【民法物権入門1】所有権・占有・共有の基礎を判例で総まとめ
目次
この記事を読んで理解できること
- 所有権──物に対する全面的支配権
- 占有──事実上の支配を保護する
- 共有──複数人で物を持つ
- 試験答案の構成方法
「自分の物を他人が勝手に持っていってしまったら、当然に取り返せるの?」
「ただ『占有しているだけ』で、何か法律上の意味があるの?」
「友人と一台の車を共同で買ったら、その車はどう使って、どうやって手放すの?」
民法を学び始めると、まずこうした素朴な疑問に出会います。
物に対する直接的・排他的な支配権を物権といい、その典型が所有権です。
もっとも民法は、所有権という「本来あるべき権利」だけでなく、現に物を支配しているという事実状態(占有)そのものにも独自の保護を与え、さらに一つの物を複数人で持ち合う共同所有(共有)の関係も規律しています。
本記事では、物権の入口にあたる所有権・占有・共有の三つを、判例に即して整理します。
とくに共有は、令和三年改正(令和五年四月施行)で使用・管理・変更のルールが大きく変わったため、現行条文に沿って解説します。
この記事で学べること
- 【初級】所有権の意義と取得(原始取得と承継取得)
- 【初級】占有の成立要件(自己のためにする意思と所持。民法180条)
- 【初中級】自主占有と他主占有の区別と「所有の意思」の判断方法
- 【中級】相続と「新たな権原」による自主占有への転換(185条)
- 【中級】占有訴権(占有保持・占有保全・占有回収の訴え)
- 【中上級】共有物の使用・管理・変更の振り分けと令和三年改正
- 【中上級】共有物分割の方法と全面的価格賠償
第1章 所有権──物に対する全面的支配権
1-1 所有権の意義
所有権とは、法令の制限内において、物を自由に使用・収益・処分することができる権利です(民法206条)。
物の使用価値と交換価値の双方を全面的に支配する点で、利用価値だけを支配する用益物権(地上権など)や、交換価値だけを把握する担保物権(抵当権など)と区別される、もっとも完全な物権です。
もっとも所有権も無制限ではなく、相隣関係(209条以下)をはじめとする法令上の制約に服します。
1-2 所有権の取得──原始取得と承継取得
所有権の取得は、前主の権利を引き継ぐ承継取得(売買・相続など)と、前主の権利とは無関係に新たに権利が発生する原始取得(取得時効、即時取得、無主物先占〔239条〕、遺失物拾得〔240条〕、埋蔵物発見〔241条〕、添付〔242条以下〕など)に大別されます。
このうち添付とは、所有者を異にする二個以上の物が結合して一個の物になり、または他人の物に工作が加えられて新たな物が生じる場合をいいます。
たとえば不動産に動産が結合して分離が社会経済上著しく不合理になると、動産の所有権は不動産に吸収されます(不動産の付合。242条本文)。
ただし、権原に基づいて附属させた物で、構造上・取引上の独立性を保つ弱い付合にとどまる場合には吸収されません(同条但書)。
動産同士の付合(243条)、混和(245条)、加工(246条)にもそれぞれ準則があり、これによって権利を失った者は、その価額の償還を請求できます(248条)。
第2章 占有──事実上の支配を保護する
2-1 占有の成立(180条)
占有権は、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得されます(180条)。
民法は、物に対する現実の支配という事実状態そのものを保護するため、その支配をしている者の地位に権利性を認めました。
重要なのは、占有が、その占有を正当化する権利(所有権・賃借権などの本権)の有無とは無関係に成立する点です。
物の盗取者であっても、盗品についての占有という物権を有します。
事実状態をひとまず保護し、本権の有無は別途確定するという発想です。
2-2 自主占有と他主占有
占有には、所有の意思のある占有(自主占有)と、所有の意思のない占有(他主占有)とがあります。
2-3 相続と「新たな権原」(185条)
他主占有は、占有者が所有の意思を表示したとき、または「新たな権原」により所有の意思で占有を開始したときに、自主占有へと転換します(185条)。
2-4 占有の効力と占有訴権
占有には、占有者が占有物の上に行使する権利を適法に有すると推定する権利適法の推定(188条)など、各種の効力が認められます。
さらに重要なのが占有訴権です。
占有が侵害され、またはそのおそれがある場合に、占有者は、侵害の停止・予防・回復を求めることができます。
具体的には、占有が妨害されたときの占有保持の訴え(198条)、妨害のおそれがあるときの占有保全の訴え(199条)、占有を奪われたときの占有回収の訴え(200条)の三つです。
占有回収の訴えは、自己の意思に基づかずに所持を奪われたこと(侵奪)が要件であり、だまし取られた場合や占有改定で観念的に占有を失った場合は含まれません。
第3章 共有──複数人で物を持つ
3-1 共有・合有・総有
複数人による共同所有には、三つの形態があります。
各自の持分が顕在化している共有(民法典上の「共有」)、各自に持分はあるが潜在的にとどまる合有(組合財産〔668条〕)、各自に持分のない総有(入会財産)です。
民法が物権編で定めるのは、持分処分の自由と分割請求の自由が認められる、第一の意味での共有です。
3-2 持分と持分権
持分とは、各共有者が共有物に対して有する全面的支配の割合をいい、不明な場合は平等と推定されます(250条)。
3-3 使用・管理・変更の振り分け(令和三年改正)
共有物をめぐる共有者間のルールは、行為の重さに応じて三段階に振り分けられます。
|
行為の類型 |
内容の例 |
必要な同意 |
|
変更(軽微変更を除く) |
共有物の物理的変更・処分、長期の賃貸借設定 |
共有者全員の同意(251条1項) |
|
軽微変更・管理 |
形状等の著しい変更を伴わない変更、短期賃貸借、管理者の選解任 |
持分価格の過半数(251条1項括弧書・252条1項) |
|
保存 |
現状維持行為(修繕、不実登記の抹消請求など) |
各共有者が単独で可(252条5項) |
なお、共有者の一人が共有物を独占的に使用している場合でも、他の共有者は当然には明渡しを請求できません。
使用している者も持分に基づく使用権限を有するからです。
もっとも、自己の持分を超える使用については対価償還義務を負い(249条2項)、持分侵害を理由とする損害賠償請求は可能です。
共有物を使用する共有者は、善良な管理者の注意をもって使用しなければなりません(同条3項)。
3-4 共有物の分割
共有は暫定的な状態と位置づけられ、各共有者はいつでも分割を請求できます(256条1項本文)。
第4章 試験答案の構成方法
4-1 共有者の一人が共有物を独占しているケース
〔問題提起〕共有者の一人が共有物全部を独占使用しているとき、他の共有者は明渡しを請求できるか。
〔規範定立〕共有持分権は持分割合に応じた共有物全部の使用を可能にする権利であるから明渡請求ができるとも思えるが、独占使用している者もまた共有者であり、明渡しを認めるとその者の使用権限まで奪うことになる。したがって、他の共有者は当然には明渡しを請求できない。
〔判断基準・あてはめ〕もっとも、持分を超える使用については対価償還義務(249条2項)を負い、持分侵害を理由とする損害賠償請求は妨げられない。事案では、独占の態様・期間・持分割合を踏まえ、明渡しの可否と損害賠償の範囲を分けて検討する。
〔結論〕当然の明渡請求は否定しつつ、損害賠償等で調整する。
4-2 相続人による取得時効が問われるケース
〔問題提起〕被相続人が他主占有していた物を相続した相続人が、自己の占有による取得時効を主張できるか。相続が「新たな権原」(185条)にあたり自主占有への転換が認められるかが問題となる。
〔規範定立〕常に否定すれば事実状態尊重の趣旨に反し、常に肯定すれば真の権利者の時効中断の機会を奪う。そこで、①相続人が相続財産を新たに事実上支配して占有を開始し、②外形的・客観的にみて所有の意思があると認められる場合に、相続が新権原にあたる。
〔判断基準・あてはめ〕この場合、所有の意思の推定は前提とされず、占有者である相続人の側で、自己の支配が外形的・客観的に独自の所有の意思に基づくことを立証しなければならない。固定資産税の負担、占有の態様、相続人の認識などを具体的に拾う。
〔結論〕右の二要件と立証を満たせば、相続人は自己固有の占有による取得時効を主張できる。
まとめ
- 所有権は使用・収益・処分の全面的支配権であり、取得には承継取得と原始取得(添付等)がある。
- 占有は本権の有無と無関係に成立し、自主占有か他主占有かは権原・事情から客観的に判断する。
- 相続は、相続人の事実的支配と所有の意思が認められれば「新たな権原」(185条)にあたる。
- 占有訴権には占有保持・占有保全・占有回収の訴えがあり、回収の訴えは侵奪が要件。
- 共有は変更・軽微変更/管理・保存の三段階で振り分け、令和三年改正後の条文に注意する。
- 共有物分割は現物分割・賠償分割が原則で、要件を満たせば全面的価格賠償も認められる。
▼ 民法物権入門シリーズ
この講座の記事は下記よりまとめてご覧いただけます。
▶ 民法物権入門シリーズの全記事一覧


コメント