つに整理されます。

同一関係では、前訴で敗訴した側が訴えた場合は既判力が働いて請求棄却となり、勝訴した側が訴えた場合は訴えの利益を欠いて却下されます。

もっとも、この3分類に当てはまらない型もあるので、最後は「前訴で何が決まったのか」に戻って考えます。

■第3章まとめ

既判力は、執行力や形成力とは区別されます。

請求の放棄・認諾や訴訟上の和解には「確定判決と同一の効力」が生じ(267条1項)、判例は制限的既判力説と整理されています。

参加的効力(46条)や事実上の影響力は、既判力ではありません。

■第4章まとめ

既判力は「主文に包含するもの」、すなわち訴訟物についての判断に限って生じ、判決理由中の判断には生じません。

訴訟物の存否を確定すれば足りることと、二次的な事項への拘束は不意打ちになることが、その理由です。

判例は、建物明渡請求を認容した確定判決について、建物の所有権の存否には既判力もこれに類似する効力(争点効)も生じないとしました(最判昭和44年6月24日)。

もっとも、既判力が及ばない場合でも、実質的に前訴の蒸し返しであり、前訴で主張する支障もなかったなどの事情があるときは、信義則(2条)上、後訴が許されないことがあります(最判昭和51年9月30日)。

この記事では、初学者の方にもわかりやすいように、一般的な考え方をざっくりと解説しています。

判例などの詳細な解説や、実践的な答案の書き方を知りたい方は、ヨビロン民事訴訟法のテキストをご購入いただけると幸いです。

次回記事

【民事訴訟法入門16】既判力の基準時と遮断効。基準時後の形成権の行使まで初学者向けに徹底解説

前回の記事

【民事訴訟法入門14】判決によらない訴訟の終了を総整理!訴えの取下げ・請求の放棄・認諾・訴訟上の和解を徹底解説

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