【会社法入門6】利益供与とは?120条の要件と蛇の目ミシン事件を整理

監修者
講師 赤坂けい
株式会社ヨビワン
講師 赤坂けい
【会社法入門6】利益供与とは?120条の要件と蛇の目ミシン事件を整理
Share
  • lineナバー lineでシェアする
  • x(旧twitter)ナバー xでシェアする
  • hatenaナバー hatenaでシェアする
  • pocketナバー pocketでシェアする
チェック
この記事を読んで理解できること
  • 利益供与禁止の意義
  • 利益供与の要件
  • 主要論点
  • 違反の効果
  • 試験答案の構成方法

「会社が株主に金品を渡したら、必ず利益供与禁止に違反するの?」

「議決権行使の御礼として粗品を配るのは、利益供与にあたるの?」

「利益供与に関与した取締役は、どこまでの責任を負うの?」

会社法を学ぶ中で、こうした疑問を持った方は多いのではないでしょうか。

会社法120条は「株式会社は、何人に対しても、株主の権利、当該株式会社に係る適格旧株主…の権利又は当該株式会社の最終完全親会社等…の株主の権利の行使に関し、財産上の利益の供与…をしてはならない」と定め、利益供与の禁止を明文化しています。

これは、いわゆる総会屋への利益供与のように、株主の権利行使に影響を与える目的で会社財産を費消することを防止するための規律です。

利益供与の禁止は、株主平等原則(109条1項)とも密接に関連する重要な規律であり、違反した場合には供与を受けた者の返還義務(120条3項)、関与した取締役の連帯責任(120条4項)、そして場合によっては刑事罰(970条)にまで至ります。

本記事では、利益供与禁止規定の意義と趣旨、四つの要件、典型的論点(株式譲渡の対価としての供与、議決権行使に対する謝礼)、違反した場合の効果について、蛇の目ミシン事件(最判平成18年4月10日民集60巻4号1273頁)を含む判例を踏まえて解説します。

この記事で学べること

  • 【初級】利益供与禁止(120条1項)の趣旨
  • 【初中級】利益供与の四つの要件
  • 【中級】「株主の権利の行使に関し」の意義と推定規定
  • 【中上級】株式譲渡の対価としての供与・議決権行使に対する謝礼の論点
  • 【中上級】蛇の目ミシン事件における取締役の責任

第1章 利益供与禁止の意義

1-1 立法の経緯と趣旨

利益供与禁止規定は、もともと昭和56年の商法改正により、いわゆる総会屋対策として導入されたものです。

当時、総会屋(株主総会の議事を妨害したり円滑な進行に協力したりする見返りとして金品を要求する者)による会社財産の不当な流出が社会問題となっており、これに対処するため明文の禁止規定が設けられました。

会社法120条1項の趣旨は、株主の権利行使に影響を及ぼす目的での会社財産の費消を防止し、もって会社運営の健全化を図る点にあります。

すなわち、(一)会社財産が不当に流出することを防ぐとともに、(二)株主による公正な権利行使の機会を確保することが、本条の保護目的となっています。

1-2 規制の構造

会社法120条は、四つの項に分かれて構成されています。

第一に、利益供与の禁止規定(同条1項)、第二に、推定規定(同条2項)、第三に、利益を受けた者の返還義務(同条3項)、第四に、関与した取締役等の責任(同条4項)です。

これらの規定は相互に関連しており、株主の権利行使の公正を確保するために多層的な規律として設計されています。

とりわけ、後述する推定規定により、立証責任の転換が図られている点が実務上の重要なポイントです。

第2章 利益供与の要件

会社法120条1項に基づき、株式会社は、(一)「何人に対しても」、(二)「株主の権利の行使に関し」、(三)「会社の計算において」、(四)「財産上の利益の供与」をしてはなりません。

各要件を順に確認します。

2-1 「何人に対しても」

「何人に対しても」とは、利益の供与を受ける相手方が誰であるかを問わないという趣旨です。

供与の相手方は、株主に限らず、株主以外の第三者(典型的には総会屋)も含まれます。

これは、株主への直接の供与だけでなく、第三者を介した間接的な供与までを規制対象とすることで、規制の潜脱を防ぐ趣旨です。

2-2 「株主の権利の行使に関し」

「株主の権利の行使に関し」が、利益供与の中核的な要件です。

利益供与禁止の趣旨は、株主の権利行使に影響を及ぼす目的での会社財産の費消を防止する点にあるため、「株主の権利の行使に関し」とは、株主の権利行使に影響を及ぼす意図・目的を会社が有していることをいうと解されます。

「株主の権利」とは、105条1項各号(剰余金配当請求権・残余財産分配請求権・議決権)に該当する権利が原則ですが、これに限られず、株主としての地位に基づくその他の権利も広く含まれます。

2-3 「会社の計算において」

「会社の計算において」とは、会社の財産的負担となる供与であることを意味します。

直接に会社財産から支出される場合だけでなく、関連会社が利益を供与し、最終的にその経済的効果が会社に帰属する場合(たとえば、会社が関連会社の負担した費用について事後的に補填を行う場合や、債務に担保提供を行う場合)も「会社の計算において」に該当する可能性があります。

したがって、形式的に第三者から利益が供与されているように見えても、その実質において会社の財産を流出させている場合には、120条1項の規制が及ぶことになります。

なお、120条1項により、「子会社の計算において」する場合は明文上含まれています。

2-4 「財産上の利益の供与」

「財産上の利益の供与」とは、相手方に経済的価値ある利益を提供することをいいます。

金銭の交付はもちろん、物品の贈与、無償の役務提供、さらには対価のない債務免除なども含まれます。

対価が支払われる取引の場合でも、対価が著しく不相当であるときは、その差額が事実上の利益供与にあたります。

たとえば、会社が市場価格の二倍の価格で物品を購入したような場合、その差額部分が「財産上の利益の供与」と評価されうることになります。

2-5 推定規定(120条2項)

会社法120条2項は、二つの推定規定を置いています。第一に、株式会社が特定の株主に対し無償で財産上の利益の供与をしたときは、当該会社は「株主の権利の行使に関し」財産上の利益の供与をしたものと推定されます。

第二に、株式会社が特定の株主に対し有償で財産上の利益の供与をした場合において、当該株式会社またはその子会社の受けた利益が当該供与した利益に比して著しく少ないときも、同様に推定されます。

この推定規定の意義は、利益供与の立証責任を会社側(取締役側)に転換する点にあります。

本来であれば、原告(株主代表訴訟の提起者など)が利益供与の事実を立証しなければなりませんが、特定の株主に対する無償供与や著しく不釣り合いな対価関係がある場合には、利益供与の事実が推定されるため、被告側が「株主の権利の行使と無関係である」ことを立証しなければなりません。

要件

内容

何人に対しても

供与の相手方は問わない(株主・第三者を含む)

株主の権利の行使に関し

株主の権利行使に影響を及ぼす意図・目的

会社の計算において

会社の財産的負担となる供与

財産上の利益の供与

経済的価値ある利益の提供。対価が著しく不相当な場合の差額も該当

第3章 主要論点

3-1 株式譲渡の対価としての供与

会社法127条が定める株式譲渡は、株主としての地位の移転にすぎず、それ自体は「株主の権利の行使」にはあたらないと解されています。

したがって、株式譲渡の対価としての金銭交付は、原則として利益供与にはあたりません。

もっとも、120条1項の趣旨に照らすと、会社にとって好ましくない株主の権利行使を回避する目的で、当該株主から株式を譲り受けるための対価を第三者に供与する行為は、利益供与に該当すると解されています。

これは蛇の目ミシン事件で問題となった論点であり、判例も同様の立場をとっています。

なお、敵対的買収者から会社を防衛するため、友好的な第三者(いわゆるホワイトナイト)を見つけるために、証券会社等に仲介手数料を支払う行為は、株主の権利行使を回避する目的とは異なるため、原則として利益供与の射程外と解されています。

3-2 議決権行使に対する謝礼

会社が、議決権を行使した株主に対して粗品やクオカードなどを送付する実務がしばしば見られます。

これが利益供与にあたるかについては、解釈上の争いがあります。

利益供与禁止の趣旨に照らすと、議決権行使に対する謝礼は、株主の権利行使に影響を及ぼすおそれがあるため、原則としてすべて禁止されるべきと考えられます。

もっとも、(一)当該利益が株主の権利行使に影響を及ぼすおそれのない正当な目的に基づいて供与され、(二)個々の株主に供与される額も社会通念上許容されるものであり、(三)総額も会社の財産的基礎に影響を及ぼすものでないときは、例外的に利益供与にあたらないと考えるのが多数説です。

したがって、議決権行使を促進するための単なる御礼としての小額のクオカードなど、社会通念上許容される範囲のものであれば、必ずしも利益供与には該当しないと整理されています。

第4章 違反の効果

4-1 利益供与を受けた者の返還義務

利益供与を受けた者は、これを会社に返還しなければなりません(120条3項)。

利益供与を受けた者に対する利益返還請求の訴えは、株主代表訴訟によることも認められています(847条3項)。

これにより、株主は会社に代わって利益の返還を求めることができます。

4-2 関与した取締役等の責任

利益供与を行い、またはこれに関与した取締役等は、会社に対し連帯して、供与した利益の価額に相当する額を支払う義務を負います(120条4項本文)。

ここで「関与した取締役等」の範囲は法務省令で定められ(規則21条)、(一)利益供与に関する職務を行った取締役・執行役、(二)取締役会決議に基づく利益供与の場合、当該決議に賛成した取締役と議案を提案した取締役・執行役、(三)株主総会決議に基づく利益供与の場合の関与者、が含まれます。

責任の性質は、利益供与の実行者については無過失責任です。

これに対し、その他の関与者(取締役会決議に賛成した取締役など)は、職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明したときに限り、責任を免れます(120条4項但書)。

実行者に重い責任を課しているのは、利益供与の主体的関与者として最も重い責任を負わせる必要があるためです。

関与者

責任の性質

利益供与を実行した取締役・執行役

無過失責任(120条4項本文)

取締役会決議に賛成した取締役・議案を提案した取締役等

過失責任(120条4項但書)。注意を怠らなかったことの立証で免責

4-3 蛇の目ミシン事件

利益供与に関する代表的な判例が、最判平成18年4月10日民集60巻4号1273頁、いわゆる蛇の目ミシン事件です。

事案は、ある株主から株式を買い取り、その対価としていわゆる仕手筋の関係者に約三百億円の融資保証等を行ったものでした。

最高裁は、当該行為が、会社にとって好ましくない者が株主としての地位を有することを回避する目的で行われたものであるとして、120条1項の利益供与にあたると判断しました。

さらに、利益供与に関与した取締役らは、120条4項に基づく無過失責任ないし過失による責任を負うとしました。

この判例は、(一)株式譲渡の対価としての供与であっても、株主の権利行使を回避する目的があれば利益供与に該当することを明確化した点、(二)関与した取締役の責任要件を具体的に整理した点で、実務上極めて重要な意義を有しています。

また、本判決は、取締役の責任要件について、利益供与に直接関与しなかった取締役についても、利益供与に該当する事実を認識していたか、または認識し得たと認められる場合には、注意義務違反として責任を問われ得ることを示唆しました。

これは、取締役の監視義務との関連で重要な視点であり、後の章で取り扱う取締役の責任論にも連なる論点です。

4-4 刑事罰

利益供与の禁止は、民事上の責任にとどまらず、刑事罰の対象ともなります。

会社法970条は、株式会社に係る利益供与をした者または受けた者に対し、三年以下の懲役または三百万円以下の罰金を科しています。

さらに、威迫的な手段によって要求した場合には加重された罰則が定められています(同条4項以下)。

これは、利益供与を通じた会社財産の不当な流出と株主権の歪みを、強行的に抑止するための規律です。

120条の民事責任と970条の刑事罰は、それぞれ別個の責任原理に基づくため、両者が同時に適用されることもあり得ます。

第5章 試験答案の構成方法

5-1 利益供与該当性の答案構成

利益供与の該当性が問題となる事案では、以下の流れで答案を構成することが考えられます。

【答案構成の流れ】

問題提起:本件供与が利益供与の禁止(120条1項)に違反するか

規範定立:利益供与禁止の趣旨は、株主の権利行使に影響を及ぼす目的での会社財産の費消を防止し、会社運営の健全化を図る点にある

要件の確認:(一)「何人に対しても」、(二)「株主の権利の行使に関し」、(三)「会社の計算において」、(四)「財産上の利益の供与」

主たる論点:特に「株主の権利の行使に関し」の解釈──株主の権利行使に影響を及ぼす意図・目的があるか。株式譲渡の対価としての供与については、好ましくない株主の権利行使を回避する目的があれば該当する(蛇の目ミシン事件)

推定規定:特定の株主に対する無償供与等があれば、120条2項により株主権利行使関連性が推定される

あてはめ:本件における各要件の充足を具体的に検討し、利益供与該当性を判断する

効果:該当する場合、(一)受領者の返還義務(120条3項)、(二)関与取締役の責任(120条4項)を検討する

なお、議決権行使に対する謝礼が問題となる事案では、「株主の権利の行使に関し」の要件について、一定の例外要件(目的の正当性、個別額の相当性、総額の妥当性)を満たすかを検討します。

これに対し、株式譲渡対価としての供与の事案では、株主の権利行使を回避する目的の有無が中心的な判断要素となります。事案に応じて適切な論点を選択することが重要です。

まとめ

利益供与について、本記事では以下の点を解説しました。

・利益供与禁止(120条1項)の趣旨は、株主の権利行使に影響を及ぼす目的での会社財産の費消を防止し、会社運営の健全化を図る点にある

・利益供与の四つの要件は、(一)「何人に対しても」、(二)「株主の権利の行使に関し」、(三)「会社の計算において」、(四)「財産上の利益の供与」である

・特定株主への無償供与等の場合は、120条2項により株主の権利行使との関連性が推定される

・株式譲渡対価としての供与は、原則として利益供与にあたらないが、好ましくない株主の権利行使を回避する目的がある場合は該当する(蛇の目ミシン事件)

・議決権行使に対する謝礼は、目的が正当で、個別額・総額が社会通念上相当な範囲であれば、例外的に利益供与にあたらないと解される

・利益供与を受けた者は会社に利益を返還する義務を負い(120条3項)、関与した取締役等は連帯して責任を負う(120条4項)。実行者は無過失責任、その他の関与者は過失責任

「予備試験1桁合格者」から学ぶ東大式予備試験論証集ヨビロンはこち

憲法公式テキスト購入は公式LINEで!

さらに!公式LINE友達登録するだけで4つの無料特典もプレゼント

公式LINE で無料特典を受け取ってください

特典

予備試験1桁合格
憲法A取得者による

  • 『判例の射程』
  • 受講生が実際に予備試験の当日も穴が開くほど見ていた『目的手段審査判例まとめ』
  • 「生存権」の一般的解法
  • 解法を使った過去問解説動画「生存権」

LINE登録

LINE特典動画では、私が提唱する「解法パターン」とその活用方法の一端をお見せします。

動画①では、「判例の射程とは何か」を予備試験の過去問を題材にしながら分かりやすく解説します。この解説を聞いた受講生からは「判例の射程の考え方・書き方がようやくわかった!」との言葉をいただいております。

動画②では、試験開始前に見ることで事案分析の精度が格段にあがるルーズリーフ一枚に収まる目的手段審査パターンまとめです。

動画③では、どの予備校講師も解説をぼやかしている生存権の解法を明確にお渡しします。

そして、動画④では③の生存権の解法パターンを使って、難問と言われた司法試験の憲法の過去問の解説をします。
是非、解説動画を受け取って、世界を変えてください。

Share
  • lineナバー lineでシェアする
  • x(旧twitter)ナバー xでシェアする
  • hatenaナバー hatenaでシェアする
  • pocketナバー pocketでシェアする

コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です