- 公開日:2026.09.09
- 更新日:2026.09.09
- #入門
- #民事訴訟の審理手続
- #民事訴訟法
【民事訴訟法入門9】民事訴訟の審理手続の流れを基礎から解説
目次
この記事を読んで理解できること
- 手続の進行は誰が主導するのか
- 口頭弁論
- 主張の準備と争点整理
- 釈明権
- 試験答案の構成方法
「訴えを起こしたあと、裁判はどんな順番で進んでいくの?」
「毎回の期日では何をしているの?争点整理って何をするの?」
「主張や証拠は、いつまでに出せばいいの?遅れたらどうなるの?」
民事訴訟法を学ぶ中で、こうした疑問を持った方は多いのではないでしょうか。
前回までの二回では、処分権主義と一部請求を通じて、「何を審判の対象とするか」という問題を扱いました。
審判の対象が決まると、次はそれをどのように審理していくかという段階に入ります。
今回は、その審理手続の全体像を確認します。
以後の回で扱う訴訟行為、弁論主義、自白、文書提出命令といった論点が、審理のどの局面のものなのかを位置づけるための「地図」にあたる回です。
民事訴訟の審理は、口頭弁論という公開の期日を中心に進みますが、実際には、その前後に準備書面のやり取りや争点整理手続が置かれ、争点を絞ったうえで証拠調べを集中的に行うという流れが組まれています。
手続の進行の主導権を誰が握るのか、主張や証拠をいつまでに出さなければならないのか、裁判所はどこまで当事者に働きかけてよいのかを押さえることが重要です。
本記事では、職権進行主義から説き起こし、口頭弁論の意義と諸原則、準備書面と争点整理手続、適時提出主義と時機に後れた攻撃防御方法の却下、そして釈明権について解説します。
この記事で学べること
- 【初級】職権進行主義の意味と、手続の進行面と資料の収集面の役割の違い
- 【初級】必要的口頭弁論の原則(87条1項本文)と任意的口頭弁論
- 【初中級】口頭弁論に関する諸原則(口頭主義・双方審尋主義・直接主義・公開主義)
- 【中級】争点整理手続の三類型と、実務で中心となる弁論準備手続
- 【中級】適時提出主義(156条)と時機に後れた攻撃防御方法の却下(157条1項)
- 【中上級】釈明権(149条)の行使のあり方と、訴訟物の変更を示唆する釈明(最判昭和45年6月11日)
第1章 手続の進行は誰が主導するのか
1-1 職権進行主義
現行法は、訴訟手続の進行について職権進行主義を採用しています。
たとえば、口頭弁論の期日は裁判長が定めるものとされており(93条1項)、手続の進行の主導権は裁判所にあります。
これは、手続の進行を当事者に任せると訴訟が遅延するという歴史的な教訓を踏まえたものです。
もっとも、民事訴訟は私的紛争に関わるものですから、手続の進行についても当事者の関与が認められています。
実際にも、裁判所が両当事者の意見を聴き、了解を得ながら手続を進めるのが通常であり、そのほうがスムーズに進みます。
そのため、現在はむしろ協同進行主義的になっているとも言われます。
1-2 進行面と資料収集面の役割の違い
ここで注意しておきたいのが、手続の進行面と、審理の内容面である資料の収集とで、当事者と裁判所の役割の基調がいわば逆転している点です。
進行面では裁判所が主導し(職権進行主義)、なお当事者の関与が認められます。
これに対して資料の収集面では、当事者が主体となり(弁論主義)、なお裁判所による働きかけ(釈明権の行使)がありうる、という構造になっています。
|
場面 |
基調 |
補完 |
|
手続の進行面 |
裁判所が主導する(職権進行主義) |
当事者の関与も認められる(協同進行主義的とも) |
|
資料の収集面 |
当事者が主体となる(弁論主義) |
裁判所の働きかけがありうる(釈明権の行使) |
第2章 口頭弁論
2-1 必要的口頭弁論の原則
87条1項本文は、「当事者は、訴訟について、裁判所において口頭弁論をしなければならない。」と規定しています。
これは当事者の義務のような形で書かれていますが、その前提として、裁判所が口頭弁論を開かなければならないことを意味します。
これを必要的口頭弁論の原則といい、当事者にとっては、口頭弁論を開いて審理がされることが保障されていることになります。
また、口頭弁論を開かなければならないということは、その口頭弁論で口頭により提出された資料のみが判決の資料となる、ということも意味します。
もっとも、同項ただし書は、「決定で完結すべき事件については、裁判所が、口頭弁論をすべきか否かを定める。」と規定しています。
移送の裁判や忌避の裁判のように決定で終わる手続では、必要的口頭弁論の原則は妥当せず、これを任意的口頭弁論といいます。
この場合、口頭弁論を開かないときは、当事者を審尋することができます(87条2項)。
審尋とは、無方式でその者の知っている事情や言い分を聴くことをいいます。
2-2 審理方式に関する諸原則
口頭弁論には、次のような諸原則が妥当します。
- 口頭主義:弁論および証拠調べを口頭で行う。もっとも、複雑な事件では書面の記載を陳述する形が一般的であり、口頭主義は現実には後退せざるを得ない面がある
- 双方審尋主義:当事者双方から公平に言い分を聴かなければならない(当事者対等の原則・武器平等の原則)。その派生原理として、期日に双方が同時に立ち会うことができるという対席の保障が要請される
- 直接主義:判決をする裁判官が自ら弁論の聴取と証拠調べを行う。裁判官が代わった場合に、当事者が申し出たときは証人の再尋問をしなければならない(249条3項)
- 公開主義:対審および判決は公開の法廷で行う(憲法82条1項)
- 集中審理主義:争点および証拠の整理を終えた後、証人尋問等を集中して行う(182条)
なお、口頭弁論の期日で実際に何が陳述されたのかは、裁判所書記官が電子調書に記載します(160条)。
訴状や準備書面を提出していても、期日でその一部だけを陳述したり、陳述から除外したりすることができるからです。
近時は、映像と音声の送受信によって相手の状態を相互に認識しながら通話をする方法(ウェブ会議)によって期日を行うことが広く認められています。
争点整理の期日だけでなく口頭弁論の期日についても認められており、実務の運用は大きく変わりつつあります。
第3章 主張の準備と争点整理
3-1 準備書面と当事者照会
訴状の送達を受けた被告は、通常、答弁書を作成し、第一回口頭弁論期日より前に裁判所と原告に送ります。
答弁書には、①請求の趣旨に対する答弁のほか、②訴状に記載された事実(請求原因)に対する認否、③抗弁事実を具体的に記載し、④立証を要する事由ごとに重要な間接事実と証拠を記載しなければならないとされています(民事訴訟規則80条1項)。
以後も、当事者は準備書面によって主張を整理して提出していきます。
当事者が相手方から情報を得る手段としては、当事者照会の制度があります(163条)。
また、訴えの提起前にも、訴えの提起を予告する通知をした者等が書面で照会をすることができる制度(132条の2以下)や、裁判所による証拠収集の処分の制度(132条の4以下)が設けられています。
もっとも、これらはあまり利用されておらず、実務では弁護士法23条の2による弁護士会照会が情報獲得の重要な手段となっています。
3-2 争点整理手続の三類型
争点および証拠の整理手続は、民事訴訟において非常に重要な制度です。
民事訴訟法は、①準備的口頭弁論、②弁論準備手続、③書面による準備手続という三種類を用意していますが、実務で最も日常的に用いられるのは②の弁論準備手続です。
|
種類 |
内容 |
実務での位置づけ |
|
準備的口頭弁論(164条以下) |
口頭弁論を二つに分け、まず争点整理のための口頭弁論を行う |
通常の口頭弁論でも争点整理はできるため、ほとんど使われていない |
|
弁論準備手続(168条以下) |
裁判所が当事者の意見を聴いて付し、準備書面の提出と書証の取調べを行いながら争点を整理する |
最も日常的に用いられる |
|
書面による準備手続(175条以下) |
書面のやり取りにより争点を整理する |
限られた場面で用いられる |
弁論準備手続では、期日ごとに準備書面を提出してもらい、それまでの訴状・答弁書・各準備書面をもとに協議し、書証の取調べを行いながら争点を整理します(170条)。
合議事件では、合議体の構成員である受命裁判官に手続を行わせることもできますが、その場合には権限に制限があります(171条)。
争点整理が済むと、口頭弁論期日で証人尋問・当事者尋問が集中的に行われます。
3-3 適時提出主義と時機に後れた攻撃防御方法
156条は、「攻撃又は防御の方法は、訴訟の進行状況に応じ適切な時期に提出しなければならない。」と規定しています。
これを適時提出主義といいます。
攻撃方法とは原告の請求が認められるようにするための陳述と証拠の申出、防御方法とは原告の請求が認められないようにするための被告の陳述と証拠の申出であり、併せて攻撃防御方法といいます。
適時提出主義は、攻撃防御方法は口頭弁論の終結までいつでも提出できるとしていた旧法の随時提出主義を修正したものです。
かつてのドイツのように一定の段階までに提出しないと後で提出できなくなるという法定序列主義を採ると、当事者が必要性を十分検討しないまま多数の攻撃防御方法を提出することになり、かえって手続が遅延しました。
他方で、随時でよいことを強調するのも遅延の原因になります。
そこで、遅い提出をいわばソフトに制限する現在の形になったのです。
この制度を支えるのが、時機に後れた攻撃防御方法の却下です。
157条1項は、「当事者が故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法については、これにより訴訟の完結を遅延させることとなると認めたときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる。」と規定しています。
「時機に後れ」たかどうかは、訴訟手続の具体的な進行状況やその攻撃防御方法の性質から、より早期に提出することが期待できる客観的事情があったかどうかによって判断されます。
控訴審では、第一審をも通じて判断されるというのが確定した判例です(大判昭和8年2月7日民集12巻159頁)。
さらに、争点整理手続の終了後に攻撃防御方法を提出した当事者は、相手方の求めがあるときは、それ以前に提出できなかった理由を説明しなければならないとされています(167条等)。
後で全く提出できないとすると無駄な攻撃防御方法が大量に提出されて手続が遅延し、逆に後でも自由に提出できるとすると争点整理を行った意味がなくなるため、その中間的な解決として設けられたものです。
十分な説明がされない場合には、時機に後れた攻撃防御方法として却下されることがあります。
第4章 釈明権
4-1 釈明権の意義と行使のあり方
弁論主義のもとでも、当事者の主張が不明瞭であったり、必要な主張が欠けていたりすることがあります。
そこで裁判長等は、訴訟関係を明瞭にするため、事実上および法律上の事項について当事者に問いを発し、立証を促すことができます(149条)。
これを釈明権といいます。
訴訟関係を明瞭にするための制度としては、釈明処分(151条)も置かれています。
釈明権の行使には、①不明瞭な、あるいは前後矛盾するような申立てや主張を問い質す消極的釈明と、②必要な申立てや主張がされていない場合にこれを促す積極的釈明があるとされます。
①は行使することが当然に許され、また行使しなければなりませんが、②はどの程度必要かが事案や状況によることになります。
釈明権の行使が行き過ぎれば不公平な裁判となり、行使を怠れば不親切な裁判となる、という緊張関係の中にある制度です。
4-2 訴訟物の変更を示唆する釈明
とくに議論があるのが、訴訟物の変更を示唆する積極的釈明の可否です。
旧訴訟物理論のもとでは訴訟物が狭く捉えられるため、訴えの変更(143条)によって妥当な請求を立てさせるための積極的な釈明が必要になる、という指摘があります。
判例は、次のように述べています(最判昭和45年6月11日民集24巻6号516頁)。
「請求原因として主張された事実関係とこれに基づく法律構成が…(中略)…証拠資料によって認定される事実関係との間に喰い違いがあって、その請求を認容することができないと判断される場合においても…(中略)…別個の法律構成に基づく事実関係が主張されるならば、原告の請求を認容することができ、当事者間における紛争の根本的な解決が期待できるにかかわらず、原告においてそのような主張をせず、かつ、そのような主張をしないことが明らかに原告の誤解または不注意と認められるようなときは…(中略)…原告に対しその主張の趣旨とするところを釈明することが許され…(中略)…発問の形式によって具体的な法律構成を示唆してその真意を確かめることが適当である場合も存する。」
ここでは、①別個の法律構成であれば請求を認容することができ、②当事者間の紛争の根本的な解決が期待できるのに、③原告が誤解または不注意によってその主張をしていない、という要素が挙げられている点に注目すべきです。
答案では、この三つの要素をあてはめの軸にすることができます。
なお、釈明権の行使に応じるかどうかは当事者の判断に委ねられますから、訴訟物の変更を促す釈明それ自体は処分権主義に反するものではありません。
第5章 試験答案の構成方法
5-1 時機に後れた攻撃防御方法の却下が問われる事案
争点整理を終えた後の段階で新たな抗弁が提出されたといった事案では、以下の流れで答案を構成することが考えられます。
【答案構成の流れ】
- 問題提起:提出された攻撃防御方法を却下することができるか、157条1項の要件を満たすかを問題とする
- 要件①「時機に後れ」たこと:訴訟手続の具体的な進行状況とその攻撃防御方法の性質に照らし、より早期に提出することが期待できる客観的事情があったかを検討する。控訴審では第一審をも通じて判断する(大判昭和8年2月7日)
- 要件②故意または重大な過失:争点整理手続を経ていること、当事者に訴訟代理人が付いていること、資料をいつ入手できたか等の事情から判断する
- 要件③訴訟の完結を遅延させること:その攻撃防御方法を審理するために新たな証拠調べが必要かどうか、これを却下すれば直ちに弁論を終結できるかどうかを検討する
- 結論と補足:要件を満たせば申立てまたは職権で却下できる。争点整理手続の終了後であれば、説明義務(167条等)の履行状況も、故意・重過失の判断において考慮される
釈明義務が問われる事案では、消極的釈明か積極的釈明かを区別したうえで、積極的釈明については、①別個の法律構成による認容の可能性、②紛争の根本的解決の期待可能性、③原告の誤解・不注意という要素をあてはめ、釈明権を行使しなかったことが違法となるかを論じることになります。
まとめ
民事訴訟の審理手続について、本記事では以下の点を解説しました。
- 手続の進行は裁判所が主導し(職権進行主義)、資料の収集は当事者が主体となる(弁論主義)という役割の違いを押さえる
- 87条1項本文は必要的口頭弁論の原則を定め、口頭弁論で口頭により提出された資料のみが判決の資料となる。決定で完結すべき事件では任意的口頭弁論となり、審尋によることができる(87条2項)
- 口頭弁論には、口頭主義・双方審尋主義(対席の保障)・直接主義(249条3項)・公開主義・集中審理主義(182条)が妥当する
- 争点整理手続には準備的口頭弁論・弁論準備手続・書面による準備手続の三類型があり、実務の中心は弁論準備手続である
- 156条は適時提出主義を定め、157条1項は、故意または重大な過失により時機に後れて提出され訴訟の完結を遅延させる攻撃防御方法の却下を認める
- 149条の釈明権には消極的釈明と積極的釈明があり、訴訟物の変更を示唆する釈明については最判昭和45年6月11日が判断枠組みを示している
次回記事では、訴訟行為を扱います。
当事者が訴訟の中で行う行為にはどのような種類があり、意思表示の瑕疵など私法の規定がどこまで適用されるのかという、訴訟法と実体法の交錯する問題を解説します。
【民事訴訟法入門10】訴訟行為の意義と分類を基礎から解説
前回の記事
【民事訴訟法入門8】一部請求と残部請求の可否を判例で解説


コメント