【民事訴訟法入門10】訴訟行為の意義と分類を基礎から解説
目次
この記事を読んで理解できること
- 訴訟行為とは何か
- 当事者の訴訟行為の三段階
- 訴訟行為の要件と瑕疵
- 訴訟上行使された形成権と訴訟契約
- 訴訟行為と信義則
- 試験答案の構成方法
「訴訟行為って、要するに何を指しているの?」
「訴訟の中でした相殺の主張が却下されたら、相殺の効果はどうなるの?」
「訴えないという合意をしたのに訴えられたら、どうなるの?」
民事訴訟法を学ぶ中で、こうした疑問を持った方は多いのではないでしょうか。
前回は、民事訴訟の審理手続の全体像を確認しました。
手続の進行は裁判所が主導し、資料の収集は当事者が主体となる、という役割分担が基本でした。
今回は、その手続の中で当事者が行う行為そのものに目を向けます。
当事者は、裁判所に対して申立てを行い、その判断資料として主張と立証を行います。
これらを総称して訴訟行為と呼びます。
訴訟行為は、実体法上の法律行為とは異なる規律に服します。
手続の安定と明確性が要請されるため、意思表示の瑕疵に関する民法の規定がそのまま妥当するとは限りません。
他方で、相殺のように実体法上の効果と訴訟法上の効果が交錯する場面もあり、そこでは両者の関係をどう捉えるかが問われます。
本記事では、訴訟行為の意義と分類を確認したうえで、申立て・主張・立証という三つの段階、抗弁と理由付き否認の区別、訴訟上行使された形成権の実体法上の効果、そして訴訟行為と信義則の関係を解説します。
この記事で学べること
- 【初級】訴訟行為の意義と、取効的訴訟行為・与効的訴訟行為の区別
- 【初中級】当事者の訴訟行為の三段階(申立て・主張・立証)と申立ての撤回
- 【中級】否認と抗弁の違い、理由付き否認と権利抗弁
- 【中級】訴訟能力を欠く訴訟行為の効力と追認(34条2項)
- 【中上級】訴訟上行使された形成権の実体法上の効果(併存説・両性説・新併存説)
- 【中上級】訴訟行為と信義則(2条)の四類型と訴訟状態の不当形成の排除
第1章 訴訟行為とは何か
1-1 訴訟行為の意義
訴訟行為という言葉は、訴訟能力に関する規定(28条後段、31条本文等)をはじめ、民事訴訟法の多くの規定で使われています。
もっとも、その定義には種々のものがあり、また、「訴訟行為には民法の意思表示の規定は適用されない」というように、概念から結論を導く議論は最近ではあまりされなくなっています。
ここでは、概念構成にこだわらず、訴訟法上の効果を生じる行為を訴訟行為と捉えておけば足ります。
大切なのは、ある行為が訴訟行為に当たるかどうかを議論することではなく、その行為にどのような規律が妥当するのかを、手続の安定という訴訟法固有の要請と、当事者の意思の尊重という実体法的な要請の双方から具体的に考えることです。
1-2 取効的訴訟行為と与効的訴訟行為
当事者の訴訟行為については、ドイツの学説をもとに、取効的訴訟行為と与効的訴訟行為の区別が説かれてきました。
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分類 |
意味 |
典型例 |
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取効的訴訟行為 |
裁判所に裁判等を求める行為(申立て)と、その資料を提供する行為(主張・立証) |
訴えの提起 |
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与効的訴訟行為 |
裁判所の行為を要することなく、直接に訴訟法上の効果を生ずる行為 |
訴えの取下げ |
もっとも、この区別に対しては、たとえば証拠契約は与効的訴訟行為とされながら、裁判所の事実認定や裁判を求めることを前提にしているなどとして、区別が不明確であるという批判もあります。
試験との関係では、この区別自体を厚く論じる必要はなく、行為ごとの規律を押さえておけば十分です。
第2章 当事者の訴訟行為の三段階
2-1 申立て
申立てとは、裁判所に対して裁判等の行為を求めることをいいます。
その典型例が訴えの提起であり、この場合、裁判所に対して審判の形式(給付・確認・形成)を指定しつつ、被告に対する権利を審判の対象として指定することを意味します。
処分権主義により、裁判所はその範囲内で判断を示すことになります。
このほか、移送の申立て(16条等)のように、訴訟手続における派生的な事項についての申立て(訴訟上の申立て)もあります。
申立ては裁判所の裁判等を求めるものですから、裁判等があるまでは原則として撤回が自由であるとされています。
もっとも、訴えの撤回にあたる訴えの取下げについては、判決の言渡し前であっても被告の同意が必要となる場合があり(261条2項)、他方で判決の言渡し後であっても判決が確定するまでは可能とされています(同条1項)。
2-2 主張――事実上の主張と法律上の主張
主張とは、申立てを理由づけるために、事実または法律関係について陳述することをいいます。
事実についての陳述を事実上の主張、権利・法律関係についての陳述を法律上の主張といいます。
相手方の事実上の主張に対する応答としては、認める(自白)、争う(否認)、知らない(不知)、何も述べない(沈黙)という態度があり、それぞれ効果が異なります。
自白については本連載第六回で詳しく扱います。
被告の防御方法は、否認と抗弁に分かれます。
否認は、原告が主張立証責任を負う事実を否定するものであるのに対し、抗弁は、原告の主張する事実と両立する別の事実であって、被告が主張立証責任を負うものをいいます。
貸金返還請求における弁済や相殺の主張が、抗弁の典型例です。
2-3 抗弁と理由付き否認の区別
抗弁と理由付き否認の区別は、丁寧に理解しておきたいところです。
たとえば、消費貸借契約を請求原因とする貸金返還請求に対して、被告が「原告から受け取った金銭は贈与によるものであった」と主張したとします。
贈与(民法549条以下)であれば返還を請求できないのは当然ですが、「お金をあげる」という状況と「お金は返してもらうことになっている」という状況とは両立しません。
抗弁は請求原因と両立する事実であることが論理的な前提ですから、この主張は抗弁ではなく、請求原因である返還の合意を否認し、その理由として贈与であったことを述べているにすぎません。
これを理由付き否認(積極否認)といいます。
この区別は、弁論主義の適用範囲とも結びつきます。
理由付き否認の「理由」の部分は間接事実にとどまりますから、当事者の主張がなくても証拠からこれを認定してよいことになります。
関連して判例は、被告が弁済を主張した事案で、その給付が訴求債権とは別口の債務の弁済に充てられたことは、当事者の主張がなくても認定することができ、弁論主義に反しないとしました(最判昭和46年6月29日判時636号50頁)。
被告が弁済の抗弁の要件事実(給付と債権との結び付き)の証明に失敗したにすぎない、と説明することができます。
2-4 権利抗弁
実体法上の形成権や抗弁権については、その事実関係が訴訟に現れているだけでは足りず、権利者がその権利を行使する意思を表明しなければ裁判所が斟酌できないとされるものがあります。
これを権利抗弁といい、留置権や同時履行の抗弁権がその例です。
民法上の取消権や建物買取請求権(借地借家法13条)のような形成権を訴訟外で行使し、その結果を訴訟で主張する場合は事実抗弁ですが、これらを直接訴訟手続で行使する場合には、権利者が主張しなければならないという意味で権利抗弁となる、と一般に解されています。
第3章 訴訟行為の要件と瑕疵
3-1 訴訟能力を欠く訴訟行為
訴訟行為を有効に行うには、訴訟能力が必要です。
被保佐人・被補助人が訴訟行為をするには保佐人・補助人の同意が必要ですが(民法13条1項4号・17条1項、民訴法28条)、応訴の場面ではこの授権は不要とされ(32条1項)、逆に訴えの取下げや和解など訴訟を終わらせる行為には特別の授権が必要とされています(32条2項)。
訴訟能力や法定代理権を欠く者がした訴訟行為は無効ですが、手続を最初からやり直させるのは不経済ですから、能力を取得した本人や法定代理人の追認によって、行為の時にさかのぼって効力を生ずるものとされています(34条2項)。
裁判所は、訴訟能力等を欠く場合には期間を定めて補正を命じなければなりません(同条1項)。
このように、訴訟行為の瑕疵については、無効としたうえで追認による治癒を認めるという処理がされます。
実体法上の法律行為であれば取消しや無効の主張が後から自由にできるのに対し、訴訟行為では手続の安定が重視され、瑕疵をできるだけ早期に確定させようとする点に特徴があります。
3-2 訴訟行為への私法規定の適用
訴訟行為に民法の意思表示の規定(錯誤、詐欺・強迫等)が適用されるかは、古くから議論されてきました。
訴訟行為は積み重ねられて次の手続の基礎となるため、後から意思表示の瑕疵を理由に効力が覆されると、手続の安定が著しく害されます。
そのため、訴訟行為には原則として私法の意思表示に関する規定は適用されないと解されてきました。
もっとも、これは概念から演繹される結論ではありません。
訴えの取下げのように、手続を終了させるだけでその後の手続の基礎とならない行為については、当事者の意思の尊重を重視する余地があります。
判例が、刑事上罰すべき他人の行為によって訴えの取下げがされた場合に再審事由に関する規定の趣旨を及ぼしていることは、その一例です。
訴訟上の和解の瑕疵とあわせて、本連載第八回で扱います。
第4章 訴訟上行使された形成権と訴訟契約
4-1 形成権の実体法上の効果
被告が訴訟で相殺の抗弁を主張したところ、その抗弁が時機に後れたものとして却下されたり、訴えが取り下げられたりした場合、実体法上の相殺の効果は残るのでしょうか。
これは、訴訟上行使された形成権の実体法上の効果という問題であり、次のような見解が対立しています。
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見解 |
内容 |
本文の例での帰結 |
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併存説 |
私法行為と訴訟行為が併存しており、それぞれ別に効果を判断する |
実体法上の相殺の効果は残る |
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訴訟行為説 |
純然たる訴訟行為であり、実体法とは無関係である |
訴訟法上の効果が生じない以上、相殺の効果も生じない |
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両性説 |
私法と訴訟法の両方の要件を備えて初めて両方の効果が生じる一個の行為である |
訴訟法上の要件を欠く以上、相殺の効果も残らない |
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新併存説 |
併存説を基礎としつつ、私法行為は訴訟行為が失効するときは撤回される趣旨で行われたとみる |
原則として相殺の効果は残らない |
学説上は新併存説が一般的とみられます。
形成権を行使した者の予想を裏切らないよう配慮している点で、この見解が妥当でしょう。
実体法上、形成権の行使に条件を付けることは許されないとされますが、訴訟という特殊な場で審理に必要な限りで行使する場合には、条件を付けることに合理性があるというべきです。
4-2 訴訟契約
当事者が訴訟の追行について合意をすることがあります。
管轄の合意(11条)や不起訴の合意、訴えの取下げの合意、証拠契約などがその例で、これらを訴訟契約(訴訟上の合意)といいます。
明文のない訴訟契約が有効かどうかは、任意訴訟の禁止との関係で問題となりますが、当事者が自由に処分できる事項について、手続の明確性を害しない範囲で認められると解されています。
効果としては、合意に反する訴えが提起された場合に、権利保護の利益を欠くとして訴えを却下するという処理が一般的です。
訴えの取下げの合意については、本連載第八回で判例とともに扱います。
第5章 訴訟行為と信義則
5-1 2条と四つの類型
当事者の訴訟行為については、信義則も問題となります。
かつては民事訴訟法に信義則の規定がなく、民法1条2項の適用が考えられていましたが、現在は2条が、当事者は信義に従い誠実に民事訴訟を追行しなければならないと規定しています。
訴訟行為が信義則に反する場合としては、一般に、①訴訟状態の不当形成の排除、②訴訟上の禁反言(矛盾挙動の禁止)、③訴訟上の権能の失効、④訴訟上の権能の濫用という四つの類型があるとされます。
5-2 訴訟状態の不当形成の排除
①の例として挙げられるのが、裁判籍の盗取です。
裁判例には、原告が、本来管轄のない請求について自己に便利な裁判所に管轄を生じさせるためだけの目的で、その裁判所の管轄に属する請求を併合して訴えを提起し、第一回口頭弁論期日でその請求に係る訴えを取り下げたという事案で、管轄選択権の濫用としてこれを許容できないとしたものがあります(札幌高決昭和41年9月19日高民集19巻5号428頁)。
この事案で注目すべきは、管轄は訴え提起の時を基準として定まる(15条)ため、併合された請求に係る訴えが取り下げられても、いったん生じた管轄は失われないと解するのが一般であるという点です。
だからこそ、信義則によって管轄選択権の濫用を封じる必要があったのです。
第6章 試験答案の構成方法
6-1 訴訟上行使された形成権の帰趨が問われる事案
訴訟上の相殺の抗弁が却下された、あるいは訴えが取り下げられたという事案では、以下の流れで答案を構成することが考えられます。
【答案構成の流れ】
- 問題提起:訴訟上行使された形成権について、訴訟法上の効果が生じなかった場合に実体法上の効果が残るかを問題とする
- 前提の整理:当該行為が訴訟行為としてどのような効果をもち、なぜその効果が生じなかったのか(時機に後れた攻撃防御方法としての却下、訴えの取下げによる訴訟係属の遡及的消滅等)を確定する
- 規範:私法行為と訴訟行為は併存するが、当事者は、訴訟行為が効力を失うときは私法行為も撤回される趣旨で形成権を行使したものとみるべきである(新併存説)
- 理由:形成権を行使した当事者は、訴訟でその効果が判断されることを前提としているのが通常であり、訴訟法上の効果が生じないのに実体法上の権利のみを失わせるのは、行使した者の予想を裏切る
- あてはめ・結論:当事者が訴訟行為の失効にかかわらず私法行為としては撤回しない趣旨であったと認められる特段の事情がなければ、実体法上の効果も残らない
信義則が問われる事案では、四つの類型のいずれに当たるかを意識し、①相手方の信頼が保護に値するか、②当該訴訟行為を許すことが手続の公正を害するかを具体的に検討することになります。
信義則は最後の調整弁ですから、まず条文上の処理ができないかを検討したうえで用いる、という順序を守ることが大切です。
まとめ
訴訟行為について、本記事では以下の点を解説しました。
- 訴訟行為とは訴訟法上の効果を生じる行為をいい、概念から結論を導くのではなく、行為ごとの規律を具体的に考えることが重要である
- 当事者の訴訟行為は、申立て・主張・立証の三段階からなる。申立ては裁判等があるまで原則として撤回が自由である
- 抗弁は請求原因と両立する事実であり、両立しない事実を理由とする主張は理由付き否認にすぎない。理由付き否認の理由は間接事実であり、弁論主義の適用がない(最判昭和46年6月29日)
- 訴訟能力等を欠く訴訟行為は無効であるが、追認により行為の時にさかのぼって効力を生ずる(34条2項)
- 訴訟上行使された形成権の実体法上の効果については新併存説が一般的であり、訴訟行為が失効するときは私法行為も撤回される趣旨とみる
- 訴訟行為には信義則(2条)が及び、訴訟状態の不当形成の排除など四つの類型があるとされる(札幌高決昭和41年9月19日)
次回記事では、弁論主義を扱います。
判決の基礎となる事実と証拠の収集を当事者の権能と責任に委ねるという原則であり、三つのテーゼの意味と、主要事実・間接事実の区別が中心となります。
【民事訴訟法入門11】
前回の記事
【民事訴訟法入門9】民事訴訟の審理手続の流れを基礎から解説


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