【民法担保物権入門2】法定地上権とは―四つの成立要件と再築・共有の処理

監修者
講師 赤坂けい
株式会社ヨビワン
講師 赤坂けい
【民法担保物権入門2】法定地上権とは―四つの成立要件と再築・共有の処理
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チェック
この記事を読んで理解できること
  • 法定地上権とは何か
  • 法定地上権の成立要件
  • 判例による展開
  • 法定地上権の効力
  • 試験答案の構成方法

「土地と建物が別々の人のものになると、建物は取り壊さなければならないのでしょうか。」

「自分の土地の上に、自分の建物のための利用権を設定することはできるのでしょうか。」

「抵当権を設定した後に建物を建て替えたら、法定地上権はどうなるのでしょうか。」

前回は、抵当権の意義と効力を学びました。

今回取り上げるのは、抵当権の分野で最も重要な論点といってよい法定地上権です。

法定地上権は、抵当権の実行によって土地と建物の所有者が分かれてしまったときに、建物を守るために法律上当然に発生する地上権です。

論文式試験でも繰り返し問われる頻出論点であり、成立要件を正確に押さえることが何より大切です。

本記事では、法定地上権がなぜ必要とされるのかという趣旨を確認したうえで、その成立要件(四要件)を整理し、更地への抵当権設定、建物の再築、所有者の分離、共有といった主要な論点を判例に即して解説します。

最後に、答案構成の型もあわせて示します。

法定地上権は、要件の一つひとつが具体的な事案でどう判断されるかが問われるため、抽象的に暗記するのではなく、設例にあてはめて考える訓練が有効です。

この記事で学べること

  • 【初級】法定地上権(民法388条)の意義と、それが必要とされる趣旨
  • 【初中級】法定地上権の四つの成立要件と、判断の基準時(抵当権設定当時)
  • 【中級】更地への抵当権設定と一括競売(389条)の関係
  • 【中級】建物の再築と全体価値考慮説(最判平成9年2月14日)
  • 【中上級】所有者の分離・同一化の処理(最判昭和44年2月14日)
  • 【中上級】土地・建物が共有である場合の法定地上権の成否

第1章 法定地上権とは何か

1-1 なぜ法定地上権が必要か

日本の民法は、土地と建物を別個の不動産として扱います。

そのため、同一人が土地と建物を所有している場合、その土地の上に建物のための利用権(地上権や賃借権)を観念する必要は、本来ありません。

自分の土地は自分の建物のために自由に使えるからです。

ところが、土地または建物の一方に抵当権が設定され、その実行によって土地と建物の所有者が別々になると、建物の所有者は他人の土地の上に建物を持つことになります。

このとき建物のための土地利用権がないと、建物所有者は土地所有者から建物の収去(取壊し)を求められかねません。

せっかくの建物が取り壊されるのは、社会経済上も望ましくありません。

そこで民法は、一定の要件のもとで、法律上当然に建物のために地上権が成立するものとしました。

これが法定地上権です。

当事者の設定行為によらず、法律の規定によって成立する点に特徴があります。

なお、土地と建物が別々の所有者であれば、あらかじめ建物のために賃借権や地上権を設定しておくことができますが、両者が同一所有者の場合にはそれができません。

法定地上権は、まさにこの場合に建物を保護するための制度なのです。

1-2 条文(388条)

388条は、土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について地上権が設定されたものとみなす、と定めます。

地代は、当事者の請求により、裁判所が定めます。

法定地上権が成立すると、建物の所有者は地上権という強力な利用権を得て、建物を存続させることができます。

条文が「みなす」と規定しているため、当事者の合意がなくても、要件を満たせば当然に地上権が発生します。

第2章 法定地上権の成立要件

2-1 四つの要件

法定地上権が成立するためには、次の四つの要件を満たす必要があります。

要件

内容

1:建物の存在

抵当権の設定当時、土地の上に建物が存在すること

2:同一所有者

抵当権の設定当時、土地と建物が同一の所有者に属すること

3:抵当権の設定

土地・建物の一方または双方に抵当権が設定されたこと

4:所有者の分離

抵当権の実行(競売)により、土地と建物の所有者が異なるに至ったこと

2-2 基準時―抵当権設定当時

特に重要なのは、1と2をいずれも「抵当権の設定当時」を基準として判断する点です。

抵当権者は、設定の時点における土地や建物の状態を前提に、その担保価値を把握します。

したがって、設定当時に建物が存在し、かつ土地と建物が同一所有者に属していたかどうかが、法定地上権の成否を決める出発点となります。

なお、2の同一所有者かどうかは、登記名義ではなく、実体的な所有関係によって判断されます。

この基準時の考え方を押さえておくと、後に見る各論点の処理が一貫して理解できます。

2-3 具体例で考える

具体例で確認しましょう。

Aが自己所有の土地と建物のうち、土地のみにBのために抵当権を設定し、その実行によって土地をCが競落したとします。

抵当権の設定当時、土地の上に建物が存在し(1)、土地と建物がいずれもAの所有であり(2同一所有者)、土地に抵当権が設定され(3)、競売によって土地がC・建物がAと所有者が分離しました(4)。

四つの要件をすべて満たすので、建物のために法定地上権が成立し、Aは引き続き建物を所有することができます。

逆に、Aが土地・建物のうち建物のみに抵当権を設定し、その建物がDに競落された場合も、設定当時に建物が存在し、土地と建物が同一所有者であれば、四つの要件を満たし、競落人Dのために法定地上権が成立します。

土地に抵当権を設定する場合も、建物に設定する場合も、判断の枠組みは共通です。

第3章 判例による展開

3-1 更地への抵当権設定と一括競売(389条)

抵当権の設定当時、土地が更地(建物の存在しない土地)であった場合には、その後に建物が築造されても、法定地上権は成立しません。

土地の抵当権者は、更地としての高い担保価値を把握しているのであり、後から建てられた建物のために土地利用権が発生すると、その担保価値が害されてしまうからです。

更地に高い評価を与えて融資をした抵当権者の期待を保護する趣旨であり、基準時を抵当権設定当時とする考え方とも整合します。

もっとも、更地に抵当権を設定した後に建物が築造された場合、土地の抵当権者は、土地とともにその建物を一括して競売することができます(一括競売。389条)。

ただし、抵当権者が優先弁済を受けられるのは、土地の代金からのみです。

これにより、建物所有者の保護と抵当権者の価値把握との調整が図られています。

3-2 建物の再築(共同抵当・全体価値考慮説)

抵当権の設定当時に建物が存在していれば、その後に建物が取り壊されて再築されても、法定地上権が成立しうるのが原則です。

もっとも、土地と建物の双方に同一の抵当権者のために抵当権(共同抵当)が設定されていた場合に建物が再築されたときは、扱いが異なります。

判例は、この場合、新たに築造された建物のためには、原則として法定地上権は成立しないとしました(最判平成9年2月14日民集51巻2号375頁)。

共同抵当権者は土地と建物の全体の価値を把握しているところ、旧建物の滅失後に新建物のために法定地上権の成立を認めると、土地の担保価値が大きく損なわれ、共同抵当権者の合理的な期待に反するからです(全体価値考慮説)。

これに対し、土地のみに抵当権が設定されていた場合には、建物が再築されても法定地上権は成立し、その内容は旧建物を基準に判断されると解されています。

3-3 所有者の分離・同一化

抵当権の設定当時に土地と建物が別々の所有者に属していた場合には、その後に両者が同一人の所有に帰しても、法定地上権は成立しません(最判昭和44年2月14日民集23巻2号357頁)。

設定当時に土地と建物が別人所有であれば、建物のためにすでに約定の利用権(賃借権等)が存在していたはずであり、その利用権が存続するので、改めて法定地上権を認める必要がないのです。

法定地上権の成否は、あくまで抵当権設定当時の状態を基準に判断されることが、ここでも確認できます。

3-4 土地・建物が共有である場合

土地または建物が共有の場合の処理も問題となります。

判例は、土地が共有で、共有者の一人が自己の土地共有持分に抵当権を設定した場合には、法定地上権は原則として成立しないとしています(最判昭和29年12月23日民集8巻12号2235頁)。

法定地上権の成立を認めると、抵当権を設定していない他の共有者の持分まで地上権の負担を受けることになり、その利益を害するからです。

これに対し、建物が共有で、その敷地である土地が建物共有者の一人の単独所有であり、その土地に抵当権が設定された場合には、法定地上権が成立するとしています(最判昭和46年12月21日民集25巻9号1610頁)。

土地所有者は、建物共有者全員のために土地の利用を認めていたとみることができるからです。

3-5 抵当権設定後に土地・建物が譲渡された場合

抵当権の設定当時に土地と建物が同一の所有者に属してさえいれば、その後に建物のみ(または土地のみ)が第三者に譲渡され、抵当権の実行時には土地と建物の所有者が分かれていたとしても、法定地上権は成立します。

成否の基準は、あくまで抵当権設定当時の同一所有者性にあるからです。

設定後の権利変動によって、抵当権者が当初把握していた担保価値が左右されるべきではない、という考え方の表れといえます。

第4章 法定地上権の効力

法定地上権が成立すると、その内容は、建物の所有を目的とする地上権として扱われ、借地借家法の適用を受けます。

存続期間について当事者の定めがないときは、原則として三十年となります。

地代は、まず当事者の協議によりますが、協議が調わないときは、当事者の請求により裁判所が定めます(388条後段)。

また、法定地上権を第三者に対抗するには、地上権そのものの登記のほか、土地の上の建物について登記を備えることによっても対抗することができます(借地借家法)。

なお、地代は無償ではなく、建物の所有者は土地の所有者に対して地代の支払義務を負います。

法定地上権は建物保護のための制度ですが、土地所有者の利益にも配慮し、相応の対価を確保する仕組みになっています。

法定地上権は、こうして建物の存続と利用を確実なものとします。

第5章 試験答案の構成方法

5-1 法定地上権の成否が問われる事案

法定地上権の成否が問われる事案では、以下の流れで答案を構成することが考えられます。

【答案構成の流れ】

  • 問題提起:本件で建物のために法定地上権(388条)が成立するかが問題となる
  • 要件の確認:抵当権設定当時に1建物が存在し、2土地と建物が同一所有者に属していたか。3土地・建物の一方等に抵当権が設定され、4実行により所有者が分離したかを順に検討する
  • 基準時:12は抵当権設定当時を基準に判断する(更地への設定後の築造は不成立。設定当時に別人所有なら後に同一になっても不成立)
  • 特殊類型:共同抵当の建物再築(最判平成9年2月14日)、共有(最判昭和29年12月23日・最判昭和46年12月21日)にあたらないかを検討する
  • 結論:法定地上権の成否を結論づける。不成立の場合は一括競売(389条)等の処理にも触れる

まとめ

  • 法定地上権は、同一所有者の土地・建物の一方等に抵当権が実行され所有者が分離した場合に、建物のため法律上当然に成立する(388条)
  • 趣旨は、自己借地権を原則認めない日本法のもとで、建物の存続を図ることにある
  • 成立要件は、抵当権設定当時に1建物が存在し2土地建物が同一所有者であること、3抵当権の設定、4実行による所有者の分離の四つ
  • 12は抵当権設定当時を基準に判断する。更地への設定後に建物を築造しても成立せず、一括競売(389条)で処理される
  • 共同抵当の建物再築では新建物のため原則成立しない(最判平成9年2月14日)。土地共有持分への抵当は原則否定(最判昭和29年12月23日)、建物共有・土地単独所有への抵当は肯定(最判昭和46年12月21日)
  • 法定地上権の内容は建物所有目的の地上権として借地借家法の適用を受け、存続期間は原則三十年、地代は協議が調わなければ裁判所が定める(388条後段)

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