【会社法入門11】取締役会の権限・運営と決議の瑕疵を解説

監修者
講師 赤坂けい
株式会社ヨビワン
講師 赤坂けい
【会社法入門11】取締役会の権限・運営と決議の瑕疵を解説
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チェック
この記事を読んで理解できること
  • 取締役会の意義と権限
  • 取締役会の招集と決議
  • 招集手続に瑕疵のある決議の効力
  • 取締役会決議を欠く代表取締役の行為(専断的行為)
  • 試験答案の構成方法

「会社の重要な決定のうち、どこまでが取締役会で決めなければならない事項なの?」

「一部の取締役に招集通知を出し忘れた取締役会の決議は、無効になるの?」

「取締役会の決議を経ずに代表取締役がした取引は、どうなるの?」

会社法を学ぶ中で、こうした疑問を持った方は多いのではないでしょうか。

前回学んだとおり、取締役会設置会社では、現実の業務執行は代表取締役らが行います。

これに対し、取締役会は、業務執行に関する会社の意思を決定するとともに、取締役の職務執行を監督する機関です。

会社の経営の根幹に関わる決定が取締役会で行われる以上、その手続に瑕疵があった場合の決議の効力や、決議を経ずに行われた取引の効力は、会社の利益と取引の安全が正面から衝突する重要な論点となります。

【会社法入門10】取締役と代表取締役の基本を体系的に解説

本記事では、取締役会の権限・運営の基本を確認したうえで、決議の瑕疵をめぐる判例法理を解説します。

この記事で学べること

  • 【初級】取締役会の権限と専決事項(362条2項・4項)
  • 【初中級】取締役会の招集・決議の手続(366条・368条・369条)
  • 【中級】「重要な財産の処分」「多額の借財」の判断基準(最判平成6年1月20日)
  • 【中級】特別の利害関係を有する取締役(369条2項)の意義
  • 【中上級】招集手続に瑕疵のある取締役会決議の効力(最判昭和44年12月2日)
  • 【中上級】取締役会決議を欠く代表取締役の行為(専断的行為)の効力

第1章 取締役会の意義と権限

1-1 取締役会とは

取締役会は、すべての取締役で組織される会議体です(会社法362条1項)。

その権限は、(一)業務執行の決定(362条2項1号)、(二)取締役の職務執行の監督(同項2号)、(三)代表取締役の選定および解職(同項3号)の三つに整理されます。

(二)の監督権限は、職務執行の適法性のみならず、妥当性にも及ぶと解されています。

この点は、原則として適法性監査に限られる監査役の監査との重要な違いです。

また、監督の実効性を確保するため、代表取締役および業務執行取締役は、三か月に一回以上、自己の職務の執行の状況を取締役会に報告しなければなりません(363条2項)。

したがって、取締役会は少なくとも三か月に一回は現実に開催される必要があります。

1-2 取締役会の専決事項

取締役会は、業務執行の決定を個々の取締役に委任することもできますが、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定は、取締役に委任することができません(362条4項)。

これを取締役会の専決事項と呼びます。会社に重大な影響を与える事項について、会議体による慎重な審議を要求する趣旨です。

専決事項

1号

重要な財産の処分および譲受け

2号

多額の借財

3号

支配人その他の重要な使用人の選任および解任

4号

支店その他の重要な組織の設置・変更・廃止

5号

社債の募集に関する重要な事項

6号

内部統制システムの整備(大会社では決定が義務。362条5項)

7号

定款の定めに基づく取締役等の責任の一部免除

柱書

その他の重要な業務執行の決定

1-3 「重要な財産の処分」「多額の借財」の判断基準

それでは、どのような財産の処分が「重要」といえるのでしょうか。

判例は、重要な財産の処分に該当するかどうかは、当該財産の価額、その会社の総資産に占める割合、当該財産の保有目的、処分行為の態様および会社における従来の取扱い等の事情を総合的に考慮して判断すべきものとしています(最判平成6年1月20日民集48巻1号1頁)。

実務上は、当該財産の帳簿価額が総資産の一パーセント程度にあたるかどうかが一応の目安とされています。

「多額の借財」(2号)についても、同様の枠組みで、借財の額、総資産・経常利益等に占める割合、借財の目的および会社における従来の取扱い等を総合考慮して判断されます。

なお、保証契約の締結も、会社が二次的にせよ債務を負担する以上、「借財」に含まれると解されています。

第2章 取締役会の招集と決議

2-1 招集の手続

取締役会は、原則として各取締役が招集できます(366条1項本文)。

定款または取締役会で招集権者を定めることもできますが(同項ただし書)、その場合でも、他の取締役は招集権者に招集を請求でき、請求が容れられないときは自ら招集できます(366条2項・3項)。

監督機能を担う取締役会への各取締役のアクセスを保障する趣旨です。

招集にあたっては、会日の一週間前(定款で短縮可)までに、各取締役(監査役設置会社では、各取締役および各監査役)に対して招集通知を発しなければなりません(368条1項)。

株主総会の招集通知と異なり、書面による必要はなく、議題等を示す必要もないと解されています。

取締役は会社の業務全般について判断すべき立場にあるからです。

また、取締役および監査役の全員の同意があれば、招集手続を省略できます(368条2項)。

2-2 決議の要件

取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数が出席し(定足数)、その過半数をもって行います(369条1項)。

定款でこれらの要件を加重することはできますが、緩和することはできません。

株主総会と異なり、代理人による出席・議決権行使は認められません。

取締役は、その個人的な能力・識見を信頼されて選任されているからです。

同様の理由から、議決権の不統一行使や持回り決議も認められませんが、定款の定めがある場合において、取締役全員が書面等により同意し、監査役が異議を述べないときは、決議を省略することができます(370条)。

取締役会の議事については議事録が作成され(369条3項)、決議に参加した取締役であって議事録に異議をとどめないものは、その決議に賛成したものと推定されます(369条5項)。

後に取締役の責任を追及する際の重要な規定です。

取締役会と株主総会の運営上の違いを整理すると、以下のとおりです。

項目

取締役会

株主総会

招集通知

一週間前まで。書面不要(368条1項)

原則二週間前まで。取締役会設置会社では書面による(299条)

代理出席

不可

代理人による議決権行使が可能(310条)

特別利害関係人

議決に加わることができない(369条2項)

議決権行使は排除されず、著しく不当な決議が取消事由となる(831条1項3号)

2-3 特別の利害関係を有する取締役

決議について特別の利害関係を有する取締役は、議決に加わることができません(369条2項)。

取締役は会社に対して忠実義務(355条)を負うところ、個人的利害の絡む決議への参加を許せば忠実義務違反のおそれが生じるため、これを事前に防止し、決議の公正を担保する趣旨です。

そこで、「特別の利害関係」とは、決議について、会社の利益と衝突する個人としての重大な利害関係をいうと解されています。

典型例が、代表取締役の解職決議における当該代表取締役です。

判例は、この場合の代表取締役について、「一切の私心を去つて,会社に対して負担する忠実義務に従い公正に議決権を行使することは必ずしも期待しがたく、かえつて、自己個人の利益を図つて行動することすらあり得る」として、特別の利害関係を有する取締役にあたるとしています(最判昭和44年3月28日民集23巻3号645頁)。

これに対し、代表取締役の選定決議における候補者である取締役は、特別利害関係人にあたらないと解されています。

解職の場合と異なり、会社支配をめぐる利害の対立が顕在化しているとはいえないからです。

特別利害関係人にあたる取締役は、定足数の算定の基礎から除外され、議決権を行使できません。

第3章 招集手続に瑕疵のある決議の効力

3-1 原則

株主総会の決議の瑕疵については、決議取消しの訴え(831条)などの特別の訴訟制度が用意されていますが、取締役会の決議の瑕疵については、会社法上、特別の規定がありません。

そこで、一般原則に従い、手続または内容に瑕疵のある取締役会決議は無効であり、誰でも、いつでも、どのような方法でも無効を主張できるのが原則です。

3-2 招集通知漏れと「特段の事情」

もっとも、一部の取締役への招集通知漏れのような手続的瑕疵について、判例は、「取締役会の開催にあたり、取締役の一部の者に対する招集通知を欠くことにより、その招集手続に瑕疵があるときは、特段の事情のないかぎり、右瑕疵のある招集手続に基づいて開かれた取締役会の決議は無効になると解すべきであるが、この場合においても、その取締役が出席してもなお決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情があるときは、右の瑕疵は決議の効力に影響がないものとして、決議は有効になると解するのが相当である」としています(最判昭和44年12月2日民集23巻12号2396頁)。

同判決の事案は、名目的な取締役(経営に実質的に関与していない取締役)への通知漏れについて、特段の事情を認めて決議を有効としたものです。

もっとも、取締役会は審議を通じて相互に意見を交換し結論を形成する場ですから、通知を受けていれば出席して他の取締役の判断に影響を与えた可能性が否定できない場合には、特段の事情は認められません。

「特段の事情」が認められる範囲は、慎重に判断する必要があります。

なお、監査役への通知漏れについては、監査役は議決権を有さず、取締役会に出席して監視すること自体に意義があるため、決議の結果への影響を問題とする上記判例の枠組みがそのまま妥当するかについて議論があります。

第4章 取締役会決議を欠く代表取締役の行為(専断的行為)

4-1 問題の所在

362条4項の専決事項について、代表取締役が取締役会の決議を経ないまま取引をしてしまった場合(専断的行為)、その取引の効力はどうなるでしょうか。

決議を要求して会社の利益を保護する要請と、決議の有無を外部から知り得ない相手方の取引の安全とが衝突する場面です。

4-2 判例の立場

旧商法下の判例は、代表取締役が取締役会の決議を経てすることを要する対外的な個々の取引行為を決議を経ないでした場合でも、その取引は内部的意思決定を欠くにとどまるから原則として有効であり、「相手方が右決議を経ていないことを知りまたは知り得べかりしときに限って,無効である」としています(最判昭和40年9月22日民集19巻6号1656頁)。

代表取締役は会社の業務に関する包括的な代表権を有しており(349条4項)、取締役会決議の存否は会社の内部事情であって、相手方が外部から容易に知ることはできません。

そこで、取引の安全のため原則を有効としつつ、保護に値しない悪意・有過失の相手方との関係でのみ無効とする趣旨です。

学説上は、内心(決議の不存在)と表示(代表行為)の不一致という構造が心裡留保に類似することから、民法93条1項ただし書の類推適用として説明する見解が有力です。

答案上の注意点として、相手方の悪意・有過失の対象は、(一)当該取引が362条4項各号の事項(たとえば重要な財産の処分)に該当すること、および(二)有効な取締役会決議を経ていないこと、の二点である(いわゆる二重の悪意)ことに留意してください。

4-3 無効を主張できる者

では、決議を経ていないことを理由とする無効は、誰が主張できるのでしょうか。

判例は、代表取締役が取締役会決議を経ないで重要な業務執行に該当する取引をした場合、その無効は原則として会社のみが主張でき、会社以外の者は、当該会社の取締役会が無効を主張する旨の決議をしているなどの特段の事情がない限り、無効を主張できないとしています(最判平成21年4月17日民集63巻4号535頁)。

362条4項が取締役会の決議を要求するのは会社の利益を保護する趣旨であるため、無効主張の可否も会社の意思に委ねるのが相当だからです。

たとえば、取引の相手方が、後に取引が不利になったことを理由に、自ら決議の欠缺を主張して取引を覆すことは許されません。

第5章 試験答案の構成方法

5-1 専断的行為の事案

代表取締役が取締役会決議を経ずに行った取引の効力が問われる事案では、以下の流れで答案を構成することが考えられます。

【答案構成の流れ】

  • 問題提起:本件取引は取締役会決議を経ておらず、その効力が問題となる
  • 専決事項該当性:本件取引が「重要な財産の処分」(362条4項1号)等にあたるか。当該財産の価額、総資産に占める割合、保有目的、処分行為の態様、従来の取扱い等を総合的に考慮して判断する(最判平成6年1月20日)
  • 決議を欠く取引の効力:代表取締役の包括的代表権(349条4項)と取引の安全に照らし、原則として有効。ただし、相手方が決議を経ていないことにつき悪意または有過失の場合は無効(最判昭和40年9月22日)。悪意・有過失の対象は、専決事項該当性と決議の欠缺の二点である
  • 無効主張権者:無効は原則として会社のみが主張できる(最判平成21年4月17日)。相手方からの無効主張は、会社の取締役会が無効を主張する旨の決議をしているなどの特段の事情がない限り許されない
  • 結論:本件取引の効力を結論づける

5-2 取締役会決議の瑕疵の事案

招集通知漏れ等の手続的瑕疵が問題となる事案では、(一)瑕疵の存在(368条1項違反等)を認定し、(二)原則として決議は無効であることを示したうえで、(三)当該取締役が出席してもなお決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情(最判昭和44年12月2日)の有無を、欠席した取締役の地位・影響力や決議の賛否の状況に即して具体的に検討します。

特別利害関係人(369条2項)が議決に加わった瑕疵の場合には、当該取締役を除外してもなお必要な多数が存するかを検討することになります。

まとめ

取締役会について、本記事では以下の点を解説しました。

  • 取締役会の権限は、業務執行の決定、取締役の職務執行の監督(妥当性に及ぶ)、代表取締役の選定・解職である(362条2項)
  • 重要な財産の処分・多額の借財など重要な業務執行の決定は、取締役に委任できない専決事項である(362条4項)
  • 重要な財産の処分への該当性は、財産の価額、総資産に占める割合、保有目的、処分行為の態様、従来の取扱い等を総合考慮して判断する(最判平成6年1月20日)
  • 取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数の出席とその過半数で成立し(369条1項)、特別の利害関係を有する取締役は議決に加われない(369条2項)。代表取締役の解職決議における当該代表取締役は特別利害関係人にあたる(最判昭和44年3月28日)
  • 招集通知漏れのある取締役会決議は原則無効だが、その取締役が出席してもなお決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情があるときは有効である(最判昭和44年12月2日)
  • 取締役会決議を欠く代表取締役の取引は原則有効であり、相手方が決議の欠缺につき悪意・有過失のときに限り無効である(最判昭和40年9月22日)
  • 決議の欠缺による無効は、原則として会社のみが主張できる(最判平成21年4月17日)

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