【行政法入門8】 行政計画とは?処分性・裁量・担保責任を判例で徹底解説

監修者
講師 赤坂けい
株式会社ヨビワン
講師 赤坂けい
【行政法入門8】 行政計画とは?処分性・裁量・担保責任を判例で徹底解説
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チェック
この記事を読んで理解できること
  • 行政計画とは
  • 行政計画に処分性はあるか(取消訴訟の対象か)
  • 行政計画で行政の裁量はどこまで認められるか
  • 行政計画策定後の変更は許されるか

この記事は、

  • 行政計画とは何かを基礎から理解したい
  • 行政計画に処分性はあるのか、裁量はどの程度認められるのかを知りたい
  • 行政計画に関する重要判例を押さえたい

といった方におすすめです。

行政計画は、都市開発から福祉・環境まで、あらゆる行政分野で用いられています。

しかし、行政計画の定義や手続きを一括して定めた法律は存在しません。

そのため、「裁判で争えるのか」「計画変更で受けた損害を賠償請求できるのか」といった問題は、判例や学説を踏まえて個別に考える必要があります。

このように、行政計画は条文だけでは理解しにくく、初学者にとってつまずきやすい分野といえるでしょう。

そこで、この記事では、

1章で行政計画とは何か

2章で行政計画に処分性はあるか

3章で行政計画において行政の裁量はどこまで認められるか

4章で行政計画策定後の変更は許されるか

について、それぞれ解説します。

基礎知識から重要判例のポイントまで分かりやすくまとめていますので、初学者の方はもちろん、行政法をひととおり学んだ方の復習にも役立つ内容になっています。

1章:行政計画とは

この章では、行政計画の定義や法律の根拠の要否といった基本的な枠組みを順番に解説します。

2章以降の論点を正確に理解するための土台となりますので、まずここでしっかり全体像を把握しておきましょう。

1-1:定義と様々な分類方法

行政計画とは、行政機関が一定の目標を設定し、その実現に必要な手段を総合的に取りまとめたものです。

たとえば、「10年後までに市内の主要道路を整備する」という目標を掲げ、そのために必要な土地の確保や予算の配分、関係機関との調整などを一体的に定めるようなものが挙げられます。

また行政計画は、次のように、いくつかの観点から分類することができます。

■法的拘束力の有無

国民や行政機関の活動を直接拘束する「拘束的計画」と、行政内部の指針や努力目標にとどまる「非拘束的計画」に分けられます。

■計画期間

目標実現までの時間軸に応じて、数十年単位の「長期計画」、5〜10年程度の「中期計画」、単年度の「短期計画」などに区別されます。

■対象地域の範囲

「全国計画」「都道府県計画」「市町村計画」というように、計画が及ぶ地理的範囲によって区別されます。

このように、行政計画は多岐にわたり、その性質の違いによって、法律の根拠が必要かどうかや、取消訴訟の対象になるかどうかといった点も変わってきます。

1-2:法律の根拠の要否

行政計画の策定には、必ず法律の根拠が必要というわけではありません。

基本的には、計画の内容が国民の権利義務に直接影響を与える場合に、法律の根拠が必要とされています。

たとえば、土地区画整理事業計画や、都市計画法に基づく用途地域の指定がこれにあたります。

これらは、土地の形状や所有する土地を変更したり、建物の用途や建て方を制限したりするなど、国民の権利の内容に直接影響を及ぼすからです。

一方、行政内部の方針整理や国民への情報提供を目的とした計画は、国民の権利義務に直接影響しないため、必ずしも法律の根拠は必要ではありません。

1-3:手続的統制

行政計画の策定手続きを、統一的に定めた法律は存在しません。

行政手続法は、「処分、行政指導及び届出に関する手続並びに命令等を定める手続」を対象としており、行政計画は対象外となっています。

そのため、多くの場合は、それぞれの行政計画を根拠づける個別の法律に、その策定手続きが定められています。

また、行政計画は国民生活に広く影響を及ぼすことから、行政が一方的に決定するのではなく、国民がその形成に関与できる仕組みが設けられるのが一般的です。

具体的には、公聴会の開催や意見書の募集(パブリックコメント)といった手続きが、個別法に基づいて定められています。

2章:行政計画に処分性はあるか(取消訴訟の対象か)

行政計画によって不利益を受けた場合、取消訴訟を起こして計画の効力を争うことができるのでしょうか。

取消訴訟を提起するためには、その対象に行政事件訴訟法上の処分性が認められる必要があります。

行政計画の処分性については、かつては否定されていましたが、平成20年の最高裁判決によってその判断枠組みが大きく見直されました。

この章では、その経緯と現在の判断基準を解説します。

2-1: 直接・具体的な法的効果があれば認められ得る

取消訴訟とは、行政庁の処分の取消しを求める訴訟であり、処分とは「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(行政事件訴訟法第3条第2項)」を指します。

この処分性が認められるかどうかは、一般に次の2つの観点から判断されます。

  • 公権力によるものか(国・地方公共団体による行為)
  • 国民に直接・具体的な法的効果があるか

行政計画の処分性については、特に②が中心的な争点になります。

たとえば、都市計画法に基づく用途地域の指定は、不特定多数への一般的・抽象的な規制にすぎないとして処分性が否定されています。

一方、土地区画整理事業の事業計画の決定については、以下のように最高裁の考え方が変化してきました。

まず、昭和41年の判例(最大判昭和41年2月23日・「青写真判決」と呼ばれる)では、土地区画整理事業の事業計画の決定について、処分性を否定しました。

これは、事業計画の決定はあくまで「青写真」にすぎず、建築制限などの不利益も付随的な効果にとどまるため、具体的な処分が出た段階で争えば足りるとされたためです。

これに対し、平成20年の最高裁大法廷判決は、同じく土地区画整理事業の事業計画の決定について、処分性を認めました。

事業計画の決定が土地所有者の法的地位に直接影響し、後の手続段階で争っても十分な救済が困難なおそれがあるとして、早期の取消訴訟を認めるのが合理的だとしたのです。

次の章で、その平成20年判決の具体的な内容を確認します。

2-2:【判例】土地区画整理事業計画の決定

土地区画整理事業計画の決定(最大判平成20年9月10日)は、行政計画の処分性が争われた事件です。

■事件の概要

X(原告)らは、浜松市(被告)が決定・公告した上島駅周辺の土地区画整理事業計画の施行地区内に土地を所有していた。

Xらは、当該事業計画には法所定の事業目的(公共施設の整備改善および宅地の利用増進)が欠けていると主張し、事業計画の決定の取消しを求めて提訴した。

■争点

土地区画整理事業の事業計画の決定は、行政事件訴訟法上の「処分」にあたり、取消訴訟の対象となるか。

■最高裁の判決内容

・土地区画整理事業の事業計画の決定は処分性を有し、取消訴訟の対象となる

l  事業計画が決定・公告されると、換地処分の広告まで施行地区内での建築行為等が刑事罰を伴う強制力で制限される。

l  また、施行地区内の土地所有者等は、原則として換地処分を受けるべき地位に立たされ、その法的地位に直接的な影響を受ける。

l  換地処分の段階で争っても、工事がすでに進行しているため「違法だが取り消さない」という事情判決となる可能性があり、実効的な救済が期待できない。したがって、事業計画の決定の段階で取消訴訟を認めることが合理的。

■この判例のポイント

行政計画の決定により土地所有者の権利に直接的な変動が生じ、かつ後の段階で争っても実効的な救済が困難な場合には、処分性が認められることを示した判例です。

従来の判例(最大判昭和41年2月23日)を変更した大法廷判決であり、行政計画の処分性に関する重要な先例となっています。

3章:行政計画で行政の裁量はどこまで認められるか

行政計画の策定にあたって、行政機関にはどの程度の裁量が認められるのでしょうか。

この章では、行政計画における裁量の根拠と限界を解説します。

3-1:行政に広い裁量が認められる

行政計画の策定にあたっては、行政機関に広い裁量が認められるとされています。

その理由の一つが、行政計画には政策的・専門技術的な判断が必要であることです。

たとえば、将来の社会状況の予測や地域の実情、利害関係者との調整など、多方面にわたる複雑な要素を総合的に考慮して策定されます。

こうした判断は、専門的な知識や現場の情報を有する行政機関こそが適切に行えるものであり、裁判所が詳細に審査することにはなじまない面があります。

また、法律が計画の具体的な内容まで規定していないことも理由の一つです。

たとえば、都市計画法第13条は都市計画の基準を定めていますが、どの地域にどのような計画を定めるかという具体的な判断は、原則として行政機関の裁量に委ねられています。

このように行政計画に広い裁量が認められることを示した代表的な判例が、次に解説する小田急高架訴訟です。

3-1-1:【判例】小田急高架訴訟

小田急高架訴訟(最判平成18年11月2日)は、行政計画における行政の裁量が争われた事件です。

■事件の概要

東京都が小田急小田原線の喜多見駅付近から梅ヶ丘駅付近までの区間について、都市計画の変更を行い、建設大臣は本件の都市計画事業の認可をした。

変更後の計画は、小田急線の連続立体交差化を行うにあたり、当該区間について高架式を採用するものであった。

沿線住民ら(原告)は、環境面・費用面で優れる地下式を理由なく不採用にし、周辺住民への騒音被害の大きい高架式を採用した点で、本計画が違法であると主張。

建設大臣の事務承継者(被告)に対し、都市計画事業認可の取消しを求めて訴訟を提起した。

■争点

都市計画に高架式を採用した判断は、裁量権の逸脱・濫用として違法となるか。

■最高裁の判決内容

・都市計画における行政庁の判断は違法とはならないため、それを基礎とした事業認可も違法とはならない

l  都市施設の規模や配置等に関する都市計画の決定は、諸般の事情を総合的に考慮した政策的・技術的判断が不可欠である。そのため、行政庁の広範な裁量に委ねられている。

l  裁量権の逸脱・濫用として違法となるのは、①重要な事実の基礎を欠く場合、または②内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠く場合に限られる。

l  本件では、複数の構造方式の比較検討や環境影響評価が行われ、高架式を採用した判断に重要な事実の誤認や著しい不合理性は認められない。

■この判例のポイント

都市計画の策定には、行政に広範な裁量が認められることを示した判例です。

3-2:裁量権の逸脱・濫用があれば違法

行政に広い裁量が認められるとしても、その裁量には限界があります。

裁量権の行使が社会通念上の合理性を欠くと評価される場合には、裁量権の逸脱・濫用として違法となります。

具体的には、計画策定の前提となる事実に誤りがある場合(事実誤認)や、考慮すべき事情を十分に考慮していない場合(考慮不尽)がその典型例として挙げられます。

行政の裁量権の逸脱・濫用については、以下の記事で詳しく解説しているので、こちらも併せてご覧ください。

【行政法入門4】 行政裁量とは?適法・違法の重要判例5つを徹底解説!

こうした行政計画における裁量権の逸脱・濫用が問題となった具体的な場面については、次の判例で確認しましょう。

3-2-1:【判例】林試の森事件

林試の森事件(最判平成18年9月4日)は、行政計画における行政の裁量の逸脱・濫用が争われた事件です。

■事件の概要

建設大臣(被告)は、昭和32年に林業試験場の跡地を利用して公園を整備する旨の都市計画決定をし、その後、平成8年に都市計画事業の認可を告示した。

当該計画では、公園の南門と区道を結ぶ入口部分として、X(原告)らが所有する民有地を公園区域に含めていた。

この民有地の隣には、同じく試験場の跡地と区道に挟まれた国有地があり、Xらはその国有地を利用すべきだと主張し、本件事業認可の取消しを求めて訴訟を提起した。

原審(高等裁判所)は、建設大臣の裁量権の範囲内であるとして、Xらの請求を棄却した 。

■争点

建設大臣が、国有地ではなく民有地を公園区域に含めると定めた判断は、裁量権の逸脱・濫用にあたるか。

■最高裁の判決内容

・原判決を破棄し、高等裁判所に差し戻した

l  都市施設の区域は合理的に定めるべきであり、民有地の代わりに使える公有地がある場合、その事実も合理性を判断する一つの考慮要素になり得る。

l  原審は、樹木保全のため南門の位置を現状維持とする建設大臣の判断を認めたが、国有地利用時の樹木への悪影響などの具体的事実を確定していない。その状態で、この前提の合理性を肯定することはできない。

l  国有地ではなく民有地を選んだ判断が合理性を欠く場合、特段の事情がない限り、裁量権の逸脱・濫用として都市計画決定は違法となる。

■この判例のポイント

都市計画の決定において、近くに利用可能な公有地があるかどうかも、行政の判断が正しかったかを測る重要な要素になり得ることを示した判例です 。

4章:行政計画策定後の変更は許されるか

行政計画が公表されると、対象地域の住民や事業者がその計画を信頼して土地の購入や事業投資といった具体的な行動をとることがあります。

しかし、その後に計画が変更・廃止されれば、このような行動をとった人が損害を被る可能性があります。

では、行政計画は一度策定されたら変更できないのでしょうか。

また、変更によって損害を受けた場合、その損害は法的に保護されるのでしょうか。

この章では、行政計画の変更の自由と、その制限について解説します。

4-1:原則自由だが計画担保責任を負う場合あり

行政計画の変更・中止は、原則として行政の自由です。

世の中の動きや状況が変われば、それに合わせて計画を柔軟に見直すのは当然であり、行政が一度決定した計画にずっと拘束されるわけではありません。

しかし、計画を信頼して土地の購入や事業投資などの行動をとった国民が、計画の変更によって大きな損害を受ける場合があります。

こうしたときに、行政が負うべき責任のことを「計画担保責任」と呼びます。

この問題について最高裁は、原則としてこの「計画担保責任」を否定しています。行政計画はその性質上、当然に変更・中止の可能性を孕んでおり、国民もそれを織り込んで行動すべきだという考えからです。

ただし、例外もあります。

例えば、行政が特定の者に対し、計画に沿った活動を個別具体的に勧告・勧誘をしていた場合などです。

このようなケースでは、信頼保護の原則(信義則)に基づき、計画担保責任が認められる可能性があります。

計画担保責任が具体的にどのような場面で認められるかについては、次の判例で詳しく確認します。

4-2:【判例】宜野座工場誘致事件

宜野座工場誘致事件(最判昭和56年1月27日)は、地方公共団体の施策変更に伴う計画担保責任が争われた事件です。

■事件の概要

X(原告)は沖縄県宜野座村(被告)での製紙工場建設を計画し、村議会の議決を経て、村長から工場誘致と村有地の譲渡について全面的な協力を得る言明を受けた 。 

その後も村長から継続的な支援を受け、Xはこうした協力を前提に、土地の確保や機械設備の発注、敷地の整地工事を進めた。 

しかし、工場建設に反対する住民の支持を得て新村長が就任すると、Xに対して建築確認申請(建物の着工前に必要な審査の申請)に不同意である旨を通知。 

村の協力が得られなくなったことで、Xは工場の建設を断念せざるを得ず、機械代金などの損害を被ったとして村に賠償を求めた 。 

■争点

地方公共団体が一度決定した施策を変更し、これまでの協力を拒否することは違法となるか。

■最高裁の判決内容

・本件の村の協力拒否は違法な加害行為となり得る

l  地方公共団体の施策の変更は原則として自由

l  ただし、個別具体的な勧告・勧誘があり、長期継続により効果が生じるものであれば、施策が維持されると信頼して準備を進めるのが通常。このような場合、かかる信頼に対して法的保護が与えられるべき。

l  よって、やむを得ない客観的事情がないのに代償的措置なく施策を変更し、相手方が社会観念上看過できない積極的損害を被った場合、信頼を不当に破壊するものとして不法行為責任が生じる。

l  住民自治の原則があるからといって法的責任を免れるわけではなく、政治情勢の変化があったという理由だけで相手方の信頼を裏切ることは許されない。

■この判例のポイント

行政計画への信頼保護を認めた判例です。地方公共団体の施策変更の自由を認めつつも、行政計画を前提に活動した相手方の信頼を、正当な理由や補償なく裏切ることは不法行為責任を生じさせるとしました。

まとめ

行政計画とは、行政機関が目標を設定し、その実現手段を総合的にまとめたものです。

行政計画が策定される分野は、都市開発・環境・社会福祉など多岐にわたり、法的拘束力の有無・計画期間・対象地域の範囲によっても様々な種類があります。

行政計画に一律で法律上の根拠が求められるわけではありませんが、国民の権利義務を制限するものについては、法律の根拠が必要です。

取消訴訟の対象となるかどうかは、計画の決定が国民の権利義務に直接・具体的な法的効果をもたらすかどうか(処分性の有無)によって判断されます。

かつてはその処分性が否定されていましたが、平成20年の最高裁判決により、その判断が変更されました。

また、計画の変更は原則として行政の自由ですが、計画を信頼して行動した国民が損害を受けた場合に、信頼保護の原則に基づく計画担保責任が問題となることがあります。

まずはこれらの基本的な考え方を押さえたうえで、各判例と結びつけて理解を深めていきましょう。

この記事では、初学者の方にもわかりやすいように、一般的な考え方を解説しています。

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