だまされたふり作戦 承継的共同正犯と不能犯の両論点について徹底解説
目次
この記事を読んで理解できること
- 承継的共同正犯と詐欺罪について
- だまされたふり作戦の判例について
- だまされたふり作戦と不能犯の関係
この記事は、
- 承継的共同正犯と詐欺罪について知りたい
- だまされたふり作戦の判例について知りたい
- だまされたふり作戦と不能犯の関係を知りたい
といった方におすすめです。
前回の記事では、承継的共同正犯がどのような論点であるかを解説しました。
承継的共同正犯の学説と判例を総整理! 積極的利用説と結果共同惹起説の違いを正確に理解しよう
今回は、詐欺罪とだまされたふり作戦について徹底的に解説していきたいと思います。
この記事では、
第1章で承継的共同正犯と詐欺罪について、
第2章でだまされたふり作戦の判例について、
第3章でだまされたふり作戦と不能犯の関係について、
それぞれ解説します。
前回の記事を読んでくださった方はもちろん、未読の方でもわかるように基礎から説明するのでご安心ください。
第1章 承継的共同正犯と詐欺罪について
まずは、前回の記事のおさらいをしつつ、承継的共同正犯と詐欺罪について解説します。
1-1 承継的共同正犯の判断枠組み
承継的共同正犯とは、ある者(先行者)が実行行為の一部(先行行為)を行った後、他の者(後行者)が先行者と共同して残りの実行行為(後行行為)を行うことをいいます。
承継的共同正犯とは
先行者による先行行為
▼
先行者と後行者が共謀
▼
共謀に基づく後行行為
後行者については、共謀と全ての実行行為との間に因果関係が認めることはできないため、いかなる範囲で帰責されるのかが問題となります。
この点について、結果共同惹起説は、「後行者が先行者と共同して、犯罪結果に因果性を及ぼした範囲でのみ承継的共同正犯を認める」と考えます。
最決平成24年11月6日は、第三者が被害者に暴行をしている最中に被告人が共謀加担して暴行を加えた事案において、共謀前の暴行による傷害結果については、「被告人の共謀及びそれに基づく行為がこれと因果関係を有することはない」という理由で帰責されないものとしているため、結果共同惹起説に親和的です。
1-2 詐欺罪の承継的共同正犯
では、詐欺罪の場合はどうでしょうか。
以下の事例を検討してみましょう。
【事例】
特殊詐欺グループの一員である甲は、息子を装って高齢者Vを騙し、コインロッカーに現金100万円を入れさせた。
その後、甲は、バイトの応募をしてきた乙と共謀し、コインロッカー内の現金を取ってくるよう指示した。
乙は、甲の指示どおりに現金を取ってきた。
乙は、甲が欺罔行為を行った後で共謀に参加しています。
また、乙自身はコインロッカー内の現金を取ってきているに過ぎず、Vに対しては何らの欺罔行為も働いていません。
そうすると、乙の行為は、欺罔行為との間に因果関係が認められる余地はありません。
このような場合、乙に詐欺罪の責任を負わせることはできるのでしょうか。
ここで、傷害罪と詐欺罪の罪質を比較してみましょう。
傷害罪は、個々の暴行によって法益侵害が完結します。
そのため、後行者が先行行為の結果について因果性を及ぼす余地はありません。
これに対し、詐欺罪の場合、錯誤に陥った被害者を利用して財物を移転させることで、初めて法益侵害結果が生じます。
欺罔行為は財物移転という法益侵害の「手段」に過ぎず、被害者が錯誤に陥ったこと自体は法益侵害そのものではないのです。
本件では、乙は甲との共謀に基づき、コインロッカー内の現金を受領することにより、財物の移転に因果性を及ぼしています。
したがって、乙には詐欺罪の共同正犯が成立します。
このように、結果共同惹起説は犯罪結果との因果関係が重要であるところ、犯罪の本質的要素は法益侵害であることから、「この犯罪の保護法益は何か」「何をもって法益侵害が発生したといえるか」の検討が不可欠なのです。
第2章 だまされたふり作戦の判例について
それでは、いよいよだまされたふり作戦の判例を見ていきましょう。
2-1 事案
「だまされたふり作戦」とは、被害者が、電話の内容が詐欺であることに気づいて警察に通報した後、引き続きだまされたふりをして受け子と接触し、受け子がダミーの紙幣などを受け取った直後に警察が逮捕するという手法です。
最高裁の事案では、以下のようにだまされたふり作戦が行われました。
・最決平成29年12月11日
(事案)
甲は、Vに電話をかけ、150万円を支払えば宝くじに必ず当たる特別抽選に参加できるなどとうそを述べ、空き部屋に現金を配送するよう指示した。
Vが警察に相談したことにより、だまされたふり作戦が実施され、Vは現金が入っていない箱を空き部屋に送付した。
甲は、上記電話の後、乙に対し、報酬約束の下に荷物の受領を依頼した。乙は、それが詐欺の被害金を受け取る役割である可能性を認識しつつこれを引き受け、空き部屋で現金が入っていない箱を受領した。
2-2 問題の所在
乙は、甲が欺罔行為を行った時点では詐欺の共謀をしていないため、承継的共同正犯が問題となります。
第1章で述べた判断基準に照らせば、詐欺罪は承継的共同正犯が認められますが、何が問題なのかを見ていきましょう。
まず、本件では、結局現金を受領することはできていないため、詐欺未遂罪の成否を検討する必要があります。
未遂犯の場合、構成要件的結果は発生していないため、「犯罪結果との因果関係を検討する必要はないのでは?」と考えた人もいるかもしれません。
しかし、未遂犯の処罰根拠は結果発生の危険性を惹起したことであるため、当該行為によって「危険が生じた」という結果は必要となるのです。
では、本件の場合はどうでしょうか。
詐欺罪の法益侵害は財物の移転であるため、「乙の行為によって財物移転の危険が生じた」といえる場合には、詐欺未遂罪の共同正犯が成立します。
しかし、乙が甲から指示を受けて共謀した時点では、すでにだまされたふり作戦が実施され、空き部屋には現金が入っていない箱が配送されています。
そうすると、乙はどんなに頑張っても現金を受領することは不可能です。
では、乙は「財物移転の危険」を生じさせていないので、詐欺未遂罪の承継的共同正犯は認められないのでしょうか?
2-3 判旨
この点について、最高裁は以下のように判示し、乙には詐欺未遂罪が成立すると結論付けました。
・最決平成29年12月11日
(判旨)
被告人は,本件詐欺につき,共犯者による本件欺罔行為がされた後,だまされたふり作戦が開始されたことを認識せずに,共犯者らと共謀の上,本件詐欺を完遂する上で本件欺罔行為と一体のものとして予定されていた本件受領行為に関与している。そうすると,だまされたふり作戦の開始いかんにかかわらず,被告人は,その加功前の本件欺罔行為の点も含めた本件詐欺につき,詐欺未遂罪の共同正犯としての責任を負うと解するのが相当である。
以上を踏まえた上で、次章ではだまされたふり作戦と不能犯との関係について解説します。
第3章 だまされたふり作戦と不能犯の関係
ここからは、最高裁の結論が妥当であるかを理論的に考察していきます。
3-1 不能犯の学説
未遂犯において、「結果を発生させることが不可能ではないか」という問題は、不能犯と呼ばれる論点です。
不能犯については様々な学説がありますが、現在有力な見解は、
- 具体的危険説
- 修正された客観的危険説
の2つです。
3-2 具体的危険説のあてはめ
具体的危険説とは、一般人が認識できた事情及び行為者が特に認識していた事情を判断資料として、一般人から見て危険性の有無を判断するという見解です。
まずはこの見解で判例のあてはめをしてみましょう。
だまされたふり作戦は、犯人に知られないように秘密裏に行われるものですので、一般人が認識できたとはいえません。
また、乙本人も、だまされたふり作戦が実施されていることを知りませんでした。
そのため、「だまされたふり作戦が実施された」という事実は判断資料に含まれません。
乙が認識していた事情は、甲から欺罔行為を受けたVが、甲が指示した空き家に箱を郵送したという事実です。
これを前提とすると、乙が空き家に赴いて箱を受領することは、一般人から見て「現金が入った箱が受領されてしまう」という状況であり、財物移転の危険が認められます。
したがって、詐欺未遂罪の共同正犯が成立します。
3-3 修正された客観的危険説のあてはめ
次に、修正された客観的危険説とは、①いかなる事情が存在すれば結果が発生したかを明らかにした上で、②そのような事情が存在し得た蓋然性から危険性の有無を判断するという見解です。
この見解でも判例のあてはめをしてみましょう。
本件では、①甲から電話を受けた被害者がうそを見抜けず、だまされたふり作戦が実施されないまま現金入りの箱が配送されてしまった場合、乙が箱を受領することで財物移転の結果が発生したといえます。
では、②そのような事情が存在し得た蓋然性が認められるでしょうか。
だまされたふり作成は常に実施できるものではなく、実際に被害者がだまされてしまうケースも多数あります。
そうすると、本件では偶然だまされたふり作戦を実施することができたものの、被害者がだまされ、配送された箱を乙が受領する蓋然性はあったと認められます。
したがって、修正された客観的危険説に立っても、詐欺未遂罪の共同正犯が成立します。
【コラム】修正された客観的危険説の補足
本件では、甲は「150万円を支払えば宝くじに必ず当たる特別抽選に参加できる」といううそを述べており、(極めて怪しい内容ですが)潜在的には誰もがだまされる可能性がゼロではありません。
これに対して、例えばVには子供がいないにもかかわらず、甲が息子を装って「示談金を立て替えてほしい」と電話をかけてきた場合はどうでしょうか?
この場合、さすがにVがだまされる可能性は皆無といえます。
では、この場合は不能犯になるかというと、有力な学説は、それでも詐欺未遂罪が成立すると解しています。
そもそも、本件のような特殊詐欺は、特定の人だけを狙ったものではなく、不特定多数の名簿情報から抽出されたターゲットに電話をかけるという犯行計画であることが通常です。
そのため、たまたま被害者に子供がいなければだまされる可能性はないとしても、子供がいる被害者が電話を受けてだまされてしまうことは十分考えられます。
このように、「蓋然性」の範囲を当該被害者ではなく、潜在的な被害者を含むものとした場合、結果発生の危険を肯定することができるのです。
参考文献:橋爪隆「特殊詐欺の「受け子」の罪責について」(研修827号3頁以下)
3-4 判例の理解
では、判例は具体的危険説と修正された客観的危険説のどちらに立っているでしょうか?
実は、判例はどちらの見解に立っているかを明確にしていません。
判旨には「だまされたふり作戦が開始されたことを認識せずに」という事実が記載されており、これは具体的危険説から説明可能です。
他方、「本件詐欺を完遂する上で本件欺罔行為と一体のものとして予定されていた本件受領行為に関与している」という記載もあります。これは、受領行為を単体としてではなく、詐欺計画全体として評価するということであり、修正された客観的危険説と親和的な発想といえます。
このように、最高裁は、具体的危険説と修正された客観的危険説の、どちらの見解からも説明できる表現で詐欺未遂罪の共同正犯を認めています。
第4章 まとめ
以上のとおり、だまされたふり作戦については、大前提として詐欺罪について承継的共同正犯が成立し得るかを検討する必要があります。
結果共同惹起説に立った場合、詐欺罪の承継的共同正犯を認めることが可能です。
その上で、だまされたふり作戦は、財物の移転が不可能であるとも思えるので、不能犯が問題となります。
この点については、具体的危険説と修正された客観的危険説が有力ですが、どちらの見解に立っても詐欺未遂罪の共同正犯を認めることが可能です。
この記事にご興味を持っていただいた方は、だまされたふり作戦の論証が掲載されているヨビロン刑法もぜひご参照いただければと思います。


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