【民法物権入門2】物権的請求権と物権変動 物権の基礎を一気に解説
目次
この記事を読んで理解できること
「自分の土地に他人が勝手に物を置いたら、『どけてくれ』と言えるの?」
「家を買う契約をしたら、その瞬間にもう自分の物になるの? 登記してからじゃないの?」
「他人の物を売る契約って、そもそも有効なの?」
物権は、物に対する直接的・排他的な支配権です。
本記事では、その物権をめぐる二つの基礎を続けて扱います。
前半は、物権の支配が妨げられたときに物権者を救済する物権的請求権です。
後半は、物権がいつ・どのように移転するかという物権変動総論(意思主義・物権変動の時期)であり、これは続く対抗問題(民法177条・178条)の前提となります。
物権を「守る」場面と「動かす」場面を一度に押さえることで、物権法の骨格が見通せるようになります。
この記事で学べること
- 【初級】物権的請求権の三類型(返還・妨害排除・妨害予防)と法的根拠
- 【中級】行為請求権説と忍容請求権説(費用は誰が負担するか)
- 【中上級】建物収去土地明渡しの相手方/抵当権に基づく妨害排除
- 【初級】物権変動の意義と意思主義(176条)、形式主義の不採用
- 【中級】所有権移転の時期(特定物・不特定物・他人物)
- 【中級】公示の原則と公信の原則の違い
- 【中上級】176条(当事者間)と177条・178条(対第三者)の役割分担
第1章 物権的請求権とは
1-1 意義と根拠
物権的請求権とは、物権の円満な支配状態が妨げられ、または妨げられるおそれがあるときに、物権そのものを根拠として、その侵害状態の除去や予防を求める権利をいいます。
民法に正面からの規定はありませんが、事実状態にすぎない占有にすら占有訴権(197条以下)が認められること、202条1項が「本権の訴え」と「占有の訴え」を区別して本権に基づく請求の存在を前提とすること、物権が絶対的・排他的支配権であることから、その効果として当然に導かれます。
占有訴権が占有という事実状態を保護し本権の有無を問わないのに対し、物権的請求権は所有権などの本権を根拠とする点で区別されます。
1-2 物権的請求権と消滅時効
物権的請求権は、物権侵害が生じれば発生し、侵害が消滅すれば消滅するという、物権の効力そのものです。
そのため、物権から切り離して物権的請求権だけが独立に時効消滅することはありません。
所有権が消滅時効にかからない以上、所有権に基づく物権的請求権も消滅時効にかからないと解されています。
第2章 物権的請求権の三類型
2-1 返還請求権
物権的返還請求権は、本来その物権者に帰属すべき物を第三者が占有しているときに、占有の回復(物の引渡し)を求める権利です。
所有権に基づく返還請求であれば、原告に所有権があること、相手方が目的物を占有していることが要件となり、相手方の占有権原(賃借権など)は抗弁となります。
さらに、相手方が即時取得(192条)や取得時効によって所有権を取得していれば、原告は所有権を失っているため、返還請求は認められません。
2-2 妨害排除請求権
物権的妨害排除請求権は、占有の喪失以外の方法で物権の行使が妨げられているときに、その妨害の排除(原状回復)を求める権利です。
自己の土地に無断で物が置かれた場合や、自己所有地について他人が無権利の登記名義を有している場合がこれにあたります。
後者に関連して、実体的な権利関係と登記が一致しないときに不実の登記の抹消・移転を求める物権的登記請求権は、妨害排除請求権の一発現として位置づけられます。
応用論点として、抵当権に基づく妨害排除があります。
抵当権は目的物の交換価値だけを把握する非占有担保ですが、判例は、第三者が不法に、または競売を妨害する目的で占有し、その占有により交換価値の実現が妨げられて優先弁済請求権の行使が困難になる状態があるときは、抵当権者は抵当権に基づき占有の排除を求めることができ、所有者による適切な維持管理が期待できないときは、直接自己への明渡しを求めることもできるとしています。
2-3 妨害予防請求権
物権的妨害予防請求権は、物権の行使が妨げられる具体的な危険があるときに、その予防を求める権利です。
隣地の擁壁が崩落しかけており自己の土地に被害が及ぶ明白な危険があるような場合が典型で、漠然とした不安や抽象的な危険では足りず、侵害の危険が明白かつ具体的に存在することが必要です。
第3章 2つの論点(費用・相手方)
3-1 行為請求権か忍容請求権か(費用負担)
物権的請求権の内容をどう捉えるかをめぐっては、相手方に侵害状態を除去する行為を求める権利と捉える行為請求権説と、物権者が自ら行う除去行為を相手方に忍容させる権利と捉える忍容請求権説が対立します。
両説は、除去にかかる費用を最終的に誰が負担するかという点で結論を分けます。
物権が排他的支配権であることを重視すれば、原則として相手方の費用負担による行為請求が認められます。
もっとも、同一の事実について返還請求権と妨害排除請求権とが互いに衝突する場面では、双方が相手方に行為を請求でき「早い者勝ち」になり不合理です。
そこで、返還請求については、相手方が積極的に関与して目的物を奪ったのでない限り、物権者が自ら行う取戻しの忍容を求めるにとどめる、という調整が説かれます。
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学説 |
請求の内容 |
費用負担の原則 |
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行為請求権説 |
相手方に侵害状態の除去行為を求める |
相手方が負担 |
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忍容請求権説 |
物権者が自ら行う除去を相手方に忍容させる |
物権者が負担 |
3-2 請求の相手方──建物収去土地明渡し
土地所有者が地上の建物の収去と土地の明渡しを求める場合、建物の登記名義人と現実の所有者が一致しないことがあります。
判例は、収去すべき相手方は、建物を所有することで現実に土地を占拠し土地所有権を侵害している者であって、単に建物の登記名義を有するにすぎない者ではないとします。
もっとも、自らの意思で自己名義の所有権取得登記を経た者が、その後に建物を譲渡したにもかかわらず登記名義を自己のもとに残している場合には、その譲渡人は、所有権喪失を土地所有者に対抗できず、なお建物収去・土地明渡しの義務を免れないとされています。
第4章 物権変動と意思主義
4-1 物権変動とは
物権変動とは、物権の取得・変更・喪失を総称する概念です。
物権変動は、売買のような法律行為によって生じるほか、建物の建築や物の滅失といった事実によっても、また取得時効・即時取得・相続のように法律行為以外の権原によっても生じます。
このうち176条が規律するのは、法律行為(契約)に基づく物権変動の場面です。
4-2 意思主義(176条)と形式主義の不採用
176条は、物権の設定・移転が「当事者の意思表示のみによって」効力を生じると定めます。
ここには三つの意味があります。
第一に、所有権移転の原因は契約であること。
第二に、移転には意思表示があれば足り、登記・登録・引渡しといった方式の具備は効力要件ではないこと(形式主義の不採用)。
第三に、原則として契約が締結された時点が移転時期であり、移転に障害があるときはその障害がなくなった時点である、ということです。
第5章 所有権移転の時期
5-1 特定物・不特定物・他人物
特定物の売買では、別段の合意がない限り、売買契約が成立した時点で所有権が移転します。
移転時期について当事者の合意があれば、それによります。
不特定物(種類物)の売買では、契約時にはどの物が引き渡されるか定まっていないため、別段の合意がない限り、目的物が特定された時点(401条2項)で移転します。
他人の物を目的とする売買契約も有効であり、所有権の移転時期は、別段の合意がない限り、売主が所有者から後日その物の所有権を取得した時点です。
整理すると次のとおりです。
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売買の類型 |
所有権移転の時期(特約なき場合) |
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特定物の売買 |
売買契約の成立時 |
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不特定物(種類物)の売買 |
目的物が特定された時 |
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他人物の売買 |
売主が所有者から所有権を取得した時 |
これらはいずれも「特段の意思表示がなければ契約締結時に効力が生じる」という意思主義の現れであり、移転時期に関する特約があればそれが優先します。
第6章 公示の原則と公信の原則
6-1 公示の原則
当事者間では意思表示のみで物権が移転しますが、その物権変動を第三者に主張するには、変動が外部から認識できる形で公示されていなければなりません(公示の原則)。
公示のない物権変動は第三者からは存在しないものとして扱ってよく、不動産では登記が(177条)、動産では引渡しが(178条)、その対抗要件とされます。
6-2 公信の原則
公信の原則とは、真の権利状態と異なる公示を信頼して取引をした者に、公示どおりの権利状態があったのと同様の保護を与える考え方です。
動産については、占有を信頼した者を保護する即時取得(192条)がこれを採用しています。
これに対して、不動産の登記には公信力が認められておらず、登記を信頼しただけでは保護されません。
虚偽の外観を信頼した者の保護は、94条2項の類推適用などによって個別に図られます。
6-3 176条と177条・178条の役割分担
以上を整理すると、176条は当事者間で物権がいつ移転するかを定める規定であり、177条・178条は、その物権変動を当事者以外の第三者に対抗できるかを定める規定です。
両者は問題とする場面が異なります。
次回以降の対抗問題は、176条で生じた物権変動を前提に、登記や引渡しの有無で優劣を決する議論である、という位置づけを押さえておきましょう。
第7章 試験答案の構成方法
7-1 建物収去土地明渡しの相手方が問われる事案
〔問題提起〕Xの土地上にYが建物を建てて所有していたが、Yが建物をZに譲渡したのに登記名義をY名義のまま残している。Xは誰に建物収去・土地明渡しを請求できるか。
〔規範定立〕収去義務を負うのは原則として現実に建物を所有して土地を占拠する者だが、自らの意思で自己名義の所有権取得登記を経た者が、建物を譲渡しても登記名義を保有し続ける限り、所有権喪失を土地所有者に対抗できず、建物収去・土地明渡しの義務を免れない。
〔あてはめ〕Yは自らの意思で自己名義の登記を経たうえで登記を残しているから、建物所有権の喪失をXに対抗できない。
〔結論〕Xは、現実の所有者Zのみならず、登記名義を残すYに対しても請求できる。
7-2 物権変動の時期が問われる事案
〔問題提起〕特定物甲の売買契約が締結されたが、代金未払・登記未了の段階で、買主が甲の所有権に基づく主張をできるか。所有権がいつ移転したかが問題となる。
〔規範定立〕176条により、物権変動は当事者の意思表示のみによって効力を生じ、特定物売買では別段の合意がない限り契約成立時に所有権が移転する。
〔判断基準・あてはめ〕移転時期に関する特約の有無を確認し、特約がなければ契約成立時に買主へ移転したと評価する。代金未払や登記未了は、当事者間の所有権移転自体を妨げない(第三者への対抗は別問題であり、177条の検討に進む)。
〔結論〕特約がない限り、買主は契約成立時に所有権を取得している。
まとめ
- 物権的請求権は明文なき権利だが、占有訴権の存在や物権の排他性から当然に認められる。
- 三類型は返還・妨害排除・妨害予防で、不実登記の抹消を求める登記請求権は妨害排除の一発現。
- 費用負担をめぐり行為請求権説と忍容請求権説が対立し、衝突場面で忍容にとどめる調整がある。
- 建物収去の相手方は現実の所有者だが、自己名義の登記を残す譲渡人も相手方となりうる。
- 176条は意思主義を採用し、登記・引渡しは効力要件ではない。移転時期は特定物=契約時など。
- 動産には即時取得という公信の原則があるが、不動産の登記に公信力はない。
- 176条は当事者間、177条・178条は対第三者の問題で、場面が異なる。
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