【憲法入門21】参政権① 選挙権・被選挙権とは?在外邦人選挙権事件から解説
目次
この記事を読んで理解できること
- 参政権とは
- 選挙権の制限はどのように審査されるのか
- 被選挙権と立候補の自由
この記事は、
- 参政権とはどのような権利かを知りたい
- 在外邦人選挙権事件の判断枠組みを知りたい
- 立候補の自由について知りたい
といった方におすすめです。
前回までは、人身の自由について解説しました。
今回からは、2回にわたって参政権について解説します。
参政権は、国民が政治に参加するための権利であり、民主主義の根幹をなす重要な権利です。
もっとも、選挙制度の具体的な内容は法律で定められるため、「国会の裁量が広い」のか、それとも「厳しく審査される」のかがわかりにくい分野でもあります。
実は、参政権の判例は、
- 選挙権を行使できない人をなくすという権利の問題
- どのような選挙制度を作るかという制度の問題
の2つに分けて考えると、すっきり整理することができます。
そこで今回は、前者の「権利の問題」として、選挙権の制限と被選挙権(立候補の自由)について解説します。
投票価値の平等(一票の格差)や選挙運動の自由については、次回の記事で解説します。
具体的には、
第1章で参政権とは何かについて、
第2章で選挙権の制限の審査について、
第3章で被選挙権と立候補の自由について、
それぞれ解説します。
基礎知識をわかりやすく簡潔に説明しますので、初学者の方はもちろん、憲法をひと通り学んだ方のまとめ用にも最適です。
第1章 参政権とは
1-1 憲法15条の内容
まずは条文を読んでみましょう。
憲法
第十五条 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
② すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
③ 公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
④ すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。
選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。
参政権とは、国民が国の政治に参加する権利のことです。
その中心となるのが、選挙で代表者を選ぶ選挙権と、選挙に立候補して代表者に選ばれる被選挙権です。
このほか、最高裁判所裁判官の国民審査(79条2項)や憲法改正の国民投票(96条1項)なども、国民が直接政治に参加する権利として憲法に定められています。
憲法は、前文と1条で国民主権を宣言し、43条1項で国会の両議院は「全国民を代表する選挙された議員」で組織すると定めています。
国民主権の下では、国民は選挙を通じて代表者を選び、代表者を通じて政治を行うことになります。
そのため、選挙権は、国民主権を実現するための最も基本的な権利といえます。
1-2 参政権の2つの側面
一方で、憲法は、選挙に関する事項は法律で定めると規定しています。
憲法
第四十七条 選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。
つまり、選挙権は、選挙制度という法律による「仕組み」がなければ行使できない権利でもあるのです。
このため、参政権の問題を考えるときは、以下の2つの側面を区別することが大切です。
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・権利の問題 →そもそも選挙権を行使できない人がいる(選挙権の剥奪・制限) →厳しく審査される(本記事) ・制度の問題 →選挙権は行使できるが、選挙制度の内容が問題となる(一票の格差、選挙運動の規制など) →国会の裁量が広く認められやすい(次回の記事) |
第2章 選挙権の制限はどのように審査されるのか
2-1 在外邦人選挙権事件
選挙権の制限についてのリーディングケースが、在外邦人選挙権事件(最大判平成17年9月14日)です。
■事案
外国に住んでいる日本国民(在外国民)は、日本の市町村に住所がないため、選挙人名簿に登録されず、国政選挙で投票することができませんでした。
その後、平成10年の公職選挙法改正で在外選挙制度が設けられましたが、当分の間、比例代表選挙に限るとされ、衆議院の小選挙区選挙や参議院の選挙区選挙では投票できないままでした。
そこで、在外国民らが、選挙権を行使できる地位にあることの確認や、国家賠償を求めて訴えたのです。
■判旨
最高裁は、まず、選挙権の重要性について以下のとおり判示しました。
「国民の代表者である議員を選挙によって選定する国民の権利は、国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利として、議会制民主主義の根幹を成すものであり、民主国家においては、一定の年齢に達した国民のすべてに平等に与えられるべきものである。」
その上で、選挙権の制限について、以下のとおり判示しました。
「自ら選挙の公正を害する行為をした者等の選挙権について一定の制限をすることは別として、国民の選挙権又はその行使を制限することは原則として許されず、国民の選挙権又はその行使を制限するためには、そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならないというべきである。
そして、そのような制限をすることなしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合でない限り、上記のやむを得ない事由があるとはいえず」
つまり、選挙権の制限は原則として許されず、制限しなければ選挙の公正を確保できないような「事実上不能ないし著しく困難」な場合でない限り、違憲になるということです。
最高裁は、このことは、国が選挙権の行使を可能にするための措置を執らないという不作為によって選挙権を行使できない場合も同様であるとしました。
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選挙権の制限の審査(在外邦人選挙権事件) ・選挙権の制限は原則として許されない ・制限するには「やむを得ないと認められる事由」が必要 ・「やむを得ない事由」があるといえるのは、制限しなければ選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが「事実上不能ないし著しく困難」な場合に限られる →非常に厳しい審査 |
そして、最高裁は、昭和59年に在外選挙制度を創設する法律案が国会に提出されながら廃案となり、その後10年以上何の措置も執られなかったことなどから、在外国民の選挙権の行使を制限していたことは違憲であるとしました。
また、比例代表選挙に限定していた点についても、遅くとも判決後に初めて行われる国政選挙の時点では、やむを得ない事由があるとはいえず違憲であるとして、次回の選挙で投票できる地位にあることを確認しました。
さらに、国会が長期間にわたって立法措置を執らなかったことは、国家賠償法上も違法であるとして、原告らに慰謝料の支払を命じました。
立法不作為を理由とする国家賠償が最高裁で認められた例として、この点も重要です。
2-2 在外国民審査事件
在外邦人選挙権事件の考え方は、最高裁判所裁判官の国民審査にも及ぼされました。
それが、在外国民審査事件(最大判令和4年5月25日)です。
■事案
最高裁判所裁判官国民審査法は、在外国民が国民審査で投票(審査権の行使)をする方法を定めていませんでした。
そこで、在外国民らが、次回の国民審査で審査権を行使させないことが違法であることの確認や、国家賠償を求めて訴えたのです。
■判旨
最高裁は、審査権は、国民主権の原理に基づき憲法に明記された主権者の権能の一内容である点で選挙権と同様の性質を持つとして、以下のとおり判示しました。
「憲法の以上の趣旨に鑑みれば、国民の審査権又はその行使を制限することは原則として許されず、審査権又はその行使を制限するためには、そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならないというべきである。」
その上で、在外国民による国民審査には投票用紙の作成や送付などの技術的な困難はあるものの、在外選挙制度の下で現に国政選挙が実施されていることなどから、在外審査制度を作ること自体に特段の制度的な制約があるとはいい難いとしました。
そして、国民審査法が在外国民に審査権の行使を全く認めていないことは違憲であるとし、違法確認の請求と国家賠償の請求も認めました。
このように、選挙権や審査権のような、国民主権に基づく主権者の権利を行使できない状態にすることについては、最高裁は非常に厳しい審査をしているのです。
第3章 被選挙権と立候補の自由
3-1 三井美唄炭鉱労組事件
憲法には、選挙に立候補する権利(被選挙権、立候補の自由)を明示した規定はありません。
では、立候補の自由は憲法上の権利として保障されているのでしょうか?
これが問題となったのが、三井美唄炭鉱労組事件(最大判昭和43年12月4日)です。
■事案
炭鉱の労働組合が、市議会議員選挙で組合の統一候補を決めたところ、統一候補に選ばれなかった組合員が独自に立候補しようとしました。
組合は、この組合員に立候補を取りやめるよう求め、従わなかったため、組合員としての権利を停止する処分をしました。
この処分をめぐって、組合の幹部らが公職選挙法違反(選挙の自由妨害)で起訴されたのです。
■判旨
最高裁は、立候補の自由について、以下のとおり判示しました。
「もし、被選挙権を有し、選挙に立候補しようとする者がその立候補について不当に制約を受けるようなことがあれば、そのことは、ひいては、選挙人の自由な意思の表明を阻害することとなり、自由かつ公正な選挙の本旨に反することとならざるを得ない。
この意味において、立候補の自由は、選挙権の自由な行使と表裏の関係にあり、自由かつ公正な選挙を維持するうえで、きわめて重要である。」
そして、立候補の自由は、憲法15条1項の趣旨に照らし、基本的人権の一つとして憲法が保障する重要な権利であるとしました。
その上で、労働組合が統一候補以外の組合員に立候補を思いとどまるよう勧告・説得することは許されるとしても、
「勧告または説得の域を超え、立候補を取りやめることを要求し、これに従わないことを理由に当該組合員を統制違反者として処分するがごときは、組合の統制権の限界を超えるものとして、違法といわなければならない。」
と判断しました。
つまり、選挙人が自由に代表者を選ぶためには、誰でも自由に立候補できることが前提となるので、立候補の自由も憲法15条1項で保障されるということです。
3-2 連座制
立候補の自由に対する制限として、試験でも問題となりやすいのが連座制です。
連座制とは、候補者の陣営の関係者が買収などの選挙犯罪を犯して刑に処せられた場合に、候補者自身が選挙犯罪に関わっていなくても、当選を無効とし、一定期間同じ選挙に立候補できなくする制度です。
最高裁(最判平成9年3月13日)は、組織的選挙運動管理者等にまで連座の対象を広げた公職選挙法の規定について、
「民主主義の根幹をなす公職選挙の公明、適正を厳粛に保持するという極めて重要な法益を実現するために定められたものであって、その立法目的は合理的である。」
とした上で、連座の適用範囲や立候補禁止の期間・対象となる選挙が限定されていることや、候補者が相当の注意を尽くせば連座を免れる道があることなどから、規制は目的を達成するための手段として必要かつ合理的であるとして、合憲と判断しました。
第4章 まとめ
参政権は、国民主権に基づき国民が政治に参加するための権利であり、議会制民主主義の根幹をなすものです。
参政権の問題は、「権利の問題」と「制度の問題」に分けて考えると整理しやすくなります。
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判例 |
問題となった点 |
判断 |
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在外邦人選挙権事件 |
在外国民の選挙権の行使の制限 |
やむを得ない事由がなく違憲。 立法不作為の国家賠償も認容 |
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在外国民審査事件 |
在外国民の審査権の行使の制限 |
同様の基準で違憲 |
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三井美唄炭鉱労組事件 |
労働組合による立候補の制約 |
立候補の自由は15条1項で保障。 立候補を理由とする処分は違法 |
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連座制合憲判決 |
連座制による立候補の制限 |
目的は合理的で、手段も必要かつ合理的として合憲 |
特に、選挙権や審査権をそもそも行使できないという「権利の問題」については、在外邦人選挙権事件の「やむを得ない事由」の基準による厳しい審査がされることをしっかり押さえておきましょう。
この記事では、初学者の方にもわかりやすいように、一般的な考え方をざっくりと解説しています。
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