【行政法入門9】 行政調査とは?捜査との違いと重要判例3つを徹底解説

監修者
講師 赤坂けい
株式会社ヨビワン
講師 赤坂けい
【行政法入門9】 行政調査とは?捜査との違いと重要判例3つを徹底解説
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チェック
この記事を読んで理解できること
  • 行政調査の定義と種類
  • 行政調査(犯則調査)と犯罪捜査の違い
  • 行政調査の論点と重要判例

この記事は、

  • 行政調査とは何かを基礎から理解したい
  • 行政調査(犯則調査)と犯罪捜査の違いを知りたい
  • 行政調査に関する重要判例を押さえたい

といった方におすすめです。

行政調査は、税務調査や保健所の立入検査、警察官による職務質問など、日常生活の身近な場面で実施されています。

一方で、その性質上、個人の自由や権利が制限され、行政機関と相手方との間でトラブルや紛争が生じることも少なくありません。

そのため、「どこまで強制力があるのか」「憲法上の権利とどう関係するのか」といった点で、初学者が混乱しやすいテーマでもあります。

しかし、強制力の強さで行政調査を3つに分類し、それぞれ「どこまで強制的に情報を収集できるか」という視点から判例を読み解くことで、自然と論点が整理されていきます。

そこで、この記事では、

1章で行政調査の定義と種類

2章で行政調査(犯則調査)と犯罪捜査の違い

3章で行政調査の論点と重要判例

について、それぞれ解説します。

基礎知識から重要判例のポイントまで分かりやすくまとめていますので、初学者の方はもちろん、行政法をひととおり学んだ方の復習にも役立つ内容になっています。

1章:行政調査の定義と種類

行政調査とは、行政機関が行政目的を達成するために、情報を収集する活動のことです。

ただし、一口に行政調査といっても、相手方への強制力の強さによって性質が大きく異なります。

以下の図のとおり、行政調査は強制力の弱い順に、「任意調査」「間接強制調査」「直接強制調査」という3種類に分類できます。

行政調査の定義と種類

それぞれの特徴や具体例について、解説します。

1-1:任意調査

任意調査とは、行政機関が相手方の任意の協力を得て行う調査のことです。

強制力を伴わないため、一般には法律上の明確な根拠がなくても実施できるとされています。

もっとも、個別法で調査の要件や手続、調査できる範囲などが定められている場合は、そのルールに従わなければなりません。

たとえば、警察官による職務質問がその代表例です。職務質問は任意調査ですが、質問を行うための要件や方法が警察官職務執行法第2条に定められています。

これらは、職務質問が任意調査であっても、相手方が断りにくく、事実上の強制になりやすいことから、その濫用を防ぐために設けられているルールです。

そのほかの例としては、税務署職員による任意の聞き取り調査などが挙げられます。

1-2:間接強制調査

間接強制調査は、調査に応じない場合に罰則を科すことで、間接的に調査への協力を確保する調査です。

罰則によって相手の権利や自由を制約するため、法律上の根拠が必要とされています。

ただし、あくまで罰則によって調査に応じるよう促すにとどまり、相手の意思に反して実力を用いて無理やり調査を行うことはできません。

なお、現在、法律で定められている行政調査の多くは、この間接強制調査に該当します。

具体例として挙げられるのは、税務署職員による質問検査(国税通則法第74条の2)や、保健所による立入検査(食品衛生法第28条第1項)などです。

これらの調査に対して、正当な理由なく拒否をしたり、虚偽の回答をしたりした場合には、拘禁刑や罰金などの刑罰が科される可能性があります(国税通則法第128条、食品衛生法第85条)。

1-3:直接強制調査

直接強制調査は、相手の意思にかかわらず、実力を行使して行う調査です。

相手方の権利や自由を強く制約するため、法律の根拠が必要であるだけでなく、より厳格な手続が求められます。

具体的には、憲法第35条が定める令状主義との関係から、原則として裁判所の許可状(令状)が必要です。

具体例としては、脱税などの犯則事件を調べるために税務職員が行う臨検(立入調査)・捜索・差押え(国税通則法第132条)があります。

このような調査を一般に、「犯則調査」といいます。

犯則調査は行政調査でありながら、刑事手続に近い性質を持つ点が特徴です。

次の章では、この犯則調査と通常の犯罪捜査の違いについて解説します。

2章:行政調査(犯則調査)と犯罪捜査の違い

犯則調査は、脱税などの不正を調べる点で犯罪捜査と似ていますが、目的や法的な位置づけが異なる制度です。

4つの観点から両者の違いを整理したのが、以下の表です。

行政調査(犯則調査)と犯罪捜査の違い

このように、犯則調査と犯罪捜査は、実施主体・目的・法的根拠などの点で異なります。

ここで重要なのは、行政調査を犯罪捜査の手段として利用することは許されないという点です。

行政調査は、一定の行政目的を達成するために認められたものであり、犯罪捜査のために用いることは権限の濫用にあたるからです。

また、そのような利用を認めると、本来であれば犯罪捜査で保障される令状主義や黙秘権などの手続保障を、事実上回避することにもなりかねません。

なお、判例では、調査の結果が後に犯罪の証拠として利用されることが想定されていたとしても、そのことだけでその調査が直ちに違法になるわけではないとされています(最判平成16年1月20日)。

つまり、行政目的に基づいて適法に実施された調査であれば、その結果が後に刑事事件の証拠として用いられても、それだけで違法になるわけではありません。

3章:行政調査の論点と重要判例

行政調査は行政目的を達成するために認められた制度ですが、その実施方法によっては、相手方の権利や自由を不当に制限してしまう恐れがあります。

特に問題となるのが、以下の3つの論点です。

  • 任意調査の適法性
  • 憲法35条(令状主義)・38条(黙秘権)との関係
  • 手続の適法性

それぞれ解説します。

3-1:任意調査の適法性

任意調査は相手方の同意や協力を前提とする調査であり、法的強制力がないため、原則は拒否が可能です。

しかし、実際には行政機関が持つ公権力を背景とした心理的圧力が生じやすく、その運用次第では、相手方の自由な意思決定を妨げる恐れがあります。

その点について、判例では、任意調査の方法が社会通念上相当と認められる限度を逸脱した場合には、たとえ形式上は任意調査であっても違法になるとされています。

つまり、調査の方法が社会的に許容される範囲を超えていないかが重要になるということです。

それでは、具体的にどのような場合に適法・違法と判断されるのか、自動車の一斉検問の判例で確認していきましょう。

3-1-1:【判例】自動車の一斉検問

自動車の一斉検問(最判昭和55年9月22日)は、任意調査の適法性が争われた事件です。

■事件の概要

宮崎市内において、宮崎県警察は、通過するすべての車両に停止を求める方法で交通検問を実施。

X(被告人)がこれに応じたところ、飲酒検知検査により基準値以上のアルコールが検出されたため、道路交通法違反(酒気帯び運転)で起訴された。

Xは、自動車検問は法的根拠に欠くため違法であり、検問を端緒として収集された証拠には証拠能力がないと主張した。

■争点

走行中の車両に対し、一律に停止を求める一斉検問は、法的の根拠なく行うことができるか。

■最高裁の判決内容

・本件自動車検問は適法

l  警察法2条1項の趣旨から、交通の安全に必要な警察の諸活動は、強制力を伴わない任意手段による限り、一般的に許容される。

l  もっとも、国民の権利・自由への干渉のおそれがある場合には、任意手段であっても無制限に許されるわけではない。

l  しかし、自動車運転者は、公道利用に伴う当然の負担として、合理的に必要な限度での交通取締に協力すべき。

l  よって、相手方の任意の協力を求める形で行われ、自由を不当に制約しない方法・態様であれば、本件のような一斉検問も適法と解すべき。

■この判例のポイント

任意調査は、不当に自由を制約しない方法・態様で行われる限り、特別の法律の根拠がなくても許容され得ることを示した判例です。

3-2:憲法35条(令状主義)・38条(黙秘権)との関係

憲法35条は、住居や所持品の捜索・押収を行うには、裁判官が発行する令状が必要であると定めた条文です。

これを「令状主義」といい、国家が正当な理由なく個人の権利を侵害することを防ぐための仕組みとされています。

日本国憲法

第三十五条 

何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。

一方、憲法38条1項は、取り調べなどに対して、自分に不利益となることを言わなくてもよい権利、いわゆる「黙秘権」を保障した条文です。

第三十八条 

何人も、自己に不利益な供述を強要されない。

これらはいずれも、刑事手続において個人の権利を守るために設けられたものです。

しかし、行政調査についても、強制的な性格を帯びる場合は、これらの規定との関係が問題となります。

犯則調査など直接強制調査では、裁判所の許可を得ることが法律上義務づけられているのが一般的ですが、間接強制調査は、裁判所の許可なしに実施されることが通常です。

しかも、間接強制調査では回答の拒否や虚偽の回答に罰則が科されるため、令状主義や黙秘権との関係が争点となってきました。

この点について、判例では、間接強制調査にも憲法35条・38条の保証が及ぶ余地を認めています。

ただし、その調査が刑事責任の追及を目的としていない場合には、令状なしでも直ちに違憲とはならないという立場をとっています。

次に、この考え方を示した重要判例である、川崎民商事件について確認しましょう。

3-2-1:【判例】川崎民商事件

川崎民商事件(最大判昭和47年11月22日)は、間接強制調査について憲法35条・38条の保障が及ぶかどうかについて争われた事件です。

■事件の概要

川崎税務署は、確定申告に過少申告の疑いがある川崎民主商工会の会員に対し調査を実施。

会員であるX(被告人)の店舗に職員を派遣し、帳簿等の検査を行おうとしたところ、Xは「事前通知がなければ調査に応じられない」などと述べ、職員を引っ張るなどして検査を拒否。

Xは旧所得税法に基づき検査拒否罪で起訴されたが、令状なき検査は憲法35条に違反し、質問の拒否が認められないのは憲法38条に違反すると主張して上告した。

■争点

憲法35条の令状主義と憲法38条の黙秘権は、税務調査にも適用されるか。

■最高裁の判決内容

・本件税務調査は憲法35条・38条のいずれにも違反しない

l  行政手続であっても、「刑事責任追及のための資料収集に直接結びつく作用を一般的に有する」場合には、憲法35条・38条の保障が及ぶ。

l  しかし、旧所得税法63条に基づく税務調査は、所得税の公平確実な徴収を目的とした手続であり、刑事責任の追及を目的とするものではない。そのため、憲法35条は当然には適用されず、令状なしの税務調査は違憲にあたらない。

l  罰則による間接的・心理的な強制は、直接的・物理的強制と同視できる程度には達しておらず、公益上の必要性にも照らして不均衡、不合理なものとはいえない。

■この判例のポイント

憲法35条・38条は刑事手続に限らず、「実質的に刑事責任追及のための資料収集に直接結びつく」行政調査にも及び得ることを示した判例です。

他方、通常の税務調査はその性質上これにあたらないため、令状なしで行うことは合憲と判断されました。

3-3:手続の適法性

行政調査について、包括的に一般的なルールを定めた法律は存在しません。

行政手続法も、行政調査は適用対象外となっています(行政手続法第3条第1項第14号)。

もっとも、相手方の権利・利益に影響を及ぼす行政調査については、個別の法律により一定の手続が定められているのが一般的です。

たとえば、独占禁止法第47条第3項は、公正取引委員会の職員が立入検査を行う際には、身分証を携行し、これを提示することを義務付けています。

ただし、法律に明文の定めがない手続の具体的な進め方については、行政庁に広い裁量が認められています。

よって、行政調査の手続の適法性は、個別の状況に応じて判断されることになります。

行政調査における手続の適法性が実際の事件でどのように判断されたのかは、次の荒川民商事件で確認していきましょう。

3-3-1:【判例】荒川民商事件

荒川民商事件(最判昭和48年7月10日)は、税務署による所得税調査(質問検査)が、どのような場合に適法となるかが争われた事件です。

■事件の概要

東京都荒川区でプレス加工業を営むX(被告人)の確定申告における申告所得額が、前年より大きく減っていることから、過少申告の疑いで税務署が調査を実施。

税務職員がX宅を訪れ、所得税法の質問検査権に基づき、帳簿書類の提示などを求めたが、Xはこれを拒否し、職員を押すなどした。

その結果、Xは所得税法違反として起訴されたが、Xは事前通知もなく、調査の理由や範囲も示されないまま行われた本件質問検査は違法などと主張した。

■争点

税務署の質問検査を実施するにあたり、事前通知や調査理由の説明は法律上の要件となるか。

■最高裁の判決内容

・本件質問検査は適法

l  法律上特別な定めのない質問検査の実施細目(範囲・程度・時期・場所など)は、税務職員の合理的な判断に委ねられている。ただし、検査の必要性と相手方の私的利益との比較を踏まえて、社会通念上相当な限度にとどまることが求められる。

l  実施日時・場所の事前通知や、調査理由・必要性の個別具体的な説明は、質問検査を行ううえで法律上一律に必要とされる要件ではない。

■この判例のポイント

税務調査の適法性は、必要性と相当性を基準に判断されること、事前通知や理由の告知は必ずしも法律上の要件ではないことを示した判例です

なお、平成23年度の法改正により、税務調査を行う際には事前通知を行うことが法定化されています(国税通則法第74条の9)。

まとめ

行政調査とは、行政機関が行政目的を達成するために行う情報収集活動です。

強制力の強さによって、以下の3種類に分類されます。

  • 任意調査:相手方の任意の協力に基づく調査
  • 間接強制調査:罰則を背景に間接的な強制力を持たせる調査
  • 直接強制調査:実力を行使して行う調査

なお、行政調査である犯則調査は犯罪捜査と混同されがちですが、その目的や実施主体、法的位置づけなどが異なる制度です。

また、行政調査を犯罪捜査の手段として利用することは許されません。

行政調査を理解するうえでは、任意調査の適法性や、令状主義・黙秘権との関係、手続の適法性といった論点が重要です。

まずは、本記事で紹介した重要判例を押さえ、行政調査の基本的な考え方を理解しましょう。

この記事では、初学者の方にもわかりやすいように、一般的な考え方を解説しています。

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