【刑事訴訟法入門14】訴因変更の可否と公訴事実の同一性を解説

監修者
講師 赤坂けい
株式会社ヨビワン
講師 赤坂けい
【刑事訴訟法入門14】訴因変更の可否と公訴事実の同一性を解説
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チェック
この記事を読んで理解できること
  • 公訴事実の同一性
  • 公訴事実の同一性の判断基準
  • 判例の展開
  • 覚せい剤使用罪における訴因変更の可否
  • 訴因変更の許否と訴因変更命令
  • 罰条変更
  • 試験答案の構成方法

「訴因変更はどんな場合でもできるの?」

「公訴事実の同一性って具体的にどう判断するの?」

「事実の共通性と非両立性はどういう関係にあるの?」

刑事訴訟法を学ぶ中で、こうした疑問を持った方は多いのではないでしょうか。

訴因変更の可否とは、検察官が訴因の変更を請求した場合に、裁判所がそれを許可できるかどうかという問題です。

刑訴法312条1項は、裁判所は「公訴事実の同一性を害しない限度において」訴因の変更を許さなければならないと規定しており、訴因変更がどの範囲で許されるのかは、「公訴事実の同一性」の意味内容にかかっています。

この「公訴事実の同一性」の判断基準については、判例・学説上さまざまな議論がなされてきましたが、判例は、両訴因記載の事実の共通性と非両立性という2つの指標を用いて判断しています。

本記事では、公訴事実の同一性の判断基準を整理したうえで、判例の展開、覚せい剤使用罪における訴因変更の可否、訴因変更の許否と訴因変更命令、さらには罰条変更の問題について解説します。

この記事で学べること

  • 【初級】訴因変更の可否と公訴事実の同一性の基本概念
  • 【初中級】公訴事実の単一性と狭義の同一性
  • 【中級】事実の共通性と非両立性の判断基準と具体例
  • 【中上級】訴因変更の許否・訴因変更命令
  • 【中上級】罰条変更の問題

第1章 公訴事実の同一性

1-1 訴因変更の可否の意義

裁判所は、検察官の請求があるときは、「公訴事実の同一性を害しない限度において」、起訴状に記載された訴因の変更を許さなければなりません(刑訴法312条1項)。

したがって、訴因変更の可否は「公訴事実の同一性」の意味内容にかかっています。

この312条1項の趣旨は、二重処罰を回避するために、二重起訴の禁止(338条3号)、一事不再理効(337条1号)の各制度とともに、1個の刑罰権に服する事項を1回の手続で処理させる点にあるとされています。

1-2 単一性と狭義の同一性

「公訴事実の同一性」には、(a)公訴事実の単一性と(b)(狭義の)公訴事実の同一性の2つが含まれます。

単一性とは、両事実が実体法上の一罪の関係にあるかどうかの問題です。

一罪(単純一罪、包括一罪、科刑上一罪など)の関係にあれば訴因変更が許され、併合罪の関係にあれば訴因変更(追加的変更の場合が多い)は許されず、追起訴がされることになります。

これに対し、狭義の同一性とは、異なる時点で比べた場合に同じ事実といえるかという問題です。

現行法においては、訴因変更の可否はもっぱらこの狭義の同一性の問題として議論されています。

実務における思考としては、まず罪数を考え(単一性の検討)、単一性がない場合には事実関係がどの程度変化するかを考え(狭義の同一性の検討)、事実関係がかなり変化する場合に両立・非両立を考えるという段階を踏むのが一般的です。

第2章 公訴事実の同一性の判断基準

2-1 基本的な考え方

公訴事実の同一性の判断基準に関しては、大別して2つの考え方があります。

第1の考え方は、訴因の背後にある社会的(歴史的)事実を想定し、変更前後の訴因に記載された事実が共にそれに帰するかどうかを問題とする見解です。

第2の考え方は、訴因の背後に社会的事実を想定せず、両訴因の記載自体(検察官の釈明を含む)を比較して公訴事実の同一性を判断する見解です。

この見解では、訴因記載の犯罪が実体法上非両立であることが重視されます。

2-2 事実の共通性

判例が事実の共通性の判断基準としているのは、両訴因記載の事実が基本的な事実関係において同一であるかどうかです。

そこで問題とされているのは両訴因記載の事実であって、その罪質や構成要件的評価は、基本的な事実関係が同一かどうかの判断において直接の指標にはなりません。

具体的な判断にあたっては、犯罪の日時・場所の近接性、犯罪の方法・態様、相手方、結果等の共通性が重要な考慮要素となります。

もっとも、日時・場所がこの程度近接していれば必ず同一性が認められるなどという一定の法則があるわけではなく、具体的事案ごとに判断せざるをえないとされています。

2-3 非両立性

非両立性とは、両訴因に記載された犯罪が実体法上両立しえず、その双方で処罰することができない関係にあることをいいます。

一方でしか処罰できないということは、両事実は1個の刑罰権の対象であり、1回の手続で処理すべきです。

判例は、事実の共通性だけでは同一性を肯定しがたい場合に、補充的に非両立性を用いて同一性を肯定する機能をはたしていると理解されています。

両指標は互いに排斥しあうものではありません。

【事実の共通性と非両立性の関係】

指標

内容

事実の共通性(基本的指標)

両訴因記載の事実の日時・場所・行為態様・結果等の共通性

非両立性(補充的指標)

両訴因の犯罪が実体法上両立しえない関係にあること

第3章 判例の展開

3-1 窃盗幇助と盗品買受け─公訴事実の同一性否定

最判昭33・2・21刑集12・2・288は、窃盗幇助の事実(昭和27年12月30日にリヤカーを貸与して犯行を容易ならしめた事実)と盗品の買受けの事実(翌12月31日頃にYから窃取物を3万円で譲り受けた事実)について、両訴因は両立しうること(被告人はリヤカーを貸してその翌日に窃取物を譲り受けることができる)、かつ窃盗幇助罪と盗品等有償譲受罪は併合罪の関係にあること(単一性も認められない)から、公訴事実の同一性を欠くとして予備的訴因の追加は許されないと判示しました。

3-2 詐欺と占有離脱物横領─昭和29年判決

最判昭29・5・14刑集8・5・676では、窃盗罪の事実と盗品関与罪の事実について検討されました。

両訴因記載の事実は、犯罪の日時、場所において近接し、しかも同一被害者の同一物件を対象とするものであって、その基本的事実関係において異なるところがないとして、公訴事実の同一性が認められました。

3-3 枉法収賄と贈賄─昭和53年決定

最決昭53・3・6刑集32・2・218(以下、「昭和53年決定」という)は、枉法収賄罪の訴因と贈賄罪の訴因の間に公訴事実の同一性を認めました。

この事案では、利益受供与の日時、場所、共犯者、賄賂の額、内容等が著しく異なっており、事実の共通性からは直ちに同一性を肯定しがたい面もありました。

しかし最高裁は、収受したとされる賄賂と供与したとされる賄賂との間に事実上の共通性があり、かつ、一連の同一事象に対する法的評価を異にするにすぎないものであって基本的事実関係において同一であるとしました。

学説上は、この事案について、収賄と贈賄は同一人による同一の賄賂に関する犯罪であり実体法上両立しないから、非両立性を根拠に同一性が肯定されたと理解する見方が有力です。

第4章 覚せい剤使用罪における訴因変更の可否

4-1 問題の所在

覚せい剤使用罪について、訴因の明示・特定の問題と関連して訴因変更の可否も問題となります。

この問題を扱ったのが、最決昭63・10・25刑集42・8・1100です。

事案は、当初の訴因として、ある日時・場所で覚せい剤を使用した事実が記載されていたところ、被告人が起訴後に使用の時間、場所、方法に関する供述を変更したため、検察官が異なる日時・場所・方法への訴因変更を請求したというものです。

4-2 判例の判断

最高裁は、当初の訴因事実と変更請求にかかる訴因事実は、いずれも被告人の尿中から検出された同一の覚せい剤の使用行為に関するものであって、事実上の共通性があり、両立しない関係にあるとして、同一の社会的、歴史的事象に属し基本的事実関係を同じくするものとして、公訴事実の同一性の範囲内であるとしました。

第5章 訴因変更の許否と訴因変更命令

5-1 訴因変更の時機的制限

公訴事実の同一性の範囲内であっても、裁判所が訴因変更を認めるべきでない場合があるのではないかが問題とされています。

第1の観点は、訴因変更に伴う被告人への重大な不利益です。訴因変更を認めると新たな訴因に対する防御を強いられる被告人の立場からみて不当と評価される場合には、訴因変更が制限されます。

具体的には、訴因変更の時機が問題とされます。

代表的な裁判例の1つが、福岡高那覇支判昭51・4・5判タ345・321です。この事案では、起訴後約2年6か月にわたる審理の後の結審段階になって検察官が訴因変更を請求したものであり、裁判所は訴因変更を許可しませんでした。

5-2 訴因変更命令・勧告の義務

訴因変更は検察官が自ら請求するのが原則ですが、刑訴法は、裁判所が審理の経過に鑑み適当と認めるときは、訴因の変更を命じることができるとしています(312条2項)。これは、検察官に訴因の変更権があることを前提として、裁判所が検察官に訴因変更権限の発動を求めるものです。

最決昭43・11・26刑集22・12・1352(以下、「昭和43年決定」という)は、裁判所は原則として自らすすんで検察官に訴因変更手続を促し又はこれを命ずべき義務はないとしつつ、起訴状に記載された殺人の訴因についてはその犯意に関する証明が充分でないため無罪とするほかなくても、審理の経過にかんがみ、これを重過失致死の訴因に変更すれば有罪であることが証拠上明らかであり、しかもその罪が重過失によって人命を奪うという相当重大なものであるような場合には、例外的に検察官に対し訴因変更手続を促し又はこれを命ずべき義務があるとしました。

もっとも、訴因変更命令の義務が認められるのは極めて限定的な場合であり、学説上は、そもそも裁判所に義務が認められるのは勧告までであり、命令義務はないとする見解も有力です。

5-3 訴因変更命令の形成力

訴因変更命令が出されたにもかかわらず検察官がこれに従わない場合、裁判所の命令により訴因が変更されたものとすることは、訴因の変更を検察官の権限としている刑訴法の基本的構造に反するため、訴因変更命令に形成力は認められないとするのが判例です(最大判昭40・4・28刑集19・3・270)。

第6章 罰条変更

6-1 罰条変更の意義

刑訴法312条1項は、訴因の変更とあわせて、罰条の変更についても規定しています。

罰条の変更が必要となるのは、例えば、訴因の変更に伴い変更後の訴因記載の事実が該当する罰条と当初の訴因に対応する罰条との間にずれが生じる場合や、当初の訴因と事実自体は変化していないが法的評価が変わった場合です。

6-2 罰条変更の手続

罰条の変更が必要であるにもかかわらず検察官がそれを請求しない場合、法令の適用は裁判所の職責であることから、訴因変更とは異なり、裁判所には罰条変更命令を出す義務があり、命令には形成力があるとされています。

もっとも、最決昭53・2・16刑集32・1・47は、起訴状における罰条の記載の趣旨は、訴因をより一層特定させて被告人の防御に遺憾のないようにするため法律上要請されているものであり、裁判所による法令の適用をその範囲内に拘束するためのものではないと解すべきであるとしています。

それゆえ、訴因により公訴事実が十分に明確にされていて被告人の防御に実質的な不利益が生じない限りは、罰条変更の手続を経ないで起訴状に記載されていない罰条であってもこれを適用することができるとしました。

第7章 試験答案の構成方法

7-1 論点の整理

論点

検討内容

参照判例

公訴事実の同一性

事実の共通性と非両立性

最決昭53・3・6

訴因変更の許否

時機に遅れた変更請求

福岡高那覇支判昭51・4・5

訴因変更命令

裁判所の命令義務の有無

最決昭43・11・26

命令の形成力

検察官不服従の場合

最大判昭40・4・28

罰条変更

罰条記載の趣旨と手続

最決昭53・2・16

7-2 答案構成の流れ

【答案構成の流れ】

・問題提起:本件訴因変更請求は「公訴事実の同一性を害しない限度」(312条1項)にあるか

・規範定立:公訴事実の同一性とは、両訴因間の基本的事実関係の同一性をいい、事実の共通性を基本に、補充的に非両立性を考慮して判断する

・あてはめ:①まず罪数(単一性)を検討。②次に犯罪の日時・場所・行為態様・結果等の事実の共通性を検討。③共通性だけでは判断困難な場合、非両立性を補充的に検討

・結論:訴因変更の可否の結論を出す

まとめ

1. 訴因変更は「公訴事実の同一性を害しない限度」で許される(刑訴法312条1項)。その趣旨は1個の刑罰権に服する事項を1回の手続で処理させる点にある

2. 公訴事実の同一性には単一性(実体法上一罪か)と狭義の同一性(基本的事実関係の同一性)がある

3. 判例は、事実の共通性と非両立性の2つの指標で判断し、非両立性は事実の共通性だけでは同一性を肯定しがたい場合に補充的に用いられる

4. 窃盗幇助と盗品買受けは両立可能かつ併合罪であり、公訴事実の同一性が否定される(最判昭33・2・21)

5. 覚せい剤使用罪でも、同一の尿から検出された使用行為に関する訴因間では公訴事実の同一性が認められる(最決昭63・10・25)

6. 訴因変更命令については、重大犯罪で有罪が明らかな場合に例外的に義務が認められるが、形成力は否定されている(最決昭43・11・26、最大判昭40・4・28)

7. 罰条変更は、被告人の防御に実質的不利益が生じない限り、手続を経ずに適用することもできる(最決昭53・2・16)

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