【会社法入門13】役員等の会社に対する責任|任務懈怠責任を体系的に解説

監修者
講師 赤坂けい
株式会社ヨビワン
講師 赤坂けい
【会社法入門13】役員等の会社に対する責任|任務懈怠責任を体系的に解説
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チェック
この記事を読んで理解できること
  • 任務懈怠責任の意義と要件
  • 経営判断の誤りと任務懈怠(経営判断原則)
  • 法令違反と任務懈怠
  • 監視義務・内部統制システム構築義務
  • 責任の免除・軽減
  • 試験答案の構成方法

「経営判断に失敗して会社に損害を与えた取締役は、必ず賠償責任を負うの?」

「部下や他の取締役の不正を見抜けなかった取締役にも、責任はあるの?」

「取締役の責任は、後から免除したり軽くしたりできるの?」

会社法を学ぶ中で、こうした疑問を持った方は多いのではないでしょうか。

役員等の会社に対する任務懈怠責任(会社法423条1項)は、会社法の論文式試験で最も出題頻度の高い分野の一つです。

事案中の取締役の行為を拾い上げ、善管注意義務違反の有無を経営判断原則などの枠組みに当てはめて論じる力が問われます。

本記事では、任務懈怠責任の要件を確認したうえで、任務懈怠の有無が問題となる三つの典型場面(経営判断、法令違反、監視・内部統制)を判例に即して解説し、最後に責任の免除・軽減の制度を整理します。

この記事で学べること

  • 【初級】任務懈怠責任(423条1項)の意義と要件
  • 【初中級】善管注意義務・忠実義務と任務懈怠の関係
  • 【中級】経営判断原則(最判平成22年7月15日)の判断枠組み
  • 【中級】法令違反と任務懈怠(最判平成12年7月7日)
  • 【中上級】監視義務と内部統制システム構築義務(最判平成21年7月9日)
  • 【中上級】責任の免除・軽減(424条〜427条)と補償契約・D&O保険

第1章 任務懈怠責任の意義と要件

1-1 意義

役員等は、その任務を怠ったときは、会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負います(423条1項)。

「役員等」とは、取締役、会計参与、監査役、執行役および会計監査人をいいます(同項かっこ書)。

会社の経営を委ねられた者に対し、その職務の適正な遂行を担保する、責任制度の中核となる規定です。

1-2 要件と立証責任

任務懈怠責任の要件は、(一)役員等であること、(二)任務懈怠、(三)任務懈怠についての帰責事由(故意・過失)、(四)損害の発生、(五)任務懈怠と損害との因果関係、の五つに整理できます。

本責任は、会社と役員等との委任関係(330条)上の債務の不履行責任としての性質を有します。

そこで、債務不履行の一般原則に従い、任務懈怠・損害・因果関係は責任を追及する側(会社・株主)が主張・立証し、帰責事由が存在しないことは役員等の側が主張・立証すべきものと解されています。

自己のために直接取引をした取締役が帰責事由の不存在を理由に免責されない旨を定める428条1項は、この構造を前提とした規定です。

なお、競業取引(356条1項1号)の規制に違反した場合には取締役等が得た利益の額が損害の額と推定され(423条2項)、利益相反取引によって会社に損害が生じた場合には関与した取締役等の任務懈怠が推定されます(423条3項)。

後者は前回の記事で解説したとおりです。

【会社法入門12】利益相反取引の要件と効果の基礎解説

1-3 善管注意義務と忠実義務

任務懈怠の中心は、善管注意義務(330条、民法644条)または忠実義務(355条)の違反です。

両者の関係について、判例は、忠実義務は「民法644条に定める善管義務を敷衍し、かつ一層明確にしたにとどまる」ものであって、通常の委任関係に伴う注意義務とは別個の高度な義務を規定したものではないとしています(最大判昭和45年6月24日民集24巻6号625頁。同質説)。

もっとも、講学上は、職務遂行に求められる注意の水準の問題(善管注意義務)と、会社の利益と自己の利益が衝突する場面で会社の利益を優先すべき義務(忠実義務)とを区別して整理することが有益です。

任務懈怠が問題となる場面も、(一)経営判断の誤り、(二)法令違反、(三)他の取締役・従業員に対する監視・監督の懈怠、の三つに大別して検討するのが答案上も便利です。

第2章 経営判断の誤りと任務懈怠(経営判断原則)

2-1 経営判断原則の趣旨

会社の経営には、リスクを取って利益を追求するという性質が不可避的に伴います。

結果として損害が生じたことから直ちに取締役の責任を認めるならば、取締役は萎縮し、かえって会社・株主の利益を害します。

また、株主も、経営判断には失敗のリスクがあることを織り込んで投資をしています。

そこで、取締役の経営上の判断には広い裁量が認められ、裁判所はその当否に過度に立ち入らないという考え方が採られています。

これを経営判断原則と呼びます。

2-2 判例の判断枠組み

判例は、子会社株式の買取価格の決定が問題となった事案において、この種の判断は将来予測にわたる経営上の専門的判断に委ねられているとしたうえで、「その決定の過程、内容に著しく不合理な点がない限り、取締役としての善管注意義務に違反するものではない」としています(最判平成22年7月15日判時2091号90頁)。

同事案では、買取りの必要性の検討が経営会議で行われ、弁護士の意見も聴取されていたこと等から、決定の過程・内容に著しく不合理な点はないとして、責任が否定されました。

2-3 検討の視点

下級審裁判例の蓄積も踏まえると、検討の視点は、(一)判断の前提となった事実の認識(情報収集・調査・分析)に著しい不注意がなかったか、(二)その事実認識に基づく意思決定の過程および内容が、当該会社の属する業界における通常の経営者を基準として著しく不合理でなかったか、という二点に整理できます。

事実認識の過程は相対的に厳格に、判断の内容は緩やかに審査することで、裁判所が経営の当否そのものに介入することを避ける趣旨です。

あてはめでは、行為の時点を基準とすること(結果論で判断しないこと)、社内の審議の経過、専門家の意見聴取の有無、判断の前提資料の正確性などの事情を具体的に拾うことが重要です。

なお、利益相反など取締役の利害が絡む行為には、経営判断原則は適用されません。

リスクを取る裁量を保護するという同原則の前提を欠くからです。

第3章 法令違反と任務懈怠

3-1 「法令」の意義

取締役は、職務を行うにつき法令を遵守する義務を負います(355条参照)。

それでは、ここでいう法令には、会社法以外の、会社を名宛人とする法令(独占禁止法など)も含まれるのでしょうか。

判例は、証券会社による損失補填が独占禁止法に違反するとされた事案において、会社を名宛人とし、会社がその業務を行うに際して遵守すべきすべての規定が「法令」に含まれるとしています(最判平成12年7月7日民集54巻6号1767頁)。

会社が法令を遵守すべきことは当然であり、取締役は、会社をして法令に違反させることのないようにする義務を負うからです。

したがって、具体的な法令に違反する行為は、それが会社の利益のために行われたものであっても任務懈怠となります。

3-2 帰責事由による限定

もっとも、任務懈怠責任の追及には帰責事由(故意・過失)が必要です。

前掲最判平成12年7月7日は、損失補填が独占禁止法の禁止する不公正な取引方法に該当するとの解釈が当時一般的でなかった等の事情の下では、取締役が独占禁止法違反を認識し得なかったことにつき過失はないとして、結論として責任を否定しました。

法令違反による任務懈怠の検討では、(一)法令違反該当性と、(二)違反についての故意・過失とを区別して論じることがポイントです。

第4章 監視義務・内部統制システム構築義務

4-1 取締役の監視義務

取締役会は取締役の職務執行を監督する権限を有しますが(362条2項2号)、個々の取締役にも、その構成員として、他の取締役の職務執行を監視する義務(監視義務)が認められています。

判例は、旧商法下において、取締役は「取締役会を構成する取締役は、会社に対し、取締役会に上程された事柄についてだけ監視するにとどまらず、代表取締役の業務執行一般につき、これを監視し」、必要があれば取締役会を自ら招集し、または招集を求めて、取締役会を通じて業務執行が適正に行われるようにする職務を有するとしています(最判昭和48年5月22日民集27巻5号655頁)。

各取締役には取締役会の招集権(366条)が認められている以上、監視の対象は取締役会に上程された事項に限られないのです。

4-2 内部統制システム構築義務

もっとも、一定規模以上の会社では、取締役が会社の業務の隅々まで自ら監視することは現実的ではありません。

そこで、取締役の職務の執行が法令・定款に適合することを確保するための体制その他会社の業務の適正を確保するために必要な体制(いわゆる内部統制システム)の整備が求められます。

その大綱の決定は取締役会の専決事項であり(362条4項6号)、大会社では決定が義務づけられています(362条5項)。

取締役は、善管注意義務の一内容として、(一)会社の規模・事業内容等に応じた適切な内部統制システムを構築し、(二)これを通じて業務執行を監視すべき義務を負うと解されています。

構築すべき体制の水準について、判例は、従業員が注文書や検収書等を偽造して架空売上げを計上していた事案において、会社が通常想定される不正行為を防止し得る程度の管理体制を整えていたこと、問題の不正行為は通常容易に想定し難い方法によるものであったこと等を指摘して、代表取締役の責任を否定しています(最判平成21年7月9日判時2055号147頁)。

すなわち、要求されるのは通常想定される不正行為を防止し得る程度の体制であり、巧妙に偽装された通常想定し難い不正までも防止できる体制ではありません。

また、関連して、取締役は、他の取締役や従業員の報告について、特に疑念を差し挟むべき事情がない限り、それを信頼することが許されると解されています(信頼の原則)。

職務の分担を前提とする会社組織において、すべての情報を各取締役が自ら検証することは期待できないからです。

任務懈怠が問題となる場面

判断の枠組み

経営判断の誤り

決定の過程・内容に著しく不合理な点がない限り、善管注意義務違反とならない(最判平成22年7月15日)

法令違反

直ちに任務懈怠となる(経営判断原則の適用なし)。

ただし違反につき故意・過失が必要(最判平成12年7月7日)

監視・内部統制の懈怠

監視義務は上程事項に限られない(最判昭和48年5月22日)。

通常想定される不正行為を防止し得る程度の体制を整えていれば義務違反なし(最判平成21年7月9日)

第5章 責任の免除・軽減

5-1 総株主の同意による免除

任務懈怠責任は、総株主の同意がなければ免除することができません(424条)。

役員等の責任追及は最終的には株主全体の利益のための制度だからです。

もっとも、株主数の多い会社で総株主の同意を得ることは事実上不可能であるため、会社法は以下の責任軽減の制度を用意しています。

5-2 責任の一部免除

役員等が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないときは、賠償責任額から最低責任限度額(報酬等の、代表取締役・代表執行役は六年分、業務執行取締役・執行役は四年分、それ以外の役員等は二年分)を控除した額を限度として、責任の一部を免除することができます。

その方法として、(一)株主総会の特別決議による免除(425条)、(二)定款の定めに基づく取締役会決議等による免除(426条)、(三)業務執行取締役等以外の役員等との間で、定款の定めに基づきあらかじめ締結する責任限定契約(427条)の三つがあります。

制度

要件の概要

総株主の同意(424条)

全部免除が可能

株主総会の特別決議(425条)

善意・無重過失。

最低責任限度額を超える部分を免除

定款+取締役会決議等(426条)

善意・無重過失。

あらかじめ定款の定めが必要

責任限定契約(427条)

非業務執行取締役等のみ。

善意・無重過失。

定款の定めに基づき事前に締結

なお、自己のために直接取引をした取締役の責任については、これらの一部免除の規定は適用されません(428条2項)。

また、責任を負う役員等が複数いる場合、その損害賠償債務は連帯債務となります(430条)。

5-3 補償契約とD&O保険

令和元年の会社法改正により、会社が役員等との間で防御費用や第三者への賠償金等を補償する契約(補償契約。

430条の2)と、役員等賠償責任保険(いわゆるD&O保険。

430条の3)に関する規定が整備されました。

注意すべきは、補償契約によっても、役員等が会社に対して負う任務懈怠責任そのものを会社が補償することはできない点です。

これに対し、D&O保険では、契約内容次第で会社に対する責任もてん補の対象とすることができます。

第6章 試験答案の構成方法

6-1 経営判断型の事案

取締役の経営判断の失敗について423条1項の責任を検討する事案では、以下の流れで答案を構成することが考えられます。

【答案構成の流れ】

  • 問題提起:取締役は、会社に対し423条1項に基づく損害賠償責任を負うか。本件判断が「任務を怠った」(任務懈怠)にあたるか、善管注意義務(330条、民法644条)違反の有無が問題となる
  • 規範定立:会社経営には不可避的にリスクが伴い、結果責任を問えば経営判断が萎縮するから、取締役の経営判断には裁量が認められる。そこで、判断の前提となった事実の認識に著しい不注意がなく、その事実に基づく意思決定の過程・内容が通常の経営者を基準として著しく不合理でない限り、善管注意義務違反とはならない
  • あてはめ:行為時を基準として、情報収集・調査の程度、社内手続(取締役会・経営会議での審議)、専門家の意見聴取、判断内容の合理性を具体的に検討する
  • 他の要件:任務懈怠が認められる場合、帰責事由、損害の発生およびその額、因果関係を検討する
  • 結論:責任の有無を結論づける。設問に応じて責任の一部免除(425条〜427条)の可否にも言及する

6-2 監視義務・内部統制型の事案

従業員や他の取締役の不正により会社に損害が生じた事案では、(一)当該取締役が監視義務を負うこと(362条2項2号・366条を根拠とする論証)を示したうえで、(二)大会社であれば内部統制システムの整備義務(362条4項6号・5項)に言及し、(三)通常想定される不正行為を防止し得る程度の体制が構築・運用されていたか、(四)不正を疑うべき特段の事情があったのに放置しなかったか、を順に検討します。

義務違反が認められる場合も、防止できたといえる範囲の損害についてのみ因果関係が認められる点に注意が必要です。

まとめ

役員等の会社に対する任務懈怠責任について、本記事では以下の点を解説しました。

  • 役員等(取締役・会計参与・監査役・執行役・会計監査人)は、任務懈怠により会社に生じた損害の賠償責任を負う(423条1項)。要件は任務懈怠・帰責事由・損害・因果関係である
  • 忠実義務(355条)は善管注意義務(330条、民法644条)を敷衍し明確にしたものである(最大判昭和45年6月24日)
  • 経営判断については、決定の過程・内容に著しく不合理な点がない限り、善管注意義務違反とならない(最判平成22年7月15日)
  • 「法令」には会社がその業務を行うに際して遵守すべきすべての規定が含まれ、法令違反行為は任務懈怠となるが、責任の追及には違反についての故意・過失が必要である(最判平成12年7月7日)
  • 取締役の監視義務は取締役会に上程された事項に限られない(最判昭和48年5月22日)。内部統制については、通常想定される不正行為を防止し得る程度の管理体制を整えていれば義務違反とならない(最判平成21年7月9日)
  • 責任の免除には総株主の同意が必要であり(424条)、善意・無重過失の役員等については最低責任限度額までの一部免除の制度がある(425条〜427条)
  • 自己のための直接取引による責任は無過失責任であり、一部免除もできない(428条)
  • 令和元年改正により補償契約(430条の2)とD&O保険(430条の3)の規定が整備された

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