【行政法入門7】 行政指導とは?行政手続法のルールと重要判例を徹底解説
目次
この記事を読んで理解できること
- 行政指導とは?
- 行政手続法上のルール
- 違法な行政指導の救済手段と判例
この記事は、
- 行政指導と行政処分の違いが知りたい
- 行政指導の行政手続法上のルールを確認したい
- 行政指導に関する重要判例を押さえたい
といった方におすすめです。
行政法の学習を進めると、「行政指導」という概念が登場します。
名前から何となくイメージはつかめても、「行政処分と何が違うのか」「強制力がないならなぜ問題になるのか」と疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
行政指導は行政処分のような法的強制力を持たない一方で、実務では大きな影響力を持つことがあります。
そのため、行政手続法では、行政指導が行き過ぎないよう一定のルールが設けられています。
ただ、どこまでが適法でどこからが違法なのかは、法律初学者にとって分かりにくいポイントになるでしょう。
そこで、この記事では、
1章で行政指導の定義と3つの分類
2章で行政手続法上のルール
3章で違法な行政指導の救済手段と判例
について、それぞれ解説します。
行政指導に関する基礎知識を分かりやすくまとめていますので、初学者の方はもちろん、一度学んだ内容を復習したい方にも活用していただけます。
1章:行政指導とは?
行政指導は行政作用の一種であり、行政手続法において明確に定義されています。
もっとも、条文の文言だけではイメージしにくい部分もあるため、本章では定義をポイントごとに分解しながら、行政処分との違いもあわせて整理していきます。
1-1:行政指導の定義(行政処分との違い)
行政指導は、行政手続法第2条第6号に次のように定義されています。
行政手続法
第二条
六 行政指導 行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないものをいう。
ここでのポイントは以下のとおりです。
■行政機関の任務又は所掌事務の範囲内
行政機関であれば何でも指導できるわけではなく、法令に定められた業務の範囲内に限定されます。
■特定の者に行う
交通安全運動や感染症対策の呼びかけのような、不特定多数に向けた周知・啓発活動などは行政指導には当たりません。
■一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為
相手に対して、一定の行動をすること・しないことを求める働きかけであれば、広く行政指導に含まれます。
なお、一般的に「助言」は参考となる知識や方法を教えること、「指導」は望ましい行動をとるように促すこと、「勧告」は「指導」よりも強く、一定の措置をするよう求めることです。
■処分に該当しないもの
処分とは、「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(行政手続法第2条第2号)」です。
行政処分が相手方の意思に関わらず一方的に法的効果を生じさせる行為であるのに対し、行政指導はこれに該当せず、法的強制力を伴わない行為です。
このように、行政指導はあくまで任意の協力を求める働きかけであるため、原則として法律上の個別の根拠がなくても行うことができるとされています。
もっとも、従わない場合に、行政機関が改めて許可取消や業務停止命令などの行政処分を行うケースもあり、実務上は強い影響力を持つことに注意が必要です。
1-2:行政指導の3つの分類と具体例
行政指導は、その目的や機能に応じて以下の3種類に分類されます。
①助成的行政指導
私人や事業者の活動を支援するために、情報や知識を提供する行政指導です。
具体例としては、中小企業への経営指導、農家への栽培技術の助言、税務相談などが挙げられます。
②調整的行政指導
複数の利害関係者の間に生じる、対立や紛争を調整することを目的とした行政指導です。
具体例としては、大規模商業施設の建設をめぐって開発事業者と周辺住民の間で紛争が生じた際に、行政機関が間に入って仲介するケースが挙げられます。
③規制的行政指導
法令違反や社会的に問題のある行為の是正・抑制を目的とした行政指導です。
具体例としては、危険な建物への補修・除去の要求、違法営業のおそれがある事業者への是正の促しなどが挙げられます。
この3類型の中で、実務や試験で特に問題になりやすいのが3つ目の規制的行政指導です。
相手方の行為を「やめさせる」「改めさせる」という性質上、行き過ぎると違法な行政指導と評価されるリスクがあります。
詳しくは3章で解説します。
2章:行政手続法上のルール
行政指導は法律上の根拠がなくても行うことができる反面、行き過ぎれば相手方に事実上の圧力を与えるおそれがあります。
そこで行政手続法は、行政指導の適正を確保するためにいくつかの重要なルールを定めています。
本章では、これらのルールを順に確認していきます。
2-1: 行政指導の一般原則
行政手続法第32条では、すべての行政指導に共通する基本的なルールを以下のとおり定めています。
行政手続法
(行政指導の一般原則)
第三十二条 行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、いやしくも当該行政機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと及び行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならない。
2 行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない。
これらのルールは、行政指導が実質的な強制手段として用いられることを防ぐためのものです。
まず第1項は、行政機関は権限の範囲を超えた指導を行ってはならないこと、および相手方の協力はあくまで任意であることを明らかにしています。
第2項では、例えば、行政指導に従わなかった事業者の許認可申請を意図的に遅らせたり、理由なく不許可にしたりすることを禁止しています。
なお、予備試験でも出題されたことがある論点は、行政指導に従わない場合にその旨を公表することが第2項の「不利益な取扱い」に当たるかどうかです。
この点について、法律に基づいて行われる公表は、立法上の意義から法的に認められているものとして、「不利益な取扱い」には当たらないとされています。
2-2:申請・許認可に関する行政指導への制約
申請や許認可の場面では、行政指導が申請者の権利を実質的に制限する手段として使われやすいため、行政手続法において以下のような制約を設けています。
■申請に関する行政指導への制約
第三十三条 申請の取下げ又は内容の変更を求める行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、申請者が当該行政指導に従う意思がない旨を表明したにもかかわらず当該行政指導を継続すること等により当該申請者の権利の行使を妨げるようなことをしてはならない。
この規定は、申請の変更を求める行政指導に対して応じない意思を示した申請者に対し、その後も指導を続けることで申請者の目的達成を妨げることを禁止しています。
■許認可に関する行政指導への制約
第三十四条 許認可等をする権限又は許認可等に基づく処分をする権限を有する行政機関が、当該権限を行使することができない場合又は行使する意思がない場合においてする行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、当該権限を行使し得る旨を殊更に示すことにより相手方に当該行政指導に従うことを余儀なくさせるようなことをしてはならない。
この規定は、許認可等の権限を持つ行政機関が、その権限を使うつもりがない(または使えない)にも関わらず、許可や処分の可能性をちらつかせて行政指導に従わせることを禁止しています。
2-3:行政指導の方式
行政指導の内容が適正かどうかを相手方が判断できるよう、行政手続法は行政指導の手続・形式について次のルールを定めています。
- 相手方に行政指導の「趣旨・内容・責任者」を明示しなければならない(第35条第1項)
- 許認可権限を示したうえで行政指導を行う場合、その権限の根拠法令と要件、権限の行使が要件に適合する理由も示さなければならない(同条第2項)
- 口頭の行政指導でも、相手から求められたら、原則として①と②の内容を記した書面を交付しなければならない(同条第3項)
- その場で完了する行為を求める行政指導や、既に文書等で通知済みの行政指導には③は適用されない(同条第4項)
- 同じ行政目的のために複数人へ行政指導を行うときは、あらかじめ「行政指導指針」を定め、特別の支障がない限り公表しなければならない(第36条)
これらの規定は、行政指導の透明性と一貫性を確保し、恣意的な運用を防ぐためのものです。
2-4:行政手続法の適用除外となるケース
行政手続法は、すべての行政指導に適用されるわけではなく、適用除外となる行政指導もあります。
行政手続法第3条第1項では、行政分野の特殊性から行政手続法になじまないものとして、以下のようなケースが個別に列挙されています。
- 会計検査の際にされる行政指導
- 刑事事件に関して検察官などが行う行政指導
- 学校などで教育目的のために行う行政指導
- 公務員の職務や身分に関する行政指導
など
また、第3条第3項では、地方公共団体がする行政指導は行政手続法を適用しないと定めており、各自治体の行政手続条例などに従うこととされています。
3章:違法な行政指導の救済手段と判例
行政指導は法的強制力を持たないものの、事実上強い圧力として機能したり、行政手続法上のルールに違反したりするケースがあります。
こうした場合、国民はどのような手段で救済を求めることができるのでしょうか。
本章では、行政指導の救済手段と、行政指導が違法とされた重要な判例について解説します。
3-1:原則は取消訴訟の対象外
まず原則として、行政指導は取消訴訟の対象にはなりません。
取消訴訟の対象となるのは、「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」(行政事件訴訟法第3条第2項)です。これに当たるためには、「処分性」(直接国民の権利義務を形成・確定する性質)が必要となります。
行政指導は相手方の任意の協力を前提とする行為であり、これに当たりません。
処分性がない行為について取消訴訟を提起しても、訴訟要件を満たさないとして裁判所に却下されます(内容を審理せずに門前払いされる)。
ただし、行政指導として行われた行為について、例外的に処分性が認められたケースも存在します。
次に、その代表的な判例を確認しましょう。
3-1-1:【判例】病院開設中止勧告事件
病院開設中止勧告事件(最判平成17年7月15日)は、行政指導の処分性が争われた事件です。
■事件の概要
X(原告)は富山県高岡市で病院開設を計画し、県知事(被告)に病院開設許可を申請した。
県知事は、医療法に基づき、地域の病床数が必要病床数に達していることを理由に、病院開設を中止するよう勧告したが、Xはこれを拒否。
その後県知事は、病院開設を許可する一方、「厚生省通知では、中止勧告に従わなければ保険医療機関の指定を拒否することとされている」旨を記載した文書を送付した。
Xは、この中止勧告の取消し、または保険医療機関の指定拒否を予告した通告の取消しを求めて訴訟を提起した。
■争点
病院開設中止勧告は、行政事件訴訟法上の「処分」にあたり、取消訴訟の対象となるか。
■最高裁の判決内容
・病院開設中止勧告は処分性を有し、本件取消訴訟は適法
←
l 医療法上は勧告に従うかは任意であるが、従わない場合は、保険医療機関の指定を受けられなくなる可能性が高い
l 日本では国民皆保険制度のもと、保険医療機関の指定なしに病院経営を続けることは現実的に困難であるため、勧告は実質的に病院開設を断念させる効果を持つ
(なお、通告部分は取消訴訟の対象にはならないとした)
■この判例のポイント
法的には任意であっても、従わない場合に重大な不利益が事実上生じるときに、行政指導の処分性が認められ得ることを示した判例です。
3-2:国家賠償の対象になり得る
違法な行政指導によって損害を受けた場合は、国家賠償請求によって救済を求めることができます。
国家賠償法第1条第1項は、「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。」と定めています。
このように、国家賠償の対象は処分性の有無に関係なく、公権力の行使によって違法に損害を与えた場合となるため、行政指導も対象になり得るのです。
では、具体的にどのような行政指導が「違法」と評価されるかについて、次の判例で確認しましょう。
3-2-1:【判例】教育施設負担金事件
教育施設負担金事件(最判平成5年2月18日)は、行政指導の違法性が争われた事件です。
■事件の概要
マンション建設の増加による学校不足や生活環境の悪化を受け、武蔵野市(被告)は宅地開発等に関する指導要綱を制定。
この要綱に基づき、一定規模以上のマンション建築業者に「教育施設負担金」の納付を求める行政指導を行っていた。
また、要綱には「負担金を支払わない場合は上下水道等の協力を行わないことがある」旨が含まれており、実際過去に市が給水を拒否した事例もあった。
給水なしでは居住が事実上不可能であったため、あるマンション建築業者(原告)はやむを得ず負担金を納付。
その後、この行政指導は違法であるとして、業者は納付した負担金相当額の損害賠償を求めて提訴した。
■争点
水道の給水拒否という制裁措置を背景に教育施設負担金の納付を求める行政指導は、国家賠償法上の違法な公権力の行使に当たるか。
■最高裁の判決内容
・本件の教育施設負担金要求は違法な公権力の行使に当たる
←
l 行政指導として寄付金を求めること自体は、強制でない限り違法ではない
l しかし、本件は事実上の強制といえ、本来任意に寄付金の納付を求めるべき行政指導の限度を超えている
■この判例のポイント
行政指導という名目であっても、相手方が事実上断れない状況に置かれているのであれば、事実上の強制にあたり、違法となることを示した判例です。
3-3:行政指導の中止等を求める制度
平成26年の行政手続法改正により、違法な行政指導を受けた相手方が行政機関に対してその中止を申し出る制度が設けられました(第36条の2)。
取消訴訟や国家賠償は裁判所に救済を求める手段ですが、この制度では行政機関に直接書面で申し出ることができます。
ただし、この制度の対象は「法律に基づく行政指導であって、法令違反の是正を求めるもの」に限られます。
そのため、条例に根拠を置く行政指導や、法令上の根拠なく行われる行政指導などについては、この制度を利用できません。
中止等の申出を受けた行政機関は、必要な調査を行い、その行政指導が法律の要件に適合しない場合は、中止など必要な措置をとらなければなりません。
3-4:行政指導を求める制度
同じく平成26年の行政手続法改正では、行政指導の中止を求める制度と同時に、行政指導を「するように求める制度」(第36条の3)も新設されました。
法令違反の是正に必要な行政指導がされていないと考えられる場合、誰でも権限を有する行政機関に行政指導を行うよう求めることができます。
なお、この場合に対象となる行政指導も、法律に根拠があるものに限られます。
申出は書面で行う必要があり、申出を受けた行政機関は、調査を行い、必要があると認めるときは、当該行政指導をしなければなりません。
まとめ
行政指導は、行政機関が特定の相手に一定の行為をするように求める、法的強制力を持たない行為です。
行政処分と異なり、相手方に従う法的義務はなく、あくまで任意の協力を前提とします。
もっとも、行政指導が実質的な強制手段にならないよう、行政手続法で、任意性の原則をはじめ、不利益取扱いや権限濫用の禁止などのルールを定めています。
救済手段については、処分性がないことから原則取消訴訟の対象外ですが、違法な行政指導は国家賠償の対象となり得ます。
行政指導は任意性を前提とする行為でありながら、実務上は強い影響力を持つことから、その構造と限界を正確に理解することが重要です。
本記事を参考にしながら、判例とも結び付けて復習し、行政法の理解を深めていきましょう。
この記事では、初学者の方にもわかりやすいように、一般的な考え方を解説しています。
ここで紹介できなかった判例の詳しい解説や実践的な答案の書き方について知りたい方は、ヨビロン行政法のテキストをご購入いただけると幸いです。


コメント