【刑事訴訟法入門15】公判前整理手続の意義と証拠開示制度を解説

監修者
講師 赤坂けい
株式会社ヨビワン
講師 赤坂けい
【刑事訴訟法入門15】公判前整理手続の意義と証拠開示制度を解説
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チェック
この記事を読んで理解できること
  • 公判前整理手続の意義
  • 公判前整理手続の内容
  • 三段階の証拠開示制度
  • 公判前整理手続後の制限
  • 試験答案の構成方法

「公判前整理手続って何のためにあるの?」

「証拠開示制度の三段階ってどういう仕組み?」

「公判前整理手続の後に新しい証拠を請求できるの?」

刑事訴訟法を学ぶ中で、こうした疑問を持った方は多いのではないでしょうか。

公判前整理手続とは、第一回公判期日前に、当事者双方が事件の争点を明らかにし、証拠を整理することによって、充実した公判の審理を継続的、計画的かつ迅速に行うことができるようにするための手続です(刑訴法316条の2第1項)。

平成16年の刑事訴訟法改正により導入されたこの手続は、裁判員制度の実施に不可欠な基盤として位置づけられており、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(裁判員法)においては、対象事件について公判前整理手続に付することが義務づけられています(裁判員法49条)。

本記事では、公判前整理手続の意義と証拠開示制度の仕組みを整理したうえで、予備試験・司法試験で問われる重要論点を解説します。

この記事で学べること

  • 【初級】公判前整理手続の意義と趣旨
  • 【初中級】公判前整理手続の具体的な流れ
  • 【中級】三段階の証拠開示制度の仕組み
  • 【中上級】公判前整理手続後の証拠調べ請求の制限
  • 【中上級】公判前整理手続後の訴因変更の可否

第1章 公判前整理手続の意義

1-1 制度の趣旨と背景

従来の刑事裁判では、公判期日ごとに当事者が主張と立証を逐次行うことが一般的であり、審理が長期化する傾向がありました。

特に、争点や証拠が整理されないまま公判審理に入ることで、審理計画を立てることが困難となり、結果として裁判の遅延を招いていました。

こうした状況を改善するため、平成16年の刑事訴訟法改正により公判前整理手続が導入されました。

この手続の趣旨は、充実した公判の審理を継続的、計画的かつ迅速に行うことにあります(316条の2第1項)。

公判前整理手続は、裁判員制度の導入と密接に関係しています。

裁判員は一般市民であり、長期間にわたる審理への参加は現実的に困難です。

そのため、公判審理を連日的に開廷して短期間で終結させる必要があり、そのためには事前に争点と証拠を十分に整理しておくことが不可欠となります。

裁判員法49条は、裁判員裁判の対象事件について、公判前整理手続に付さなければならないとしています。

なお、裁判員裁判の対象事件でなくても、裁判所は、充実した公判の審理を継続的、計画的かつ迅速に行うため必要があると認めるときは、検察官、被告人もしくは弁護人の請求により、又は職権で、事件を公判前整理手続に付することができます(316条の2第1項)。

1-2 公判前整理手続の主宰者と出席者

公判前整理手続は、受訴裁判所が主宰します(316条の2第1項)。

手続には、検察官及び弁護人の出席が必要です(316条の4第1項)。

被告人には出席する権利が認められています(316条の9第1項)。

重要なのは、公判前整理手続では証拠調べを行うことができないという点です。

公判前整理手続はあくまで争点と証拠の整理を目的とする手続であり、証拠の取調べ自体は公判期日において行われます。

第2章 公判前整理手続の内容

2-1 手続の流れ

公判前整理手続は、概ね次のような流れで進行します。

段階

内容

第一段階

検察官による証明予定事実の明示・証拠調べ請求(316条の13)

第二段階

検察官請求証拠の開示(316条の14)及び類型証拠の開示(316条の15)

第三段階

被告人又は弁護人による主張の明示(316条の17)

第四段階

主張関連証拠の開示(316条の20)

第五段階

被告人又は弁護人による証拠調べ請求(316条の17第2項)

最終段階

争点及び証拠の整理結果の確認、審理計画の策定(316条の24)

2-2 検察官の証明予定事実の明示

公判前整理手続に付された事件では、まず検察官が、証拠により証明しようとする事実を記載した書面を提出するとともに、証拠調べを請求しなければなりません(316条の13第1項・第2項)。

これにより、弁護人は検察官の立証構造を把握し、その後の防御活動の方針を検討することが可能となります。

証明予定事実記載書面は、検察官が公判において立証しようとする事実の全体像を示すものであり、冒頭陳述に記載すべき事項と対応する内容を含むことが通常です。

この書面により、弁護人は検察官の立証の骨格を事前に把握し、争点となるべき事項を検討することができます。

2-3 弁護人の予定主張の明示

検察官の証拠開示を受けた後、被告人又は弁護人は、公判期日においてする予定の事実上及び法律上の主張があるときは、裁判所及び検察官にこれを明らかにしなければなりません(316条の17第1項)。

これにより、事件の争点が明確化されます。

予定主張の明示は、弁護人にとって重要な意味を持ちます。
弁護人が具体的な主張を明示することで、第三段階の主張関連証拠開示を請求する前提が整うからです。

すなわち、弁護人は主張を明示しなければ主張関連証拠の開示を求めることができず、十分な防御準備を行うことが困難になります。

なお、被告人側には、公判前整理手続において主張を明示する義務がありますが、これは被告人に不利益な供述を強いるものではなく、あくまで防御の方針を示すことを求めるものです。

黙秘権(憲法38条1項、刑訴法311条1項)との関係では、被告人が黙秘すること自体は妨げられません。

第3章 三段階の証拠開示制度

3-1 証拠開示制度の趣旨

公判前整理手続において争点を整理するためには、被告人側が検察官の手持ち証拠の内容を把握し、効果的な防御活動を行えるようにすることが不可欠です。

そこで、平成16年改正により、公判前整理手続に付された事件について、三段階の証拠開示制度が設けられました。

3-2 第一段階──検察官請求証拠の開示

検察官は、証拠調べを請求した証拠について、速やかに、被告人又は弁護人に開示しなければなりません(316条の14第1項)。

これは、検察官が取調べを請求した証拠の内容を弁護人が確認し、同意・不同意の判断や、反対尋問の準備を行うために必要な開示です。

3-3 第二段階──類型証拠の開示

被告人又は弁護人は、検察官請求証拠の開示を受けた後、検察官に対し、316条の15第1項各号に列挙された一定の類型に該当する証拠の開示を請求することができます(316条の15第1項)。

類型証拠の開示については、開示の必要性と弊害を考慮して、相当と認めるときに開示が命じられます(316条の15第1項柱書)。

3-4 第三段階──主張関連証拠の開示

被告人又は弁護人が予定主張を明示した後、被告人又は弁護人は、検察官に対し、その主張に関連する証拠の開示を請求することができます(316条の20第1項)。

主張関連証拠の開示は、被告人側の防御にとって極めて重要です。

弁護人が具体的な主張を明示することで、その主張に関連する証拠の開示を求めることが可能となり、より実質的な防御活動を行うことができるようになります。

主張関連証拠についても、類型証拠と同様に、開示の必要性と弊害を考慮して相当と認めるときに開示が命じられます。

なお、裁判所は、検察官が316条の20第1項の規定による開示をすべき証拠を開示していないと認めるときは、検察官に対しその証拠の開示を命じることができます(316条の26第1項)。

この開示命令は、弁護人による実質的な防御活動を可能とするための重要な制度です。

3-5 証拠開示命令の対象──取調べメモの開示

証拠開示命令の対象となる証拠の範囲が問題となったのが、取調べメモの開示に関する最決平19・12・25刑集61・9・895です。

最高裁は、次のように判示しました。

刑訴法316条の26第1項の証拠開示命令の対象となる証拠は,必ずしも検察官が現に保管している証拠に限られず,当該事件の捜査の過程で作成され,又は入手した書面等であって,公務員が職務上現に保管し,かつ,検察官において入手が容易なものを含む(最決平19・12・25刑集61・9・895)

この判例は、犯罪捜査規範13条に基づき作成された備忘録について、個人的メモの域を超え、捜査関係の公文書に当たるとして、捜査の過程で作成されたものと認定しました。

もっとも、たとえ捜査の過程で作成・入手された資料であっても、当該事件ではなく全く別の事件の捜査過程で作成・入手されたものは開示の対象とはなりません。

また、「専ら自己が使用するために作成したもので、他に見せたり提出したりすることを全く想定していないもの」は、純粋に個人的メモとしておよそ開示対象とはなりません。

さらに、最決平20・9・30刑集62・8・2753は、警察官が私費で購入したノートに記載した取調べメモについても、警察官としての職務の執行のために作成されたものであることから、公的な性質を有し職務上保管されていると判断しました。

宮川裁判官の補足意見は、犯罪捜査規範13条の要件を必ずしも満たさない場合であっても、開示の対象となり得ることを示唆しています。

第4章 公判前整理手続後の制限

4-1 証拠調べ請求の制限

公判前整理手続が終了した後の公判期日においては、やむを得ない事由によって公判前整理手続において請求することができなかったものを除き、証拠調べを請求することができません(316条の32第1項)。

この規定の趣旨は、公判前整理手続において十分な争点及び証拠の整理を行い、充実した審理計画を策定した意義を確保する点にあります。

もっとも、「やむを得ない事由」がある場合には例外が認められます。

やむを得ない事由とは、公判前整理手続の時点では証拠の存在を知らなかった場合や、証拠の重要性を認識することができなかった場合など、公判前整理手続において当該証拠の取調べを請求することが期待できなかった場合をいうと解されています。

例えば、公判前整理手続の終了後に新たな証拠が発見された場合や、公判における証人尋問の結果として新たな事実が判明した場合がこれに該当します。

なお、裁判所は、316条の32第1項の規定にかかわらず、必要と認めるときは、職権で証拠調べをすることができます(316条の32第2項)。

これは、被告人の防御権を保障する観点から、裁判所の職権による証拠調べは制限されていないことを意味します。真実発見の要請と被告人の権利保障の観点から、裁判所は証拠制限に縛られることなく、適正な事実認定を行うことが求められます。

4-2 公判前整理手続後の訴因変更

公判前整理手続後に新事実が発覚し、検察官が訴因変更を請求した場合、このような訴因変更は許されるかという点が問題となります。

この点について判断を示したのが、東京高判平20・11・18です。

公判前整理手続が設けられた趣旨は、当事者双方が公判においてする予定の主張を明らかにし、証拠を整理することによって、充実した公判の審理を継続的、計画的かつ迅速に行うことができるようにした点にあります。

そうだとすれば、公判前整理手続を経た後の公判においては、充実した争点整理や審理計画の策定がされた趣旨を没却するような訴因変更請求は許されないものと考えるべきです。

具体的には、次の要素を総合考慮して判断すべきとされています。

要素

内容

公判前整理手続の中でどの程度詰めた争点及び証拠の整理がなされていたか

訴因変更による新たな証拠調べの負担の程度

裁判員が関与する事件か否か

変更請求がなされた時期

第5章 試験答案の構成方法

5-1 証拠開示をめぐる問題の答案構成

【答案構成の流れ】

・問題提起:当該証拠が証拠開示命令の対象となるか

・規範定立:証拠開示制度の趣旨──争点整理と証拠調べの効率的実施のため、実質的な当事者対等を確保する必要がある

・判断基準:開示命令の対象は、①当該事件の捜査の過程で作成・入手された書面等であって、②公務員が職務上現に保管し、③検察官において入手が容易なものを含む

・あてはめ:当該証拠が上記要件を満たすかを検討する

・結論:開示命令の対象となるか否か

まとめ

公判前整理手続について、本記事では以下の点を解説しました。

公判前整理手続は、充実した公判の審理を継続的、計画的かつ迅速に行うことを目的として、第一回公判期日前に争点と証拠を整理する手続である(316条の2第1項)

裁判員裁判の対象事件については、公判前整理手続に付することが義務づけられている(裁判員法49条)

証拠開示制度は三段階の構造をとり、検察官請求証拠の開示(316条の14)、類型証拠の開示(316条の15)、主張関連証拠の開示(316条の20)からなる

証拠開示命令の対象は、検察官が現に保管する証拠に限られず、当該事件の捜査過程で作成又は入手され、公務員が職務上保管し、検察官において入手が容易なものを含む(最決平19・12・25、最決平20・9・30)

公判前整理手続終了後は、やむを得ない事由がある場合を除き、新たな証拠調べ請求は制限される(316条の32第1項)

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