【刑事訴訟法入門13】訴因変更の要否の判断基準と平成13年決定
目次
この記事を読んで理解できること
- 訴因変更の要否が問題となる場面
- 平成13年決定の判断枠組み
- 第1段階のあてはめ─具体例
- 第2段階のあてはめ─平成24年決定
- 縮小認定
- 試験答案の構成方法
「裁判所が訴因と違う事実を認定したいときはどうするの?」
「訴因変更が必要な場合と不要な場合の境界線はどこ?」
「縮小認定って何?訴因変更なしで認定できるの?」
刑事訴訟法を学ぶ中で、こうした疑問を持った方は多いのではないでしょうか。
訴因変更の要否とは、訴因として掲げられた事実と裁判所が証拠により心証を得た事実が食い違った場合に、裁判所が訴因変更の手続を経ることなく心証どおりの事実を認定してよいかという問題です。
審判の対象が訴因である以上、訴因と異なる事実を認定するためには原則として訴因変更が必要ですが、どの程度の食い違いがあれば訴因変更が必要となるのかが問題となります。
この問題について、最決平13・4・11刑集55・3・127(以下、「平成13年決定」という)は、訴因変更の要否に関する二段階の判断枠組みを示し、その後の判例・実務に大きな影響を与えました。
本記事では、訴因変更の要否の判断基準を整理したうえで、平成13年決定の判断枠組み、縮小認定の可否、過失犯における訴因変更の要否について解説します。
この記事で学べること
- 【初級】訴因変更の要否が問題となる場面
- 【初中級】平成13年決定の二段階の判断枠組み
- 【中級】第1段階・第2段階の具体的あてはめ
- 【中上級】縮小認定の意義と許容性
- 【中上級】過失犯における訴因変更の要否
第1章 訴因変更の要否が問題となる場面
1-1 問題の所在
訴因変更の要否が問題となるのは、訴因として掲げられた事実と、裁判所が証拠調べの結果として心証を得た事実との間に食い違いがある場合です。
当事者主義的訴訟構造のもとでは、審判の対象は検察官が設定した訴因ですから、裁判所が訴因に記載された事実と異なる事実を認定するためには、原則として訴因変更の手続(刑訴法312条1項)を経る必要があります。
訴因変更を経ずに訴因と異なる事実を認定した場合には、不告不理の原則に違反し(同法378条3号)、又は審理不尽の違法として(同法379条)、判決が破棄される可能性があります。
もっとも、訴因と認定事実との間にわずかなずれがあるたびに訴因変更を要するとするのは、手続が極めて煩雑になるうえ、被告人の防御の観点からもあまり意味がありません。
そこで、いかなる場合に訴因変更が必要となるのかの基準が問題となるのです。
なお、訴因変更の要否は、裁判所の認定があくまで「公訴事実の同一性」の範囲内にある場合に問題になります。
同一性の範囲を超える場合は、そもそも訴因変更によって対応することができず、別途の公訴提起が必要となります。
第2章 平成13年決定の判断枠組み
2-1 二段階の判断基準
訴因変更の要否に関する新たな判断枠組みを示したのが、最決平13・4・11刑集55・3・127(平成13年決定)です。
事案は、被告人が共謀共同正犯として殺人罪で起訴された事件において、訴因では被告人が実行行為者とされていたのに対し、裁判所は「被告人又は共犯者あるいはその両名において」実行行為を行ったと認定したというものです。
平成13年決定は、次のような二段階の判断枠組みを示しました。
|
段階 |
基準 |
効果 |
|
第1段階 |
審判対象の画定の見地から必要とされる事実(訴因の特定に不可欠な事実)に変化がある場合 |
訴因変更が必要。 |
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第2段階 |
一般的に被告人の防御にとって重要な事項に変化がある場合 |
原則訴因変更必要。ただし例外あり |
2-2 第1段階─審判対象の画定
第1段階は、訴因制度を識別説と捉える立場から、審判対象の画定の見地より求められるものです。
具体的には、「罪となるべき事実」すなわち訴因の特定のために必要不可欠な事実に変更がある場合には、審判対象が変わることになるため、訴因変更が必要となります。
典型的には、訴因記載の事実と裁判所が認定しようとする事実とが異なる犯罪構成要件に該当する場合がこれにあたります。
例えば、傷害罪の訴因に対して傷害致死罪の事実を認定する場合には、事実の変動によって構成要件が変わっており、審判対象が変化しているため、訴因変更が必要です。
2-3 第2段階─被告人の防御
第2段階は、訴因の機能とは離れた、訴訟の全過程を通じて要求される争点明確化による不意打ち防止の要請に基づくものです。
第1段階に該当しなくても、一般的に被告人の防御にとって重要な事項に変化がある場合には、原則として訴因変更が必要です。
ただし、次の2つの要件をいずれも満たす場合は、例外的に訴因変更は不要です。
a 被告人に不意打ちを与えるものではないと認められること
b 判決で認定される事実が訴因に記載された事実と比べて被告人にとってより不利益であるとはいえないこと
平成13年決定の事案では、共謀共同正犯における実行行為者が誰であるかは訴因の特定に不可欠な事実ではないが(第1段階非該当)、一般的に被告人の防御にとって重要な事項であるとし(第2段階該当)、①実行行為者が誰であるかは主要な争点として争われていたこと、②訴因では被告人が実行行為者とされていたのに対し裁判所の認定では共同実行の可能性も含む択一的認定がなされており被告人にとって犯情が軽くなりうること等を考慮し、例外要件を満たすとして訴因変更は不要と結論づけました。
第3章 第1段階のあてはめ─具体例
3-1 構成要件が変化する場合
訴因記載の事実と認定事実とが異なる構成要件に該当する場合は、第1段階に該当し、訴因変更が必要です。
例えば、傷害罪の訴因に対して傷害致死罪の事実を認定する場合や、窃盗罪の訴因に対して強盗罪の事実を認定する場合です。
3-2 同一構成要件内で結果が変化する場合
同一の構成要件内であっても、訴因の特定に不可欠な事実に変動がある場合は第1段階に該当します。
例えば、傷害罪の訴因において「頭部挫傷の傷害」とされていたのに対し「頭部挫傷及び脳損傷の傷害」と認定する場合、傷害の結果は傷害罪の中核的な構成要件要素であるため、訴因変更が必要です。
ただし、傷害致死罪の場合は、最終的な結果は死亡であるため、死因に至る傷害の具体的内容は中核的な構成要件要素ではなく、概括的記載でもよいとされている点に注意が必要です。
3-3 作為犯と不作為犯の変化
作為犯の訴因に対して不作為犯の事実を認定する場合は、不作為犯は作為義務が構成要件要素となり行為態様が大きく異なることから、第1段階に該当し訴因変更が必要です。
3-4 過失犯における過失の態様の変化
実務上、過失犯の訴因には、①注意義務を課す根拠となる具体的事実、②注意義務の内容、③注意義務違反の具体的行為(過失の態様)が記載されます。
過失は「開かれた構成要件」であり、それに該当する行為が無限に存在するものなので、過失の内容まで含めて具体化する必要があるからです。
最判昭46・6・22刑集25・4・588(以下、「昭和46年判決」という)は、訴因が「濡れた靴をよく拭かずに覆いていたため、一時停止の状態から発進するにあたりアクセルとクラッチペダルを踏んだ際足を滑らせてクラッチペダルから左足を踏みはずした過失」であるのに対し、裁判所は「交差点前で一時停止中の他車の後に進行接近する際ブレーキをかけるのを遅れた過失」と認定した事案です。
過失の態様が明らかに異なるため、訴因変更が必要とされました。
他方、最決平15・2・20判時1820・149(以下、「平成15年決定」という)は、訴因における「進路前方を注視せず、ハンドルを右方向に転把して進行した」という過失に対し、裁判所が「進路前方を注視せず、進路の安全を確認しなかった」と認定した事案で、これは検察官の当初の訴因における過失の態様を補充訂正したにとどまるとして、訴因変更手続は不要としました。
この場合、双方の過失態様は実質的に同一とみることができるためです。
第4章 第2段階のあてはめ─平成24年決定
4-1 事案と判断
第2段階について具体的な判断を示したのが、最決平24・2・29刑集66・4・589(以下、「平成24年決定」という)です。
事案は、放火罪の訴因において放火の方法が「ガスコンロの点火スイッチを作動させて点火し」とされていたのに対し、裁判所が「何らかの方法により」引火爆発させたと認定したものです。
最高裁は、放火の手段は訴因の特定に不可欠な事実ではないとして第1段階非該当としました。
しかし、放火の手段は実行行為の内容をなすものであり一般的に被告人の防御にとって重要な事項であるとして第2段階該当としたうえで、検察官が当初の訴因の引火方法以外に何も主張しておらず、裁判所も放火の手段の具体的可能性等に関して求釈明や発問をしていなかったことから、被告人にとって不意打ちであるとして、訴因変更が必要と結論づけました。
4-2 不意打ちの判断要素
平成24年決定は、不意打ちの有無を判断する際の考慮要素として、①検察官の予備的主張の有無、②裁判所の求釈明の有無、③証拠調べにおける発問の有無を例示しています。これらの事項を通じて、被告人に対し訴因に記載されたものとは異なる事実が認定される可能性が示されていたかどうかを判断することになります。
なお、共謀の日時・場所が異なる場合も第2段階の問題となります。
共謀の日時や場所は「罪となるべき事実」の内容でもなければ犯罪事実の中核をなす内容でもないため、第1段階では訴因変更は不要ですが、検察官が具体的内容を釈明していた場合には争点顕在化措置が必要となりえます。
第5章 縮小認定
5-1 縮小認定の意義
縮小認定とは、検察官の設定した訴因事実が裁判所の認定事実を包摂する関係にある場合に、訴因変更を経ることなくより軽い事実を認定することをいいます。
例えば、強盗罪の訴因に対して恐喝罪の事実を認定する場合や、殺人罪の訴因に対して傷害致死罪の事実を認定する場合がこれにあたります。
ここで重要なのは、あくまで犯罪の包摂関係ではなく、事実が包摂関係にあることです。
「暴行による強盗」の訴因を「脅迫による強盗」と認定することは、事実の包摂関係にはないため、縮小認定にはあたりません。
5-2 縮小認定の許容性とその限界
縮小認定が許される根拠は、訴因事実の中に認定事実も黙示的・予備的に併せ主張されていたと考えることができる点にあります。
包摂関係にある場合には、訴因の記載と異なる事実認定ではなく、訴因の記載どおりの認定の一態様であるため、第1段階の問題は生じません。
もっとも、縮小認定であっても第2段階の検討の余地はあります。例えば、強盗罪の事実で起訴されていた被告人が、反抗抑圧に至る重い暴行・脅迫の有無のみを争っていた場合に、恐喝罪を認定することは不意打ちとなりえます。
被告人としては、恐喝にあたるような軽い暴行・脅迫については争っていなかったからです。
【縮小認定の具体例】
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訴因 |
認定(縮小認定) |
|
強盗罪 |
恐喝罪 |
|
殺人罪 |
傷害致死罪 |
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共同正犯 |
幇助犯 |
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酒酔い運転 |
酒気帯び運転 |
なお、親告罪への縮小認定については、告訴がなければ検察官の訴追意思が認められないため、告訴がなされた場合に限り許容されうる点に注意が必要です。
第6章 試験答案の構成方法
6-1 論点の整理
|
論点 |
検討内容 |
参照判例 |
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第1段階の判断 |
特定に不可欠な事実に変動があるか |
最決平13・4・11 |
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第2段階の判断 |
防御上重要な事項に変化があるか |
最決平24・2・29 |
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縮小認定 |
訴因事実が認定事実を包摂するか |
最決昭55・3・4 |
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過失犯の訴因変更 |
過失の態様に変化がある場合 |
最判昭46・6・22 |
6-2 答案構成の流れ
【答案構成の流れ】
・問題提起:訴因記載の事実と裁判所が認定しようとする事実に食い違いがあるが、訴因変更を経ずに認定してよいか
・規範定立①(第1段階):審判対象画定の見地から必要とされる事実(訴因の特定に不可欠な事実)に変化がある場合、訴因変更が必要
・規範定立②(第2段階):一般的に被告人の防御にとって重要な事項に変化がある場合、原則として訴因変更が必要。ただし、a不意打ちでなく、b被告人にとってより不利益でない場合は例外的に不要
・あてはめ:事案の事実を上記基準にあてはめて検討。縮小認定が問題となる場合は包摂関係の有無を検討
・結論:訴因変更の要否の結論を出す
まとめ
1. 訴因変更の要否とは、訴因と裁判所の心証との食い違いがある場合に訴因変更手続を経る必要があるかという問題である
2. 平成13年決定は二段階の判断枠組みを示した。第1段階は審判対象の画定の見地から、第2段階は被告人の防御の観点から判断する(最決平13・4・11)
3. 第1段階に違反すると378条3号の絶対的控訴理由、第2段階に違反すると379条の相対的控訴理由となる
4. 第2段階には例外があり、不意打ちでなく被告人にとってより不利益でない場合は訴因変更不要
5. 平成24年決定は、不意打ちの判断要素として検察官の予備的主張、裁判所の求釈明、証拠調べにおける発問の有無を例示した(最決平24・2・29)
6. 縮小認定は、訴因事実が認定事実を包摂する関係にある場合に許されるが、不意打ち防止の観点から争点顕在化措置が必要な場合がある
7. 過失犯では過失の態様(注意義務違反の具体的行為)の変化は原則として訴因変更が必要となる


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