【民事訴訟法入門16】既判力の基準時と遮断効。基準時後の形成権の行使まで初学者向けに徹底解説
目次
この記事を読んで理解できること
- 基準時とは何か
- 遮断効
- 基準時後の形成権の行使
- 基準時後に事情が変わった場合
この記事は、
・既判力の基準時がなぜ事実審の口頭弁論終結時なのかを知りたい
・基準時の前と後で、何が主張できて何ができないのかを整理したい
・基準時の後に取消権や相殺権を行使できるのかを知りたい
といった方におすすめです。
本連載第15回では、既判力とは何か、どのように働くのかを解説しました。
【民事訴訟法入門15】既判力とは何か。意義・作用・働く3つの場面を初学者向けに徹底解説
ただ、ひとつ宿題を残しています。
既判力は「権利があるかないか」を確定する効力です。
しかし、権利関係は時間とともに変わります。
今日は借金があっても、明日返済すればなくなります。
そうすると、「いつの時点で権利があったのか、なかったのか」を決めないかぎり、既判力は意味を持ちません。
この時点のことを基準時といいます。
そして、基準時を決めると、今度は次の問題が出てきます。
前の訴訟で言えたはずのことを、後から持ち出せるのか。
取消権や相殺権のように、権利自体は前からあったけれども、使ったのは判決の後だという場合はどうなるのか。
ここは、既判力の中でもっとも試験に出るところです。
そこで、この記事では、
第1章で基準時とは何かについて、
第2章で遮断効について、
第3章で基準時後の形成権の行使について、
第4章で基準時後に事情が変わった場合について、
それぞれ解説します。
基礎知識をわかりやすく簡潔に説明しますので、初学者の方はもちろん、民事訴訟法をひと通り学んだ方のまとめ用にも最適です。
第1章 基準時とは何か
1-1 まずは具体例から
【事例】
|
Xは、Yに対し、貸金1000万円の返還を求める訴訟を提起し、請求認容判決が確定した。 ところが、Yは判決が確定した後に、Xに1000万円を支払った。 それでもXは、この判決を使って強制執行をすることができるのだろうか。 |
直感的には、「もう払ったのだから執行できないはずだ」と思うでしょう。
そのとおりです。
しかし、その結論を既判力の理屈で説明できるでしょうか。
判決は確定しているので、既判力は生じています。
その既判力の内容は「Xの貸金返還請求権が存在する」というものです。
それなら、Yが「もう存在しない」と主張することは既判力に反するようにも思えます。
ここでのポイントが既判力の基準時です。
1-2 基準時は事実審の口頭弁論終結時
既判力が生じるのは、ある一時点における権利関係の存否についてです。
その一時点のことを基準時(標準時)といい、事実審の口頭弁論が終結した時点がこれにあたります。
■なぜ事実審の口頭弁論終結時なのか
理由は2つあります。
①当事者は、事実審の口頭弁論が終結するまでは、事実についての主張や証拠を提出することができます。裏を返せば、それより後は提出できません。
②裁判所も、その時点までに提出された資料を基礎として判決をします。
第15回で、既判力の根拠は手続保障とそれに対する自己責任だと説明しました。
「主張できたのにしなかった」という自己責任を問える最後の時点が、まさに事実審の口頭弁論終結時なのです。
だから、そこを基準時とするのが筋が通っています。
■「事実審」とは
事実審とは、事実の認定をする審級のことで、第一審と控訴審がこれにあたります。
上告審は法律審なので、原則として事実の認定をしません。
|
どこまで争ったか |
基準時 |
|
第一審で判決が出て、控訴せずに確定した |
第一審の口頭弁論終結時 |
|
控訴し、控訴審で判決が出た |
控訴審の口頭弁論終結時 |
|
さらに上告したが、上告が棄却された |
控訴審の口頭弁論終結時 |
【注意】基準時は「判決が確定した時」ではない
|
判決が言い渡されてから確定するまでには、上訴期間などの時間があります。 その間に生じた事情は、基準時より後の事情です。 「確定した時点」と覚えてしまうと、この部分がずれてしまうので注意してください。 |
1-3 条文にも表れている
基準時の考え方は、民事執行法の条文にはっきり表れています。
(請求異議の訴え)
第三十五条 債務名義(第二十二条第二号又は第三号の二から第四号までに掲げる債務名義で確定前のものを除く。以下この項において同じ。)に係る請求権の存在又は内容について異議のある債務者は、その債務名義による強制執行の不許を求めるために、請求異議の訴えを提起することができる。裁判以外の債務名義の成立について異議のある債務者も、同様とする。
2 確定判決についての異議の事由は、口頭弁論の終結後に生じたものに限る。
2項は、確定判決に文句をつけるなら、口頭弁論の終結後に生じた事由でなければならないことが定めています。
裏を返せば、口頭弁論の終結前に生じていた事由は持ち出せないということです。
この規定は、既判力の基準時が口頭弁論終結時であることを前提にしています。
そこで、1-1の事例の答えが出ます。
Yの弁済は基準時より後の出来事ですから、Yは請求異議の訴えを提起して弁済を主張し、強制執行を止めることができます。
第2章 遮断効
2-1 基準時より前の事由は主張できない
第15回で、既判力には消極的作用があると説明しました。
基準時との関係では、これを遮断効と呼びます。
【事例】
|
Xは、Yに対し、貸金1000万円の返還を求める訴訟を提起し、請求認容判決が確定した。 ところが、Yは「実は、口頭弁論が終結する前に全額を弁済していた。領収書も見つかった」と言い出した。 |
この主張は遮断されます。
仮に弁済が本当にあったとしても、Yはそれを前訴で主張することができたからです。
■主張しなかったことに落ち度がなくても遮断される
うっかりしていた、証拠が見つからなかった、そもそも知らなかった。
いずれであっても、原則として遮断されます。
ここは、初学者の方が「厳しすぎないか」と感じるところだと思います。
もっとも、前訴で主張することがおよそ期待できなかったといえる場合には、手続保障と自己責任という既判力の根拠そのものが当てはまりません。
そのような場合には遮断されないと考える余地があります。
この考え方は、第3章で形成権を扱うときに効いてきます。
2-2 整理すると
|
事由が生じた時期 |
後から主張できるか |
|
基準時より前 |
できない(遮断される) |
|
基準時より後 |
できる |
【注意】既判力が生じる対象と、遮断される対象は別物
|
ここは混乱しやすいので、分けて覚えてください。 ・既判力が生じるのは、「基準時において権利があるかないか」という結論です。 ・遮断されるのは、その結論をひっくり返すために基準時前の事情を持ち出すことです。 したがって、「基準時より前の権利関係」そのものに既判力が生じるわけではありません。 たとえば「基準時においてXが甲土地の所有者である」ことに既判力が生じている場合でも、「基準時より前の時点ではAが所有者だった」という主張は、基準時のXの所有を否定するものでないかぎり、遮断されません。 基準時より前に、AからXへ所有権が移っていた可能性があるからです。 第15回で、既判力は「結論」に生じるのであって「理由」には生じないと説明しました。発想は同じです。 |
2-3 どこで争うのか
基準時後の事由を主張する場面は、大きく2つあります。
①給付判決による強制執行を止めたい場合
請求異議の訴え(民事執行法35条)で、基準時後の事由を異議の事由として主張します。
②あらためて訴えを起こす場合
たとえば、前訴で請求が棄却された原告が、基準時後に発生した事由を理由に、もう一度同じ請求をする場合です。
この場合、後訴では基準時後の事由だけが審理の対象になります。
第3章 基準時後の形成権の行使
3-1 どこが問題なのか
ここからが、この分野の山場です。
形成権には、少し変わった性質があります。
権利が発生したのは基準時より前なのに、それを行使したのは基準時より後、ということが起こりうるのです。
【事例】
|
Xは、Yから甲土地を買い受けたとして、Yに対し、甲土地の所有権がXにあることの確認を求める訴訟を提起し、請求認容判決が確定した。 ところが、Yは判決確定後になって、「この売買契約はXにだまされて締結したものだ」として売買契約を取り消し、甲土地の所有権は自分にあると主張した。 なお、詐欺があったのは契約のときであり、取消権そのものは前訴の口頭弁論終結前から存在していた。 |
取消権が発生したのは基準時より前です。
しかし、取消しの意思表示をしたのは基準時より後です。
これを「基準時前の事由」とみれば遮断されますし、「基準時後の事由」とみれば主張できることになります。
形成権の種類ごとに、結論が分かれます。
3-2 考え方の2つの軸
|
軸 |
内容 |
|
①権利の性質 |
その形成権は、前訴の訴訟物の発生原因に内在する瑕疵に基づくものか。内在する瑕疵に基づくのであれば、それを後から持ち出すことは前訴の蒸し返しに近い。 |
|
②期待可能性 |
前訴で行使することを期待できたか。期待できなかったのであれば、行使しなかったことの自己責任を問えない。 |
どちらも、既判力の根拠である手続保障と自己責任から出てくる視点です。
形成権ごとに結論を丸暗記するのではなく、この2つの軸に当てはめて考えてください。
3-3 取消権は遮断される
詐欺や錯誤による取消権は、売買契約そのものに付いていた瑕疵です。
Yが前訴でXの所有権を争うのであれば、取消しを主張しておくべきでした。
そして、取消しを主張することは十分に可能でした。
判例も、同じように考えています。
・最判昭和55年10月23日民集34巻5号747頁
【判旨】
売買契約による所有権の移転を請求原因とする所有権確認訴訟が係属した場合に、当事者が右売買契約の詐欺による取消権を行使することができたのにこれを行使しないで事実審の口頭弁論が終結され、右売買契約による所有権の移転を認める請求認容の判決があり同判決が確定したときは、もはやその後の訴訟において右取消権を行使して右売買契約により移転した所有権の存否を争うことは許されなくなるものと解するのが相当である。
ここで注目したいのは、「行使することができたのにこれを行使しないで」という部分です。
3-2で挙げた②の期待可能性の視点が、判旨の文言そのものに表れています。
取消権は、①の軸(訴訟物の発生原因に内在する瑕疵)でも②の軸(期待可能性)でも、遮断する方向に働く場面なのです。
3-4 相殺権は遮断されない
これに対して、相殺権は結論が逆になります。
・最判昭和40年4月2日民集19巻3号539頁
【判旨】
相殺は当事者双方の債務が相殺適状に達した時において当然その効力を生ずるものではなくて、その一方が相手方に対し相殺の意思表示をすることによつてその効力を生ずるものであるから、当該債務名義たる判決の口頭弁論終結前には相殺適状にあるにすぎない場合、口頭弁論の終結後に至つてはじめて相殺の意思表示がなされたことにより債務消滅を原因として異議を主張するのは民訴法五四五条二項の適用上許される…
※判文中の「民訴法五四五条二項」は旧法の条文で、現行の民事執行法35条2項にあたります。
判旨が述べているのは、次のことです。
相殺適状にあるだけでは、債務は消滅しません。
相殺の意思表示をして、はじめて消滅します。
そうすると、意思表示が基準時より後にされた以上、債務が消滅したのは基準時より後の出来事だということになります。
■実質的な理由
形式的な説明だけでなく、実質的な理由も押さえておきましょう。
相殺に使う自働債権は、前訴の訴訟物に付いていた瑕疵ではありません。
被告が持っている、まったく別の債権です。
そして、相殺をすれば、被告はその債権を失います。
つまり、相殺とは、自分の財産を犠牲にして支払を免れる手段なのです。
「前訴で必ず相殺しておきなさい」と強いるのは、被告に酷です。
だからこそ、行使しなかったことの自己責任を問えない、ということになります。
【コラム】「同じ形成権なのだから同じ扱いのはずだ」という主張
3-3で紹介した取消権の判例(最判昭和55年10月23日)では、敗れた側が、まさにこう主張していました。
詐欺による取消権も相殺権も同じ形成権である。相殺権については口頭弁論終結後の行使が認められている(最判昭和40年4月2日)のだから、取消権についても認められるはずだ、というわけです。
最高裁は、この主張を採りませんでした。
つまり、「形成権かどうか」で結論が決まるのではない、ということです。
決め手になるのは、3-2で挙げた2つの軸です。
①取消権は売買契約そのものに付いていた瑕疵ですが、相殺権に使う債権は訴訟物とまったく関係のない別の債権です。
②取消しは意思表示をするだけで済みますが、相殺は自分の債権を失うという代償を伴います。
この2つの違いが、同じ形成権でありながら結論を分けています。
形成権の名前で場合分けを暗記するのではなく、この違いを説明できるようにしておいてください。
3-5 建物買取請求権も遮断されない
【事例】
|
Yは、Xから土地を借り、その土地の上に建物を所有していた。 借地契約が終了したとして、XがYに対し、建物を収去して土地を明け渡すよう求める訴訟を提起し、請求認容判決が確定した。 Yは、前訴では建物買取請求権を行使していなかったが、判決確定後にこれを行使した。 |
・最判平成7年12月15日民集49巻10号3051頁
【判旨】
…賃借人は、その後に建物買取請求権を行使した上、賃貸人に対して右確定判決による強制執行の不許を求める請求異議の訴えを提起し、建物買取請求権行使の効果を異議の事由として主張することができるものと解するのが相当である。けだし、(1) 建物買取請求権は、前訴確定判決によって確定された賃貸人の建物収去土地明渡請求権の発生原因に内在する瑕疵に基づく権利とは異なり、これとは別個の制度目的及び原因に基づいて発生する権利であって、賃借人がこれを行使することにより建物の所有権が法律上当然に賃貸人に移転し、その結果として賃借人の建物収去義務が消滅するに至るのである、(2) したがって、賃借人が前訴の事実審口頭弁論終結時までに建物買取請求権を行使しなかったとしても、実体法上、その事実は同権利の消滅事由に当たるものではなく(最高裁昭和五二年(オ)第二六八号同五二年六月二〇日第二小法廷判決・裁判集民事一二一号六三頁)、訴訟法上も、前訴確定判決の既判力によって同権利の主張が遮断されることはないと解すべきものである、(3) そうすると、賃借人が前訴の事実審口頭弁論終結時以後に建物買取請求権を行使したときは、それによって前訴確定判決により確定された賃借人の建物収去義務が消滅し、前訴確定判決はその限度で執行力を失うから、建物買取請求権行使の効果は、民事執行法三五条二項所定の口頭弁論の終結後に生じた異議の事由に該当するものというべきであるからである。
注目してほしいのは、(1)の「発生原因に内在する瑕疵に基づく権利とは異なり」という部分です。
最高裁は、3-2の①の軸をそのまま使っています。
そして、この言い回しは裏返しの意味も持っています。
内在する瑕疵に基づく権利であれば結論が変わる、ということを前提にしているわけです。
取消権が遮断されるのと、建物買取請求権が遮断されないのとが、同じ物差しで説明できることを確認してください。
3-6 形成権ごとの結論
|
形成権 |
結論 |
理由 |
|
取消権 |
遮断される |
訴訟物の発生原因に内在する瑕疵に基づく権利であり、前訴で行使することも期待できた(最判昭和55年10月23日) |
|
解除権 (被告が主張する場合) |
遮断される |
内在する瑕疵に基づく権利ではないが、勝訴した相手方の地位を失わせる点では取消権と変わらない |
|
相殺権 |
遮断されない |
訴訟物に付着した瑕疵ではなく、自分の別の債権を犠牲にするものなので、行使を強いることはできない |
|
建物買取請求権 |
遮断されない |
別個の制度目的と原因に基づいて発生する権利である |
【コラム】原告が解除権を行使する場合
表では「被告が主張する場合」と断り書きをしました。
原告の側が解除権を行使する場合は、話が変わりうるからです。
たとえば、売買契約に基づいて目的物の引渡しを求め、勝訴した原告が、その後に契約を解除して原状回復を求める場合を考えてみてください。
原告には、本来の履行を求めるか、解除して原状回復を求めるかという選択権があります。
前訴の段階で「解除するなら今しておけ」と強いるのは、この選択権を奪うことになり、妥当ではありません。
そこで、遮断されないと考える余地があります。
初学者の方は、同じ解除権でも、誰がどの場面で行使するかによって結論が変わりうる、という点だけ頭の隅に置いておけば十分です。
【解法】形成権が出てきたときの手順
|
①その形成権がいつ発生し、いつ行使されたのかを確認する ②前訴の訴訟物を特定し、その発生原因に内在する瑕疵に基づく権利かどうかを判断する ③前訴で行使することを期待できたかを検討する ④②③を踏まえて、遮断されるかどうかの結論を出す 形成権の名前だけを見て結論を書くと、理由が書けずに点が伸びません。 必ず、既判力の根拠である手続保障と自己責任に戻って論じてください。 |
第4章 基準時後に事情が変わった場合
4-1 将来の分まで判決をもらった後に、相場が変わったら
最後に、少し毛色の違う問題を扱います。
【事例】
|
Yは、Xが所有する土地を不法に占拠している。 Xは、Yに対し、土地の明渡しと、明渡しに至るまでの間、賃料相当損害金として月5万円の金員の支払を求める訴訟を提起し、請求認容判決が確定した。 ところが、Yはその後も明渡しをせず、その間に地価や公租公課が上昇して、適正な賃料相当額は月13万円になった。 Xは、差額である月8万円を、あらためて請求することができるか。 |
■まず原則を確認する
最高裁は、この事案で、2つのことを順番に述べています。
先に述べたのは、原則のほうです。
・最判昭和61年7月17日民集40巻5号941頁
【判旨①】
…損害の賠償を求める請求権は、通常生ずべき損害及び特別事情によつて生ずる損害を通じて一個の請求権であつて、その履行を求める訴えにおいて、通常損害と特別損害のいずれか一方についてのみ判決を求める旨が明示されていない場合には、たとえ請求原因としてはその一方のみを主張しているにとどまるときであつても、一部請求であることが明示されているのと同視しうるような特段の事情の存在しない限り、これに対する判決の既判力は右請求権の全部に及び、新たに訴えを提起して、右請求を一部請求であつたと主張し、他の一方の損害の賠償を求めることはできないものと解するのが相当である。
つまり、前訴の判決が請求権の全部をカバーしていたのであれば、後から「あれは一部請求だった」と言い直して残りを請求することはできません。
実際、この事件の原審は「前訴は通常損害、本訴は特別損害だから別だ」として差額請求を認めていましたが、最高裁はその部分を破棄しています。
■そのうえで、差額請求を認めた
ところが、最高裁は続けて、次のように述べました。
【判旨②】
…事実審口頭弁論の終結後に公租公課の増大、土地の価格の昂騰により、又は比隣の土地の地代に比較して、右判決の認容額が不相当となつたときは、所有者は不法占拠者に対し、新たに訴えを提起して、前訴認容額と適正賃料額との差額に相当する損害金の支払を求めることができるものと解するのが相当である。けだし、…将来、不法占拠者の妨害等により明渡が長期にわたつて実現されず、事実審口頭弁論終結後の前記のような諸事情により認容額が適正賃料額に比較して不相当となるに至つた場合に生ずべきその差額に相当する損害金については、主張、立証することが不可能であり、これを請求から除外する趣旨のものであることが明らかであるとみるべきであり、…その後前記のような事情によりその認容額が不相当となるに至つた場合には、その請求は一部請求であつたことに帰し、右判決の既判力は、右の差額に相当する損害金の請求には及ばず…
結論として、Xは差額を請求できます。
【注意】理由は「基準時後の事情だから」ではない
|
ここを読み違える答案が非常に多いところです。 この判例が差額請求を認めた理由は、「基準時より後に事情が変わったから」ではありません。 前訴の請求が、もともとその差額を含んでいなかったから、つまり請求から除外する趣旨だったから、です。 判旨も「その請求は一部請求であつたことに帰し」と述べています。 同じ判決の中で、判旨①は「通常損害と特別損害を後から分けて請求することはできない」と述べています。 「基準時後に事情が変われば何でも新しく請求できる」と理解してしまうと、判旨①を見落とすことになります。 前訴の請求がどこまでをカバーしていたのか。まずそこを確認してください。 |
4-2 条文が用意されている場合もある
基準時後の事情変更については、民事訴訟法が正面から手当てをしている場面もあります。
(定期金による賠償を命じた確定判決の変更を求める訴え)
第百十七条 口頭弁論終結前に生じた損害につき定期金による賠償を命じた確定判決について、口頭弁論終結後に、後遺障害の程度、賃金水準その他の損害額の算定の基礎となつた事情に著しい変更が生じた場合には、その判決の変更を求める訴えを提起することができる。ただし、その訴えの提起の日以後に支払期限が到来する定期金に係る部分に限る。
2 前項の訴えは、第一審裁判所の管轄に専属する。
交通事故などで、将来にわたって毎月一定額を支払うよう命じる判決(定期金賠償)が出ることがあります。
その後に後遺障害の程度や賃金水準が大きく変わると、判決の金額が実態と合わなくなります。
そこで、既判力で動かせないままにするのではなく、判決の変更を求める訴えを認めたのが117条です。
初学者の方は、基準時後の事情変更に対する手当てとして、
- 請求異議の訴え(民事執行法35条)
- 確定判決の変更を求める訴え(117条)
という2つの制度が用意されていることを押さえておけば十分です。
第5章 まとめ
■第1章まとめ
既判力は、ある一時点における権利関係の存否について生じます。
その時点を基準時といい、事実審の口頭弁論が終結した時点がこれにあたります。
当事者が主張・立証できる最後の時点であり、裁判所が判断の基礎とする資料がそろう最後の時点だからです。
判決が確定した時点ではないことに注意してください。
■第2章まとめ
基準時より前に生じていた事由は、後から主張することができません(遮断効)。
主張しなかったことに落ち度がなくても、原則として遮断されます。
もっとも、既判力が生じるのは「基準時において権利があるかないか」という結論であり、遮断されるのはその結論を覆すための基準時前の主張です。
基準時より前の権利関係そのものに既判力が生じるわけではありません。
■第3章まとめ
形成権は、発生が基準時前、行使が基準時後ということが起こります。
①その形成権が訴訟物の発生原因に内在する瑕疵に基づくものか、②前訴で行使することを期待できたか、という2つの軸で判断します。
取消権は遮断されますが(最判昭和55年10月23日)、相殺権は遮断されません(最判昭和40年4月2日)。
建物買取請求権も、別個の制度目的と原因に基づく権利であるとして遮断されません(最判平成7年12月15日)。
■第4章まとめ
損害賠償請求権は通常損害と特別損害を通じて一個の請求権であり、一部請求の明示がなければ既判力は請求権の全部に及びます。
もっとも、将来の賃料相当損害金を命じる判決については、基準時後の事情で認容額が不相当になった場合の差額は請求から除外する趣旨だったとして、新訴による請求が認められます(最判昭和61年7月17日)。
基準時後の事情変更については、請求異議の訴え(民事執行法35条)と確定判決の変更を求める訴え(117条)という制度も用意されています。
この記事では、初学者の方にもわかりやすいように、一般的な考え方をざっくりと解説しています。
判例などの詳細な解説や、実践的な答案の書き方を知りたい方は、ヨビロン民事訴訟法のテキストをご購入いただけると幸いです。
次回の記事
【民事訴訟法入門17】既判力の客観的範囲とは何か。一部請求や相殺の抗弁も初学者向けに徹底解説!
前回の記事
【民事訴訟法入門15】既判力とは何か。意義・作用・働く3つの場面を初学者向けに徹底解説


LINE特典動画では、私が提唱する「解法パターン」とその活用方法の一端をお見せします。
動画①では、「判例の射程とは何か」を予備試験の過去問を題材にしながら分かりやすく解説します。この解説を聞いた受講生からは「判例の射程の考え方・書き方がようやくわかった!」との言葉をいただいております。
動画②では、試験開始前に見ることで事案分析の精度が格段にあがるルーズリーフ一枚に収まる目的手段審査パターンまとめです。
動画③では、どの予備校講師も解説をぼやかしている生存権の解法を明確にお渡しします。
そして、動画④では③の生存権の解法パターンを使って、難問と言われた司法試験の憲法の過去問の解説をします。
是非、解説動画を受け取って、世界を変えてください。