【民事訴訟法入門17】既判力の客観的範囲とは何か。一部請求や相殺の抗弁も初学者向けに徹底解説!

監修者
講師 赤坂けい
株式会社ヨビワン
講師 赤坂けい
【民事訴訟法入門17】既判力の客観的範囲とは何か。一部請求や相殺の抗弁も初学者向けに徹底解説!
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チェック
この記事を読んで理解できること
  • 既判力が生じるのは訴訟物についてだけ
  • 判決理由中の判断
  • 一部請求
  • 相殺の抗弁

この記事は、

  • 既判力が何について生じるのかを条文から整理したい
  • 判決理由中の判断に拘束力が生じる場面を知りたい
  • 一部請求の後に残部請求ができるのかを知りたい

といった方におすすめです。

既判力には、押さえるべき問いが4つあります。

「そもそも何なのか」「いつの時点の判断なのか」「何について生じるのか」「誰に及ぶのか」の4つです。

本連載では、第15回で1つ目を、第16回で2つ目を扱いました。

【民事訴訟法入門15】既判力とは何か。意義・作用・働く3つの場面を初学者向けに徹底解説

【民事訴訟法入門16】既判力の基準時と遮断効。基準時後の形成権の行使まで初学者向けに徹底解説

この記事では、3つ目の「何について生じるのか」を扱います。

これを既判力の客観的範囲といいます。

4つ目の「誰に及ぶのか」(主観的範囲)は、次回扱います。

そこで、この記事では、

第1章で既判力が生じるのは訴訟物についてだけであることについて、

第2章で判決理由中の判断について、

第3章で一部請求について、

第4章で相殺の抗弁について、

それぞれ解説します。

基礎知識をわかりやすく簡潔に説明しますので、初学者の方はもちろん、民事訴訟法をひと通り学んだ方のまとめ用にも最適です。

第1章 既判力が生じるのは訴訟物についてだけ

1-1 条文を読む

客観的範囲は、民事訴訟法の条文がそのまま答えになっています。

(既判力の範囲)

第百十四条 確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有する。

2 相殺のために主張した請求の成立又は不成立の判断は、相殺をもって対抗した額について既判力を有する。

「主文に包含するもの」とは、訴訟物についての判断のことです。

そして「限り」とあるので、それ以外には生じません。

ここで効いてくるのが、訴訟物を特定する作業です。

訴訟物が決まらなければ、既判力がどこまで及ぶのかも決まりません。

訴訟物については本連載第2回で扱っていますので、あいまいな方は先に確認してください。

【民事訴訟法入門2】民訴の大前提である訴訟物と要件事実を基礎から解説

1-2 判決理由中の判断には生じない

【事例】

Xは、Yに対し、甲建物の所有権に基づいて建物の明渡しを求める訴訟を提起し、請求認容判決が確定した。

この判決の理由中では、「甲建物はXの所有である」という判断がされている。

この場合、既判力が生じるのは、訴訟物である建物明渡請求権の存在についてだけです。

その前提である所有権の存否は、理由中の判断にすぎないので、既判力は生じません。

判例も、所有権の存否には既判力もこれに類似する効力も生じないとしています(最判昭和44年6月24日判時569号48頁)。

この判例は第15回で詳しく扱いました。

理由は2つありました。

①民事訴訟の目的は訴訟物の存否を確定することにあるので、訴訟物についての判断に既判力を認めれば足りること。

②理由中で判断される事項は二次的なものであり、当事者が本気で争うとは限らないので、拘束力を認めると不意打ちになること。

【解法】まず訴訟物を書く

客観的範囲の問題が出たときは、答案の最初に必ず前訴の訴訟物を特定してください。

「主文に包含するもの」(114条1項)とは訴訟物についての判断であると述べ、前訴の訴訟物が何かを示す。

この言及がないまま「既判力が及ぶ」とだけ書いても、評価されません。

第2章 判決理由中の判断

2-1 まったく拘束力がないわけではない

理由中の判断に既判力が生じないとすると、困った事態が起きます。

前の訴訟で当事者が真剣に争い、裁判所も判断した事項を、次の訴訟で何度でも蒸し返せることになってしまうからです。

そこで、理由中の判断に何らかの拘束力を認められないかが議論されてきました。

ルートは3つあります。

ルート

内容

判例の態度

争点効

当事者が主要な争点として争い、裁判所が判断した事項には、既判力に準ずる拘束力を認める

否定

信義則(2条)

実質的に前訴の蒸し返しであるなど、一定の事情があるときは後訴を許さない

肯定

既判力に準ずる効力

訴訟物ではないが判決主文に明示される事項には、既判力に準ずる拘束力を認める

肯定

争点効と信義則は第15回で扱いました。

ここでは、3つ目の既判力に準ずる効力を見ていきます。

2-2 既判力に準ずる効力

【事例】

Yは、父Aを相続するにあたり限定承認をした。

Aに対して債権を持っていたXがYに支払を求めたところ、裁判所は限定承認を認め、「Yは、Aの相続財産の限度でXに支払え」という留保付きの判決をし、これが確定した。

ところが、Xは判決確定後になって、「Yには法定単純承認にあたる事実があったので、限定承認は無効だ。相続財産の限度という留保のない判決がほしい」として、あらためて訴えを提起した。

ここで前訴の訴訟物は、Xの債権の存在と範囲です。

限定承認が有効かどうかは、訴訟物そのものではありません。

それなら、Xは後訴で争えそうにも思えます。

しかし、最高裁はこれを許しませんでした。

・最判昭和49年4月26日民集28巻3号503頁

【判旨】

…相続財産の限度で支払を命じた、いわゆる留保付判決が確定した後において、債権者が、右訴訟の第二審口頭弁論終結時以前に存在した限定承認と相容れない事実(たとえば民法九二一条の法定単純承認の事実)を主張して、右債権につき無留保の判決を得るため新たに訴を提起することは許されないものと解すべきである。けだし、前訴の訴訟物は、直接には、給付請求権即ち債権(相続債務)の存在及びその範囲であるが、限定承認の存在及び効力も、これに準ずるものとして審理判断されるのみならず、限定承認が認められたときは前述のように主文においてそのことが明示されるのであるから、限定承認の存在及び効力についての前訴の判断に関しては、既判力に準ずる効力があると考えるべきであるし…

ポイントは2つです。

①限定承認の存在と効力は、訴訟物そのものではないけれども、訴訟物に準ずるものとして審理判断されていること。

②しかも、判決の主文に「相続財産の限度で」と明示されること。

114条1項が既判力を「主文に包含するもの」に限っているのは、主文に表れた判断こそが当事者にとって見える結論だからです。

そうすると、訴訟物でなくても主文に明示される事項があるのなら、そこにも同じ扱いを認めてよい、ということになります。

【注意】「既判力に準ずる効力」をむやみに使わない

「既判力に準ずる効力」は、使い勝手がよさそうに見える言葉です。

しかし、判例がこれを認めたのは限定承認の事案です。

「主文に書いてあるから既判力に準ずる効力がある」と一行で済ませる答案は、評価されません。

限定承認以外の場面で使うのであれば、なぜ蒸し返しを防ぐべきなのかを、その事案の事実から基礎づける必要があります。

2-3 3つのルートの使い分け

初学者の方がもっとも混乱するのは、争点効と信義則の違いです。

 

争点効(判例は否定)

信義則

前提

当事者が実際に争ったこと

争ったことは必要でない。自白や擬制自白でもよい

働き方

当事者が援用して初めて働く

裁判所が考慮する

既判力が職権調査事項であるのに対し、争点効を認める見解でも、争点効は当事者の援用を要するとされています。

この違いもあわせて押さえておいてください。

判例が争点効を否定している以上、答案で理由中の判断の拘束力を論じるときは、信義則によることになります。

第3章 一部請求

3-1 1000万円のうち400万円だけ請求できるか

ここからは、客観的範囲の中でよく出題される論点です。

【事例】

Xは、Yに対して1000万円の貸金返還請求権を持っていると考えている。

しかし、訴訟費用の負担を抑えるため、まずは400万円だけ請求することにした。

Xは、この訴訟で勝てそうなら、残りの600万円をあらためて請求するつもりである。

処分権主義のもとでは、何をどれだけ請求するかは原告が決められます(本連載第7回)。

ですから、400万円だけ請求すること自体は問題ありません。

【民事訴訟法入門7】処分権主義と申立事項の限界を判例で解説

問題は、その後です。

400万円の訴訟について判決が確定した後、Xは残りの600万円を請求できるのでしょうか。

3-2 一部であることを明示していた場合

まず、Xが「1000万円のうちの400万円である」と明示していた場合です。

・最判昭和37年8月10日民集16巻8号1720頁

【判旨】

一個の債権の数量的な一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴が提起された場合は、訴訟物となるのは右債権の一部の存否のみであつて、全部の存否ではなく、従つて右一部の請求についての確定判決の既判力は残部の請求に及ばないと解するのが相当である。

理屈はシンプルです。

明示があれば、訴訟物は400万円の部分だけになります。

既判力は訴訟物についてしか生じないのですから、残りの600万円には及びません。

第1章で確認したことが、そのまま効いているわけです。

3-3 明示していなかった場合

では、Xが何も言わずに400万円だけ請求していた場合はどうでしょうか。

この場合、訴訟物は債権の全部になります。

したがって、判決が確定すれば債権の全部について既判力が生じ、残部を請求することはできません。

・最判昭和32年6月7日民集11巻6号948頁

【判旨】

…前記四五万円の請求を訴訟物の全部として訴求したものであることをうかがうに難くないから、その請求の全部につき勝訴の確定判決をえた後において、今さら右請求が訴訟物の一部の請求にすぎなかつた旨を主張することは、とうてい許されないものと解すべきである。

後から「あれは一部請求だった」と言い出すことはできない、ということです。

一部であることの明示

訴訟物

残部請求

あり

明示された一部のみ

既判力は及ばない

なし

債権の全部

既判力が及び、できない

3-4 明示していても、敗訴したら残部請求はできない

ここまでだと、「とりあえず明示しておけば安心だ」と思えます。

ところが、そうではありません。

【事例】

Xは、「1000万円のうちの400万円である」と明示して、Yに対し400万円の支払を求める訴訟を提起した。

ところが、裁判所はXの債権が存在しないと判断し、請求棄却の判決が確定した。

そこでXは、残りの600万円を請求する訴訟を提起した。

3-2のとおり、残部に既判力は及びません。

それなら後訴は適法なはずですが、最高裁は以下のとおり判示しました。

・最判平成10年6月12日民集52巻4号1147頁

【判旨】

…数量的一部請求を全部又は一部棄却する旨の判決は、このように債権の全部について行われた審理の結果に基づいて、当該債権が全く現存しないか又は一部として請求された額に満たない額しか現存しないとの判断を示すものであって、言い換えれば、後に残部として請求し得る部分が存在しないとの判断を示すものにほかならない。したがって、右判決が確定した後に原告が残部請求の訴えを提起することは、実質的には前訴で認められなかった請求及び主張を蒸し返すものであり、前訴の確定判決によって当該債権の全部について紛争が解決されたとの被告の合理的期待に反し、被告に二重の応訴の負担を強いるものというべきである。以上の点に照らすと、金銭債権の数量的一部請求訴訟で敗訴した原告が残部請求の訴えを提起することは、特段の事情がない限り、信義則に反して許されないと解するのが相当である。

注目してほしいのは、最高裁が既判力ではなく信義則を使っていることです。

既判力が及ばないことは前提にしたうえで、それでも後訴は許さないと言っているわけです。

理由として挙げられているのは次の点です。

①一部請求でも、審理は債権の全部について行われていること。

②棄却判決は「残部として請求し得る部分が存在しない」という判断を示していること。

③被告には、前訴で紛争が全部解決したという合理的な期待があること。

【注意】既判力と信義則の役割分担

第15回でも述べましたが、答案の順序は決まっています。

①まず既判力の客観的範囲を検討する。前訴の訴訟物を特定し、後訴に既判力が及ぶかを判断する。

②及ぶのであれば、それで終わり。

③及ばないことを確認したうえで、はじめて信義則を検討する。

一部請求は、この順序を試すのにちょうどよい素材です。

「明示があるから残部に既判力は及ばない(最判昭和37年8月10日)。もっとも、前訴で敗訴している以上、残部請求は信義則上許されない(最判平成10年6月12日)」という2段構えで書いてください。

3-5 一部請求に相殺の抗弁が出されたら

もうひとつ、計算が問題になる場面があります。

【事例】

Xは、Yに対する1000万円の債権のうち400万円であることを明示して、400万円の支払を求める訴訟を提起した。

Yは、Xに対して300万円の反対債権を持っているとして、相殺の抗弁を主張した。

裁判所は、Xの債権の総額は1000万円、Yの反対債権は300万円であると認定した。

ここで、300万円をどこから引くのかが問題になります。

請求している400万円から引けば、認容額は100万円です。

債権の総額1000万円から引けば、残りは700万円なので、請求額400万円はその範囲内に収まり、全額が認容されます。

・最判平成6年11月22日民集48巻7号1355頁

【判旨】

特定の金銭債権のうちの一部が訴訟上請求されているいわゆる一部請求の事件において、被告から相殺の抗弁が提出されてそれが理由がある場合には、まず、当該債権の総額を確定し、その額から自働債権の額を控除した残存額を算定した上、原告の請求に係る一部請求の額が残存額の範囲内であるときはそのまま認容し、残存額を超えるときはその残存額の限度でこれを認容すべきである。けだし、一部請求は、特定の金銭債権について、その数量的な一部を少なくともその範囲においては請求権が現存するとして請求するものであるので、右債権の総額が何らかの理由で減少している場合に、債権の総額からではなく、一部請求の額から減少額の全額又は債権総額に対する一部請求の額の割合で案分した額を控除して認容額を決することは、一部請求を認める趣旨に反するからである。

総額から引く、という答えです。

この考え方を外側説といいます。

事例では、1000万円から300万円を引いた700万円が残存額となり、請求額400万円はその範囲内なので、請求は全額認容されます。

理由は判旨が述べているとおりです。

一部請求とは、「少なくともこの範囲では債権が残っている」という主張です。

そうであれば、債権が減ったときにまず削られるのは、請求されていない外側の部分だと考えるのが、一部請求を認めた趣旨に合います。

一部請求には、このほかにも残部請求との関係や明示の方法など論点があります。

本連載第8回で扱っていますので、あわせてご覧ください。

【民事訴訟法入門8】一部請求と残部請求の可否を判例で解説

第4章 相殺の抗弁

4-1 114条2項はなぜあるのか

最後に、114条2項を確認します。

理由中の判断には既判力が生じないという原則の、唯一の条文上の例外です。

相殺の抗弁で主張される反対債権は、訴訟物ではありません。

ですから、原則どおりなら既判力は生じないはずです。

しかし、それでは困ったことになります。

【事例】

Xが、Yに対し500万円の支払を求める訴訟を提起した。

Yは、Xに対する500万円の反対債権で相殺すると主張し、これが認められて請求棄却の判決が確定した。

その後、Yは、相殺に使ったはずの500万円の反対債権を訴訟物として、Xに対し支払を求める訴訟を提起した。

反対債権の存否に既判力が生じないとすると、この後訴を止められません。

Yは、相殺によって500万円の支払を免れたうえ、さらに500万円を回収できてしまいます。

二重に得をするわけです。

これを防ぐのが114条2項です。

理由中の判断であっても、相殺の抗弁については例外的に既判力を認めることにしたのです。

4-2 「相殺をもって対抗した額」

114条2項は、既判力が生じる範囲を「相殺をもって対抗した額」に限っています。

ここは受験生がもっとも取り違えるところです。

「対抗した額」とは、実際に相殺された額ではなく、反対債権の存否が実質的に判断された額を意味します。

この区別を落とすと、計算問題を確実に間違えます。

この点は、別の記事で具体的なケースを使って詳しく解説しています。

計算の仕方まで押さえたい方は、あわせてご覧ください。

既判力と相殺の論点の基本を総整理。複数のパターンを網羅的に覚え予備試験に対応しよう。

なお、相殺について実質的な判断がされなかった場合には、既判力は生じません。

相殺適状になかった場合や、時機に後れた攻撃防御方法として却下された場合などがこれにあたります。

第5章 まとめ

■第1章まとめ

既判力は「主文に包含するもの」、すなわち訴訟物についての判断に限って生じます(114条1項)。

判決理由中の判断には生じません。

したがって、客観的範囲の問題では、まず前訴の訴訟物を特定することが出発点になります。

■第2章まとめ

理由中の判断に拘束力を認めるルートは3つあります。

争点効は判例が否定していますが、信義則による後訴の遮断は認められています。

また、限定承認のように訴訟物ではないが判決主文に明示される事項については、既判力に準ずる効力が認められます(最判昭和49年4月26日)。

ただし、便利な言葉として多用せず、蒸し返しを防ぐべき事情を事案から基礎づける必要があります。

■第3章まとめ

一部であることを明示していれば訴訟物は一部だけになり、残部に既判力は及びません(最判昭和37年8月10日)。

明示がなければ訴訟物は債権の全部になり、残部請求はできません(最判昭和32年6月7日)。

もっとも、明示していても、前訴で敗訴した原告の残部請求は、特段の事情がない限り信義則上許されません(最判平成10年6月12日)。

一部請求に相殺の抗弁が出された場合は、債権の総額から自働債権の額を控除します(外側説。最判平成6年11月22日)。

■第4章まとめ

相殺の抗弁については、理由中の判断であっても例外的に既判力が生じます(114条2項)。

被告が相殺で支払を免れたうえ、さらに反対債権を訴求して二重に得をすることを防ぐためです。

既判力が生じるのは「相殺をもって対抗した額」であり、これは実際に相殺された額ではなく、反対債権の存否が実質的に判断された額を意味します。

次回は、既判力が誰に及ぶのかという主観的範囲(115条)を扱います。

この記事では、初学者の方にもわかりやすいように、一般的な考え方をざっくりと解説しています。

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次回の記事

【民事訴訟法入門18】既判力の主観的範囲とは何か。 115条の4類型と反射効を徹底解説!

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【民事訴訟法入門16】既判力の基準時と遮断効。基準時後の形成権の行使まで初学者向けに徹底解説

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