【憲法入門20】人身の自由② 令状主義・迅速な裁判・自己負罪拒否特権など刑事手続上の権利を解説
目次
この記事を読んで理解できること
- 刑事手続上の権利の全体像
- 令状主義(憲法33条・35条)
- 迅速な裁判を受ける権利(高田事件)
- 自己負罪拒否特権(憲法38条1項)
- 残虐な刑罰の禁止と二重処罰の禁止
この記事は、
- 令状主義の意味を知りたい
- GPS捜査事件や高田事件の内容を知りたい
- 憲法が定める刑事手続上の権利を整理したい
といった方におすすめです。
前回は、人身の自由の中心となる憲法31条(適正手続)と、行政手続への適用について解説しました。
今回は、その続きとして、憲法33条以下が定める刑事手続上の権利について解説します。
刑事手続上の権利は、刑事訴訟法でも詳しく学ぶため、「憲法の答案では何を書けばよいのか」がわかりにくい分野です。
憲法の試験では、新しい捜査手法や行政上の制度が憲法の規定に反しないかという形で出題されることがあり、判例の考え方を押さえておくことが重要です。
そこで今回は、令状主義、迅速な裁判を受ける権利、自己負罪拒否特権、残虐な刑罰と二重処罰の禁止について、代表的な判例に沿って解説したいと思います。
具体的には、
第1章で刑事手続上の権利の全体像について、
第2章で令状主義について、
第3章で迅速な裁判を受ける権利について、
第4章で自己負罪拒否特権について、
第5章で残虐な刑罰の禁止と二重処罰の禁止について、
それぞれ解説します。
基礎知識をわかりやすく簡潔に説明しますので、初学者の方はもちろん、憲法をひと通り学んだ方のまとめ用にも最適です。
第1章 刑事手続上の権利の全体像
憲法は、刑事手続の流れに沿って、被疑者・被告人の権利を詳しく定めています。
|
段階 |
条文 |
内容 |
|
捜査 |
33条 |
逮捕には原則として令状が必要(令状主義) |
|
捜査 |
34条 |
抑留・拘禁の理由の告知、弁護人依頼権 |
|
捜査 |
35条 |
捜索・押収には原則として令状が必要(令状主義) |
|
捜査・公判 |
36条 |
拷問・残虐な刑罰の禁止 |
|
公判 |
37条 |
迅速な公開裁判、証人審問権・喚問権、弁護人依頼権 |
|
捜査・公判 |
38条 |
自己負罪拒否特権、自白法則・補強法則 |
|
判決後 |
39条 |
遡及処罰の禁止、二重の危険の禁止 |
いずれも、国家が刑罰権を行使する過程で、人身の自由が不当に侵害されないようにするための規定です。
以下、憲法の答案で特に重要なものを見ていきましょう。
第2章 令状主義(憲法33条・35条)
2-1 逮捕と令状主義(緊急逮捕)
まずは条文を読んでみましょう。
憲法
第三十三条 何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。
このように、33条は、逮捕するには、原則として裁判官が発する令状が必要であると定めています。
これを令状主義といいます。
令状主義の趣旨は、捜査機関による恣意的な身体拘束を防ぐため、裁判官という中立的な第三者に、逮捕の理由があるかどうかを事前にチェックさせることにあります。
33条が例外として明示しているのは現行犯逮捕だけです。
ところが、刑事訴訟法210条は、重大な犯罪について、急速を要し裁判官の逮捕状を求めることができないときは、令状なしに逮捕し、その後直ちに逮捕状を請求するという緊急逮捕を認めています。
そこで、緊急逮捕は33条に違反しないかが問題となりました。
最高裁(最大判昭和30年12月14日)は、緊急逮捕の要件を確認した上で、以下のとおり判示しました。
「かような厳格な制約の下に、罪状の重い一定の犯罪のみについて、緊急已むを得ない場合に限り、逮捕後直ちに裁判官の審査を受けて逮捕状の発行を求めることを条件とし、被疑者の逮捕を認めることは、憲法三三条規定の趣旨に反するものではない」
つまり、緊急逮捕は、対象となる犯罪が重いものに限られ、緊急やむを得ない場合に限定され、しかも逮捕後直ちに裁判官の審査を受けるという厳格な条件の下で認められているので、33条の趣旨に反しないということです。
2-2 捜索・押収と令状主義(GPS捜査事件)
35条は、住居や所持品などの捜索・押収についても、原則として令状が必要であると定めています(条文は前回の記事を参照してください)。
この35条の保障が、新しい捜査手法との関係で問題となったのが、GPS捜査事件(最大判平成29年3月15日)です。
■事案
警察は、連続窃盗事件の捜査のため、被告人らが使用する自動車などに、本人の承諾も裁判官の令状もなく、ひそかにGPS端末を取り付け、その位置情報を継続的に把握していました。
被告人は、このGPS捜査は令状なしに行われた違法な捜査であると主張しました。
■判旨
最高裁は、GPS捜査は、公道上だけでなく、プライバシーが強く保護されるべき場所も含めて、個人の行動を継続的、網羅的に把握することを必然的に伴うものであり、公道上の所在を肉眼で把握したりカメラで撮影したりするような手法とは異なり、公権力による私的領域への侵入を伴うものであるとしました。
その上で、以下のとおり判示しました。
「憲法35条は,「住居,書類及び所持品について,侵入,捜索及び押収を受けることのない権利」を規定しているところ,この規定の保障対象には,「住居,書類及び所持品」に限らずこれらに準ずる私的領域に「侵入」されることのない権利が含まれるものと解するのが相当である。」
そして、GPS捜査は、
「個人のプライバシーの侵害を可能とする機器をその所持品に秘かに装着することによって,合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法」
であるから、刑事訴訟法上、特別の根拠規定がなければ許されない強制の処分に当たり、令状がなければ行うことのできない処分であるとしました。
さらに、GPS捜査は、捜査の対象と関係のない行動まで過剰に把握するおそれがあることや、事前に令状を示すことが想定できないことなどから、現在の刑事訴訟法の令状で行うことには疑義があるとして、
「その特質に着目して憲法,刑訴法の諸原則に適合する立法的な措置が講じられることが望ましい。」
と述べました。
この判決は、35条の保障が、条文に書かれた「住居、書類及び所持品」に限られず、それに準ずる私的領域にも及ぶことを明らかにした点で重要です。
プライバシー権の記事とあわせて読むと、理解が深まると思います。
【憲法入門2】プライバシー権とは? 憲法13条の定義から具体的判例まで完全解説
第3章 迅速な裁判を受ける権利(高田事件)
憲法
第三十七条 すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
②③(略)
37条1項は、被告人が迅速な裁判を受ける権利を保障しています。
では、裁判が著しく遅れた場合、被告人はどのような救済を受けられるのでしょうか?
これが問題となったのが、高田事件(最大判昭和47年12月20日)です。
■事案
被告人らは、住居侵入などの罪で起訴されましたが、第一審の審理が、当初の弁護人側の要請で中断された後、15年余りにわたって全く行われないまま放置されていました。
その後、審理が再開されましたが、刑事訴訟法には、裁判の遅延を理由に審理を打ち切るという具体的な規定はありませんでした。
■判旨
最高裁は、以下のとおり判示しました。
「憲法三七条一項の保障する迅速な裁判をうける権利は、憲法の保障する基本的人権の一つであり、右条項は、単に迅速な裁判を一般的に保障するために必要な立法上および司法行政上の措置をとるべきことを要請するにとどまらず、さらに個々の刑事事件について、現実に右の保障に明らかに反し、審理の著しい遅延の結果、迅速な裁判をうける被告人の権利が害せられたと認められる異常な事態が生じた場合には、これに対処する具体的規定がなくても、もはや当該被告人に対する手続の続行を許さず、その審理を打ち切るという非常救済手段がとられるべきことをも認めている趣旨の規定であると解する。」
そして、本件は、迅速な裁判の保障に明らかに反した異常な事態に至っていたとして、免訴の判決で審理を打ち切りました。
この判決のポイントは、37条1項が単なる国の努力目標ではなく、具体的な規定がなくても、裁判所が直接救済を与えることができる権利であると認めた点です。
もっとも、「迅速な裁判」とは事件ごとに判断される相対的な概念であり、この判決のような救済が認められるのは、審理の著しい遅延によって被告人の利益が害されるような異常な事態に限られます。
第4章 自己負罪拒否特権(憲法38条1項)
憲法
第三十八条 何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
② 強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。
③ 何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。
38条1項は、自己に不利益な供述を強要されない権利(自己負罪拒否特権)を保障しています。
いわゆる黙秘権の根拠となる規定です。
前回の記事で解説したとおり、この保障は、刑事手続だけでなく、実質上、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有する行政手続にも及びます(川崎民商事件)。
では、法律で一定の事項の報告を義務付けることは、38条1項に反しないのでしょうか?
これが問題となったのが、交通事故の報告義務事件(最大判昭和37年5月2日)です。
■事案
当時の法令は、交通事故が起きた場合、運転者は、警察官に「事故の内容」などを報告しなければならないと定めていました。
交通事故を起こしたのに報告をしなかったとして起訴された被告人は、「事故の内容」には自分の刑事責任を問われるおそれのある事項も含まれるから、報告義務は自己に不利益な供述を強要するもので、38条1項に違反すると主張しました。
■判旨
最高裁は、まず、38条1項の意味について、
「何人も自己が刑事上の責任を問われる虞ある事項について供述を強要されないことを保障したもの」
であるとしました。
その上で、報告義務の対象となる「事故の内容」とは、
「その発生した日時、場所、死傷者の数及び負傷の程度並に物の損壊及びその程度等、交通事故の態様に関する事項を指すものと解すべきである。」
とし、刑事責任を問われるおそれのある事故の原因などまで報告する義務はないとして、報告義務は38条1項にいう自己に不利益な供述の強要に当たらないと判断しました。
このように、報告義務が38条1項に反するかどうかは、報告を義務付けられる内容に、刑事責任を問われるおそれのある事項が含まれているかが重要なポイントになります。
第5章 残虐な刑罰の禁止と二重処罰の禁止
5-1 死刑と残虐な刑罰
36条は、
「公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる。」
と定めています。
では、死刑は「残虐な刑罰」に当たるのでしょうか?
最高裁(最大判昭和23年3月12日)は、以下のとおり判示しました。
「刑罰としての死刑そのものが、一般に直ちに同条にいわゆる残虐な刑罰に該当するとは考えられない。
ただ死刑といえども、他の刑罰の場合におけると同様に、その執行の方法等がその時代と環境とにおいて人道上の見地から一般に残虐性を有するものと認められる場合には、勿論これを残虐な刑罰といわねばならぬから、将来若し死刑について火あぶり、はりつけ、さらし首、釜ゆでの刑のごとき残虐な執行方法を定める法律が制定されたとするならば、その法律こそは、まさに憲法第三十六条に違反するものというべきである。」
つまり、死刑そのものは残虐な刑罰に当たらないが、執行の方法が残虐であれば36条に違反するということです。
5-2 刑罰と追徴税の併科
39条は、「同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。」
と定め、二重処罰を禁止しています。
では、脱税をした者に、刑罰としての罰金と、行政上の制裁としての追徴税(現在の重加算税に当たるもの)の両方を科すことは、二重処罰に当たるのでしょうか?
最高裁(最大判昭和33年4月30日)は、刑罰としての罰金は脱税者の不正行為の反社会性に着目した制裁であるのに対し、追徴税は、申告納税制度の下で納税義務違反の発生を防止し、納税の実を挙げるための行政上の措置であって、両者は性質を異にするとして、以下のとおり判示しました。
「憲法三九条の規定は刑罰たる罰金と追徴税とを併科することを禁止する趣旨を含むものでないと解するのが相当である」
このように、判例は、刑罰と、行政上の制裁とは性質が異なるとして、両者を併せて科しても二重処罰には当たらないという立場をとっています。
第6章 まとめ
憲法は、33条以下で、刑事手続の各段階における被疑者・被告人の権利を詳しく定めています。
|
判例 |
条文 |
ポイント |
|
緊急逮捕事件 |
33条 |
厳格な要件の下、逮捕後直ちに裁判官の審査を受けるなら合憲 |
|
GPS捜査事件 |
35条 |
「住居、書類及び所持品」に準ずる私的領域にも保障が及ぶ。 GPS捜査は令状が必要な強制処分 |
|
高田事件 |
37条1項 |
具体的規定がなくても、異常な事態には審理を打ち切る(免訴) |
|
交通事故報告義務事件 |
38条1項 |
「事故の内容」は事故の態様に限られ、不利益供述の強要に当たらない |
|
死刑合憲判決 |
36条 |
死刑自体は残虐な刑罰ではないが、残虐な執行方法は違憲 |
|
追徴税併科事件 |
39条 |
刑罰と行政上の措置は性質が異なり、併科は二重処罰ではない |
憲法の答案では、新しい捜査手法や行政上の制度が問題となったときに、条文の文言だけでなく、その規定の趣旨(恣意的な身体拘束やプライバシー侵害の防止、被告人の防御の利益の保護など)に立ち返って検討することが大切です。
この記事では、初学者の方にもわかりやすいように、一般的な考え方をざっくりと解説しています。
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