【会社法入門4】株券・株主名簿とは?譲渡対抗要件と名義書換を整理
目次
この記事を読んで理解できること
- 株券制度の概観
- 株券の効力と譲渡
- 株主名簿の機能
- 名義書換をめぐる論点
- 試験答案の構成方法
「現代では株券を発行しない会社が多いと聞くが、株券は何のためにあるの?」
「株式を譲り受けたら、なぜ株主名簿の名義書換が必要なの?」
「会社が名義書換を不当に拒絶した場合、譲受人はどうすればよいの?」
会社法を学ぶ中で、こうした疑問を持った方は多いのではないでしょうか。
株式の譲渡が円滑に行われるためには、株式の権利関係を明らかにする仕組みが不可欠です。
会社法はそのために、(一)有体物としての「株券」、(二)会社が備え置く「株主名簿」、(三)上場会社における「振替制度」という三つの仕組みを用意しています。
もっとも、平成16年改正(株券不発行制度の創設)以降、株券は原則として発行されなくなり、現在では会社が定款で定めた場合にのみ発行することになっています(会社法214条)。
これに対し、株主名簿は全ての株式会社が必ず作成・備置するもので、会社と株主との関係を画する基本的な制度として機能しています(121条以下)。
本記事では、株券と株主名簿の制度を概観したうえで、名義書換をめぐる重要論点(不当拒絶、名義書換未了、株式分割の場合の処理、株式の準共有)を、判例の到達点を踏まえて解説します。
この記事で学べること
- 【初級】株券発行会社と株券不発行会社の区別
- 【初中級】株券の効力発生時期と譲渡方法
- 【中級】株主名簿の機能と名義書換の意義
- 【中級】不当な名義書換拒絶への対処
- 【中上級】名義書換未了株主と株式分割の場合の処理
- 【中上級】株式の準共有における権利行使者の決定
第1章 株券制度の概観
1-1 株券の意義
株券とは、株式を表象する有価証券をいいます。
会社法は、平成16年改正以前は株券発行を原則としていましたが、現在では株券を発行しないことが原則とされ、定款で株券を発行する旨を定めた会社(株券発行会社)のみが株券を発行することになっています(214条)。
これは、上場会社における振替制度の普及や、中小企業における事務負担の軽減といった実務の実情を踏まえた制度改正です。
1-2 株券発行会社と株券不発行会社
会社は、定款で株券を発行する旨を定めることができます(214条)。
この定めがある会社が「株券発行会社」(117条7項)、それ以外の会社が「株券不発行会社」(通称)と呼ばれます。両者では、株式の譲渡方法や権利行使の要件が異なるため、まずこの区別を確認することが重要です。
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区分 |
概要 |
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株券発行会社 |
定款で株券を発行する旨を定めた会社(214条)。株券の交付が譲渡の効力要件(128条1項)。会社への対抗には名義書換要(130条2項) |
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株券不発行会社 |
定款で株券を発行する旨の定めがない会社。譲渡は意思表示のみで成立。会社・第三者への対抗には名義書換要(130条1項) |
第2章 株券の効力と譲渡
2-1 株券の効力発生時期
株券は、いつから法律上の「株券」としての効力を生じるかが問題となります。
判例は、株券は、会社がこれを作成し、株主に交付した時点で法律上の株券として成立するとしています。
したがって、会社が株券を作成しただけでは、まだ「株券」とはいえず、株主への交付があって初めて株券として効力を生じます。
たとえば、作成後・交付前に株券が盗まれたような場合、その紙片は法律上の株券ではなく、ただの紙にすぎません。
窃盗犯から善意取得しようとしても、株券がそもそも成立していないため、善意取得の余地もありません。
2-2 株券発行前の譲渡
会社法128条2項は、株券発行会社における株券発行前の株式の譲渡は、会社に対しては効力を生じないと定めています。
これは、株券の交付を譲渡の効力要件とする128条1項の規律に対応するものです。
もっとも、当事者間では譲渡は有効です。
また、会社が不当に株券発行を遅滞しているような場合には、会社はもはや128条2項による事務処理上の便宜を享受するに値しないため、信義則上、会社との関係でも譲渡の効力を認めるべきと解されています(最大判昭和47年11月8日民集26巻9号1489頁)。
2-3 株券の譲渡方法
株券発行会社では、株式の譲渡は株券の交付によって効力を生じます(128条1項)。
さらに、譲渡を会社に対抗するためには株主名簿の名義書換が必要であり(130条2項)、第三者に対抗するためには株券の占有で足ります。
株券の占有者は適法な権利者と推定されるため(131条1項)、譲受人は株券を呈示することにより、単独で名義書換を請求することができます(133条2項、規則22条2項1号)。
これに対し、株券不発行会社では譲受人と譲渡人(名義株主)が共同して名義書換請求を行うのが原則です。
第3章 株主名簿の機能
3-1 株主名簿の意義
株主名簿とは、株主の氏名・住所、保有株式数等を記載した帳簿であり、株式会社が必ず作成・備置しなければなりません(121条、125条1項)。株主名簿は、会社が「誰を株主として扱うべきか」を画一的に判断するための基本的な記録として機能します。
株主や会社債権者は、株主名簿の閲覧・謄写を請求することができます(125条2項)。
ただし、権利の確保・行使以外の目的、業務妨害目的、株主の共同利益を害する目的などの一定の事由がある場合には、会社は閲覧を拒絶できます(125条3項)。
3-2 名義書換の機能
名義書換とは、株式の譲渡があった場合に、株主名簿の記載を譲受人に書き換える手続をいいます。
名義書換は、譲渡を会社に対抗するための要件(対抗要件)であり、株券不発行会社ではさらに第三者に対する対抗要件も兼ねます(130条1項)。
株主名簿制度の趣旨は、集団的法律関係を画一的に処理するという会社の事務処理上の便宜を図る点にあります。
会社は、株主名簿上の株主に対して通知や配当の支払を行えば足り、真の株主が誰であるかを個別に調査する必要がないとされています。
これにより、会社は株主名簿に記載された者を株主として扱うことで原則として免責されるという免責的効力が認められます。
3-3 名義書換の手続
名義書換は、株式取得者が会社に対して請求することによって行います(133条1項)。
請求の方法は株券発行会社と株券不発行会社で異なります。
株券発行会社では、株券の占有者は適法な権利者と推定されるため(131条1項)、譲受人は株券を呈示することによって単独で名義書換を請求できます(133条2項、規則22条2項1号)。
これに対し、株券不発行会社では、譲受人と譲渡人(名義株主)が共同して名義書換を請求するのが原則です(133条2項)。これは、虚偽の譲受人の出現を防止する趣旨です。
3-4 株主名簿の閲覧拒絶事由
株主は、株主名簿の閲覧・謄写を請求することができますが(125条2項)、会社は一定の事由がある場合には閲覧を拒絶することができます(同条3項)。
これは、閲覧請求権の濫用を防止するための規律です。
拒絶事由のうち、「権利の確保・行使以外の目的」(125条3項1号)は、会社法上の権利でなくとも「権利」に該当しうるため、たとえば損害賠償請求のための閲覧請求も「権利」に該当する可能性があります。
第4章 名義書換をめぐる論点
4-1 不当な名義書換拒絶
会社が、正当な理由なく名義書換を拒絶した場合、譲受人はどのような地位に立つかが問題となります。
最判昭和41年7月28日民集20巻6号1251頁は、正当な理由なく株式の名義書換請求を拒絶した会社は、書換えのないことを理由として譲渡を否認することはできないと判示しました。
さらに、この考え方は、会社が過失によって名義書換を拒絶した場合にも妥当すると判示されています。
譲受人としては、会社に対し、名義書換なしに株主としての地位を主張し、議決権の行使、配当の請求、株主としての各種訴訟提起などを行うことができます。
4-2 名義書換未了株主の地位
譲渡があったが、まだ名義書換が完了していない場合、譲受人と名義株主のいずれを株主として扱うかが問題となります。
130条の趣旨が会社の事務処理上の便宜を図る点にあることから、会社は、自己の危険において、名義書換未了の譲受人を株主として扱うこと(会社からの追認)が認められると解されています。
会社が便宜を放棄することは自由だからです。
ただし、株主平等原則(109条1項)から、会社は恣意的に特定の名義書換未了の譲受人だけを株主として扱うことは許されず、すべての名義書換未了株主に対して同様の取扱いを行わなければなりません。
また、譲渡人と譲受人の双方について、株主としての権利行使を会社が認めないということもできません。
これは、会社の恣意により権利行使の空白が生じてしまうため、譲渡人または譲受人のいずれかには権利行使を認める必要があるからです。
4-3 名義書換未了の間に株式分割等が行われた場合
名義書換が完了する前に、剰余金の配当、株式分割、株主割当による募集株式の発行などが行われた場合、誰が当該権利を取得するかが問題となります。
4-3-1 株式分割の場合
最判平成19年3月8日民集61巻2号479頁は、株式分割が行われた場合、名義書換未了の譲受人は、譲渡人(名義株主)に対し、不当利得として、分割により交付された株式(または分割後の株式を売却した場合の代金)の返還を請求することができると判示しました。
理由は、譲渡当事者間では譲渡が有効である以上、株式分割により株式数が増加した場合、増加分は本来譲受人に帰属すべきものであるところ、形式上は名義株主が分割株式を取得することとなるため、譲受人と譲渡人との間で実体と形式に齟齬が生じます。
これを調整するため、譲受人から譲渡人への不当利得返還請求が認められるという考え方です。
4-3-2 剰余金配当・株主割当の場合
剰余金配当の場合も、同様に当事者間では譲渡が有効である以上、株主たるべき譲受人は、配当金について不当利得返還請求を譲渡人に対して行うことができます(最判昭和37年4月20日民集16巻4号860頁)。
これに対し、有償の株主割当による募集株式の発行の場合は、譲渡人自身が払込みを行って株式を取得しているため、株式そのものの引渡請求は認められません(最判昭和35年9月15日民集14巻11号2146頁)。
もっとも、発行時点での株式の時価と払込金額との差額(いわゆる払込価額との差額)については、譲渡人の利得として、不当利得返還請求が認められるという見解もあります。
4-4 株式の準共有
株式の相続や、複数人による共同出資により、株式が複数人に共有(準共有)されることがあります。
この場合の権利行使の方法が問題となります。
会社法106条本文は、株式が共有に属する場合、共有者は権利行使者を一人定めて会社に通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができないとしています。
これは、会社の事務処理上の便宜を図る趣旨です。
4-4-1 権利行使の方法
最判平成27年2月19日民集69巻1号25頁は、共有株式の権利行使に関し、(一)会社法106条本文は民法の共有規定に対する「特別の定め」であり、(二)同条但書による会社の同意は同条本文の適用を排除するものであるとしたうえで、共有株式についての議決権の行使は、議決権行使をもって直ちに株式を処分し又は内容を変更することになるなどの特段の事情がない限り、株式の管理に関する行為として、民法252条本文により、各共有者の持分の価格に従いその過半数で決せられるべきと判示しました。
したがって、権利行使者の指定・通知を欠いたまま行われた共有株式の議決権行使については、会社が会社法106条但書に基づいて同意したとしても、民法の共有規定(過半数決定)に従った行使でなければ適法とはなりません。
仮に全員一致を要するとすると、共有者間で意見が一致しない場合に権利行使が不可能となり会社運営に支障を来す一方、過半数を下回る共有者の独断による行使を許せば他の共有者の利益を害することになるため、過半数で決定するという解釈が合理的とされています。
4-4-2 権利行使者を定めなかった場合
権利行使者を定めて会社に通知しなかった場合、原則として共有者は権利行使ができません(106条本文)。
もっとも、判例(最判平成2年12月4日民集44巻9号1165頁)は、信義則に反する「特段の事情」があれば、権利行使者を定めていなくとも権利行使が可能となるとしています。
具体的には、株式のすべてが相続によって準共有となり、権利行使者が定められていない状態で、会社が「株主総会決議は有効である」と主張する一方で「権利行使者が定まっていないから取消訴訟はできない」と主張するような、矛盾した主張をする場合などが「特段の事情」に該当するとされます。
このような対応は、株主総会の瑕疵を自認し、本案における自己の立場を否定するものにほかならず、信義則に反するためです。
4-5 基準日制度
会社は、一定の日(基準日)を定め、その日における株主名簿上の株主を、株主としての権利行使を認めるべき者と扱うことができます(124条1項)。
これは、株主が頻繁に変動する状況にあっても、画一的に権利行使者を確定するための制度です。
基準日後に株式を譲渡した場合、原則として基準日株主が権利行使者となり、譲受人はその権利を行使できません。
これは、基準日制度が会社の事務処理上の便宜を図る趣旨だからです。
もっとも、会社は、基準日株主の権利を害さない場合には、基準日後に株主となった者にも議決権を行使させることができます(124条4項)。
たとえば、基準日後に募集株式の発行や合併によって新たに株主となった者については、もともと基準日には株主が存在しないため、議決権を認めることが認められます。
これに対し、基準日後に株式譲渡によって株主となった者に議決権を認めると、譲渡人(基準日株主)の権利を害することになるため許されません(同項但書)。
第5章 試験答案の構成方法
5-1 名義書換不当拒絶の答案構成
名義書換が不当に拒絶された事案では、以下の流れで答案を構成することが考えられます。
【答案構成の流れ】
- 問題提起:譲受人は、名義書換未了であっても会社に対し株主としての地位を主張できるか
- 規範定立:130条の趣旨は、集団的法律関係の画一的処理という会社の事務処理上の便宜を図る点にある
- 判断基準:そうだとすれば、会社が不当に名義書換を拒絶している場合には、会社は信義則上、上記の便宜を受けるに値しないため、譲受人は名義書換なしに株主であることを会社に対抗することができる(最判昭和41年7月28日)
- あてはめ:本件における会社の名義書換拒絶が「不当」といえるかを、拒絶事由の正当性、会社の認識(故意・過失)等の観点から具体的に検討する
- ・結論:譲受人が株主としての地位を主張できるか否かを結論づける
まとめ
株券・株主名簿について、本記事では以下の点を解説しました。
- 会社は、定款の定めがある場合のみ株券を発行する(214条)。株券発行会社では株券交付が譲渡の効力要件(128条1項)、株券不発行会社では意思表示のみで譲渡の効力が生じる
- 株券は、会社が作成し株主に交付した時点で法律上の株券として成立する
- 株券発行前の譲渡は会社との関係では無効だが、当事者間では有効。会社が不当に発行を遅滞している場合は信義則上会社との関係でも有効となる(最大判昭和47年11月8日)
- 株主名簿は会社が必ず備置する基本帳簿であり(121条、125条)、名義書換は譲渡の対抗要件(130条)
- 会社が不当に名義書換を拒絶した場合、譲受人は信義則上名義書換なしに株主の地位を会社に対抗できる(最判昭和41年7月28日)
- 名義書換未了の間の株式分割については、譲受人は譲渡人に対し売却代金相当額の不当利得返還請求が認められる(最判平成19年3月8日)
- 株式の準共有における議決権行使は、特段の事情がない限り民法252条本文の管理行為として共有持分の過半数で決定する(最判平成27年2月19日)。権利行使者が定まらない場合でも、信義則に反する特段の事情があれば権利行使ができる(最判平成2年12月4日)


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