- 公開日:2026.07.31
- 更新日:2026.07.31
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【会社法入門15】株主代表訴訟など役員に対する責任追及の方法を解説
目次
この記事を読んで理解できること
- 責任追及の方法の全体像
- 株主代表訴訟の趣旨と提訴の手続
- 対象となる「責任」の範囲
- 訴訟をめぐる規律
- 関連する制度
- 試験答案の構成方法
「取締役の責任は、誰が、どのような手続で追及するの?」
「会社が身内をかばって訴えないとき、株主には何ができるの?」
「株主代表訴訟を提起するには、いきなり訴状を出せばいいの?」
会社法を学ぶ中で、こうした疑問を持った方は多いのではないでしょうか。
前回までに学んだ役員等の責任(任務懈怠責任・第三者に対する責任)は、それを現実に追及する手続があってはじめて意味を持ちます。
会社法は、会社自身による責任追及を原則としつつ、会社が役員間のなれ合いから追及を怠るおそれに備えて、株主が会社のために訴えを提起する株主代表訴訟(会社法847条)を用意しています。
提訴請求の要否や相手方は、論文式試験でも訴えの適法性の形で問われる重要ポイントです。
本記事では、責任追及の方法の全体像を確認したうえで、株主代表訴訟の手続と対象、訴訟をめぐる規律(担保提供・参加・和解)、そして関連する制度を解説します。
この記事で学べること
- 【初級】責任追及の方法の全体像(会社による追及と株主代表訴訟)
- 【初中級】株主代表訴訟(847条)の趣旨と提訴の手続
- 【中級】提訴請求の相手方と「回復することができない損害」(847条5項)
- 【中級】代表訴訟の対象となる「責任」の範囲(最判平成21年3月10日)
- 【中上級】担保提供・補助参加・和解をめぐる規律
- 【中上級】違法行為差止請求(360条)と多重代表訴訟(847条の3)
第1章 責任追及の方法の全体像
役員等の会社に対する責任(423条1項等)は、会社自身が追及するのが原則です。
もっとも、会社が取締役に対して訴えを提起する場合、代表取締役が会社を代表したのでは公正な追及が期待できません。
そこで、監査役設置会社では、監査役が会社を代表します(386条1項1号)。
それでも、役員相互の人的関係から、会社(監査役)が責任追及を怠るおそれは残ります。
そこで会社法は、株主自身による是正手段として、事後的な責任追及の手段である株主代表訴訟(847条)と、事前の予防手段である違法行為の差止請求(360条)を用意しています。
役員を地位から排除する手段である解任(339条1項)・解任の訴え(854条)と併せて、全体像を整理すると以下のとおりです。
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手段 |
内容・根拠 |
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会社による責任追及 |
監査役設置会社では監査役が会社を代表して訴えを提起する(386条1項1号) |
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株主代表訴訟 |
株主が会社のために役員等の責任追及等の訴えを提起する(847条) |
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違法行為の差止請求 |
取締役の法令・定款違反行為等を事前に差し止める(360条) |
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解任・解任の訴え |
株主総会決議による解任(339条1項)、否決の場合の解任の訴え(854条)。 連載第一〇回参照 |
第2章 株主代表訴訟の趣旨と提訴の手続
2-1 趣旨
判例は、株主代表訴訟の制度について、「役員相互間の特殊な関係から会社による取締役の責任追及が行われないおそれがあるので、会社や株主の利益を保護するため、会社が取締役の責任追及の訴えを提起しないときは、株主が同訴えを提起することができることとしたもの」と説明しています(最判平成21年3月10日民集63巻3号361頁)。
提訴を懈怠するおそれへの備えという趣旨は、対象となる責任の範囲(第3章)など、各論点の解釈の指針となります。
2-2 原告適格
公開会社では、六か月(定款で短縮可)前から引き続き株式を有する株主が提訴できます(847条1項)。
濫訴防止のための保有期間要件であり、非公開会社ではこの要件は課されません(847条2項)。
持株数の要件はなく、一株の株主でも提起できる単独株主権です。
なお、原告株主は訴訟の係属中も株主であり続ける必要があり、訴訟係属中に株式を譲渡すれば原告適格を失うのが原則です。
もっとも、訴訟係属中に株式交換・株式移転や合併によって株主の地位を失った場合には、完全親会社の株式等を取得していれば訴訟を続行できます(851条)。
自らの意思によらずに株主の地位を失った者の保護を図る趣旨です。
2-3 提訴請求の前置
株主は、いきなり訴えを提起することはできず、まず会社に対し、書面等により、役員等の責任追及等の訴えの提起を請求しなければなりません(847条1項)。
会社自身に提訴するか否かを判断する機会を与える趣旨です。
この提訴請求を受けるのは、監査役設置会社では監査役です(386条2項1号)。
したがって、代表取締役宛てにされた提訴請求は原則として不適法であり、これを前提に提起された代表訴訟は、適法な提訴請求の前置を欠くものとして却下されるのが原則です。
もっとも、監査役が請求の内容を正確に認識したうえで提訴の要否を判断する機会が実質的に与えられていたといえる場合には、却下すべきでないと解する余地があります。
提訴請求の日から六〇日以内に会社が訴えを提起しないときは、請求をした株主は、自ら代表訴訟を提起できます(847条3項)。
会社は、提訴しない場合において株主等から請求を受けたときは、遅滞なく提訴しない理由を通知しなければなりません(不提訴理由通知。847条4項)。
また、六〇日の経過を待っていては会社に回復することができない損害が生ずるおそれがある場合(役員の財産隠匿のおそれがある場合や時効完成が迫っている場合など)には、株主は提訴請求を経ずに直ちに訴えを提起できます(847条5項)。
なお、提訴請求を受けた監査役は、必ず訴えを提起しなければならないわけではありません。
提訴するか否かの判断には、回収の見込み(役員の資力)や立証の難易、訴訟に要する費用と認容され得る賠償額との均衡など、会社の利益の観点からの裁量的な考慮が伴うからです。
提訴しないとの判断が合理的な裁量の範囲内にとどまる限り、監査役自身の任務懈怠とはなりません。
2-4 判決の効力と費用
代表訴訟は、株主が会社のために追行する訴訟であり、認容された賠償金は会社に帰属します。
判決の効力は、勝訴・敗訴を問わず会社に及びます(民事訴訟法115条1項2号)。
また、訴え提起の手数料については、責任追及等の訴えは財産権上の請求でない請求に係る訴えとみなされ(847条の4第1項)、請求額にかかわらず一律の額で済みます。
株主が勝訴した場合には、支出した必要費用や弁護士報酬のうち相当額の支払を会社に請求でき(852条1項)、敗訴しても、悪意があったときを除き会社に対する賠償責任を負いません(852条2項)。
第3章 対象となる「責任」の範囲
代表訴訟で追及できる「役員等…(中略)…の責任」(847条1項)の範囲については、争いがあります。
役員等が会社に対して負う一切の債務を含むとする見解(全債務説)と、任務懈怠責任など会社法上の地位に基づく責任に限るとする見解(限定債務説)が対立してきました。
判例は、前掲最判平成21年3月10日において、代表訴訟の対象には、取締役の地位に基づく責任のほか、取締役の会社に対する取引債務についての責任も含まれるとしています。
会社が提訴を懈怠するおそれは、取締役が会社から借り入れた金銭を返済しない場合のような取引上の債務についても同様に存在すること、取締役は会社との取引によって負担した債務についても忠実に履行すべき義務を負うことが、その理由です。
これに対しては、取引上の債務の履行を猶予することが会社の利益にかなう場合にもそれが妨げられ、経営の裁量を制約しすぎるという批判もあります。
取引債務包含説の側でも、履行の時期・方法について経営判断としての裁量を認めるべき債務については対象から外れ得ると説明されており、いずれにせよ、対象の画定は提訴懈怠のおそれという制度趣旨に照らして行うことになります。
第4章 訴訟をめぐる規律
4-1 担保提供
被告となった役員等は、原告株主の訴えの提起が悪意によるものであることを疎明して、原告に相当の担保を立てさせることを裁判所に申し立てることができます(847条の4第2項・3項)。
不当な訴訟提起が不法行為となる場合に被告が取得する損害賠償請求権を担保させることで、濫訴を抑止する趣旨です。
ここでいう悪意とは、(一)請求に理由がないことを知って訴えを提起した場合(不当訴訟)、または(二) 制度の趣旨を逸脱し、不当な目的をもって被告を害することを知りながら訴えを提起した場合 (不当目的)をいうと解されています(東京高決平成7年2月20日)。
4-2 訴訟参加
株主または会社は、係属中の代表訴訟に、共同訴訟人として、または当事者の一方を補助するために参加することができます(849条1項)。
注目すべきは、会社が被告役員等の側に補助参加することも認められている点です。
旧商法下では争いがありましたが、判例がこれを許容し(最決平成13年1月30日民集55巻1号30頁)、現在は明文化されています。
ただし、会社が取締役等の側に補助参加するには、なれ合い防止のため、各監査役(監査等委員会設置会社では各監査等委員、指名委員会等設置会社では各監査委員)の同意が必要です(849条3項)。
また、代表訴訟を提起した株主は遅滞なく会社に訴訟告知をしなければならず(849条4項)、会社は提訴または訴訟告知を受けた旨を公告しまたは株主に通知しなければなりません(849条5項)。
他の株主に参加の機会を保障する趣旨です。
4-3 和解と馴れ合い訴訟への対処
代表訴訟は和解によって終了することもできますが、和解は実質的に責任の一部免除として機能し得るため、なれ合いの危険があります。
そこで、令和元年の会社法改正により、会社が和解をするには各監査役等の同意を要することが明文化されました(849条の2)。
なお、代表訴訟における和解には、責任免除に総株主の同意を要求する424条の規定は適用されません(850条4項)。
また、会社が和解の当事者でない場合(原告株主と被告役員等との間の和解)には、裁判所が会社に和解内容を通知し、二週間以内に異議を述べなければ和解を承認したものとみなされ、会社にも和解の効力が及びます(850条1項〜3項)。
会社の知らないところで責任の処理が確定することを防ぐ仕組みです。
さらに、原告株主と被告役員等が馴れ合って会社の権利を害する目的で判決をさせたときは、会社または株主は、確定判決に対して再審の訴えを提起できます(853条1項)。
第5章 関連する制度
5-1 違法行為の差止請求
六か月(定款で短縮可)前から引き続き株式を有する株主は、取締役が会社の目的の範囲外の行為その他法令・定款に違反する行為をし、またはそのおそれがある場合において、その行為によって会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、取締役に対し、その行為の差止めを請求できます(360条1項)。
事後の損害賠償では会社の救済として不十分な場合に備えた、事前の予防手段です。
なお、監査役設置会社・監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社では、要件が「回復することができない損害」に加重されます(360条3項)。
第一次的な是正は監査役等による差止め(385条等)に委ねる趣旨です。
差止めの対象となる「法令…(中略)…に違反する行為」には、具体的な法令違反のほか、善管注意義務・忠実義務違反も含まれると解されています。
また、差止請求は事前の救済手段であるため、実務上は本案訴訟ではなく、差止請求権を被保全権利とする仮処分(民事保全法23条2項)の形で行使されるのが通常です。
5-2 旧株主による責任追及と多重代表訴訟
平成26年改正により、責任原因の発生後に株式交換等によって株主の地位を失った旧株主が引き続き責任追及の訴えを提起できる制度(847条の2)と、最終完全親会社等の議決権または発行済株式の一〇〇分の一以上を六か月前から有する株主が、重要な完全子会社の役員等の責任(特定責任)を追及できる多重代表訴訟の制度(847条の3)が導入されました。
企業グループ化の進展に対応して、責任追及の空白を埋める趣旨です。
第6章 試験答案の構成方法
6-1 代表訴訟の適法性が問われる事案
株主代表訴訟の訴訟要件(適法性)が問われる事案では、以下の流れで検討することが考えられます。
【答案構成の流れ】
- 問題提起:本件株主代表訴訟は適法か
- 原告適格:公開会社であれば、六か月前から引き続き株式を有する株主か(847条1項)。非公開会社であれば保有期間要件は不要(847条2項)
- 対象となる責任:追及しようとする責任・債務が「責任」(847条1項)に含まれるか。取締役の地位に基づく責任のほか、会社に対する取引債務についての責任も含まれる(最判平成21年3月10日)
- 提訴請求の前置:会社への提訴請求(847条1項)の有無を確認する。監査役設置会社では監査役宛てか(386条2項1号)。宛先を誤った場合は原則として不適法となる
- 六〇日の経過または5項該当性:提訴請求から六〇日の経過(847条3項)、または会社に回復することができない損害が生ずるおそれ(847条5項)の有無を検討する
- 結論:訴えの適法性を結論づけ、適法であれば本案(任務懈怠責任の成否)の検討に進む
まとめ
役員等に対する責任追及の方法について、本記事では以下の点を解説しました。
- 会社が取締役に対して訴えを提起する場合、監査役設置会社では監査役が会社を代表する(386条1項1号)
- 株主代表訴訟は、会社が役員間のなれ合いから責任追及を怠るおそれに備えた制度である(最判平成21年3月10日)
- 提訴には、公開会社では六か月の株式保有(847条1項)と、会社(監査役設置会社では監査役。386条2項1号)への提訴請求の前置が必要であり、六〇日以内に会社が提訴しないときに株主が提訴できる(847条3項)。回復することができない損害のおそれがあれば直ちに提訴できる(847条5項)
- 代表訴訟の対象には、取締役の地位に基づく責任のほか、取締役の会社に対する取引債務についての責任も含まれる(最判平成21年3月10日)
- 被告は原告の悪意を疎明して担保提供を申し立てることができる(847条の4第2項)
- 会社は被告役員等の側に補助参加することもできるが(849条1項。最決平成13年1月30日)、各監査役等の同意を要する(849条3項)
- 会社が和解をするには各監査役等の同意が必要である(849条の2。令和元年改正)。馴れ合い判決には再審の訴えで対処できる(853条)
- 事前の手段として違法行為の差止請求(360条)が、グループ会社に対応する制度として旧株主による責任追及(847条の2)・多重代表訴訟(847条の3)がある
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