- 公開日:2026.04.10
- 更新日:2026.04.10
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【刑事訴訟法入門9】検証・鑑定・身体検査の意義と強制採尿の論点
この記事を読んで理解できること
- 検証の意義と手続
- 鑑定の意義と手続
- 身体検査の意義と手続
- 強制採尿
- 強制採尿令状の方式
- 採尿のための連行
- 試験答案の構成方法
「検証と実況見分って何が違うの?」
「鑑定と鑑定嘱託はどう区別すればいい?」
「覚醒剤事件で強制的に尿を採取できるの?」
刑事訴訟法を学ぶ中で、こうした疑問を持った方は多いのではないでしょうか。
検証・鑑定・身体検査は、いずれも捜査機関が犯罪の証拠を収集するために用いる手段ですが、それぞれの法的性質や令状の要否・種類が異なり、正確な理解が求められます。
特に、身体検査については、対象者の身体の安全や人格の尊厳に関わるため、通常の検証とは異なる特別の令状(身体検査令状)が必要とされ、さらに強制採尿については最高裁判例が令状の方式や連行の可否について重要な判断を示しています。
本記事では、検証・鑑定・身体検査の意義と相互の関係を整理したうえで、特に予備試験・司法試験で頻出の強制採尿に関する判例法理を中心に解説します。
この記事で学べること
- 【初級】検証・鑑定・身体検査の意義と相互関係
- 【初中級】身体検査令状の特別な要件と手続
- 【中級】強制採尿の許容性と最決昭55・10・23の判断枠組み
- 【中上級】強制採尿令状の方式──捜索差押許可状か身体検査令状か
- 【中上級】採尿のための連行の可否と最決平6・9・16の判断基準
第1章 検証の意義と手続
1-1 検証の意義
検証とは、場所・物・人の身体について、捜査機関又は裁判所が五官の作用によりその状態を認識する処分をいいます。
検証は、犯行現場の状況を確認したり、凶器の形状を観察したりする際に用いられる重要な証拠収集手段です。
捜査段階における検証は、裁判官の発する検証令状に基づいて行われます(刑訴法218条1項)。
第218条1項
「検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押え、記録命令付差押え、捜索又は検証をすることができる。この場合において、身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。」
1-2 検証と実況見分の関係
検証と同じく五官の作用により対象の状態を認識する処分として、実況見分があります。
両者の処分内容は同一ですが、検証は強制処分として令状に基づいて行われるのに対し、実況見分は任意処分として相手方の同意を得て行われる点に違いがあります。
交通事故の現場で公道上に行われる実況見分が典型例であり、その結果は実況見分調書として証拠化されます。
これに対し、強制処分としての検証の結果は検証調書として証拠化されます。
1-3 検証の令状主義の例外
検証についても、捜索・差押えと同様に、逮捕の現場では令状なしに行うことが認められています(刑訴法220条1項2号)。
内部リンク:【刑事訴訟法入門8】逮捕に基づく捜索・差押えの意義と無令状の根拠
第2章 鑑定の意義と手続
2-1 鑑定の意義
鑑定とは、裁判所又は捜査機関が、学識経験のある者(鑑定人)に専門的知識又はこれに基づく判断の報告を求める処分をいいます(刑訴法165条、223条1項)。
DNA鑑定、薬物の成分分析、精神鑑定などが典型例です。
鑑定そのものは、専門家に意見を求めるだけの処分であり、任意処分としての性格を有します。
しかし、鑑定のために身体検査や物の破壊等の処分が必要となる場合には、強制力を伴う処分が必要となるため、裁判所の許可を得て行うこととされています。
2-2 鑑定人と鑑定受託者
公判段階では、裁判所が鑑定人に鑑定を命じます(刑訴法165条)。
これに対し、捜査段階では、捜査機関が第三者たる専門家に鑑定を嘱託します(刑訴法223条1項)。
嘱託を受けた者は鑑定受託者と呼ばれます。
鑑定人と鑑定受託者の主な相違点は次の表のとおりです。
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|
鑑定人 |
鑑定受託者 |
|
選任主体 |
裁判所(165条) |
捜査機関(223条1項) |
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段階 |
公判段階 |
捜査段階 |
|
宣誓義務 |
あり(166条) |
なし |
|
鑑定処分 |
裁判所の許可(168条1項) |
鑑定処分許可状(225条1項) |
2-3 鑑定に必要な処分(鑑定処分)
鑑定人は、鑑定について必要がある場合には、裁判所の許可を受けて、住居等への立入り、身体の検査、死体の解剖、墳墓の発掘、物の破壊を行うことができます(刑訴法168条1項)。
捜査段階においては、鑑定受託者が鑑定処分許可状の発付を受けて、これらの処分を行います(刑訴法225条1項)。
鑑定処分としての身体検査(刑訴法225条1項・168条1項)は、専門家によるものであるため、胃カメラによる検査や体液の採取等、身体内部への侵襲を伴う処分も可能とされています。
2-4 鑑定留置
被告人の心神又は身体に関する鑑定をさせるについて必要があるときは、裁判所は、期間を定め、病院その他の相当な場所に被告人を留置することができます(刑訴法167条1項)。
捜査段階においても、捜査機関は裁判官にこの処分を請求することができます(刑訴法224条1項)。
精神鑑定のために被疑者を病院に留置する場合が典型例であり、留置期間中は勾留の執行が停止されます(刑訴法224条2項・167条の2第1項)。
第3章 身体検査の意義と手続
3-1 身体検査の3つの類型
刑訴法上、身体検査に該当する処分は次の3つに分類されます。
|
類型 |
内容 |
根拠条文・令状 |
|
①人の身体の捜索 |
着衣の外側から身体に触れる行為、ポケットの中を調べる行為等 |
捜索差押許可状(218条1項) |
|
②検証としての身体検査 |
身体の外表を観察し、傷痕・刺青等の状態を確認する処分 |
身体検査令状(218条1項後段) |
|
③鑑定処分としての身体検査 |
専門家による検査。胃カメラ検査、体液採取等、身体内部への侵襲も可能 |
鑑定処分許可状(225条1項・168条1項) |
刑訴法218条1項第2文に規定されている「身体の検査」は、上記②の検証としての身体検査です。
この場合は、一般の検証と異なり、身体の安全、人格の尊厳といった対象者にとってより重大な権利・利益の侵害を伴うため、身体検査令状という特別な令状の方式がとられるとともに、令状請求の際に示すべき特別な事項が定められています(刑訴法218条5項)。
3-2 身体検査令状の特別な要件
身体検査令状の請求においては、通常の検証令状の請求事項に加えて、「身体の検査を必要とする理由」及び「身体の検査を受ける者の性別、健康状態」を示さなければなりません(刑訴法218条5項)。
また、裁判官は、身体検査に関し適当と認める条件を付すことができるとされており(刑訴法218条6項)、例えば「医者を補助者とする」といった条件を令状に付すことができます。
さらに、身体検査の実施にあたっては、性別・健康状態を考慮して特にその方法に注意し、名誉を害しないようにしなければなりません(刑訴法131条・222条1項)。
女子の身体検査には医師又は成人の女子を立ち会わせなければなりません(刑訴法131条2項・222条1項)。
3-3 身体検査の範囲
検証としての身体検査の範囲について、刑訴法218条3項は、身体の拘束を受けている被疑者の指紋若しくは足型を採取し、身長若しくは体重を測定し、又は写真を撮影するには、被疑者を裸にしない限り、身体検査令状によることを要しないと定めています。
令状がある場合には、対象者を裸にして、その外表を調べることができます。
さらに、実務上は、肛門や膣等の体腔内の検査も、検証としての身体検査で可能であるとされています。
議論があるのは、レントゲン撮影です。これについては、特別の知識経験による機器の操作、判断を必要とするため、検証としての身体検査ではなく、鑑定処分としての身体検査として行うべきだとする考え方が有力です。
第4章 強制採尿
4-1 問題の所在
覚醒剤使用の疑いがある者の尿には覚醒剤成分が含まれており、尿の鑑定は覚醒剤使用罪の立証のために不可欠な証拠となります。
しかし、被疑者側から見れば、尿の提出は決定的な証拠を捜査機関に提供することを意味するため、通常は任意に応じません。
そこで、医師にカテーテルを尿道に挿入させて人為的に尿を採取する強制採尿が許されるかが問題となります。
4-2 強制採尿の許容性──最決昭55・10・23
強制採尿の適法性が最初に最高裁で問題とされたのが、最決昭55・10・23刑集34・5・300(以下、「昭和55年決定」という)です。
事案は、覚醒剤の譲渡しの被疑事実で逮捕されたXに覚醒剤自己使用の疑いが生じたため、警察官がXに対し再三にわたって尿の任意提出を求めたものの、Xが拒否し続けたため、身体検査令状と鑑定処分許可状の発付を受けたうえで、医師に依頼して強制採尿を行ったというものです。
原審である名古屋高裁は、強制採尿は被疑者の人格の尊厳を著しく害し、令状に基づく手続として許される限度を越え違法であるとしました。
これに対し、最高裁は、次のような判断を示しました。
「尿を任意に提出しない被疑者に対し、強制力を用いてその身体から尿を採取することは、身体に対する侵入行為であるとともに屈辱感等の精神的打撃を与える行為であるが、右採尿につき通常用いられるカテーテルを尿道に挿入して尿を採取する方法は、被採取者に対しある程度の肉体的不快感ないし抵抗感を与えるとはいえ、医師等これに習熟した技能者によって適切に行われる限り、身体上ないし健康上格別の障害をもたらす危険性は比較的乏しく、仮に障害を起こすことがあっても軽微なものにすぎないと考えられるし、また、右強制採尿が被疑者に与える屈辱感等の精神的打撃は、検証の方法としての身体検査においても同程度の場合がありうるのであるから、被疑者に対する右のような方法による強制採尿が捜査手続上の強制処分として絶対に許されないとすべき理由はなく、被疑事件の重大性、嫌疑の存在、当該証拠の重要性とその取得の必要性、適当な代替手段の不存在等の事情に照らし、犯罪の捜査上真にやむをえないと認められる場合には、最終的手段として、適切な法律上の手続を経てこれを行うことも許されてしかるべきであり、ただ、その実施にあたっては、被疑者の身体の安全とその人格の保護のため十分な配慮が施されるべきものと解するのが相当である。」
4-3 昭和55年決定の判断枠組み
昭和55年決定は、強制採尿が強制処分として絶対に許されないわけではないとしたうえで、次の要件を満たす場合にのみ許容されるとしました。
|
|
要件 |
内容 |
|
① |
被疑事件の重大性 |
覚醒剤使用罪等、一定の重大性を有する犯罪であること |
|
② |
嫌疑の存在 |
被疑者に犯罪を犯したことの相当な嫌疑があること |
|
③ |
証拠の重要性・取得の必要性 |
尿が立証に不可欠な証拠であり、その取得の必要性が高いこと |
|
④ |
適当な代替手段の不存在 |
任意提出の説得を十分に尽くしたが応じなかったこと |
|
⑤ |
最終的手段であること |
犯罪の捜査上真にやむをえないと認められること |
|
⑥ |
身体の安全・人格の保護 |
医師等により医学的に相当と認められる方法で行われること |
4-4 任意提出の説得はどこまで必要か
昭和55年決定は、強制採尿が最終的手段としてのみ許容されるとしていますが、任意提出に向けて捜査機関としてどの程度の説得をしなければならないのかは、一義的に定まるものではありません。
この点が問題とされた裁判例として、東京高判平24・12・11判タ1400・367があります。
事案では、被疑者Xが複数回にわたり「自分で出す」と申し出ていたものの、実際にトイレに行くことはありませんでした。
裁判所は、被疑者が尿の任意提出を申し出ている場合にそのまま強制採尿のための令状を執行するのは相当でなく、被疑者に尿を任意提出する機会を与える必要があるとしつつも、捜査官が任意の尿の提出を期待できないとして強制採尿の実施に踏み切ったとしても、その判断が人権配慮等の観点から明らかに不合理でない限り、違法性を帯びることはないと判示しました。
また、対象者が錯乱状態に陥っているために、任意の尿の提出がそもそも期待できない状況である場合には、直ちに強制採尿を実施することができるとされています(最決平3・7・16刑集45・6・201)。
第5章 強制採尿令状の方式
5-1 問題の所在
昭和55年決定は、強制採尿が絶対に許されないものではないとしましたが、刑訴法には強制採尿の手続について定めた明文の規定は存在しません。
そこで、強制採尿をいかなる令状に基づいて行うべきかが問題となります。
5-2 従来の実務──身体検査令状と鑑定処分許可状の併用
昭和55年決定の事案がそうであったように、従来は身体検査令状と鑑定処分許可状を併用するというのが実務の大勢でした。その理由は次のとおりです。
身体検査令状によるとする見解に対しては、仮に医師等の専門家を補助者とすることを条件としても、身体の内部に及ぶ行為を、捜査機関が主体である身体検査として行うことができることになり、それは不当であるという批判が強くありました。
そこからは、専門家による鑑定処分としての身体検査として、鑑定処分許可状によることが考えられますが、この場合は、刑訴法の条文上、直接強制ができないのではないかという疑問がありました。
そのため、実務上は、鑑定処分許可状とあわせて、直接強制が可能な身体検査令状をとり、直接強制が必要とされる場合には、身体検査に補助者として鑑定受託者が立ち会うかたちにして直接強制を行うという方策をとっていたのです。
5-3 昭和55年決定の判断──捜索差押許可状
こうした議論がある中で、昭和55年決定は、強制採尿を実施するための令状について、次のような判断を示しました。
「体内に存在する尿を犯罪の証拠物として強制的に採取する行為は、捜索・差押の性質を有するものとみるべきであるから、捜査機関がこれを実施するには捜索差押令状を必要とすると解すべきである。ただし、右行為は、人権の侵害にわたるおそれがある点では、一般の捜索・差押と異なり、検証の方法としての身体検査と共通の性質を有しているので、身体検査令状に関する刑訴法218条5項(現6項──筆者注)が右捜索差押令状に準用されるべきであって、令状の記載要件として、強制採尿は医師をして医学的に相当と認められる方法により行わせなければならない旨の条件の記載が不可欠であると解さなければならない。」
すなわち、昭和55年決定は、強制採尿を捜索・差押えの性質を有するものと位置づけたうえで、捜索差押許可状によるべきであるとしつつ、身体検査令状に関する条件記載の規定を準用し、医師による医学的に相当な方法での実施を令状の記載要件としました。
これにより、実務上は「強制採尿令状」とも呼ばれる特別な捜索差押許可状が用いられることとなりました。
5-4 学説上の批判
昭和55年決定に対しては、学説上、次のような批判が提起されています。
第一に、捜索・差押えの対象となる「物」の中には、人間の身体の一部は含まれないとされてきたこととの整合性の問題です。
もっとも、昭和55年決定は、尿は排出される無価値なものであり身体の構成物ではないという理解を前提にしているとも解されます。
第二に、条文を素直に読むかぎりは、捜索差押令状に条件を付すというのは現行法の予定していないところであり、医師の手によるという条件を付けて捜索差押令状により強制採尿ができるというのは、最高裁が、本来は捜索・差押えとしてはできない処分を可能にするために、強制採尿令状という新たな令状を解釈によって作りだしたに等しいという指摘です。
もっとも、実質的な問題は解決されているという評価もあります。
第6章 採尿のための連行
6-1 問題の所在
昭和55年決定は強制採尿が医師により医学的に相当と認められる方法により行われることを条件としたため、強制採尿を行うためには、そのための施設が備わった病院等の場所まで対象者を連れていかなければなりません。
対象者が同行に応じればよいのですが、それを拒否した場合、その身柄を拘束して強制的に連行することができるのかという問題が生じます。
6-2 連行を肯定する見解と否定する見解
連行を肯定する見解の実質的根拠は、医師の手によりそれに適した場所で行うことを条件に強制採尿を認めておきながら、その場所への同行を対象者が拒否した場合に強制的に連れて行くことができないというのでは、強制採尿を認めた意味が失われてしまうという点にあります。
他方で、連行を否定する見解も、強制採尿令状の効力ないし必要な処分として一定の行為がなしうることは認めます。
しかし、それは、令状の執行に密接不可分なものに限られるのであって、連行による人身の自由の侵害という、強制採尿自体によって侵害される利益とは異質でかつ重大なものは、そこには含まれないとしています。
6-3 最決平6・9・16(平成6年決定)
最高裁がこの問題につき判断を示したのが、最決平6・9・16刑集48・6・420(以下、「平成6年決定」という)です。
事案は、覚醒剤使用の疑いがあるX(被告人)に対し、路上で職務質問を行い、Xが運転していた車両のキーを取り上げて、約6時間半以上にわたり現場に留め置いたうえ、その間に請求して発付された強制採尿令状を呈示した後もXが抵抗したため、抵抗を排して、Xをその現場から病院まで連行し、強制採尿を行ったというものです。
本決定は、強制採尿のための病院への連行の適法性につき、次のような判断を示しました。
「身柄を拘束されていない被疑者を採尿場所へ任意に同行することが事実上不可能であると認められる場合には、強制採尿令状の効力として、採尿に適する最寄りの場所まで被疑者を連行することができ、その際、必要最小限度の有形力を行使することができるものと解するのが相当である。けだし、そのように解しないと、強制採尿令状の目的を達することができないだけでなく、このような場合に右令状を発付する裁判官は、連行の当否を含めて審査し、右令状を発付したものとみられるからである。その場合、右令状に、被疑者を採尿に適する最寄りの場所まで連行することを許可する旨を記載することができることはもとより、被疑者の所在場所が特定しているため、そこから最も近い特定の採尿場所を指定して、そこまで連行することを許可する旨を記載することもできることも、明らかである。」
6-4 平成6年決定の法的根拠
平成6年決定は、連行の法律上の根拠としては、強制採尿令状の効力として連行できるという立場をとりました。
その実質的根拠として、第一に、そのように解しなければ強制採尿令状の目的を達することができないこと、第二に、令状を発付する裁判官は連行の当否を含めて審査して令状を発付したものと見られることを挙げています。
これは、強制採尿が医師により医学的に相当と認められる方法で行われなければならない以上、その条件を満たすためにはそれに適した場所まで連行することが必要不可欠であり、そのような必要不可欠な処分をすることは、強制採尿が認められている以上は、それに付随するものとして、その権限の中に含まれていると考えられるということを意味しています。
6-5 連行のための住居への立入り
強制採尿のための連行が問題となる場面の多くは、路上で職務質問を行った対象者に覚醒剤使用の疑いが生じ、採尿のために警察署への任意同行を求めたものの拒否されたため、警察官が強制採尿令状を請求し、その発付を得たうえで、そこから病院等に連行するというものです。
これに対し、強制採尿令状が発付された時点で被疑者が自宅又は第三者の住居内にいて外に出てこないという事案では、被疑者に令状を呈示し、そのうえで同行を拒否した場合には連行するため、強制採尿令状の効力として当該住居に立ち入ることができるのかが問題となります。
この点が争われたのが、札幌高判平29・9・7高検速報(平29)336です。
札幌高裁は、強制採尿令状を持った警察官が、被疑者が滞在する第三者の居室に、その承諾を得ることなく立ち入った行為につき、強制採尿令状による連行が許容されるとしても、逮捕状の場合と異なり、強制採尿令状に基づいて住居を含む第三者の管理する場所に立ち入ることは、当該令状に関して履践された司法審査の範囲を超え、審査にあたり想定されたものと異なる権利や利益を制約する事態を招くことになるから、原則的に許されないとし、本件居室への立入りは違法であるとしました。
この判決は、住居への立入りは病院等への連行とは異なり、強制採尿令状の執行に通常伴うものではないから、強制採尿の権限の中に含まれているとはいえないことに加えて、刑訴法が逮捕する場合の無令状での住居への立入りにつき特別の規定を設けていること(220条1項1号)に照らせば、強制採尿令状の効力として住居に立ち入ることはできないと考えるべきであるという点で重要な判例です。
第7章 試験答案の構成方法
7-1 論点の整理
検証・鑑定・身体検査をめぐる問題を答案で論じる際には、問題となっている処分の法的性質を正確に把握することが出発点となります。主な論点は以下のとおりです。
|
論点 |
検討内容 |
参照条文・判例 |
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検証と実況見分の区別 |
強制処分か任意処分かの区別 |
刑訴法218条1項 |
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身体検査の令状 |
検証としてか鑑定処分としてかの区別 |
218条1項後段・225条1項 |
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強制採尿の許容性 |
強制処分として絶対に許されないか |
最決昭55・10・23 |
|
強制採尿の令状の方式 |
捜索差押許可状に条件を付す |
最決昭55・10・23 |
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採尿のための連行 |
令状の効力として連行できるか |
最決平6・9・16 |
|
連行のための住居立入り |
強制採尿令状で住居に立ち入れるか |
札幌高判平29・9・7 |
7-2 強制採尿の適法性を問う問題の答案構成
強制採尿の適法性が問われる問題では、①許容性(強制処分として許されるか)、②令状の方式、③連行の適法性という段階的な検討が基本です。
【答案構成の流れ】
- 問題提起:強制採尿が捜査手続上の強制処分として許されるかを問う
- 規範定立①(許容性):昭和55年決定の判断枠組みを示す──被疑事件の重大性、嫌疑の存在、証拠の重要性とその取得の必要性、適当な代替手段の不存在等の事情に照らし、犯罪の捜査上真にやむをえないと認められる場合に、最終的手段として許容される
- 当てはめ①:事案の具体的事実を上記要件にあてはめる
- 規範定立②(令状の方式):捜索差押許可状に、医師をして医学的に相当と認められる方法により行わせる旨の条件の記載が不可欠
- 当てはめ②:令状の記載に不備がないかを検討する
- 連行の検討(問題となる場合):平成6年決定の基準により、任意同行が事実上不可能であれば令状の効力として最寄りの適切な場所まで連行可能
- 結論:適法・違法の結論を出したうえで、違法の場合には違法収集証拠排除の問題へ
まとめ
検証・鑑定・身体検査について、本記事では以下の点を解説しました。
- 検証は五官の作用により場所・物・身体の状態を認識する処分であり、強制処分として令状に基づき行われる検証と、任意処分としての実況見分がある(刑訴法218条1項)
- 鑑定は専門家に学識経験に基づく判断の報告を求める処分であり、鑑定に必要な処分(身体検査・物の破壊等)には鑑定処分許可状が必要となる(刑訴法225条1項・168条1項)
- 身体検査には、人の身体の捜索、検証としての身体検査、鑑定処分としての身体検査の3類型があり、検証としての身体検査には身体検査令状が必要(刑訴法218条1項後段)
- 強制採尿は、被疑事件の重大性、嫌疑の存在、証拠の重要性等の事情に照らし、犯罪の捜査上真にやむをえない場合に最終的手段として許容される(最決昭55・10・23)
- 強制採尿は捜索・差押えの性質を有し、医師による医学的に相当な方法で行わせる旨の条件を付した捜索差押許可状によるべきである(最決昭55・10・23)
- 任意同行が事実上不可能な場合には、強制採尿令状の効力として、採尿に適する最寄りの場所まで被疑者を連行することができる(最決平6・9・16)
次回記事では、おとり捜査について解説します。
【内部リンク:【刑事訴訟法入門⑩】


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