【会社法入門9】株主総会決議の瑕疵を体系的に解説
目次
この記事を読んで理解できること
- 株主総会決議の瑕疵への対応の概要
- 株主総会決議取消の訴え(831条)
- 株主総会決議無効確認の訴え(830条2項)
- 株主総会決議不存在確認の訴え(830条1項)
- 訴えの利益
- 試験答案の構成方法
- 株主総会の決議に違法があったら、どのように争えばいいの?
- 決議の「取消」「無効」「不存在」は、何が違うの?
- 決議が取り消されると、それに基づく取引はどうなるの?
会社法を学ぶ中で、こうした疑問を持った方は多いのではないでしょうか。
株主総会の決議は、会社の意思形成の中核であり、その決議を前提として後続の業務執行や対外的取引が行われていきます。
そのため、決議に瑕疵があった場合、(一)瑕疵を是正する必要性と、(二)既成事実の保護・法的安定性の要請とが鋭く対立する場面となります。
会社法は、瑕疵の性質や重大性に応じて、決議取消しの訴え(831条)、決議無効確認の訴え(830条2項)、決議不存在確認の訴え(830条1項)という三つの制度を用意し、両者のバランスを図っています。
本記事では、これら三つの訴えの全体像から始め、それぞれの要件・効果・実務上の論点を、判例を踏まえて解説します。
この記事で学べること
- 【初級】株主総会決議の瑕疵に対する三つの訴えの全体像
- 【初中級】決議取消しの訴え(831条)の取消事由と提訴期間
- 【中級】裁量棄却(831条2項)の趣旨と適用場面
- 【中級】決議無効確認の訴え(830条2項)と決議不存在確認の訴え(830条1項)の使い分け
- 【中上級】不存在の連鎖の判例(最判平成2年4月17日)
- 【中上級】訴えの利益(任期満了・代替決議・否決の決議)の論点
第1章 株主総会決議の瑕疵への対応の概要
1-1 三つの訴えの全体像
株主総会の決議に瑕疵がある場合、その効力を否定するための制度として、会社法は三つの訴えを用意しています。
第一に、株主総会決議取消の訴え(会社法831条)、第二に、株主総会決議無効確認の訴え(830条2項)、第三に、株主総会決議不存在確認の訴え(830条1項)です。
これらは、瑕疵の重大性および性質に応じて使い分けられます。
すなわち、(一)手続的瑕疵については決議取消しの訴え(出訴期間制限あり)、(二)決議内容が法令に違反する場合には決議無効確認の訴え、(三)決議があったとは法的に評価できないほどに著しい瑕疵がある場合には決議不存在確認の訴えという整理です。
1-2 早期安定の要請と既成事実の保護
株主総会の決議は、会社の意思形成として確定すれば、その後の組織運営や対外的取引の前提となります。
そのため、決議の効力をいつまでも争えるとすると、法律関係の安定が害されます。
そこで会社法は、普通の手続的瑕疵については出訴期間(決議の日から三か月。
831条1項柱書)を設けることで早期の安定を図り、他方で著しい瑕疵については期間制限のない不存在確認・無効確認の訴えで対応するという二段構えの規律を採用しています。
第2章 株主総会決議取消の訴え(831条)
2-1 取消事由
会社法831条1項は、決議取消しの事由として、次の三つを定めています。
- 招集の手続または決議の方法が法令もしくは定款に違反し、または著しく不公正なとき(1号)
- 決議の内容が定款に違反するとき(2号)
- 決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって、著しく不当な決議がされたとき(3号)
もっとも一般的に問題となるのが1号(手続的瑕疵)です。
具体的には、招集通知漏れ、招集通知期間の不足、招集事項の決定機関の欠陥(取締役会決議を経ない招集など)、議長による恣意的な議事運営、説明義務違反などが該当します。
これに対し、決議内容自体が法令に違反する場合は、決議取消しではなく、決議無効確認の訴え(830条2項)の対象となる点に注意が必要です。
2-2 提訴期間と原告適格
決議取消しの訴えは、決議の日から三か月以内に提起しなければなりません(831条1項柱書)。
これは、上述のとおり、手続的瑕疵についての法律関係の早期安定を図るための趣旨です。
提訴期間との関係では、出訴期間経過後に新たな取消事由を追加することは許されないという判例が重要です(最判昭和51年12月24日民集30巻11号1076頁)。
判例の理由は、取消事由の追加を無制限に許せば、出訴期間制限の趣旨(早期安定)が没却されるという点にあります。
原告適格は、株主等(株主、取締役、監査役、執行役、清算人など)に認められます(831条1項柱書・828条2項1号)。
判例は、他の株主への招集通知漏れを理由とする決議取消しの訴えにおいても、原告適格を認めています。
これは、招集手続の瑕疵を理由とする取消しの訴えが、公正な決議の維持を図る制度であり、他の株主への瑕疵によっても公正な決議は妨げられ得るためです。
2-3 裁量棄却(831条2項)
招集手続または決議方法の法令・定款違反を理由とする取消しの訴え(831条1項1号)については、裁判所は、その違反する事実が重大でなく、かつ決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは、請求を棄却することができます(831条2項)。
これを裁量棄却といいます。
裁量棄却の趣旨は、軽微な手続的瑕疵があっても決議の結論に影響しない場合にまで決議を取り消すことは、会社や他の株主の利益に照らして相当でないという点にあります。
たとえば、招集通知に若干の記載漏れがあったが、決議の結論に影響を及ぼすおそれがないような場合に、裁量棄却が認められ得ます。
2-4 判決の効力
取消しを認容する確定判決は、形成判決として、決議を遡及的に無効とします(839条が834条17号を除いていることの反対解釈)。
また、認容判決には対世効があり、第三者にもその効力が及びます(838条)。
したがって、たとえば取締役選任決議が取り消された場合、取締役選任の効力は遡及的に否定され、当該取締役はそもそも取締役でなかったことになります。
もっとも、対外的取引については、不実登記の効力(908条2項)、表見代表取締役(354条)などの諸規定により、善意の第三者が保護されることになります。
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項目 |
内容 |
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提訴期間 |
決議の日から三か月以内(831条1項柱書) |
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原告適格 |
株主等(株主・取締役・監査役・執行役・清算人等) |
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被告 |
会社(834条17号) |
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判決の効力 |
形成判決。遡及効・対世効あり(838条・839条参照) |
第3章 株主総会決議無効確認の訴え(830条2項)
決議の内容自体が法令に違反する場合は、決議無効確認の訴え(830条2項)の対象となります。
たとえば、欠格事由のある者を取締役に選任する決議や、株主平等原則に反する決議などが典型例です。
決議取消しの訴えと異なり、無効確認の訴えには出訴期間の制限がなく、原告適格にも特別の制限はありません(訴えの利益が認められる限り、誰でも提起できる)。
これは、内容自体が法令違反の決議には法的安定性を犠牲にしてでも瑕疵を是正すべき必要性が高いという考え方に基づくものです。
もっとも、無効確認の訴えは確認訴訟ですから、訴えによらずとも無効を主張することは可能です。
あえて訴えとして提起するのは、認容判決に対世効(838条)が認められ、紛争の画一的解決が図れる点に意味があります。
第4章 株主総会決議不存在確認の訴え(830条1項)
4-1 不存在事由
「決議が存在しない」とは、(一)株主総会が物理的に開催されておらず決議が事実として存在しない場合のみならず、(二)手続的瑕疵が著しく、決議があったとは法的に評価できない場合も含むと解されています。
具体的な不存在事由としては、(一)株主総会が事実として開催されていないにもかかわらず、議事録のみが作成されている場合、(二)一部の株主が会社の機関を経ずに勝手に会合して決議した場合、(三)取締役会設置会社において、平取締役が取締役会の決議に基づかずに招集した場合、(四)招集通知漏れが著しい場合などが挙げられます。
招集通知漏れが「著しい」とされた事案として、株主九名中六名、議決権の半数近くについて招集通知が発せられていなかった事案で、不存在が認められた判例があります(最判昭和33年10月3日民集12巻14号3053頁)。
招集通知漏れの程度が重大な場合には、もはや適法な株主総会としての実体を欠くものと評価されるためです。
4-2 不存在の連鎖
不存在事由のなかでも、実務的に重要なのが不存在の連鎖の問題です。
最判平成2年4月17日民集44巻3号526頁は、次の旨を判示しました。
すなわち、ある取締役選任決議が不存在である場合、その不存在決議によって選任された取締役を含む取締役会も正当なものとはいえず、当該取締役会で選定された代表取締役も正当に選定されておらず、株主総会の招集権限を有しません。
そうすると、当該代表取締役の招集により開催された株主総会の決議もまた、特段の事情(全員出席総会など)のない限り、法律上不存在となるという理屈です。
この判例の理屈は、第一決議の不存在が、第二決議、第三決議へと連鎖的に波及するため、後発的に株主総会を重ねても瑕疵は治癒されないことを意味します。
実務上は、第一決議の取消しではなく不存在が問題となる場面で重要な意義を有します。
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訴えの種類 |
対象となる瑕疵 |
出訴期間 |
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決議取消し(831条) |
招集手続・決議方法の法令定款違反等(手続的瑕疵) |
決議の日から三か月以内 |
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決議無効確認(830条2項) |
決議内容の法令違反 |
制限なし |
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決議不存在確認(830条1項) |
決議が存在しない場合(物理的不存在・著しい手続的瑕疵) |
制限なし |
第5章 訴えの利益
株主総会決議取消しの訴えは形成訴訟であるため、法律に定める要件を満たせば、原則として訴えの利益が認められます。
もっとも、決議後の事情の変化により、取消しの判決をすることに実益がなくなった場合には、訴えの利益が欠けるとして却下されることがあります。
5-1 取締役選任決議の取消しと任期満了
取締役選任決議の取消しの訴えの係属中に、当該決議によって選任された取締役の任期が満了した場合、原則として訴えの利益は失われると解されています。
すでに任期が満了して退任した者の取締役選任決議を取り消しても、形成判決として実益がないためです。
ただし、退任後も取締役の地位を遡及的に否定することにより具体的実益が生じる「特別の事情」が証明されれば、訴えの利益は失われません。
たとえば、先行決議の瑕疵が後行決議の瑕疵にも影響する場合がこれに該当し得ます。
5-2 計算書類承認決議の取消しと翌期決議
計算書類承認決議の取消しの訴えについては、翌期以降の計算書類の承認決議がなされても、訴えの利益は失われないと解されています。
計算書類は前期の内容を前提として確定されるため、前期の承認決議が取り消されると翌期以降の決議にも影響が及ぶからです。
実務上は、係属中の決議取消しの訴えへの対抗策として、決議取消しの確定判決を停止条件として、過去にさかのぼって効力を生じる第一決議と同一内容の代替決議を行う手法が用いられることもあります(最判平成4年10月29日民集46巻7号2580頁・ブリジストン事件参照)。
5-3 否決の決議
議案を否決する決議の取消しを求める訴えについては、原則として訴えの利益が否定されます。
否決の決議そのものから新たな法律関係が生じるわけではなく、取消しの判決をしても、新たな法律関係が創設されることもないためです
第6章 試験答案の構成方法
6-1 決議の瑕疵が問題となる事案の答案構成
株主総会決議の瑕疵が問題となる事案では、まず瑕疵の性質と重大性を確定し、(一)取消し、(二)無効、(三)不存在のいずれの訴えによるべきかを判断するという流れになります。
【答案構成の流れ】
・問題提起:本件決議に瑕疵があるか。あるとして、いかなる訴えによるべきか
・瑕疵の性質の特定:(一)手続的瑕疵か内容的瑕疵か、(二)瑕疵の程度(普通・著しい)を確定する
・訴えの選択:(a)普通の手続的瑕疵なら決議取消し(831条1項1号)、(b)内容の法令違反なら無効確認(830条2項)、(c)決議が法的に評価できないほど著しい瑕疵なら不存在確認(830条1項)
・原告適格・提訴期間の検討:取消しの訴えなら株主等であり、決議の日から三か月以内かを確認する
・裁量棄却の検討:取消しの訴えにつき、瑕疵が重大でなく決議に影響を及ぼさない場合は、裁量棄却(831条2項)
・認容判決の効果:遡及効・対世効(838条・839条)。連鎖的に後続の決議に影響することがある(不存在の連鎖)
・訴えの利益:任期満了等により訴えの利益が消滅していないかを確認する
6-2 不存在の連鎖が問題となる事案
第一決議の不存在を理由として、その後の取締役会・株主総会の決議の効力が連鎖的に争われる事案では、最判平成2年4月17日の射程に従って、後続決議の不存在まで論じる必要があります。
【ポイント】
- 第一決議が不存在であれば、当該決議で選任された取締役を含む取締役会は正当な機関ではない
- 正当でない取締役会で選定された代表取締役は招集権限を有しない
- 招集権限のない代表取締役による招集に基づく株主総会の決議は、特段の事情のない限り不存在
- 「特段の事情」の典型例は全員出席総会の場合(招集権限の瑕疵が治癒される)
まとめ
株主総会決議の瑕疵について、本記事では以下の点を解説しました。
・株主総会決議の瑕疵に対する救済として、(一)決議取消しの訴え(831条)、(二)決議無効確認の訴え(830条2項)、(三)決議不存在確認の訴え(830条1項)が用意されている
・決議取消しの訴えの取消事由は、(一)招集手続・決議方法の法令定款違反・著しい不公正、(二)決議内容の定款違反、(三)特別利害関係人の議決権行使による著しく不当な決議の三類型である
・決議取消しの訴えには、決議の日から三か月という出訴期間制限があり、出訴期間経過後の取消事由の追加は許されない(最判昭和51年12月24日)
・違反事実が重大でなく決議に影響を及ぼさないと認められる場合は、裁量棄却がされ得る(831条2項)
・決議内容の法令違反は、決議無効確認の訴え(830条2項)の対象であり、出訴期間制限はない
・決議が事実として存在しない場合や手続的瑕疵が著しい場合は、決議不存在確認の訴え(830条1項)の対象となる
・第一決議の不存在は、後続の取締役会・株主総会の決議の不存在へと連鎖する(最判平成2年4月17日)
・認容判決には対世効(838条)があり、決議は遡及的に無効となる(839条参照)
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