【民事訴訟法入門12】裁判上の自白の要件と効果を判例で解説
目次
この記事を読んで理解できること
- 自白とは何か
- 「不利益」の意義
- 自白の効果
- 自白の撤回
- 間接事実・補助事実の自白と権利自白
- 試験答案の構成方法
「一度認めてしまった事実は、もう争えなくなるの?」
「事実と違うことを認めてしまった場合でも、撤回できないの?」
「間接事実を認めた場合も、裁判所を拘束するの?」
民事訴訟法を学ぶ中で、こうした疑問を持った方は多いのではないでしょうか。
前回は弁論主義を学びました。
その第二テーゼは、「当事者間に争いがない事実については、裁判所は、それをそのまま判決の基礎としなければならない」というものでした。
今回扱う裁判上の自白は、まさにこの第二テーゼが具体化した制度です。
179条は、「裁判所において当事者が自白した事実及び顕著な事実は、証明することを要しない。」と規定しています。
裁判所において当事者が自白した事実と顕著な事実を、併せて不要証事実といいます。
自白が成立すると証拠調べが不要となり、争点整理の場面でも、どの事実について自白が成立するかを確認することが重要な作業となります。
本記事では、自白の意義と成立要件を確認したうえで、自白の三つの効果、撤回が認められる場合、そして間接事実の自白や権利自白といった応用問題を解説します。
この記事で学べること
- 【初級】裁判上の自白の意義と179条の意味、先行自白
- 【初中級】自白の成立要件としての「不利益」の意義(証明責任説)
- 【中級】自白の三つの効果(不要証効・審判排除効・不可撤回効)とその根拠
- 【中級】自白を撤回できる三つの場合と、反真実・錯誤の関係(最判昭和25年7月11日)
- 【中上級】間接事実の自白に裁判所に対する拘束力が生じるか(最判昭和41年9月22日)
- 【中上級】権利自白の扱いと、擬制自白(159条)との違い
第1章 自白とは何か
1-1 自白の意義
裁判所において当事者が自白した事実は、裁判上の自白と呼ばれます。
自白とは、相手方の主張と一致する自己に不利益な事実の陳述をいいます。
刑事事件の自白のように「自分が悪いことをしたことを認めた」というニュアンスはなく、ある事実があったことを争わない、というだけの意味です。
相手方の主張よりも先に自己に不利益な陳述をしていた場合でもよく、これを先行自白といいます。
たとえば被告が原告に有利な事実を先に主張し、その後で原告がこれを援用して主張した場合も、主張が一致したことになりますから、自白が成立します。
これに対して、自己に不利益な陳述を先にしたのに相手方がこれを援用せず否認した、という場合が不利益陳述の問題です。
相手方の主張と一致していない以上、自白は成立しません。
もっとも、当事者の一方が述べた事実は、弁論の全趣旨として斟酌されうることになります。
1-2 擬制自白との違い
当事者が口頭弁論において相手方の主張した事実を争うことを明らかにしない場合には、その事実を自白したものとみなされます(159条1項本文)。
これを擬制自白といいます。
もっとも、弁論の全趣旨によりその事実を争ったものと認めるべきときは、この限りではありません(同項ただし書)。
また、当事者が期日に出頭しない場合にも、一定の要件のもとで擬制自白が成立します(同条3項)。
擬制自白は、明示の陳述がないにもかかわらず自白と同じ扱いをするものですから、撤回の可否については裁判上の自白と同列に論じられません。
実際に争う旨を述べれば、その時点から争点となります。
第2章 「不利益」の意義
自白は「自己に不利益な事実の陳述」ですが、この「不利益」の意味については見解が分かれます。
- 証明責任説(立証責任説):自己に不利益な事実とは、相手方が証明責任を負う事実を意味するとする。相手方が証明しなければならない事実について争わないというのであれば、相手方の負担を軽くするという意味で「自己に不利益な」ことをしたといえる
- 敗訴可能性説:その事実が認定されると自白した当事者が敗訴する可能性が生じる、という意味で不利益を捉える
判例の一般論は証明責任説の立場とみられます(大判昭和11年6月9日民集15巻1328頁)。
この説によれば、不利益の意味が明確になるという利点があります。
たとえば貸金返還請求訴訟で、被告が原告の主張する金銭の交付を認める陳述をした場合、金銭の交付は請求原因として原告が証明責任を負う事実ですから、被告の陳述に自白が成立します。
第3章 自白の効果
主要事実について自白が成立した場合、次の三つの効果が生じます。
|
効果 |
内容 |
別の呼び方 |
|
証拠調べの不要 |
自白が成立した事実は証明を要しない(179条) |
不要証効・証明排除効 |
|
裁判所に対する拘束力 |
裁判所はその事実を前提に判決をしなければならない |
審判排除効・審判権排除効 |
|
当事者間における拘束力 |
自白した当事者は陳述を撤回できない |
不可撤回効・撤回禁止効 |
第一の効果は179条が明文で定めるところです。
証拠調べを要しないということは、自白が成立した事実は争点とならないということであり、どの事実について自白が成立するかの確認が争点整理手続の重要な作業となります。
第二の効果は、弁論主義の第二テーゼから導かれます。
当事者間に争いのない事実は、裁判所がそのまま判決の基礎としなければならないからです。
裁判所は、その事実の存否について審判をすることができません。
第三の効果、すなわち当事者間における拘束力の根拠は、一般に相手方との間の信義則(禁反言)に求められます。
自白を撤回できるとすると、証明を要しないと考えた相手方の信頼を裏切ることになるからです。
もっとも、自白を撤回できないことにしたからこそ相手方は証拠の収集・保存に注意を払わなくて済むと信頼するのだとすれば、根拠論が循環論法的であるとの指摘もあり、正当な指摘といえるでしょう。
第4章 自白の撤回
当事者間における拘束力の例外として、自白を撤回することができる場合があります。
一般に、次の三つの場合であるとされています。
- ①相手方が撤回に同意した場合
- ②刑事上罰すべき他人の行為により自白した場合
- ③自白した内容が真実に反し、かつ錯誤に基づく場合
②は、338条1項5号が「刑事上罰すべき他人の行為により、自白をするに至ったこと」を再審事由としていることに由来します。
判決が確定した場合に再審事由となるようなものであれば、判決確定前の手続の中でも考慮すべきである、という考え方です(最判昭和33年3月7日民集12巻3号469頁)。
再審の訴えの場合と異なり、有罪判決等(338条2項)を得ていることは不要であると解されています(最判昭和36年10月5日民集15巻9号2271頁)。
③も判例法理であり(大判大正4年9月29日民録21輯1520頁)、その後、反真実と錯誤の関係が議論されています。
判例は、反真実が証明されれば錯誤は事実上推定することができるとしています(最判昭和25年7月11日民集4巻7号316頁)。
学説には、反真実の証明のみで撤回を認めてよいとする見解もあります。
相手方が自白を信頼して証拠を散逸させるおそれがあるからこそ自白に拘束力があるのだとすれば、真実に反することの証明責任を自白者に負わせれば足りる、というのがその理由です。
これとは反対に、錯誤を重視すべきであるとする見解もあります。
自白の拘束力の根拠を禁反言に求めるなら、先行行為である自白をなぜしたのかが重要であって、反真実かどうかは関係がないはずだ、というわけです。
答案では、判例の枠組み(反真実の証明により錯誤を事実上推定)を示したうえで、拘束力の根拠論との整合性に一言触れられると説得力が増します。
第5章 間接事実・補助事実の自白と権利自白
5-1 間接事実の自白
相手方の主張と一致する自己に不利益な陳述が、間接事実についてされた場合はどうなるでしょうか。
証拠調べが不要である点(179条)は主要事実の場合と同じですが、裁判所に対する拘束力については見解が分かれます。
判例および伝統的な学説は、拘束力を否定します(最判昭和31年5月25日民集10巻5号577頁、最判昭和41年9月22日民集20巻7号1392頁)。
その理由としては、従来、裁判所が疑いを抱く間接事実から心証を形成するよう要求するのは無理であることが挙げられてきました。
近時は、自白された間接事実に裁判所に対する拘束力を認めることは、証明責任説を前提とする自白の制度趣旨(主要事実についての証明の負担を免除するもの)を逸脱し、自由心証主義にも反する、という議論も説かれています。
これに対して、近時は肯定説も有力です。
争点整理では間接事実にまで踏み込むことが求められるから、拘束力がないとすると争点整理の実効性が損なわれる、というのがその理由です。
もっとも、争点整理の実効性は、争いのない間接事実は事実上そのまま認定されるという運用や、陳述を変更した場合に弁論の全趣旨から不利に判断される可能性、争点整理手続終了後の説明義務(167条等)や時機に後れた攻撃防御方法としての却下(157条1項)によっても支えられている、と考えることができます。
なお、書証の成立の真正という補助事実についても、その自白は裁判所を拘束するものではなく自由に撤回できるとした判例があります(最判昭和52年4月15日民集31巻3号371頁)。
補助事実についても、間接事実と同様の議論が妥当します。
5-2 権利自白
権利自白とは、請求の当否の判断の前提をなす権利・法律関係を直接の対象とする自白をいいます。
たとえば、所有権に基づく建物の引渡請求において、原告が自らの所有権を主張したのに対し、被告がこれを認めた場合が典型例です。
被告が原告の過去の一定時点での所有権(いわゆる「もと所有」)を認めた場合も同様です。
自白の対象は事実であるのが原則ですから、権利・法律関係についての陳述にそのまま自白の効力を認めてよいかが問題となります。
所有権のように、法律の専門家でなくても内容を理解できる日常的な概念については、自白としての拘束力を認めてよいとされる一方、法的評価を含む複雑な概念については、裁判所が法適用の責任を負う以上、拘束力を認めるべきでないと考えられています。
答案では、当事者が意味を理解して陳述したといえるか、相手方の証明の負担を免除するに値するかを軸に検討するとよいでしょう。
第6章 試験答案の構成方法
6-1 自白の撤回の可否が問われる事案
いったん認めた事実を後になって争おうとしている、という事案では、以下の流れで答案を構成することが考えられます。
【答案構成の流れ】
- 問題提起:当該陳述に裁判上の自白が成立し、その撤回が許されないのではないかを問題とする
- 成立要件:①相手方の主張と一致する陳述であること(先行自白でもよい)、②自己に不利益な陳述であること(相手方が証明責任を負う事実についての陳述であること)、③口頭弁論または弁論準備手続の期日における陳述であることを確認する
- 対象の確定:自白の対象が主要事実か間接事実かを、要件事実に即して特定する。間接事実であれば、判例によれば裁判所に対する拘束力は生じない(最判昭和41年9月22日)
- 効果:主要事実についての自白であれば、不要証効・審判排除効に加え、相手方との間の信義則(禁反言)を根拠として不可撤回効が生じる
- 撤回の可否:①相手方の同意、②刑事上罰すべき他人の行為(338条1項5号参照)、③反真実かつ錯誤のいずれかがあるかを検討する。③については、反真実が証明されれば錯誤が事実上推定される(最判昭和25年7月11日)
- 結論:撤回が認められない場合、裁判所は自白された事実を前提に判断しなければならない
自白の成否そのものが問題となる事案では、擬制自白(159条)の成否も忘れずに検討してください。
また、権利自白が問題となる事案では、当該概念が日常的な概念か法的評価を含むものかを区別することが出発点になります。
まとめ
自白について、本記事では以下の点を解説しました。
- 裁判上の自白とは、相手方の主張と一致する自己に不利益な事実の陳述をいい、自白した事実は証明を要しない(179条)
- 「不利益」の意義については証明責任説が判例の一般論とみられ、相手方が証明責任を負う事実についての陳述が自白となる
- 主要事実についての自白には、不要証効・裁判所に対する拘束力(審判排除効)・当事者間における拘束力(不可撤回効)の三つの効果が生じる
- 不可撤回効の根拠は相手方との間の信義則(禁反言)に求められるが、根拠論が循環論法的であるとの指摘もある
- 自白を撤回できるのは、①相手方の同意、②刑事上罰すべき他人の行為、③反真実かつ錯誤の三つの場合であり、③については反真実の証明により錯誤が事実上推定される(最判昭和25年7月11日)
- 間接事実の自白について、判例は裁判所に対する拘束力を否定する(最判昭和41年9月22日)。補助事実についても同様である(最判昭和52年4月15日)
次回記事では、文書提出命令を扱います。
手元にない文書をどこまで相手方や第三者に出させることができるのかという、証拠収集の場面の重要論点です。
自己利用文書をめぐる判例を中心に解説します。
【内部リンク:【民事訴訟法入門13】】
前回記事
【民事訴訟法入門11】弁論主義の三つのテーゼを基礎から解説


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