【民法担保物権入門1】抵当権の意義と効力を判例で整理
目次
この記事を読んで理解できること
- 抵当権とは何か
- 抵当権の効力が及ぶ範囲
- 被担保債権の範囲と優先弁済
- 物上代位と抵当権侵害
- 試験答案の構成方法
「お金を借りるときに耳にする『抵当権』とは、いったいどのような権利なのでしょうか。」
「抵当に入れた土地や建物を、所有者はそのまま使い続けられるのでしょうか。」
「抵当権の効力は、目的物そのものだけでなく、その賃料や売却代金にも及ぶのでしょうか。」
担保物権を学ぶ中で、こうした疑問を持った方は多いのではないでしょうか。
担保物権には、当事者の合意によって設定する約定担保物権(抵当権・質権)と、一定の債権について法律上当然に生じる法定担保物権(留置権・先取特権)があります。
民法は留置権・先取特権・質権・抵当権の順で規定していますが、本連載は実務でも試験でも最重要の抵当権から学びます。
抵当権は担保物権の性質を最もよく示す権利であり、ここで担保物権に共通する考え方を身につければ、他の担保物権の理解も一気に進みます。
抵当権とは、債務者または第三者(物上保証人)が占有を移さないで債務の担保に供した不動産について、抵当権者が他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受けることができる担保物権です(民法369条1項)。
最大の特徴は、目的物の占有を設定者のもとにとどめたまま、その交換価値だけを把握する点にあります。
設定者は土地や建物を従来どおり使用・収益でき、抵当権者は弁済が得られないときに目的物を競売してその代金から優先弁済を受けます。
本記事では、抵当権の意義と担保物権の通有性、効力の及ぶ範囲、被担保債権の範囲、そして物上代位と抵当権侵害への対応までを、判例に即して解説します。
この記事で学べること
- 【初級】抵当権(民法369条)の意義と、占有を移さない非占有担保という特徴
- 【初級】担保物権の通有性―付従性・随伴性・不可分性・物上代位性
- 【初中級】抵当権の効力が及ぶ範囲(付加一体物・従物・果実。370条・371条)
- 【中級】被担保債権の範囲と優先弁済の制限(375条)
- 【中級】物上代位(372条・304条)と、差押えが要求される意味
- 【中上級】抵当権侵害に対する妨害排除請求(最大判平成11年11月24日)
第1章 抵当権とは何か
1-1 抵当権の意義と非占有担保
抵当権は、債務者が負う債務(被担保債権)を担保するために、不動産などの上に設定される担保物権です。
369条1項は、抵当権者は「債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する」と定めます。
ここで重要なのは「占有を移転しないで」という部分です。
質権が目的物の引渡しを成立要件とする(344条)のに対し、抵当権は目的物の占有を設定者にとどめたまま設定できます。
これを非占有担保といいます。
設定者は抵当不動産を引き続き使用・収益できるため、たとえば工場や住宅を担保に入れながら、事業や生活を続けることができます。
抵当権が不動産金融の中心的な手段となっているのは、この非占有性ゆえです。
抵当権を設定するには当事者の合意(抵当権設定契約)で足り、第三者に対抗するための要件として登記を備えます(177条)。
抵当権の目的とすることができるのは、原則として不動産(土地・建物)ですが、地上権・永小作権にも設定でき(369条2項)、特別法によって船舶・自動車・航空機や工場財団などにも認められています。
債務者以外の第三者が自己の不動産を担保に供することもでき、この第三者を物上保証人といいます。
物上保証人は債務そのものを負うわけではなく、担保に供した不動産の価値の限度で責任を負うにとどまります。
1-2 担保物権の通有性
抵当権をはじめとする担保物権には、共通する四つの性質があります。
第一に付従性です。
担保物権は被担保債権を担保するために存在するので、被担保債権が成立しなければ担保物権も成立せず、被担保債権が弁済等によって消滅すれば担保物権も消滅します。
第二に随伴性です。
被担保債権が譲渡されると、担保物権もこれに伴って移転します。
第三に不可分性です。
担保権者は、被担保債権の全部の弁済を受けるまで、目的物の全部についてその権利を行使できます(372条・296条)。
第四に物上代位性です。
目的物が売却・賃貸・滅失等によって金銭その他の価値に変じたとき、担保権はその価値代替物の上にも及びます(372条・304条)。
これらは担保物権を理解する出発点となる重要な性質です。
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性質 |
内容 |
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付従性 |
被担保債権がなければ担保物権も成立せず、被担保債権の消滅により担保物権も消滅する |
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随伴性 |
被担保債権の移転に伴い、担保物権もこれに従って移転する |
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不可分性 |
被担保債権の全部の弁済を受けるまで、目的物の全部に権利を行使できる(372条・296条) |
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物上代位性 |
目的物の価値代替物(売却代金・賃料・保険金等)に担保権が及ぶ(372条・304条) |
1-3 抵当権の順位と複数の抵当権
同一の不動産には、複数の抵当権を設定することができます。
これらの抵当権の順位は、登記の前後によって決まります(373条)。
先に登記された抵当権が一番抵当権として優先し、その後に登記されたものが二番抵当権以下となります。
抵当権が実行されると、その代金は順位に従って配当され、先順位の抵当権者が被担保債権の満足を受けた後、なお残額があれば次順位の抵当権者が配当を受けます。
順位は、各抵当権者が優先弁済を受けられる範囲を画する重要な要素です。
なお、各抵当権者の合意によって、登記された順位を変更することもできます(374条)。
第2章 抵当権の効力が及ぶ範囲
2-1 付加一体物と従物
抵当権の効力は、抵当不動産そのものだけでなく、これに付加して一体となっている物(付加一体物)にも及びます(370条本文)。
たとえば、建物に付合した増築部分などがこれにあたります。
問題となるのは従物です。
判例は、抵当権の設定当時に存在した従物には、抵当権の効力が及ぶとしています。
宅地に設定された抵当権の効力が、その宅地上の石灯籠や庭石などの従物に及ぶとした例があります(最判昭和44年3月28日民集23巻3号699頁)。
従物に効力が及ぶことによって、抵当権者は不動産を経済的に一体のものとして把握することができます。
2-2 果実への効力
抵当権は、その担保する債権について不履行があったときは、その後に生じた抵当不動産の果実にも及びます(371条)。
果実には、賃料のような法定果実も含まれます。
もっとも、効力が及ぶのは不履行があった後に生じた果実に限られます。
不履行の前は、設定者が抵当不動産を使用・収益できるという非占有担保の建前が維持され、果実は設定者に帰属します。
不履行の後は、抵当権者が果実からも回収を図ることができ、後述する賃料への物上代位とあわせて機能します。
第3章 被担保債権の範囲と優先弁済
3-1 被担保債権の範囲(375条)
抵当権は被担保債権を担保しますが、利息その他の定期金については、優先弁済を受けられる範囲に制限があります。
375条1項は、抵当権者が利息その他の定期金を請求する権利を有するときは、その満期となった最後の二年分についてのみ優先弁済を受けると定めます。
これは、後順位抵当権者や一般債権者の利益を保護するための制限です。
利息が無制限に優先されると、目的物の価値のうち後順位者が回収できる部分が予測できなくなってしまうからです。
元本については、登記された債権額の範囲で優先弁済を受けます。
なお、抵当権者と利害が対立する後順位者等がいない場合には、この二年分の制限は実際上問題となりません。
抵当権者が優先弁済を実際に受けるためには、抵当権を実行する必要があります。
実行の方法には、目的不動産を競売してその売却代金から配当を受ける担保不動産競売のほか、目的不動産から生ずる賃料等の収益から弁済を受ける担保不動産収益執行があります。
いずれの方法でも、登記された抵当権の順位に従って、他の債権者に優先して弁済を受けることができる点に、抵当権の意義があります。
第4章 物上代位と抵当権侵害
4-1 物上代位(372条・304条)
抵当不動産が売却・賃貸され、または滅失・損傷した場合、その代金・賃料・保険金などの価値代替物に対しても、抵当権の効力が及びます。
これを物上代位といいます(372条による304条の準用)。
ただし、抵当権者が物上代位権を行使するには、これらの金銭等が設定者に「払渡し又は引渡し」をされる前に、自らその債権を差し押さえなければなりません(304条1項ただし書)。
物上代位をめぐっては、抵当不動産の賃料債権に対する物上代位と、その賃料債権が第三者に譲渡された場合との優劣が問題となります。
判例は、抵当権者は、物上代位の目的債権が譲渡され、第三者に対する対抗要件が備えられた後であっても、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができるとしました(最判平成10年1月30日民集52巻1号1頁)。
304条の差押えは二重弁済を強いられる危険から第三債務者を保護する趣旨のものであって、「払渡し又は引渡し」に債権譲渡は含まれないからです。
また、抵当不動産の賃借人が第三者に転貸した場合の転貸賃料については、原則として物上代位の対象とならないとしつつ、一定の場合にこれを認めた例があります(最決平成12年4月14日民集54巻4号1552頁)。
物上代位は、抵当権の価値把握を実効的なものとする重要な仕組みです。
4-2 抵当権侵害(妨害排除請求)
抵当権は非占有担保であり、目的物の占有は設定者にとどまります。
そのため、第三者が抵当不動産を不法に占有しても、ただちに抵当権の侵害とはいえないようにも見えます。
しかし判例は、第三者の占有によって抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ、抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権者は抵当権に基づく妨害排除請求として、その占有の排除を求めることができるとしました(最大判平成11年11月24日民集53巻8号1899頁)。
さらに、抵当権者は、一定の場合には、占有者に対して直接自己への抵当不動産の明渡しを求めることもできるとされています(最判平成17年3月10日民集59巻2号356頁)。
これらは、抵当権が把握する交換価値を保全するための救済です。
第5章 試験答案の構成方法
5-1 抵当権の効力範囲・物上代位が問われる事案
抵当権の効力が及ぶ範囲や物上代位が問われる事案では、以下の流れで答案を構成することが考えられます。
【答案構成の流れ】
- 問題提起:本件で抵当権の効力が(従物・果実・価値代替物)に及ぶか、また物上代位権を行使できるかが問題となる
- 効力範囲:付加一体物・設定時の従物には効力が及び(370条、最判昭和44年3月28日)、不履行後の果実にも及ぶ(371条)ことを確認する
- 物上代位の可否:価値代替物(売却代金・賃料・保険金等)に効力が及ぶか。払渡し・引渡し前に自ら差押えをしたか(304条1項ただし書)を検討する
- 第三者との優劣:目的債権が譲渡された後でも差押えにより物上代位できる(最判平成10年1月30日)。差押え・対抗要件の先後を整理する
- 結論:抵当権者が優先弁済(または妨害排除)を受けられるかを結論づける
まとめ
- 抵当権は、占有を移さずに不動産の交換価値を把握する非占有担保であり、他の債権者に先立って弁済を受ける(369条)
- 担保物権には、付従性・随伴性・不可分性・物上代位性という四つの通有性がある
- 抵当権の効力は付加一体物・設定時の従物に及び(370条)、不履行後の果実にも及ぶ(371条)
- 同一不動産上の複数の抵当権の順位は、登記の前後によって決まる(373条)
- 利息その他の定期金は、満期となった最後の二年分についてのみ優先弁済を受ける(375条)
- 価値代替物には物上代位が及ぶが、払渡し・引渡し前の差押えを要する(372条・304条)。債権譲渡後でも差押えにより行使できる(最判平成10年1月30日)
- 第三者の不法占有に対しては、抵当権に基づく妨害排除請求が認められる(最大判平成11年11月24日)
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