- 公開日:2026.04.23
- 更新日:2026.04.23
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【刑事訴訟法入門17】同種前科による犯人性立証と判例を解説
目次
この記事を読んで理解できること
- 証拠の関連性
- 最判平24・9・7の判断枠組み
- 推認構造の分析
- 発展的論点
- 試験答案の構成方法
「同種前科があると犯人性が推認されるって本当?」
「類似事実証拠排除法則ってどういうルール?」
「顕著な特徴と相当程度類似ってどう判断するの?」
刑事訴訟法を学ぶ中で、こうした疑問を持った方は多いのではないでしょうか。
同種前科による立証とは、被告人が過去に同種の犯罪を行ったという事実を証拠として、今回の起訴事実における犯人性等を推認しようとする立証方法です。
被告人に同種の前科があるという事実は、被告人が今回の犯罪を行った蓋然性を一定程度高めるものですが、他方で、被告人の悪性格に基づく偏見を生じさせ、不当な事実認定に至る危険もあります。
この問題について正面から判断を示したのが、最判平24・9・7刑集66・9・907です。本記事では、同種前科による立証の許容性と限界について、この判例を中心に解説します。
この記事で学べること
- 【初級】証拠の関連性──自然的関連性と法律的関連性
- 【中級】類似事実証拠排除法則の意義と趣旨
- 【中上級】最判平24・9・7の判断枠組み
- 【中上級】推認構造の分析──犯罪性向を介さない推認
- 【上級】他事情付加型と主観的要件の推認
第1章 証拠の関連性
1-1 自然的関連性と法律的関連性
証拠が事実認定に用いられるためには、証拠能力が必要です。
証拠能力の判断においては、まず当該証拠に関連性が認められることが前提となります。関連性には、自然的関連性と法律的関連性の二つがあります。
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種類 |
内容 |
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自然的関連性 |
証明しようとする事実の存否の推認に必要最小限度の証明力を有すること |
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法律的関連性 |
自然的関連性はあるが、偏見等によりその証拠の証明力を誤らせるおそれがある場合に、政策的観点から要求される要件 |
異種前科(今回の犯罪とは種類の異なる前科)については、自然的関連性が認められません。
例えば、窃盗の前科は、放火の犯人性を推認させる証明力を有しないため、自然的関連性が否定されます。
これに対し、同種前科については、それがない者に比べて当該犯罪を行った蓋然性が高まるといえるため、自然的関連性は認められます。
しかし、自然的関連性があるからといって直ちに証拠能力が肯定されるわけではなく、法律的関連性が問題となります。
1-2 同種前科証拠の問題点
同種前科証拠を犯人性の立証に用いる場合、通常は次のような推認過程を経ます。
同種前科の存在 → 被告人の犯罪性向の推認 → 犯人性の推認
しかし、このような推認過程には二つの問題点があります。
第一に、犯罪性向から犯人性を推認する過程の推認力は本来小さいにもかかわらず、実証的根拠の乏しい人格的評価に繋がりやすく、不当な偏見に基づき推認力を過大に評価する危険があります。
すなわち、「この人は以前に同種の犯罪を犯したのだから、今回も犯人に違いない」という短絡的な推認がなされるおそれがあるのです。
第二に、この危険性を回避するために当事者が前科の内容に立ち入った攻撃防御を行う必要が生じ、争点が拡散するおそれがあります。
前科事実をめぐる争いに審理の重心が移ってしまい、本来の審判対象である起訴事実の審理が疎かになるという弊害が生じうるのです。
第2章 最判平24・9・7の判断枠組み
2-1 事案の概要と判旨
最判平24・9・7刑集66・9・907は、同種前科による犯人性立証の許容性について正面から判断を示した重要判例です。
事案は、被告人が住居に侵入して窃盗を行った後、灯油を撒布して放火したとして、住居侵入、窃盗及び現住建造物等放火の各罪で起訴されたものです。
被告人には、窃盗を試みて金品が得られなかったことへの鬱憤を解消するために灯油を撒布して放火したという同種の前科が11件あり、検察官はこれらの前科に係る証拠を犯人性の立証に用いることを求めました。
最高裁は、同種前科証拠を犯罪性向の立証を介在させた犯人性立証に用いることは許されないとしました。
なお、同種前科による立証は、証明力(318条)の問題ではなく、証拠能力の問題として位置づけられています。
悪性格に基づく偏見は、いったんこれが顕出されれば、仮に証明力が低くとも裁判官に不当な予断を生じさせることになるためです。
2-2 例外─顕著な特徴と相当程度類似
もっとも、最高裁は、実証的根拠に乏しい人格的評価による誤った事実認定に至るおそれがないと認められる場合には、同種前科証拠を犯人性の推認に用いることも許されるとしました。
具体的には、次の二つの要件が示されています。
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要件 |
内容 |
趣旨 |
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① |
前科に係る犯罪事実が顕著な特徴を有すること |
同様の行為を行う者が他にも存在する可能性が著しく低い→特定人の犯行の推認 |
|
② |
起訴に係る犯罪事実と相当程度類似すること |
①と同一人の犯行である→犯人性の推認 |
この二つの要件を満たす場合には、被告人の犯罪性向を問題とすることなく、前科の存在それ自体から、両者の犯人が同一であることが合理的に推認できます。
第3章 推認構造の分析
3-1 犯罪性向を介さない推認
最判平24・9・7が示した推認構造は、犯罪性向を介さずに犯人性を推認するものです。
①の推認:前科に係る犯罪事実が「顕著な特徴」を有する→同様の行為を行う者が他にも存在する可能性が著しく低い→特定人が行ったことが明らか
②の推認:起訴に係る犯罪事実が前科と「相当程度類似」する→特定人が行った①と同一人の犯行→犯人性の推認
この推認過程では、被告人の犯罪性向や悪性格は介在しておらず、客観的な事実関係から犯人性を推認しています。
犯罪性向を介した推認が「この人は犯罪を犯す傾向がある、だから今回も犯人だ」という論理であるのに対し、①②による推認は「このような特異な犯行を行う者は限られている、かつ今回の犯行も同様の特徴を有するから同一人物だ」という論理です。
後者は、第三者の犯行可能性を排斥することによって犯人性を推認するものであり、人格的評価を介していない点で、前者とは本質的に異なります。
3-2 「顕著な特徴」のあてはめ
「顕著な特徴」とは、同様の行為を行う者が他にも存在する可能性が著しく低いことを意味します。
犯罪の社会的類型を画するにとどまる特徴は、「顕著な特徴」とはいえません。
他方で、犯行の用に供された物が相当に特徴的なものである場合には、「顕著な特徴」にあたる可能性があります。
あてはめにおいては、近接した日時・場所であることも考慮することができます。
また、類似事実の複数の特徴を総合的に考慮することも認められています。
ただし、同種犯罪が多数回繰り返されていることを考慮することは許されません。
3-3 「相当程度類似」のあてはめ
「相当程度類似」については、起訴事実が前科に係る犯罪事実の「顕著な特徴」と完全に「一致」することまでは要求されていません。
もっとも、起訴事実について犯罪が成立したという前提部分が欠けている場合には、上記の基準を用いることはできません。
例えば、和歌山カレー事件のように、被害者の遺骨からヒ素が検出されたものの、それが他者から投与されたものか否かが判明していない場合には、そもそも起訴事実のような犯罪が成立したという前提部分が欠けています。
このような場合には、犯人性立証の例外を認めた上記基準を用いることはできず、類似事実を犯人性立証のために用いることはできません。
第4章 発展的論点
4-1 強固な犯罪性向による推認
①顕著な特徴②相当程度類似の要件を満たさない場合であっても、犯罪性向を介した推認が確実であり、誤判のおそれという弊害を上回る場合には、例外的に証拠能力が認められるとする見解があります。
具体的には、固着化した行動傾向として、単なる悪性格を超えて特定の状況下においては他に選択の余地がないほど習慣化している場合がこれにあたります。
この場合の推認構造は、①顕著な特徴②相当程度類似の場合とは異なります。
①②の場合は「第三者の犯行可能性を排斥する論理」であるのに対し、強固な犯罪性向の場合は「被告人が犯罪を行う可能性がより高い」ことを根拠とした推認です。
推認の基礎が異なることは意識しておく必要があります。
4-2 他事情付加型
類似犯罪が「顕著な特徴」を有さず、また起訴に係る犯罪が前科に「相当程度類似」するものと認められない場合であっても、他の付加された事情(時間的・場所的近接性など)と相まって、両者の犯人が同一であると合理的に推認し得る場合には、犯人性立証が許容されます。
例えば、静岡地判昭40・4・22は、電車内のスリの事案です。
スリという犯罪自体は顕著な特徴を有するとはいえません。
しかし、同一の時間帯に同一の列車内に複数のスリ集団が存在する可能性は低いという事情に加え、第二事実の窃盗未遂の現場に第一事実の被害者の名刺が落ちていたという事情を付加することで、同一グループによる犯行であることが合理的に推認でき、悪性格を介さない立証として証拠能力が肯定されました。
4-3 主観的要件の推認
犯罪の主観的要素については、前科証拠と起訴事実が相当程度類似していれば、被告人が前科に係る犯罪と同様の構成要件に該当することを認識していたと推認することは、人格的評価を介することなく合理的な推認として許容されます。
例えば、街頭募金に関する詐欺の事案において、被告人が「寄付金は宗教活動にあてる」旨を記載した書面を用いて募金していた場合、当該書面を使って募金すると相手方がその利用目的につき錯誤に陥るため、欺罔行為に当たると認識していたことは、以前に同様の詐欺で有罪判決を受けたことから、人格的評価を介さずに推認することができます。
これに対し、被告人が「当初は社会福祉事業に用いるつもりだったが、その後、宗教活動の費用に流用してしまった」と弁解する場合には、この弁解を排斥するためには、詐欺の前科からその人が詐欺を行う犯罪性向を有していると推認した上で、本件も募金行為の時点で詐欺の故意を有していたと推認するという推認過程を経ることになります。これは犯罪性向を媒介させる推認であるため、許されません。
第5章 試験答案の構成方法
5-1 同種前科立証の答案構成
【答案構成の流れ】
・問題提起:同種前科(類似事実)証拠を犯人性立証に用いることは許されるか。証拠能力の問題として検討する
・自然的関連性の確認:同種前科証拠は自然的関連性を有する
・法律的関連性の検討:犯罪性向の立証を介在させた犯人性立証は、実証的根拠に乏しい人格的評価による誤った事実認定に至るおそれがあるため、原則として許されない
・例外の検討:①前科に係る犯罪事実が顕著な特徴を有し、②起訴に係る犯罪事実と相当程度類似する場合には、犯罪性向を問題とせず犯人性を推認できるため許容される
・あてはめ:具体的事実を上記要件にあてはめる。他事情付加型の検討も必要に応じて行う
・結論:証拠能力の有無
まとめ
同種前科による立証について、本記事では以下の点を解説しました。
証拠の関連性には自然的関連性と法律的関連性があり、同種前科証拠は自然的関連性を有するが、法律的関連性(証拠能力)が問題となる
同種前科証拠を犯罪性向の立証を介在させた犯人性立証に用いることは、実証的根拠に乏しい人格的評価によって誤った事実認定に至るおそれがあるため、原則として許されない
もっとも、①前科に係る犯罪事実が顕著な特徴を有し、②起訴に係る犯罪事実と相当程度類似する場合には、犯罪性向を問題とせず犯人性を推認できるため、許容される(最判平24・9・7)
①②の推認構造は第三者の犯行可能性を排斥する論理であるのに対し、強固な犯罪性向による推認は被告人の犯行可能性の高さを根拠とする論理であり、推認の基礎が異なる
顕著な特徴や相当程度類似が認められない場合でも、他の付加された事情と相まって犯人の同一性が合理的に推認し得るときは、犯人性立証が許容される(静岡地判昭40・4・22参照)
同種前科証拠による主観的要件の推認も、人格的評価を介さない合理的な推認であれば許容されるが、犯罪性向を媒介させる推認過程を経る場合には許されない


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