【民法物権入門4】動産の対抗問題 引渡しの四類型と178条
目次
この記事を読んで理解できること
- 178条と引渡し
- 178条の「第三者」
- 動産譲渡登記による補完
- 立木と明認方法
- 占有改定と動産譲渡担保
- 試験答案の構成方法
「動産を買ったら、何をもって『自分の物だ』と第三者に言えるの?」
「品物を渡さずに『今日からあなたの物です』と言うだけでも、対抗できるの?」
「山の木みたいに登記できない物は、どうやって所有権を示すの?」
不動産の対抗要件が登記であるのに対し、動産に関する物権の譲渡は、引渡しがなければ第三者に対抗できません(民法178条)。
もっとも、引渡しには現実の移転を伴わない観念的なものもあり、どの引渡しで対抗できるかが問題となります。
さらに、登記できない立木などには別の公示方法が用いられ、法人による動産譲渡には登記による補完も用意されています。
本記事では、引渡しの四類型、178条の「第三者」、動産譲渡登記、そして明認方法を整理します。
次回扱う即時取得(192条)の前提にもなる、動産物権変動の基礎です。
この記事で学べること
- 【初級】178条の意義と「譲渡」への限定
- 【初級】引渡しの四類型(現実・簡易・占有改定・指図)
- 【中級】178条の「第三者」の範囲
- 【中級】取消し・解除による復帰と178条
- 【中級】動産譲渡登記による対抗要件の補完
- 【中上級】立木と明認方法
第1章 178条と引渡し
1-1 178条の意義
178条は、動産に関する物権の譲渡について、引渡しを対抗要件とします。
ここで注意すべき点が二つあります。
第一に、対抗要件とされるのは動産が「譲渡」された場合であり、相続のような包括承継には適用がありません。
ただし判例は、取消しや解除による動産所有権の復帰についても178条を適用します。
第二に、引渡しが対抗要件となるのは所有権の譲渡の場合であり、占有権・留置権・質権については、占有の取得がそもそも権利の成立・存続の要件とされています。
1-2 引渡しの四類型
178条の引渡しには四つの形態があります。
第一に、相手方に目的物の所持を現実に移す現実の引渡し(182条1項)。
たとえば商品を手渡す場合です。
第二に、すでに相手方が目的物を所持している場合に、占有移転の合意のみで足りる簡易の引渡し(同条2項)。
たとえば借りていた物を買い取る場合です。
第三に、譲渡人が引き続き目的物を所持したまま、以後は相手方のために占有する旨を表示する占有改定(183条)。
たとえば売った物をそのまま借りて使い続ける場合です。
第四に、譲渡人が占有代理人に物を所持させている場合に、その占有代理人に対して以後は相手方のために占有するよう命じる指図による占有移転(184条)。
たとえば倉庫業者に預けたまま所有者だけが変わる場合です。
占有改定や指図による占有移転は、物理的な移動を伴わない観念的な引渡しである点が特徴です。
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引渡しの類型 |
内容 |
具体例 |
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現実の引渡し(182条1項) |
目的物の所持を現実に移転 |
商品を手渡す |
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簡易の引渡し(182条2項) |
所持する相手方への占有移転の合意 |
借りていた物を買い取る |
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占有改定(183条) |
譲渡人が所持を続け、以後相手方のために占有 |
売った物を借りて使い続ける |
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指図による占有移転(184条) |
占有代理人に以後相手方のために占有を命じる |
倉庫に預けたまま所有者が変わる |
これら四類型は、いずれも178条の対抗要件としての「引渡し」にあたります。
観念的な引渡しである占有改定であっても、対抗要件としては有効です。
もっとも、次回扱う即時取得(192条)の場面では、占有改定が「占有を始めた」にあたらないとされる点で、対抗要件の議論とは扱いが分かれることに注意が必要です。
第2章 178条の「第三者」
2-1 「第三者」の範囲
178条の「第三者」も、177条と同様に制限的に解されます。
すなわち、当事者およびその包括承継人以外の者で、引渡しの欠缺を主張する正当な利益を有する者をいいます。
動産の譲受人や、その動産を差し押さえた債権者などはこれにあたりますが、無権利者や不法占拠者は、引渡しの欠缺を主張する正当な利益を持たないため「第三者」にあたりません。
また、背信的悪意者の排除なども、基本的に177条と同じ議論が妥当します。
動産の二重譲渡においては、いずれの譲受人が先に引渡し(占有改定を含む)を受けたかで優劣が決せられます。
第3章 動産譲渡登記による補完
3-1 動産譲渡登記
占有改定は外形的に見えにくく、とくに在庫商品のような集合動産を担保に供する取引では、引渡しによる公示が不明確になりがちです。
そこで、動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律(動産債権譲渡特例法)は、法人が動産を譲渡した場合について、動産譲渡登記の制度を設けました。
これによれば、法人が動産を譲渡し、動産譲渡登記ファイルに譲渡の登記がされたときは、その動産について178条の引渡しがあったものとみなされます(同法3条1項)。
引渡しに代わる公示方法として、対抗要件を明確化するものです。
第4章 立木と明認方法
4-1 明認方法とは
立木は本来土地の一部ですが、取引上は独立の処分の対象とされることがあります。
立木については、立木ニ関スル法律(立木法)による登記という公示方法がありますが、登記されていない立木については、慣習上の公示方法として明認方法が認められています。
明認方法とは、立木の樹皮を削って所有者名を墨書したり、所有者名を記した立札を立てたりして、地盤から独立した立木の所有権を公示する方法です。
立木に限らず、木になっている果実や稲立毛などの未分離の果実について用いられることもあります。
明認方法は、それが継続している限り対抗要件としての役割を果たします。
したがって、途中で墨が消えたり立札がなくなったりすると、第三者に対抗できなくなります。
また、明認方法は素朴な公示方法であるため、これによって公示できるのは、地盤と切り離した立木だけの所有権移転か、立木の所有権を留保したうえでの地盤だけの譲渡の場合に限られます。
立木と地盤の双方にわたる複雑な権利関係を明認方法だけで公示することはできません。
第5章 占有改定と動産譲渡担保
5-1 占有改定の対抗力と即時取得の役割分担
占有改定も178条の引渡しにあたり、対抗要件として有効です。
したがって、動産の二重譲渡で、第一譲受人が占有改定により引渡しを受け、その後に第二譲受人も占有改定により引渡しを受けた場合には、先に占有改定を受けた第一譲受人が対抗要件を先に具備したことになり、対抗問題としては第一譲受人が優先します。
もっとも、これで決着がつかない場合があります。
第二譲受人が、譲渡人を権利者と信じて現実の引渡しを受け、即時取得(192条)の要件を満たすときは、即時取得によって所有権を原始取得しうるからです。
対抗問題は同一の譲渡人から二重に譲り受けた者の優劣を引渡しで決する議論であるのに対し、即時取得は無権利者から取引した者を保護する制度であり、両者は役割を異にします。
占有改定が絡む動産取引では、この二つの制度を切り分けて検討する必要があります。
5-2 集合動産譲渡担保と公示
在庫商品や原材料のような集合動産を一括して譲渡担保に供する取引では、目的物を引き続き利用する必要があるため、占有改定によって対抗要件を備えるのが一般的です。
しかし、占有改定は外形的に不明確であり、第三者からは担保の存在が分かりにくいという難点があります。
そこで実務では、前述の動産譲渡登記(動産債権譲渡特例法3条)を用いて対抗要件を明確化することが行われます。
集合物をどのように一個の譲渡担保の目的として捉えるかといった詳細は、担保物権の分野で扱われますが、その公示の基礎には、本記事で見た引渡しと動産譲渡登記があることを押さえておきましょう。
5-3 取消し・解除による復帰と引渡し
178条は動産の「譲渡」を対象としますが、判例は、取消しや解除による所有権の復帰についても178条を適用します。
たとえば、AがBに動産甲を売って引き渡した後、Aが契約を解除して所有権を回復した場合、Aが、この復帰した所有権を、解除後にBから甲を譲り受けた第三者Cに対抗するには、Aが引渡し(占有の回復)という対抗要件を備える必要があります。
解除による復帰的物権変動を、不動産における177条と同様に、動産では178条の引渡しによって公示するという理解です。
5-4 178条が引渡しを対抗要件とする趣旨
なぜ動産では、不動産のような登記ではなく、引渡しが対抗要件とされているのでしょうか。
動産は数が膨大で、種類も多様であり、しかも日々頻繁に流通します。
これらすべてについて不動産のような登記制度を設けて権利関係を公示することは、現実的ではありません。
そこで民法は、動産については、占有の移転という簡便で日常的な事実をもって公示の手段とし、引渡しを対抗要件としたのです。
占有改定や指図による占有移転といった観念的な引渡しまで対抗要件として認められるのも、動産取引の簡便・迅速の要請に応えるためといえます。
もっとも、占有という公示は権利関係を確実に表すものではないため、その不完全さは、次回扱う即時取得(公信の原則)によって補われることになります。
5-5 指図による占有移転と即時取得
観念的な引渡しのうち、指図による占有移転は、対抗要件としても、また即時取得を基礎づける占有取得としても機能します。
たとえば、ある動産を倉庫業者に預けている所有者が、その動産を売却し、倉庫業者に対して以後は買主のために占有するよう指図した場合が、これにあたります。
これは外観上、占有代理人を通じた支配の帰属に変更が生じる取得形態であるため、即時取得の要件である「占有を始めた」にあたると解されています。
これに対して、占有改定は、譲渡人がそのまま所持を続けるもので、外観上の変更が現れないため、即時取得の場面では「占有を始めた」にあたらないとされます。
同じ観念的な引渡しでも、即時取得の成否において両者の扱いが分かれる点は、次回詳しく扱います。
第6章 試験答案の構成方法
6-1 動産の二重譲渡と引渡しが問われる事案
〔問題提起〕Aが動産甲をBに売って占有改定により引き渡した後、AがCにも甲を売って現実に引き渡した。BとCのいずれが甲の所有権を対抗できるか。
〔規範定立〕178条により、動産物権の譲渡は引渡しがなければ第三者に対抗できない。引渡しには占有改定(183条)も含まれ、178条の「第三者」は引渡しの欠缺を主張する正当な利益を有する者をいう。
〔あてはめ〕Bは占有改定により先に引渡しを受けており、対抗要件を備えている。Cは後に現実の引渡しを受けた第三者である。Bが先に対抗要件を具備した以上、対抗問題としては原則としてBが優先する。
〔結論〕対抗問題としてはBが優先するが、Cについては、次回扱う即時取得(192条)の成否が別途問題となる。
6-2 立木の譲渡と明認方法が問われる事案
〔問題提起〕Dが、自己所有の山林上の立木のみをEに譲渡したが、Eは明認方法を施していなかった。その後、Dが山林(地盤)をFに譲渡し、Fが所有権移転登記を備えた。EはFに立木所有権を対抗できるか。
〔規範定立〕地盤と切り離した立木所有権の移転は、明認方法によって公示できるが、明認方法が継続して存在しなければ第三者に対抗できない。
〔あてはめ〕Eは明認方法を施していないから、立木所有権の取得を公示しておらず、地盤を取得して登記を備えたFに対抗できない。
〔結論〕Eは、明認方法を欠く以上、Fに立木所有権を対抗できない。
6-3 解除による復帰と178条が問われる事案
〔問題提起〕AがBに動産甲を売って現実に引き渡した後、Aが契約を解除して所有権を回復した。ところが、解除後にBが甲をCに売って現実に引き渡した。Aは、回復した所有権をCに対抗できるか。
〔規範定立〕178条は動産の譲渡を対象とするが、判例は取消しや解除による所有権の復帰についても178条を適用する。したがって、解除によって復帰した所有権を解除後の第三者に対抗するには、対抗要件としての引渡し(占有の回復)を備えることが必要である。
〔あてはめ〕Aが甲の占有を回復していたか、それともCが先に現実の引渡しを受けたかを確定する。
〔結論〕Aが引渡しを備える前にCが引渡しを受けていれば、Aは、復帰した所有権をCに対抗できない。なお、Cについては即時取得の成否も別途問題となりうる。
まとめ
- 動産物権の譲渡は引渡しがなければ第三者に対抗できない(178条)。
- 引渡しには現実・簡易・占有改定・指図の四類型があり、観念的な引渡しも含まれる。
- 178条の「第三者」は引渡しの欠缺を主張する正当な利益を有する者で、177条と同様に解する。
- 取消し・解除による動産所有権の復帰にも178条が適用される。
- 法人の動産譲渡では、動産譲渡登記により引渡しがあったものとみなされる(特例法3条)。
登記できない立木などは、慣習上の公示方法である明認方法によって公示される。
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