【会社法入門12】利益相反取引の要件と効果の基礎解説
目次
この記事を読んで理解できること
- 利益相反取引規制の全体像
- 承認の手続と承認を要しない取引
- 承認を受けない取引の効力
- 利益相反取引と取締役の責任
- 試験答案の構成方法
「取締役が、自分の会社から土地を買うことは許されるの?」
「会社が取締役個人の借金を保証することに、規制はないの?」
「取締役会の承認を受けずにされた利益相反取引は、無効になるの?」
会社法を学ぶ中で、こうした疑問を持った方は多いのではないでしょうか。
取締役は、会社の経営を委ねられた存在であり、会社に対して善管注意義務・忠実義務を負います。
ところが、取締役自身が会社の取引の相手方となる場合のように、会社の利益と取締役個人の利益が衝突する場面では、取締役が自己の利益を優先し、会社を犠牲にするおそれがあります。
そこで会社法は、このような取引を利益相反取引として、承認手続による規制を置いています。
利益相反取引は、論文式試験で繰り返し問われてきた重要分野です。
本記事では、規制の対象となる取引の範囲、承認の手続、そして承認を受けない取引の効力を、判例を踏まえて解説します。
この記事で学べること
- 【初級】利益相反取引規制の趣旨と全体像(356条1項2号・3号、365条)
- 【初中級】直接取引・間接取引の意義と具体例
- 【中級】承認の手続・事後の報告と、承認を要しない取引
- 【中上級】承認を受けない取引の効力(相対的無効。最大判昭和43年12月25日)
- 【中上級】手形行為と利益相反取引(最大判昭和46年10月13日)
第1章 利益相反取引規制の全体像
1-1 規制の趣旨と構造
取締役が利益相反取引をしようとするときは、株主総会(取締役会設置会社では取締役会)において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければなりません(会社法356条1項・365条1項)。
規制の趣旨は、会社と取締役の利害が対立する状況の下で、取締役が会社の利益を犠牲にして自己または第三者の利益を図ることを防止し、会社の利益を保護する点にあります。
なお、356条1項は、利益相反取引(同項2号・3号)と並んで、取締役が会社の事業の部類に属する取引を行う場合(競業取引。同項1号)についても同様の承認を要求しています。
競業取引は、会社の取引先や事業上の機会を奪う形での利益衝突を規制するものであり、本記事では会社との取引における利益衝突を規制する利益相反取引を中心に解説します。
1-2 直接取引(356条1項2号)
直接取引とは、取締役が自己または第三者のために会社と取引をする場合をいいます(356条1項2号)。
「自己又は第三者のために」の意義については、取引の経済的利益の帰属を基準とする見解(計算説)もありますが、規制の適用範囲の明確性の観点から、自己の名においてまたは第三者の代理人・代表者として取引の当事者となることをいうと解するのが通説です(名義説)。
典型例は、取締役が会社から財産を買い受ける場合や、会社から金銭の貸付けを受ける場合です。
また、取締役がA社・B社双方の代表取締役を兼ねている場合に、その取締役が双方を代表して(あるいは一方の当事者かつ他方の代表者として)取引をするときも、直接取引にあたります。
また、取引とは契約に限られません。
たとえば、会社が取締役の会社に対する債務を免除する行為は、会社の一方的な意思表示(単独行為)ですが、会社の財産を一方的に減少させて取締役に利益を与えるものですから、直接取引として承認を要すると解されています。
1-3 間接取引(356条1項3号)
間接取引とは、会社が取締役以外の者との間でする取引であって、会社と取締役の利益が相反するものをいいます(356条1項3号)。
典型例は、会社が取締役個人の債務について債権者との間で保証契約を締結する場合であり、判例も、会社による取締役の債務の保証は承認を要する取引にあたるとしています(最大判昭和43年12月25日民集22巻13号3511頁)。
そのほか、取締役の債務の引受けや、取締役の債務のための担保提供も間接取引にあたります。
間接取引の範囲は、文言上必ずしも明確ではありませんが、規制の趣旨が取締役による会社利益の犠牲の防止にあることに加え、取引の相手方の予測可能性・法的安定性の観点から、契約の構造上、会社の犠牲において取締役に利益が生じる関係が外形的・客観的に認められる取引をいうと解されています。
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類型 |
意義 |
具体例 |
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直接取引(2号) |
取締役が自己または第三者のために会社と取引をする場合 |
会社財産の譲受け、会社からの金銭借入れ、双方代表による取引 |
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間接取引(3号) |
会社と第三者との取引で、会社と取締役の利益が外形的・客観的に相反するもの |
会社による取締役の債務の保証・引受け、担保提供 |
第2章 承認の手続と承認を要しない取引
2-1 重要な事実の開示と承認
承認を受けるには、当該取引につき重要な事実を開示しなければなりません(356条1項柱書)。
取引が会社に及ぼす影響を判断するための情報を提供し、承認の是非を実質的に検討させる趣旨です。
したがって、取引の相手方、目的物、価格、期間など、会社への影響の判断に必要な事項の開示が求められます。
同種の取引が反復継続して行われる場合には、取引の種類・数量・限度額等を特定した包括的な承認も可能と解されています。
また、取締役会の承認決議において、当該利益相反取締役は特別の利害関係を有する取締役(369条2項)にあたり、議決に加わることができません。
承認は事前に受けるのが原則ですが、事後の承認(追認)も可能と解されています。
事後に承認された場合、当該取引は遡って有効に確定します。
もっとも、事後の承認に期待して承認なく取引をすることは、後述する任務懈怠責任のリスクを伴う点に注意が必要です。
2-2 事後の報告
取締役会設置会社では、利益相反取引をした取締役は、取引の後、遅滞なく、当該取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければなりません(365条2項)。
承認した取引が承認の内容どおりに実行されたかを取締役会に監督させる趣旨です。
2-3 承認を要しない取引
規制の趣旨が会社の利益の保護にある以上、定型的にみて会社に損害が生じるおそれのない取引については、承認は不要と解されています。
判例上、会社が取締役から無利息・無担保で金銭の貸付けを受ける場合には承認を要しないとされています(最判昭和38年12月6日民集17巻12号1664頁)。
債務の履行や、普通取引約款に基づく定型的な取引(運送契約・預金契約等)も同様です。
また、規制は会社、ひいては株主の利益を保護するためのものですから、株主の保護を問題にする必要がない場合にも承認は不要です。
判例は、取締役が会社の全株式を所有し、会社の営業が実質上その取締役の個人経営のものにすぎないとき(いわゆる一人会社)は、取引によって両者の間に実質的に利害相反する関係を生じないとして、承認を不要としています(最判昭和45年8月20日民集24巻9号1305頁)。
さらに、株主全員の合意がある場合にも、承認は不要とされています(最判昭和49年9月26日民集28巻6号1283頁)。
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承認が不要とされる場合 |
理由 |
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無利息・無担保の貸付けを会社が受ける場合、債務の履行、約款に基づく定型取引 |
定型的にみて会社に損害が生じるおそれがない |
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一人会社における一人株主たる取締役との取引、株主全員の合意がある取引 |
保護すべき株主の利益の侵害がない |
第3章 承認を受けない取引の効力
3-1 当事者間(会社・取締役間)の効力
承認を受けないでされた利益相反取引の効力について、会社法に直接の規定はありません。
もっとも、承認を受けた取引について民法108条(自己契約・双方代理等の禁止)の適用を除外する356条2項の反対解釈から、承認のない取引は無権代理行為に準じて無効と解されています。
したがって、会社は、取引の相手方である取締役に対しては、承認の欠缺を理由として取引の無効を主張できます。
直接取引の当事者である取締役を、取引の安全の名の下に保護する必要はないからです。
なお、平成29年の民法改正により、自己契約・双方代理のほか利益相反行為一般について、本人があらかじめ許諾したものを除き無権代理行為とみなす旨の規定が設けられました(民法108条2項)。
承認のない利益相反取引を無権代理に準じて無効とする上記の理解は、この改正後の民法の規律とも整合するものです。
3-2 第三者との関係(相対的無効)
これに対し、取引の効果が第三者に及ぶ場合には、取引の安全への配慮が必要です。
判例は、会社が取締役の債務を保証した事案(間接取引)において、会社が保証契約の無効を相手方である債権者に主張するには、取締役会の承認を受けなかったことに加えて、相手方である第三者が承認の欠缺について悪意であったことを、会社の側で主張・立証しなければならないとしています(前掲最大判昭和43年12月25日)。
これを相対的無効説と呼びます。
なお、学説には、悪意と同視できる重過失ある第三者にも無効を主張できるとする見解が有力です。
3-3 手形行為と利益相反取引
会社が取締役に宛てて約束手形を振り出す行為が利益相反取引にあたるかについて、判例は、手形行為は手形授受の原因となった債務とは別個の新たな債務を負担させる行為であり、しかも手形上の債務は支払拒絶の抗弁が制限されるなど原因債務よりも厳格な責任である以上、会社に新たな不利益を生じさせ得るものとして、承認を要する取引にあたるとしています(最大判昭和46年10月13日民集25巻7号900頁)。
そのうえで、当該手形が第三者に裏書譲渡された場合には、会社は、承認の欠缺につき悪意の手形所持人に対してのみ、振出しの無効を対抗できるとして、相対的無効の枠組みで処理しています。
3-4 無効を主張できる者
無効を主張できるのは、原則として会社の側のみです。
判例は、利益相反取引規制が会社の利益保護を目的とすることから、取引の相手方である取締役の側から、承認の欠缺を理由に取引の無効を主張することは許されないとしています(最判昭和48年12月11日)。
取引が自己に不利になったことを理由に、規制違反をした取締役自身が取引を覆すことを認めるのは、規制の趣旨に反するからです。
第4章 利益相反取引と取締役の責任
利益相反取引によって会社に損害が生じた場合、関与した取締役は、会社に対して任務懈怠責任(423条1項)を負い得ます。
この場合、(一)356条1項の取締役(利益相反取締役)、(二)会社が当該取引をすることを決定した取締役、(三)承認決議に賛成した取締役は、その任務を怠ったものと推定されます(423条3項)。
承認を受けたかどうかにかかわらず、損害が生じれば推定が働く点が重要です。
さらに、自己のために会社と直接取引をした取締役は、任務懈怠が自己の責めに帰することができない事由によるものであることをもって責任を免れることができず(428条1項)、責任の一部免除の規定も適用されません(428条2項)。
利益相反取引の中でも最も弊害の大きい類型について、特に厳格な責任を課す趣旨です。
任務懈怠責任の全体像は、次回の記事で詳しく解説します。
【会社法入門13】役員等の会社に対する責任|任務懈怠責任を体系的に解説
なお、利益相反取引を承認した取締役会の構成員についても、承認の判断や取引後の監視を怠れば、任務懈怠責任を問われ得ます。
承認はあくまで取引を適法に行うための手続であって、取引によって会社に生じた損害についての責任を当然に免れさせるものではない点に注意してください。
第5章 試験答案の構成方法
5-1 利益相反取引の事案
会社と取締役の利害が絡む取引の効力が問われる事案では、以下の流れで答案を構成することが考えられます。
直接取引にあたらない場合でも、間接取引該当性の検討を忘れない点がポイントです。
【答案構成の流れ】
- 問題提起:本件取引は利益相反取引(356条1項2号・3号)にあたり、承認を欠く本件取引の効力が問題となる
- 直接取引該当性:取締役が自己または第三者のために(=当事者として、または第三者の代表者・代理人として)会社と取引をしたか(356条1項2号)を検討する
- 間接取引該当性:直接取引にあたらない場合、会社と第三者との取引について、会社の犠牲において取締役に利益が生じる関係が外形的・客観的に認められるか(356条1項3号)を検討する
- 承認の有無:重要な事実を開示したうえでの株主総会(取締役会設置会社では取締役会)の承認(356条1項・365条1項)の有無を確認する。承認不要の場合(一人会社・株主全員の合意等)にあたらないかにも注意する
- 無承認の効果:当事者である取締役に対しては無効を主張できる。第三者に対しては、承認の欠缺につき第三者が悪意であることを会社が主張・立証して初めて無効を主張できる(相対的無効。最大判昭和43年12月25日)
- 結論:本件取引の効力を結論づける。設問に応じて、取締役の任務懈怠責任(423条1項・3項、428条)にも言及する
まとめ
利益相反取引について、本記事では以下の点を解説しました。
- 利益相反取引をしようとする取締役は、重要な事実を開示し、株主総会(取締役会設置会社では取締役会)の承認を受けなければならない(356条1項・365条1項)
- 直接取引(356条1項2号)は取締役が自己または第三者のために会社と取引をする場合であり、間接取引(同項3号)は会社と第三者との取引で会社と取締役の利益が外形的・客観的に相反するもの(保証・担保提供等)である
- 定型的にみて会社に損害が生じるおそれのない取引(無利息・無担保の借入れ等。最判昭和38年12月6日)や、一人会社における取引(最判昭和45年8月20日)、株主全員の合意がある取引(最判昭和49年9月26日)には、承認を要しない
- 承認を受けない取引について、会社は当事者である取締役には無効を主張できるが、第三者に対しては、承認の欠缺につき第三者が悪意であることを主張・立証して初めて無効を主張できる(最大判昭和43年12月25日)
- 会社が取締役に宛てて手形を振り出す行為も承認を要する取引にあたる(最大判昭和46年10月13日)
- 無効の主張は会社の側からのみ許され、取締役の側からの主張は許されない(最判昭和48年12月11日)
- 利益相反取引により会社に損害が生じた場合、関与した取締役の任務懈怠が推定され(423条3項)、自己のための直接取引については無過失責任とされる(428条1項)
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