【会社法入門10】取締役と代表取締役の基本を体系的に解説
目次
この記事を読んで理解できること
- 取締役の意義と地位
- 取締役の選任と終任
- 代表取締役の意義と選定
- 代表取締役の代表権
- 試験答案の構成方法
「取締役は、どのような手続で選ばれ、どのような場合に辞めさせられるの?」
「『社長』と『代表取締役』は、何が違うの?」
「代表取締役が自分の利益のために会社名義で契約をしたら、その契約はどうなるの?」
会社法を学ぶ中で、こうした疑問を持った方は多いのではないでしょうか。
取締役および代表取締役は、株式会社の経営の中心に立つ存在です。
前回までに学んだ株主総会が会社の基本的事項を決定する機関であるのに対し、現実に会社を動かし、対外的な取引を行うのは取締役・代表取締役です。
それだけに、誰がどのような手続で取締役となり、どのような場合にその地位を失うのか、また、代表取締役の行った取引の効力がどのような場合に否定されるのかは、会社法の中核的な論点となります。
本記事では、取締役の選任・終任(特に解任の「正当な理由」)から、代表取締役の代表権をめぐる論点(代表権の制限・濫用、表見代表取締役)までを、判例を踏まえて解説します。
この記事で学べること
- 【初級】取締役の資格・員数・任期と選任の手続
- 【初中級】取締役の終任事由と権利義務取締役(346条1項)
- 【中級】解任の「正当な理由」(339条2項)の判断枠組み
- 【中級】代表取締役の選定方法と包括的代表権(349条4項・5項)
- 【中上級】代表権の濫用(民法107条)の処理
- 【中上級】表見代表取締役(354条)の要件と類推適用
第1章 取締役の意義と地位
1-1 取締役とは
取締役とは、株式会社の業務執行の決定や執行に関与する役員です。
すべての株式会社は、株主総会のほかに取締役を置かなければなりません(326条1項)。
もっとも、取締役の位置づけは、取締役会の有無によって異なります。
取締役会を設置しない会社では、取締役は自ら業務を執行し(348条1項)、原則として会社を代表します(349条1項・2項)。
これに対し、取締役会設置会社では、取締役は会議体である取締役会の構成員であり(362条1項)、現実の業務執行は代表取締役および選定業務執行取締役が行います(363条1項)。
1-2 会社と取締役の関係
会社と取締役(役員)との関係は、委任に関する規定に従います(330条)。
したがって、取締役は会社に対して善良な管理者の注意義務(善管注意義務。民法644条)を負い、さらに会社法上、忠実義務(355条)も課されています。
これらの義務違反に基づく責任(任務懈怠責任。423条1項)については、本連載の後の回で詳しく扱います。
1-3 資格・員数・任期
取締役の資格について、会社法は欠格事由を定めており、法人や、会社法等の一定の罪を犯して刑に処せられた者などは取締役となることができません(331条1項)。
また、公開会社では、取締役が株主でなければならない旨を定款で定めることはできません(331条2項)。
広く人材を求めさせる趣旨です。
員数について、取締役会設置会社では取締役は三人以上でなければなりません(331条5項)。
任期は、原則として選任後二年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までですが(332条1項)、非公開会社(監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社を除く)では、定款によって最長一〇年まで伸長できます(332条2項)。
第2章 取締役の選任と終任
2-1 選任
取締役は、株主総会の普通決議によって選任されます(329条1項)。
もっとも、定足数を定款で引き下げる場合でも、議決権を行使することができる株主の議決権の三分の一未満とすることはできません(341条)。
役員の選任・解任が会社の支配に直結する重要事項だからです。
また、二人以上の取締役を同一の総会で選任する場合、株主は累積投票によることを請求できます(342条)。
累積投票とは、株主に一株につき選任する取締役の数と同数の議決権を与え、これを特定の候補者に集中して投票することを認める制度であり、少数派株主の代表を取締役に送り込むことを可能にします。
ただし、定款で排除でき(342条1項)、実際には多くの会社で排除されています。
2-2 終任と欠員の処理
取締役がその地位を失う事由(終任事由)は、以下のように整理できます。
|
終任事由 |
内容・根拠 |
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任期の満了 |
332条所定の任期の満了 |
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辞任 |
委任の規定に従い、いつでも辞任できる(330条、民法651条1項) |
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解任 |
株主総会の決議によりいつでも解任できる(339条1項) |
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欠格事由の発生 |
331条1項各号に該当した場合 |
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死亡・破産手続開始等 |
委任の終了事由(民法653条) |
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会社の解散 |
清算株式会社では清算人が機関となる(477条1項・478条参照) |
終任により法律または定款所定の員数を欠くこととなった場合、任期満了または辞任により退任した取締役は、新たに選任された取締役が就任するまで、なお取締役としての権利義務を有します(346条1項)。
これを権利義務取締役と呼びます。会社の業務執行が停滞することを防ぐ趣旨です。
権利義務取締役について、判例は、その職務執行に不正の行為等があっても、後述する役員解任の訴え(854条)を適用または類推適用して解任請求をすることは許されないとしています(最判平成20年2月26日民集62巻2号638頁)。
株主は、新たな役員を選任すれば権利義務取締役の地位を失わせることができるため、解任の訴えを認める必要がないからです。
2-3 解任と「正当な理由」
2-3-1 解任の手続
株主総会は、その決議によって、いつでも取締役を解任することができます(339条1項)。
決議要件は原則として普通決議ですが(341条)、累積投票によって選任された取締役の解任には特別決議が必要です(309条2項7号)。
なお、現在の会社法は解任を普通決議としていますが、平成17年制定前の旧商法では特別決議が必要とされていました。
2-3-2 「正当な理由」の意義
解任はいつでもできる一方、「正当な理由」のない解任の場合、取締役は会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求できます(339条2項)。
同項は、株主による解任の自由と、取締役の任期に対する期待の保護との調和を図った規定です。
そうだとすれば、当該取締役に経営を行わせるにあたって障害となるべき状況が客観的に生じている場合には、解任しても取締役の期待を不当に害するものではありません。
そこで「正当な理由」とは、取締役の職務執行上の法令・定款違反行為があったことや、心身の故障、職務への著しい不適任など、職務の執行に障害となるべき客観的な事情があることをいうと解されています。
判例も、代表取締役が持病の悪化のため療養に専念することとなった事案において、解任に「正当な理由」があるとしています(最判昭和57年1月21日判時1037号129頁)。
他方、単なる経営判断の失敗が「正当な理由」にあたるかについては争いがあります。
下級審裁判例には、取締役に法的責任が生じるような場合に限って正当な理由を認める傾向がみられ、その背景には、経営判断の萎縮を防ぐという考慮があります。
なお、賠償すべき損害の範囲は、解任されなければ残存任期中および任期満了時に得られたであろう利益(残存任期中の報酬相当額等)と解されています。
2-4 役員解任の訴え
役員の職務の執行に関し不正の行為または法令・定款に違反する重大な事実があったにもかかわらず、株主総会で解任議案が否決された場合、一定の少数株主は、訴えをもって当該役員の解任を請求できます(854条1項)。
多数派株主が不正を行う役員をかばう場合に、多数決の原理を修正して少数株主を保護する制度です。
第3章 代表取締役の意義と選定
3-1 代表取締役とは
代表取締役とは、会社を代表する権限(代表権)を有する取締役をいいます(349条1項参照)。
日常用語の「社長」「会長」は会社内部の呼称にすぎず、法律上の概念である代表取締役と当然に一致するわけではありません。
誰が代表取締役であるかは登記事項であり(911条3項14号)、登記によって公示されます。
選定方法は、機関設計によって異なります。取締役会を設置しない会社では、各取締役が原則として会社を代表しますが(349条1項本文・2項)、定款、定款の定めに基づく取締役の互選または株主総会の決議によって、取締役の中から代表取締役を定めることができます(349条3項)。
これに対し、取締役会設置会社では、取締役会が取締役の中から代表取締役を選定しなければならず(362条3項)、その解職も取締役会の権限です(362条2項3号)。選定・解職の権限を取締役会に与えることで、取締役会による代表取締役の監督の実効性を確保する趣旨です。
3-2 株主総会の決議による代表取締役の選定の可否
それでは、取締役会設置会社において、定款で、株主総会の決議によっても代表取締役を定めることができる旨を規定することは許されるでしょうか。
取締役会の選定・解職権限(362条2項3号)を通じた監督機能を害するのではないかが問題となります。
この点について判例は、「取締役会設置会社である非公開会社における,取締役会の決議によるほか株主総会の決議によっても代表取締役を定めることができる旨の定款の定めは有効であると解するのが相当である」としています(最決平成29年2月21日民集71巻2号195頁)。
株主総会の権限を定款で拡大することを制限する明文の規定はなく(295条2項参照)、取締役会の決議「によるほか」株主総会でも選定できるとする定めである限り、取締役会の選定・解職権限は奪われず、その監督機能が害されるとはいえないからです。
これに対し、株主総会のみが代表取締役の選定・解職権限を有するとする定款の定めは、取締役会の監督権限の実効性を失わせるものとして無効と解されています。
第4章 代表取締役の代表権
4-1 包括的代表権とその制限
代表取締役は、会社の業務に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を有します(349条4項)。
これを包括的代表権と呼びます。そして、この権限に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができません(349条5項)。
たとえば、社内規程で「一億円を超える取引には取締役会の承認を要する」と定めていたとしても、そのような内部的制限を知らずに取引した第三者に対して、会社は取引の無効を主張できないのです。商取引の安全を保護する趣旨です。
4-2 代表権の濫用
代表取締役が、客観的には代表権の範囲内の行為を、自己または第三者の利益を図る目的で行った場合(代表権の濫用)、その行為の効力はどうなるでしょうか。
たとえば、代表取締役が会社名義で借り入れた金銭を、自己の借金の返済に充てるつもりであったような場合です。
旧民法下の判例は、「株式会社の代表取締役が、自己の利益のため表面上会社の代表者として法律行為をなした場合において、相手方が右代表取締役の真意を知りまたは知り得べきものであつたときは、民法九三条但書の規定を類推し、右の法律行為はその効力を生じないものと解するのが相当である。」としていました(最判昭和38年9月5日民集17巻8号909頁)。
平成29年の民法改正により、この判例法理を明文化した規定が新設されました。
すなわち、「代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り、又は知ることができたときは、その行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす」(民法107条)とされ、代表権の濫用についても同条が適用されます。
したがって、現在では、相手方が代表取締役の濫用の目的につき悪意または有過失であれば、その行為は無権代理行為とみなされ、会社に効果が帰属しないことになります(会社が追認しない限り無効。民法113条1項参照)。
4-3 表見代表取締役
4-3-1 制度の趣旨と要件
会社は、代表取締役以外の取締役に、社長、副社長その他会社を代表する権限を有するものと認められる名称を付した場合、その取締役がした行為について、善意の第三者に対して責任を負います(354条)。
これを表見代表取締役の制度といいます。
代表権の有無は登記によって公示されるのが建前ですが、取引のたびに登記を確認することは商取引の迅速性に反します。
そこで、虚偽の外観の作出に帰責性のある会社の犠牲の下、外観を信頼した第三者を保護する趣旨(権利外観法理)で設けられた規定です。
要件は、(一)会社を代表する権限を有するものと認められる名称が存在すること、(二)会社がその名称の使用を認めた(付与した)こと、(三)第三者がその外観を信頼したこと、の三点に整理できます。
4-3-2 第三者の主観的要件
(三)の第三者の主観について、条文上は「善意」とのみ規定されていますが、判例は、旧商法262条(現在の354条に相当)に関し、「同条は第三者の正当な信頼を保護しようとするものであるから、代表権の欠缺を知らないことにつき第三者に重大な過失があるときは、悪意の場合と同視し、会社はその責任を免れるものと解するのが相当」としています(最判昭和52年10月14日民集31巻6号825頁)。
すなわち、第三者は善意かつ無重過失であることを要し、軽過失があるにとどまる場合は保護されます。
4-3-3 取締役でない者への類推適用
354条は「取締役」に名称を付した場合の規定ですが、判例は、旧商法下において、取締役でない使用人に代表権限を有すると認められる名称の使用を会社が認めていた事案でも、同条の前身規定(旧商法262条)の類推適用を認めています(最判昭和35年10月14日民集14巻12号2499頁)。
外観への帰責と第三者の信頼という同条の趣旨は、名称を付された者が取締役でない場合にも妥当するからです。
以上の、代表取締役の取引の効力をめぐる場面を整理すると、以下のとおりです。
|
場面 |
処理(根拠) |
第三者保護の要件 |
|
内部規程等による代表権の制限に違反した取引 |
制限を第三者に対抗できない(349条5項) |
善意 |
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代表権の濫用(自己・第三者の利益目的) |
無権代理行為とみなされる(民法107条) |
濫用目的につき善意・無過失 |
|
代表権のない者が代表名称を使用した取引 |
会社が責任を負う(354条。非取締役には類推適用) |
善意・無重過失 |
なお、取締役会設置会社において、取締役会決議を要する事項(362条4項)につき決議を経ずに代表取締役が行った取引の効力(いわゆる専断的行為)については、取締役会を扱う次回の記事で解説します。
第5章 試験答案の構成方法
5-1 解任の「正当な理由」が問題となる事案
取締役が解任され、会社に対して損害賠償を請求する事案では、以下の流れで答案を構成することが考えられます。
【答案構成の流れ】
- 問題提起:解任された取締役は、会社に対し339条2項に基づく損害賠償を請求できるか。「正当な理由」の有無が問題となる
- 規範定立:339条2項は、株主による解任の自由と取締役の任期への期待の調和を図る規定である。そこで「正当な理由」とは、職務執行上の法令・定款違反行為、心身の故障、職務への著しい不適任など、職務の執行に障害となるべき客観的な事情があることをいう
- あてはめ:本件の解任理由(非行の有無、健康状態、職務遂行能力等)が、客観的な障害事由といえるかを具体的に検討する。単なる経営方針の対立や感情的な不和にとどまる場合は、正当な理由は認められにくい
- 結論:正当な理由の有無を結論づけ、認められない場合には残存任期中の報酬相当額等の損害賠償請求を肯定する
5-2 代表取締役の行為の効力が問題となる事案
代表取締役(またはその名称を使用する者)が行った取引の効力が争われる事案では、まず行為者が有効に選定された代表取締役かを確認したうえで、瑕疵の所在に応じて適用法条を選択します。
【答案構成の流れ】
- 問題提起:本件取引の効力は会社に帰属するか
- 行為者の地位の確認:行為者は代表権を有するか(選定の有無・有効性)。代表権がない場合は表見代表取締役(354条)の適用・類推適用を検討する
- 代表権がある場合:取引は包括的代表権(349条4項)の範囲内か。内部的制限があれば349条5項により善意の第三者に対抗できないことを指摘する
- 濫用の検討:自己または第三者の利益を図る目的があれば、民法107条により、相手方の悪意・有過失を検討する
- 結論:取引の効力の会社への帰属の有無を結論づける
まとめ
取締役・代表取締役について、本記事では以下の点を解説しました。
- 会社と取締役の関係は委任であり(330条)、取締役は善管注意義務(民法644条)・忠実義務(355条)を負う
- 取締役は株主総会の普通決議で選任され(329条1項)、定足数は三分の一未満に引き下げられない(341条)
- 員数を欠く場合、任期満了・辞任により退任した取締役は権利義務取締役となり(346条1項)、これに対する解任の訴え(854条)の適用・類推適用は認められない(最判平成20年2月26日)
- 株主総会はいつでも取締役を解任できるが(339条1項)、「正当な理由」のない解任については損害賠償責任を負う(339条2項)。職務執行上の非行や心身の故障(最判昭和57年1月21日)などの客観的事情が正当な理由にあたる
- 取締役会設置会社では取締役会が代表取締役を選定・解職するが(362条2項3号・3項)、非公開会社では、取締役会の決議によるほか株主総会の決議によっても選定できる旨の定款の定めは有効である(最決平成29年2月21日)
- 代表取締役は包括的代表権を有し(349条4項)、これに加えた制限は善意の第三者に対抗できない(349条5項)
- 代表権の濫用には民法107条が適用され、相手方が濫用目的につき悪意・有過失の場合、行為は無権代理とみなされる
- 代表権を有すると認められる名称が付された者の行為について、会社は善意・無重過失の第三者に対して責任を負う(354条。最判昭和52年10月14日)
▼ 会社法入門シリーズ
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