承継的共同正犯の学説と判例を総整理! 積極的利用説と結果共同惹起説の違いを正確に理解しよう
目次
この記事を読んで理解できること
- 承継的共同正犯とは何か
- 承継的共同正犯の学説
- 傷害罪と承継的共同正犯
この記事は、
・承継的共同正犯とはどのような論点なのか知りたい
・承継的共同正犯に関する説対立の本質を理解したい
・承継的共同正犯の判例を整合的に理解したい
といった方におすすめです。
承継的共同正犯とは、ある者(先行者)が実行行為の一部(先行行為)を行った後、他の者(後行者)が先行者と共同して残りの実行行為(後行行為)を行うことをいいます。
論文試験でも頻出の重要論点です。
もっとも、予備校本を読んでも学説と判例が羅列されているだけで、結局何が問題なのかよく分からなかったという方もいるのではないでしょうか。
あらかじめ概観しておくと、承継的共同正犯の学説は
- 全面肯定説
- 全面否定説
- 限定的肯定説(中間説)
があり、限定的肯定説の中にさらに分岐があるといった説明が一般的ですが、
これらをただ暗記しても意味がなく、どの見解をどのような理由で採用するのかを説得的に説明できることが重要です。
そこで、以前も承継的共同正犯について解説させていただきましたが、今回はアップデート版として、学説と判例について徹底的に掘り下げていきたいと思います。
この記事では、
【初級】第1章で承継的共同正犯とは何かについて、
【初中級】第2章で承継的共同正犯の学説について、
【中級】第3章で傷害罪と承継的共同正犯について、
それぞれ解説します。
【初級】第1章 承継的共同正犯とは何か
前述のとおり、承継的共同正犯とは、ある者(先行者)が実行行為の一部(先行行為)を行った後、他の者(後行者)が先行者と共同して残りの実行行為(後行行為)を行うことをいいます。
承継的共同正犯とは
先行者による先行行為
▼
先行者と後行者が共謀
▼
共謀に基づく後行行為
では、そもそも承継的共同正犯は何が問題なのでしょうか?
このような大前提を理解しないまま論証だけを暗記すると、未知の問題に対応できなくなってしまいます。
そこで、まずは共同正犯の要件から理解していきましょう。
共同正犯の要件が何かについては様々な説が存在しますが、ここでは実務上一般的な見解として、
共同正犯の要件
①共謀
②共謀に基づき、共犯者の全部又は一部の者が実行行為を行ったこと
の2要件で考えていただければ十分です。
(司法研修所検察教官室『検察終局処分起案の考え方(令和元年版)』p25参照)
これをさらに細かく分類すると、
共同正犯の要件の分類
①共謀
▶ 意思連絡・正犯意思
②共謀に基づき、共犯者の全部又は一部の者が実行行為を行ったこと
▶ 実行行為・共謀と実行行為との因果関係
となります。
そして、承継的共同正犯は、共同正犯の成立要件のうち「共謀に基づき」実行行為を行ったこと、すなわち「共謀と実行行為との因果関係」に関する論点です。
後行者は先行行為が行われた後に初めて実行行為に関与した以上、先行行為に対して因果性を及ぼすことは「絶対に」不可能です。
つまり、どうあがいても、共謀と全ての実行行為との間に因果関係が認められることはありません。
では、後行者については共同正犯が成立する余地はないのか?それとも一部の実行行為とだけ因果関係が認められる場合でも共同正犯が成立する可能性があるのか?
これが承継的共同正犯の論点です。
【初中級】第2章 承継的共同正犯の学説
この章では、承継的共同正犯の説対立について解説します。
結論から言うと、答案では結果共同惹起説を採用することがおすすめですが、結論だけでなく、なぜ他の説はおすすめできないかも説明していきます。
2-1 全面肯定説
これは読んで字のとおり、いかなる場合も承継的共同正犯を肯定するという見解です。
例えば、甲がVに暴行を加えている最中、通りかかった乙が甲と共謀してVに暴行を加えたとしましょう。
この場合、全面肯定説を前提とすると、乙は甲が単独でVに加えた暴行による傷害についても責任を負います。
意外に思われるかもしれませんが、昔の判例では、全面肯定説に親和的な判断も存在します。
大判昭和13年11月18日は、夫が強盗目的で被害者を殺害したことを知った上で、妻が金品奪取に協力した事案において、強盗殺人罪の幇助犯を認めました。
共同正犯ではないものの、共謀前に被害者は殺害されているにもかかわらず強盗「殺人」の従犯が認められたことから、全面肯定説に近い考え方といえます。
では、現在も全面肯定説を採用すべきかというと、これは全くおすすめできません。
まず、従来の実務も全面肯定説が主流ではなく、下級審でも判断が分かれています。
また、後述するとおり、現在の判例は明らかに全面肯定説を前提にはしていません。
さらに、司法試験の採点実感についても、共謀前の暴行による死亡結果について帰責させることへの疑問が示されています。
・平成28年司法試験(刑法)採点実感
丙につき承継的共犯の成立を肯定した場合には,次に丙がVの死亡結果について責任を負うかを論じる必要があったところ,理由もなく丙がVの死亡結果について責任を負うとした答案が相当数存在したが,この結論が妥当かは疑問なところであり,このような答案については,承継的共犯を正確に理解できているのか,疑問を抱かざるを得なかった。
全面肯定説は、第1章で説明した「後行者は先行行為に対して因果性を及ぼすことができない」という問題意識に対して何ら合理的な説明ができていないことからも、答案で採用することはおすすめできないという結論になります。
【全面肯定説】
いかなる場合も承継的共同正犯を肯定
→共謀前の行為による結果も無条件で帰責される
→共謀前の死亡結果や傷害結果も帰責されてしまう
2-2 全面否定説
次に、全面否定説について解説します。
これは、全面肯定説とは逆に、先行行為に因果性を及ぼせないことを強調し、いかなる場合も承継的共同正犯を認めないという見解です。
先ほどの例で言うと、甲がVに暴行を加えている最中、通りかかった乙が甲と共謀してVに暴行を加えた場合、甲が単独で加えた傷害について、乙が責任を負う余地はありません。
全面肯定説と比べればそれなりに結論の妥当性がある見解であり、学説上も有力に主張されています。
もっとも、この見解も答案で採用することはおすすめできません。
まず、全面否定説を前提とすると、以下のようなケースで説明が困難になります。
【事例】
特殊詐欺グループの一員である甲は、息子を装って高齢者Vを騙し、コインロッカーに現金100万円を入れさせた。
その後、甲は、バイトの応募をしてきた乙と共謀し、コインロッカー内の現金を取ってくるよう指示した。
乙は、甲の指示どおりに現金を取ってきた。
このような場合、素朴な感覚としては、詐欺に加担した乙が責任を負ってしかるべきであるように思われます。
しかし、承継的共同正犯を認めない場合、乙は欺罔行為には全く関与していないため、詐欺罪の責任を負う余地はありません。
さらに言えば、明らかに責任を負うべき甲についても、乙に共同正犯が成立しないのであれば、同様に甲も共同正犯が成立しないということにもなりかねないのです。
(以上の問題意識について、橋爪隆『刑法総論の悩みどころ』p392~393参照)
このように、全面否定説に立った場合、財産犯の検討において妥当な結論を導くことが困難となります。
詳しくは次回の記事で解説しますが、判例も詐欺罪の承継的共同正犯を認めているという解釈が一般的です。
さらに、答案作成の観点で言えば、全面肯定説や全面否定説のように、いかなる場合も承継的共同正犯を認める(認めない)という見解に立つと、事案に応じた個別具体的な判断ができなくなり、説得的なあてはめができなくなってしまうという難点もあります。
そのため、全面否定説もおすすめできません。
【全面否定説】
いかなる場合も承継的共同正犯を否定
→共謀前の行為は一切帰責されない
→詐欺行為に途中で加担した者は不可罰
2-3 限定的肯定説① 積極的利用説
限定的肯定説とは、常に承継的共同正犯を認めることはできないが、一定の要件を満たした場合にはこれを認めるべきであるという見解です。
現在は、限定的肯定説の中でどのような見解を採用するかが重要論点となります。
その一つが、今から紹介する積極的利用説です。
積極的利用説とは、「後行者が先行行為を自己の犯罪遂行の手段として積極的に利用する意思のもとに共謀加担し、現にそのような手段として利用した場合には承継的共同正犯を認める」という見解です。
予備校では積極的利用説がよく採用されています。
下級審判例でも、同様の見解を採用しているものがあるので見てみましょう。
・大阪高判昭和62年7月10日
一般に、先行者の犯罪にその途中から共謀加担した後行者に対し加担前の先行者の行為及びこれによつて生じた結果(以下、「先行者の行為等」という。)をも含めた当該犯罪全体につき共同正犯の刑責を問い得るのかどうかについては、これをすべて否定する見解(所論及び弁護人の当審弁論は、この見解を採る。以下「全面否定説」という。)や、後行者において、先行者の行為等を認識・認容して一罪の一部に途中から共謀加担した以上常に全体につき共同正犯の刑責を免れないとする見解(検察官の当審弁論の見解であり、原判決もこれによると思われる。以下「全面肯定説」という。)もあるが、当裁判所としては、右いずれの見解にも賛同し難い。右のうち、全面否定説は、刑法における個人責任の原則を重視する見解として注目に値するが、後行者において、先行者の行為等を認識・認容するに止まらず、積極的にこれを自己の犯罪遂行の手段として利用したと認められる場合には、先行者の行為等を実質上後行者の行為と同視し得るというべきであるのに、このような場合まで承継的共同正犯の成立を否定する見解は、妥当でないと考えられる。他方、全面肯定説は、実体法上の一罪は、分割不可能な一個の犯罪であるから、このような犯罪に後行者が共謀加担したものである以上、加担前の先行者の行為等を含む不可分的全体につき当然に共同正犯の成立を認めるほかないとする点に論拠を有すると考えられる。右見解が、承継的共同正犯の成立を実体法上の一罪に限定する点は正当であり、また、実体法上の一罪の中に分割不可能なものの存することも明らかなところであるが、実体法上一罪とされるものの中にも、これを構成する個々の行為自体が、形式的にはそれぞれ一個の構成要件を充足するものであるけれども、実質的にみてその全体を一個の構成要件により一回的に評価すれば足りるとして一罪とされるもの(接続犯、包括一罪等)があることを考えると、実体法上の一罪のすべてが絶対に分割不可能であるということは、独断であるといわなければならない。しかも、右見解においては、たとえ分割不可能な狭義の単純一罪に加担した場合であつても、後行者が先行者の行為等を認識・認容していたに止まるのであれば、何故に、先行者の行為による結果についてまで後行者に刑責を問い得るのかについての納得し得る説明がなされていない。
このように、全面肯定説と全面否定説は、どちらも採用することができないという判断をしました。
その上で、以下の判断枠組みを示しています。
・大阪高判昭和62年7月10日
「いわゆる承継的共同正犯が成立するのは、後行者において、先行者の行為及びこれによつて生じた結果を認識・認容するに止まらず、これを自己の犯罪遂行の手段として積極的に利用する意思のもとに、実体法上の一罪(狭義の単純一罪に限らない。)を構成する先行者の犯罪に途中から共謀加担し、右行為等を現にそのような手段として利用した場合に限られると解するのが相当である。」
このように、「自己の犯罪遂行の手段として積極的に利用」という判断枠組みを採用することによって、一定の場合にのみ承継的共同正犯を認める判断をしました。
一見すると、全面肯定説と全面否定説の間を取っていてバランスが取れているようにも思えます。
しかし、現在の最高裁は、この見解を採用していません。
後述するとおり、最判平成24年11月6日は、先行行為を利用したことは「被告人が共謀加担後に更に暴行を行った動機ないし契機にすぎず,共謀加担前の傷害結果について刑事責任を問い得る理由とはいえない」として、積極的利用説の判断枠組みを否定しているのです。
そうすると、あえて積極的利用説を採用することは、過去の下級審から知識がアップデートされておらず、現在の判例を理解していないと捉えられるリスクがあります。
また、積極的利用説は行為者の主観に着目して処罰範囲を限定していますが、第1章で述べた因果関係の問題については正面から説明できておらず、説得力に欠けるといえます。
したがって、積極的利用説もおすすめできません。
【積極的利用説】
後行者が先行行為を自己の犯罪遂行の手段として積極的に利用する意思のもとに共謀加担し、現にそのような手段として利用した場合に承継的共同正犯を認める
→最高裁は「動機ないし契機にすぎ」ないと判示
2-4 限定的肯定説② 結果共同惹起説
限定的肯定説の中でもう一つの見解が、結果共同惹起説です。
これは、「後行者が先行者と共同して、犯罪結果に因果性を及ぼした範囲でのみ承継的共同正犯を認める」という見解です。
後述するように、最高裁はこの見解と親和的です。
次章で、最高裁の判旨を分析しつつ、結果共同惹起説をおすすめする理由を説明していきます。
【結果共同惹起説】
後行者が先行者と共同して、犯罪結果に因果性を及ぼした範囲でのみ承継的共同正犯を認める
→最高裁の考え方と親和的
【中級】第3章 傷害罪と承継的共同正犯
この章では、承継的共同正犯に関する判例を解説します。
以下は、傷害罪について共同正犯の成否が問題となった判例です。
・最決平成24年11月6日(平成24年決定)
「被告人は、Aらが共謀してCらに暴行を加えて傷害を負わせた後に、Aらに共謀加担した上、金属製はしごや角材を用いて、Dの背中や足、Cの頭、肩、背中や足を殴打し、Dの頭を蹴るなど更に強度の暴行を加えており、少なくとも、共謀加担後に暴行を加えた上記部位についてはCらの傷害(したがって、第1審判決が認定した傷害のうちDの顔面両耳鼻部打撲擦過とCの右母指基節骨骨折は除かれる。以下同じ。)を相当程度重篤化させたものと認められる。この場合、被告人は、共謀加担前にAらが既に生じさせていた傷害結果については、被告人の共謀及びそれに基づく行為がこれと因果関係を有することはないから、傷害罪の共同正犯としての責任を負うことはなく、共謀加担後の傷害を引き起こすに足りる暴行によってCらの傷害の発生に寄与したことについてのみ,傷害罪の共同正犯としての責任を負うと解するのが相当である。原判決の上記2の認定は,被告人において,CらがAらの暴行を受けて負傷し,逃亡や抵抗が困難になっている状態を利用して更に暴行に及んだ趣旨をいうものと解されるが,そのような事実があったとしても,それは,被告人が共謀加担後に更に暴行を行った動機ないし契機にすぎず,共謀加担前の傷害結果について刑事責任を問い得る理由とはいえないものであって,傷害罪の共同正犯の成立範囲に関する上記判断を左右するものではない。」
上記のとおり、平成24年決定は、共謀前の暴行によって生じた結果については、因果関係がないことを理由に共同正犯を否定しています。
そして、共謀後の暴行によって生じた結果についてのみ、傷害罪の共同正犯を認めました。
このように、平成24年決定は、第1章で解説した「共謀と実行行為との因果関係」という基本に即した検討を行っています。
また、千葉勝美裁判官の補足意見も読んでみましょう。
いわゆる承継的共同正犯において後行者が共同正犯としての責任を負うかどうかについては,強盗,恐喝,詐欺等の罪責を負わせる場合には,共謀加担前の先行者の行為の効果を利用することによって犯罪の結果について因果関係を持ち,犯罪が成立する場合があり得るので,承継的共同正犯の成立を認め得るであろうが,少なくとも傷害罪については,このような因果関係は認め難いので(法廷意見が指摘するように,先行者による暴行・傷害が,単に,後行者の暴行の動機や契機になることがあるに過ぎない。),承継的共同正犯の成立を認め得る場合は,容易には想定し難いところである。
「先行者の行為の効果を利用」という言葉があるので、積極的利用説ではないかと考えた人もいるかもしれませんが、千葉裁判官は「因果関係」に着目することで、強盗や恐喝、詐欺等は承継的共同正犯の成立余地を認め、傷害についてはこれを否定しているため、積極的利用説とは明らかに異なる立場です。
次回に解説するだまされたふり作戦の判例も、詐欺罪の承継的共同正犯を認めたものと解釈されています。
このように、因果関係に着目して承継的共同正犯の成否を分ける見解は、結果共同惹起説と親和的といえます。
また、第1章で解説したとおり、承継的共同正犯のそもそもの問題意識とは、後行行為者が犯罪との間に因果関係を有しているのかという点でした。
そのため、因果関係に着目した判断枠組みは、問題意識に正面から答えることができるため、説得的な答案を作成することが可能になります。
【コラム】積極的利用説と傷害罪について
既に説明したとおり、積極的利用説を採用することはおすすめできませんが、仮に採用した場合に、傷害罪についてはどのように処理されるかを説明します。
実は、積極的利用説でも傷害罪の承継的共同正犯は簡単には認められません。
大阪高判昭和62年7月10日も、「先行者が遂行中の一連の暴行に、後行者がやはり暴行の故意をもつて途中から共謀加担したような場合には、一個の暴行行為がもともと一個の犯罪を構成するもので、後行者は一個の暴行そのものに加担するのではない上に、後行者には、被害者に暴行を加えること以外の目的はないのであるから、後行者が先行者の行為等を認識・認容していても、他に特段の事情のない限り、先行者の暴行を、自己の犯罪遂行の手段として積極的に利用したものと認めることができ」ないと判示しています。
このように、実務上は、積極的利用説でも処罰範囲を限定するための工夫がなされていました。
もっとも、論文試験では、このようなあてはめで逃げることを防ぐため、積極的利用の存在を前提とした事案が出題されるケースがあります。
例えば、令和6年予備試験では、「この状況を積極的に利用してCに暴行を加え」という文言が明記されているため、積極的利用説に立った場合、傷害罪の承継的共同正犯を認めるしかありません。
第4章 まとめ
以上のとおり、承継的共同正犯の学説は、
- 全面肯定説
- 全面否定説
- 限定的肯定説① 積極的利用説
- 限定的肯定説② 結果共同惹起説
があり、結果共同惹起説が判例と親和的でおすすめの見解です。
もっとも、ただ結論を覚えるのではなく、対立点を理解した上で、なぜ他の説ではなくこの説を採用するのかを説得的に説明できることが重要となります。
傷害罪の承継的共同正犯については、同時傷害の特例との関係など、この記事で紹介したもの以外にも重要論点がありますので、ヨビロン刑法でさらに詳しく解説させていただきます。


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