【民事訴訟法入門11】弁論主義の三つのテーゼを基礎から解説
目次
この記事を読んで理解できること
- 弁論主義とは何か
- 弁論主義が適用される事実
- 第一テーゼをめぐる問題
- 第三テーゼと職権証拠調べの禁止
- 試験答案の構成方法
「証拠から分かっている事実でも、主張がなければ裁判所は認定できないの?」
「弁論主義はすべての事実に及ぶの?それとも一部の事実だけ?」
「主張した事実と証拠から分かった事実が少しずれていたら、どうなるの?」
民事訴訟法を学ぶ中で、こうした疑問を持った方は多いのではないでしょうか。
第9回で確認したように、民事訴訟では、手続の進行は裁判所が主導する一方で、審理の内容である資料の収集は当事者が主体となります。
この資料の収集面についての原則が、今回扱う弁論主義です。
第7回で学んだ処分権主義が、審判の対象(訴訟物)の設定と訴訟の開始・終了についての当事者の自由であったのに対し、弁論主義は、その権利関係の基礎となる事実と証拠の収集についての当事者の権能と責任を意味します。
いずれも私的自治の訴訟法上の現れであり、場面が異なるだけです。
弁論主義は、条文に明記されているわけではありません。
それでも民事訴訟法の学習において絶対に理解しておかなければならない原則であり、次回扱う自白も、弁論主義の第二テーゼから導かれるものです。
本記事では、弁論主義の三つのテーゼと根拠を確認したうえで、弁論主義が適用される事実の範囲(主要事実への限定)、主張の抽象度や証拠との食い違いといった第一テーゼをめぐる問題、そして職権証拠調べの禁止について解説します。
この記事で学べること
- 【初級】弁論主義の意義と三つのテーゼ
- 【初級】職権探知主義(人事訴訟法20条)との違い
- 【初中級】弁論主義の根拠をめぐる本質説・手段説・多元説
- 【中級】主要事実・間接事実・補助事実の区別と、弁論主義の適用が主要事実に限られる理由
- 【中級】訴訟資料と証拠資料の区別、主張責任
- 【中上級】主要事実の抽象度、証拠との食い違い(最判昭和32年5月10日)、主張の有無の判断(最判昭和45年6月24日)
第1章 弁論主義とは何か
1-1 意義と三つのテーゼ
弁論主義とは、訴訟物である権利関係の基礎をなす事実の確定に必要な裁判資料の収集、すなわち事実と証拠の収集を当事者の権能と責任に委ねる原則をいいます。
その内容は、次の三つに分けることができ、弁論主義の三テーゼと呼ばれます。
- 第一テーゼ:当事者が主張しない事実については、裁判所は、それを判決の基礎とすることができない
- 第二テーゼ:当事者間に争いがない事実については、裁判所は、それをそのまま判決の基礎としなければならない
- 第三テーゼ:当事者間に争いがある事実を証拠によって認定する場合、その証拠は当事者が申し出たものに限られる
たとえば、貸金返還請求訴訟で被告が弁済の主張をしていないのに、裁判所が証拠から弁済があったと認定することはできません(第一テーゼ)。
消費貸借契約の締結について当事者間に争いがなければ、裁判所はその契約があることを前提に判決をしなければなりません(第二テーゼ)。
そして、弁済の有無を認定する際には、当事者が提出した証拠によらなければならず、裁判所が自ら証拠を獲得して判断することは許されません(第三テーゼ。職権証拠調べの禁止)。
1-2 職権探知主義との対比
第一テーゼには直接の明文がありません。
もっとも、職権探知主義を定める人事訴訟法20条が、人事訴訟においては裁判所が当事者の主張しない事実を斟酌することができる旨を規定していますから、一般の民事訴訟についてはその反対解釈から第一テーゼが導かれることになります。
人事訴訟のように公益性の強い訴訟では、事実と証拠の収集を裁判所の職務ともする制度が採られており、弁論主義は妥当しません。
1-3 弁論主義の根拠
弁論主義がなぜ採られているのかについては、次のような見解があります。
- 本質説(私的自治説):弁論主義は私的自治の原則が訴訟手続に反映したものであるとする。通説的地位を占める
- 手段説:弁論主義は真実を発見するための手段であるとする
- 多元説:本質説・手段説のいうところに加え、不意打ちの防止や司法への信頼等も根拠になるとする
手段説に対しては、人事訴訟ではいっそう客観的真実を追究すべきであるのに弁論主義が採られていないのは説明がつかない、という批判があります。
多元説に対しても、人事訴訟においても不意打ちの防止や司法への信頼は必要である、という同様の批判が可能でしょう。
したがって、本質説が正当であると考えられます。
答案では、弁論主義の根拠を私的自治に求めたうえで、その機能として不意打ちの防止を挙げる、という組立てが使いやすいでしょう。
第2章 弁論主義が適用される事実
2-1 主要事実・間接事実・補助事実
弁論主義は事実の確定についての原則ですが、その適用はすべての事実に及ぶわけではなく、主要事実に限られるとするのが通説です。
訴訟において意味をもつ事実は、一般に次の三つに分けられます。
|
種類 |
内容 |
弁論主義の適用 |
|
主要事実 |
権利の発生・変更・消滅という法律効果を判断するのに直接必要な事実 |
あり |
|
間接事実 |
主要事実の存否を推認するのに役立つ事実 |
なし |
|
補助事実 |
証拠の証明力や証拠能力に関わる事実 |
なし |
司法研修所の見解では、主要事実と要件事実とは同じものと考えられています。
貸金返還請求でいえば、金銭の返還の合意、金銭の交付、返還時期の合意とその到来に該当する具体的事実が主要事実であり、弁済の抗弁については、債務の本旨に従った給付をしたこと、その給付がその債権についてされたこと(給付と債権との結び付き)に該当する具体的事実が主要事実です。
相殺の抗弁であれば、自働債権の発生原因事実と相殺の意思表示に該当する具体的事実が主要事実となります。
これに対して、借主となる者が金銭を貸してほしいと懇願していたとか、貸主が返済をうるさく催促していたといった事実は、せいぜい金銭の交付や返還の合意を推認させる間接事実にすぎません。
したがって弁論主義の適用を受けず、その主張がなくても証拠からこれを認定して構わないことになります。
2-2 主要事実に限られる理由
弁論主義の適用が主要事実に限られる理由としては、伝統的に、①間接事実は主要事実を推認させるという点で証拠と同じ作用を果たすこと、②事実認定にあたって裁判官が自由に心証を形成すべきであるのに、間接事実にまで弁論主義を及ぼすと自由心証主義が害されること、が挙げられます。
証拠と同じ作用をするものについて当事者の主張を要求すると、裁判官が証拠から自然に読み取った事実を判決の基礎にできなくなってしまうからです。
逆にいえば、当事者にとって不意打ちとなるおそれが大きい事実については、弁論主義の適用の有無とは別に、釈明権の行使によって当事者に確認すべきことになります。
第3章 第一テーゼをめぐる問題
3-1 訴訟資料と証拠資料の区別
第一テーゼによれば、ある事実を認めるに足りる証拠があっても、その事実の主張がなければ裁判所は認定できません。
このことを、訴訟資料と証拠資料の区別と呼ぶことがあります。
訴訟資料とは当事者から主張された事実を、証拠資料とは証拠調べにより得られたものを意味します。
もっとも実務では、口頭弁論終結後に、ある事実について当事者からの直接の主張はないが証拠はあると気付いた場合に、相手方に実質的な不意打ちによる不利益がない限りで、判決を作成する際にその証拠から「主張を拾う」ことが行われることもあります。
また、弁論主義が適用される事実について主張の有無が不明確な場合には、口頭弁論終結前であれば釈明権(149条)によって確認すべきですし、終結後にどうしても主張があったといえなければ、口頭弁論を再開して(153条)釈明権を行使することになります。
3-2 主要事実の抽象度
主要事実を主張する場合、現実の事態を言葉で表現する抽象度には幅があります。
抽象度の高い表現をとるほど多くの事実をカバーし、証拠から判明した事実を「主張があった」としやすくなりますが、相手方は防御しにくくなります。
逆に具体的な表現をとるほど相手方は防御しやすくなりますが、証拠から判明した事実と一致せず、第一テーゼによって認定できなくなる可能性が高まります。
司法研修所は、要件事実を主張するには、他の事実から識別できるよう特定し、かつ具体性をもって示す必要があるとし、争いのある要件事実にはその要請がとくに強く働くとしています。
なお、注射による医療過誤の事案について、過失行為として注射液の不良か注射器の消毒不完全かまで具体化する必要はなく、これらを統合した「注射行為に際しての消毒不完全」でよいという議論があり、その場合の位置づけを、間接事実ではなく「補充的主要事実」と呼ぶべきであるとの指摘があります。
主要事実をいくら具体化してもそれは主要事実であって、主要事実を推認する間接事実ではない、という理解です。
3-3 証拠との食い違いがある場合
言葉で表現する以上、主張された事実と認定された事実との間に多少の食い違いが生じることは避けられません。
判例は、「当事者の主張した具体的事実と、裁判所の認定した事実との間に、態様や日時の点で多少のくい違いがあつても、社会観念上同一性が認められる限り、当事者の主張しない事実を確定したことにはならない。」としています(最判昭和32年5月10日民集11巻5号715頁)。
この問題は、主張する側と相手方の双方の立場を考慮して判断すべきものです。
証拠から認定できる事実をあらかじめ完全に主張しておかなければ認定してもらえないというのでは、主張する側に酷です。
他方、相手方は「主張のない事実は認定されない」と考えているのですから、ずれた事実が認定されることで不意打ちを受けるおそれがあります。
そこで、事実の性質や訴訟の経過に加え、相手方の防御権が実質的に侵害されるかどうかが重要な考慮要素となります。
3-4 主張があったといえるか
主張の解釈が問題となることもあります。
手形金を請求するには、実質的な権利移転を主張立証してもよいのですが、より簡単に、連続した裏書の記載のある手形を所持する事実を主張立証すれば、裏書の資格授与的効力(手形法16条1項)によって請求が認められます。
判例は、実質的な権利移転のみを主張した場合でも、原告が連続した裏書の記載のある手形を所持してこれに基づき請求している以上、当然に同条項の適用の主張があるとしてよいとしました(最判昭和45年6月24日民集24巻6号712頁)。
容易なほうの主張をするのが当然であり、被告としても裏書の連続は容易に知りうるため格別の不意打ちにはならない、というのがその理由です。
第4章 第三テーゼと職権証拠調べの禁止
4-1 職権証拠調べの禁止とその例外
第三テーゼは、裁判所が自ら証拠を獲得して事実を認定することを禁じます(職権証拠調べの禁止)。
証拠調べから何を読み取るかは裁判所に任されていますが(自由心証主義。247条)、証拠の提出までは当事者に任されているのです。
もっとも、第三テーゼには条文上の例外が比較的多く認められています。
調査の嘱託(186条)や当事者尋問(207条以下)がその例です。
調査の嘱託については、規定上、当事者からの申立ては不要であり、裁判所は当事者の要請がなくても官庁や団体に調査を嘱託し、その結果に基づいて判断することができます。
判例は、調査の嘱託の結果を証拠とするには、裁判所がこれを口頭弁論において提示して当事者に意見陳述の機会を与えれば足り、当事者の援用を要しないとしています(最判昭和45年3月26日民集24巻3号165頁)。
なお、令和8年5月21日に施行された186条2項により「裁判所は、当事者に対し、前項の嘱託に係る調査の結果の提示をしなければならない。」と規定されました。
4-2 主張責任
両当事者ともある事実を主張していない場合、その事実が認められることが有利となる当事者は、その事実を認定してもらえないという不利益を受けます。
これを主張責任といいます。
主張責任は、通常、証明責任と一致すると解されています。
答案では、弁論主義の第一テーゼから、主張のない主要事実は認定できず、その結果として主張責任を負う当事者が不利益を受ける、という筋道で説明すると分かりやすいでしょう。
第5章 試験答案の構成方法
5-1 弁論主義違反が問われる事案
裁判所が当事者の主張していない事実を認定したという事案では、以下の流れで答案を構成することが考えられます。
【答案構成の流れ】
- 問題提起:裁判所が当事者の主張しない事実を判決の基礎としたことが、弁論主義(第一テーゼ)に反しないかを問題とする
- 前提の確認:弁論主義とは、事実と証拠の収集を当事者の権能と責任に委ねる原則であり、私的自治の訴訟法上の現れである。明文はないが、人事訴訟法20条の反対解釈等から導かれる
- 適用範囲:弁論主義の適用は主要事実に限られる。①間接事実は証拠と同じ作用を果たすこと、②間接事実にまで及ぼすと自由心証主義が害されることが理由である
- あてはめ①:認定された事実が、権利の発生・変更・消滅を判断するのに直接必要な主要事実か、それを推認させる間接事実にすぎないかを、要件事実に即して特定する
- あてはめ②:主要事実である場合でも、当事者の主張した事実と社会観念上同一性が認められるか(最判昭和32年5月10日)、主張の解釈として当該主張があったといえるか(最判昭和45年6月24日)を検討し、相手方の防御権が実質的に侵害されないかを考慮する
- 結論:主要事実について主張がないのに認定した場合には弁論主義に反して違法となる。間接事実にとどまる場合や、社会観念上同一性が認められる場合には違法とならない
弁論主義違反と釈明義務違反は、しばしばセットで問われます。
主張がないために認定できないという結論になる場合でも、裁判所が釈明権を行使すべきであったのではないか、という視点まで示せると、答案に厚みが出ます。
まとめ
弁論主義について、本記事では以下の点を解説しました。
- 弁論主義とは、事実と証拠の収集を当事者の権能と責任に委ねる原則であり、①主張しない事実は判決の基礎にできない、②争いのない事実はそのまま判決の基礎としなければならない、③証拠は当事者の申し出たものに限る、という三つのテーゼからなる
- 第一テーゼに直接の明文はないが、職権探知主義を定める人事訴訟法20条の反対解釈から導かれる
- 弁論主義の根拠については、私的自治の原則の反映とみる本質説が通説である
- 弁論主義の適用は主要事実に限られ、間接事実・補助事実には及ばない。間接事実が証拠と同じ作用を果たすこと、自由心証主義を害さないことがその理由である
- 主張された事実と認定された事実に多少の食い違いがあっても、社会観念上同一性が認められる限り弁論主義に反しない(最判昭和32年5月10日)
- 第三テーゼは職権証拠調べを禁止するが、調査の嘱託(186条)等の例外がある(最判昭和45年3月26日)
次回記事では、自白を扱います。
弁論主義の第二テーゼから導かれる裁判上の自白について、その要件と効果、撤回が許される場合、そして間接事実の自白や権利自白といった応用問題を解説します。
【民事訴訟法入門12】裁判上の自白の要件と効果を判例で解説
前回の記事
【民事訴訟法入門10】訴訟行為の意義と分類を基礎から解説


コメント