【憲法入門19】人身の自由① 適正手続(憲法31条)と行政手続への適用を判例から解説

監修者
講師 赤坂けい
株式会社ヨビワン
講師 赤坂けい
【憲法入門19】人身の自由① 適正手続(憲法31条)と行政手続への適用を判例から解説
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チェック
この記事を読んで理解できること
  • 人身の自由とは
  • 憲法31条が保障するもの
  • 行政手続と人身の自由

この記事は、

  • 人身の自由の全体像を知りたい
  • 憲法31条(適正手続)の意味を知りたい
  • 行政手続にも憲法31条以下が適用されるのかを知りたい

といった方におすすめです。

前回は、社会権の代表である生存権について解説しました。

今回からは、2回にわたって人身の自由について解説します。

人身の自由に関する規定は、憲法31条から40条までと条文の数が多く、刑事訴訟法とも深く関係しているため、どこから手を付ければよいかわからないという人も多いのではないでしょうか。

しかし、憲法の答案で問われやすいポイントは、実はそれほど多くありません。

そこで今回は、人身の自由の中心となる憲法31条(適正手続)と、それが行政手続にも適用されるのかという問題について、判例に沿って丁寧に解説したいと思います。

令状主義や迅速な裁判などの刑事手続上の権利については、次回の記事で解説します。

具体的には、

第1章で人身の自由の全体像について、

第2章で憲法31条が保障するものについて、

第3章で行政手続と人身の自由について、

それぞれ解説します。

基礎知識をわかりやすく簡潔に説明しますので、初学者の方はもちろん、憲法をひと通り学んだ方のまとめ用にも最適です。

第1章 人身の自由とは

人身の自由とは、不当に身体を拘束されたり、刑罰を科されたりしない自由のことです。

歴史的に、国家権力は、不当な逮捕や拷問、恣意的な刑罰によって、人々の身体の自由を侵害してきました。

身体の自由が保障されていなければ、表現の自由や職業選択の自由など、他の自由も現実的に行使できません。

そのため、人身の自由は、あらゆる自由の前提となる重要な権利とされています。

日本国憲法は、明治憲法の下で捜査機関による人身の自由の過酷な制限があったことへの反省から、人身の自由について非常に詳しい規定を置いています。

条文

内容

18条

奴隷的拘束・苦役からの自由

31条

適正手続の保障

33条

逮捕に対する令状主義

34条

抑留・拘禁に対する保障(理由の告知、弁護人依頼権)

35条

住居・所持品等の捜索・押収に対する令状主義

36条

拷問・残虐な刑罰の禁止

37条

刑事被告人の権利(迅速な公開裁判、証人審問権、弁護人依頼権)

38条

自己負罪拒否特権、自白法則

39条

遡及処罰の禁止、二重の危険の禁止

このうち、31条は人身の自由全体の基本となる規定で、33条以下は刑事手続の各場面における具体的な権利を定めたものです。

今回は、この31条を中心に見ていきましょう。

第2章 憲法31条が保障するもの

2-1 憲法31条の4つの内容

まずは条文を読んでみましょう。

憲法

第三十一条 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。

条文を素直に読むと、刑罰を科すには「手続」が「法律」で定められていればよい、という意味にとどまるようにも見えます。

しかし、手続が法律で定められていても、その内容が不公正であったり、何が犯罪になるのかが法律で決められていなかったりすれば、人身の自由は守れません。

そこで、通説は、31条は以下の4つを保障していると考えています。

①手続の法定

→刑罰を科す手続が法律で定められていること

②手続の適正

→その手続の内容が適正であること(告知と聴聞など)

③実体の法定

→どのような行為が犯罪となり、どのような刑罰が科されるかが法律で定められていること(罪刑法定主義)

④実体の適正

→法律で定められた犯罪と刑罰の内容が適正であること(罪刑の均衡など)

以下では、②手続の適正と④実体の適正について、代表的な判例を見ていきます。

2-2 告知と聴聞(第三者所有物没収事件)

手続の適正の中心となるのが、告知と聴聞を受ける権利です。

これは、公権力が国民に刑罰などの不利益を科す場合には、あらかじめその内容を知らせ(告知)、弁解や防御の機会を与えなければ(聴聞)ならないというものです。

この点が問題となったのが、第三者所有物没収事件(最大判昭和37年11月28日)です。

■事案

被告人は、貨物を密輸出しようとしたとして関税法違反で有罪となり、付加刑として、その貨物の没収を言い渡されました。

ところが、没収された貨物の中には、被告人ではない第三者が所有する貨物も含まれていました。

当時の関税法は、犯罪に関係する貨物は、誰の所有であるかを問わず没収できると定めていましたが、所有者である第三者に告知や弁解の機会を与える手続は、どの法令にも定められていませんでした。

■判旨

最高裁は、以下のとおり判示しました。

「第三者の所有物を没収する場合において、その没収に関して当該所有者に対し、何ら告知、弁解、防禦の機会を与えることなく、その所有権を奪うことは、著しく不合理であつて、憲法の容認しないところであるといわなければならない。」

そして、第三者の所有物の没収は、被告人に対する刑事処分の効果が第三者に及ぶものであるから、その第三者にも告知、弁解、防御の機会を与えることが必要であり、これなくして没収することは、

「適正な法律手続によらないで、財産権を侵害する制裁を科するに外ならないからである。」

として、関税法の規定によって第三者の所有物を没収することは、憲法31条、29条に違反すると判断しました。

この判決は、31条が単に手続を法律で定めることだけでなく、手続の内容が適正であることまで求めていることを明らかにしたものとして重要です。

なお、この判決では、自分の物ではなく第三者の物の没収について、被告人が違憲を主張できるかも問題となりましたが、最高裁は、被告人も没収によって占有を奪われるなどの利害関係があるとして、これを認めています。

2-3 刑罰法規の明確性と内容の適正

次に、実体の適正について見ていきましょう。

刑罰法規の文言があいまいで、何が禁止されているのかがわからなければ、国民は自分の行為が処罰されるかどうかを予測できません。

また、捜査機関が恣意的に処罰範囲を決めることもできてしまいます。

そのため、刑罰法規は明確でなければならず、あいまい不明確な刑罰法規は31条に違反すると考えられています。

明確性の判断基準については、徳島市公安条例事件(最大判昭和50年9月10日)が、刑罰法規があいまい不明確のゆえに31条に違反するかどうかは、

「通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読みとれるかどうか」

によって決めるべきであるとしています。

この判決については、集会の自由の記事で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。

【憲法入門14】集会の自由② 集団行動と公安条例について解説

明確性とあわせて、処罰の範囲が広すぎることも問題となります。

これが問題となったのが、福岡県青少年保護育成条例事件(最大判昭和60年10月23日)です。

■事案

福岡県の条例は、「何人も、青少年に対し、淫行又はわいせつの行為をしてはならない。」

と定め、違反者に刑罰を科していました。

18歳未満の少女と性行為をしたとして起訴された被告人は、「淫行」という文言は不明確であり、真剣な交際に基づく性行為まで処罰対象とするのは広すぎると主張しました。

■判旨

最高裁は、「淫行」を広く青少年に対する性行為一般と解すると、婚約中の青少年との性行為など、社会通念上およそ処罰の対象と考え難いものまで含んでしまい広すぎるし、単に「反倫理的あるいは不純な性行為」と解するのでは不明確であるとしました。

その上で、「淫行」とは、

「青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいうものと解するのが相当である。」

と限定して解釈し、このように解釈すれば、処罰の範囲が不当に広すぎるとも不明確であるともいえないから、31条に違反しないと判断しました。

刑罰法規の実体の適正

・明確性

→通常の判断能力を有する一般人が、具体的な場合に適用されるかどうかを判断できる基準が読み取れるか(徳島市公安条例事件)

・処罰範囲の広さ

→処罰すべきでない行為まで含んでいないか(福岡県青少年保護育成条例事件)

→文言を限定して解釈することで合憲とされることがある(合憲限定解釈)

第3章 行政手続と人身の自由

31条は「刑罰を科せられない」と定めており、33条以下の規定も刑事手続を前提としています。

では、税務調査や営業停止命令のような行政手続には、これらの規定は適用されないのでしょうか?

行政手続であっても、国民の財産や自由に大きな不利益を与えることがあります。

そこで、行政手続にも31条以下の保障が及ぶのかが問題となります。

3-1 憲法31条と行政手続(成田新法事件)

31条と行政手続の関係について判断したのが、成田新法事件(最大判平成4年7月1日)です。

■事案

新東京国際空港(成田空港)の建設をめぐっては、激しい反対運動が行われ、過激な暴力行為も発生していました。

そこで制定された「成田新法」は、運輸大臣が、空港の周辺にある建物などの工作物が暴力主義的破壊活動者の集合などに使われるおそれがある場合に、その使用を禁止する命令を出せると定めていました。

しかし、この法律には、命令の相手方に対して事前に告知や弁解、防御の機会を与える規定がありませんでした。

そこで、使用禁止命令を受けた者が、この法律は31条に違反すると主張したのです。

■判旨

最高裁は、まず以下のとおり判示しました。

「憲法三一条の定める法定手続の保障は、直接には刑事手続に関するものであるが、行政手続については、それが刑事手続ではないとの理由のみで、そのすべてが当然に同条による保障の枠外にあると判断することは相当ではない。」

つまり、行政手続にも31条の保障が及ぶ場合があるということです。

その上で、行政手続は刑事手続と性質が異なり、行政目的に応じて多種多様であるから、

「行政処分の相手方に事前の告知、弁解、防御の機会を与えるかどうかは、行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等を総合較量して決定されるべきものであって、常に必ずそのような機会を与えることを必要とするものではないと解するのが相当である。」

としました。

そして、本件では、使用禁止命令によって制限されるのは工作物の一定の使い方にとどまる一方で、空港の設置・管理等の安全の確保は「高度かつ緊急の必要性を有するもの」であるとして、事前の告知・聴聞の規定がなくても31条の法意に反しないと判断しました。

行政手続で告知・聴聞の機会を与えるべきか

①制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度

②行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性

↓

これらを総合較量して判断する

3-2 憲法35条・38条と行政手続(川崎民商事件)

次に、令状主義を定める35条と、自己負罪拒否特権を定める38条1項が、行政手続に及ぶかが問題となったのが、川崎民商事件(最大判昭和47年11月22日)です。

憲法

第三十五条 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。

②(略)

第三十八条 何人も、自己に不利益な供述を強要されない。

②③(略)

■事案

当時の所得税法は、税務職員が、所得税の調査のために必要があるときは、帳簿書類などを検査したり、質問したりすることができると定め、検査を拒んだ者には刑罰を科していました。

被告人は、税務職員の検査を拒んだとして起訴されました。

そこで、被告人は、裁判官の令状なしに刑罰を背景として検査を強制するのは35条に違反し、また、質問への回答を強制するのは38条1項に違反すると主張したのです。

■判旨

最高裁は、35条について、以下のとおり判示しました。

「憲法三五条一項の規定は、本来、主として刑事責任追及の手続における強制について、それが司法権による事前の抑制の下におかれるべきことを保障した趣旨であるが、当該手続が刑事責任追及を目的とするものでないとの理由のみで、その手続における一切の強制が当然に右規定による保障の枠外にあると判断することは相当ではない。」

また、38条1項についても、

「右規定による保障は、純然たる刑事手続においてばかりではなく、それ以外の手続においても、実質上、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有する手続には、ひとしく及ぶものと解するのを相当とする。」

としました。

その上で、本件の税務検査については、

  • もっぱら所得税の公平確実な賦課徴収のための資料を収集する手続であり、刑事責任の追及を目的とするものではない
  • 検査の結果、脱税が発覚する可能性はあるが、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有するものではない
  • 強制の方法は、検査を拒んだ者に刑罰を科すことで間接的・心理的に検査を受け入れさせるものであり、直接的・物理的な強制と同視すべき程度には達していない
  • 徴税のための実効性のある検査制度は公益上欠くことができず、この程度の強制は不均衡・不合理ではない

などとして、令状を要件としていなくても35条に反せず、また、38条1項にいう「自己に不利益な供述」の強要にも当たらないと判断しました。

行政手続に35条・38条1項の保障が及ぶか(川崎民商事件)

①手続の目的が刑事責任の追及か

②実質上、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有するか

③強制の態様が直接的・物理的か、間接的・心理的か

④公益上の必要性があり、強制の程度が不均衡・不合理でないか

成田新法事件も、行政手続での立入検査が35条に反するかについて、この川崎民商事件を引用し、同じような要素を総合判断して、令状がなくても35条の法意に反しないとしています。

このように、判例は、行政手続にも31条以下の保障が及ぶ余地を認めつつ、実際に令状や事前の告知・聴聞が必要かどうかは、手続の目的や性質、強制の程度、公益の必要性などを考慮して個別に判断するという立場をとっています。

第4章 まとめ

まず、人身の自由は、あらゆる自由の前提となる重要な権利であり、憲法は31条から40条まで詳しい規定を置いています。

その中心となる31条は、手続の法定だけでなく、手続の適正、実体の法定、実体の適正までを保障していると考えられています。

判例

問題となった点

結論

第三者所有物没収事件

第三者に告知・弁解・防御の機会を与えない没収

31条、29条違反

福岡県青少年保護育成条例事件

「淫行」の明確性・処罰範囲の広さ

限定解釈により合憲

成田新法事件

事前の告知・聴聞なしの使用禁止命令

総合較量により合憲

川崎民商事件

令状なしの税務検査、質問への回答強制

35条・38条1項に反しない

行政手続については、「刑事手続ではない」というだけで31条以下の保障が及ばないわけではありません。

答案では、成田新法事件や川崎民商事件の考慮要素に沿って、問題となっている手続の目的や強制の程度、公益の必要性などを具体的に検討しましょう。

この記事では、初学者の方にもわかりやすいように、一般的な考え方をざっくりと解説しています。

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