【会社法入門14】役員等の第三者に対する責任を徹底解説

監修者
講師 赤坂けい
株式会社ヨビワン
講師 赤坂けい
【会社法入門14】役員等の第三者に対する責任を徹底解説
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この記事を読んで理解できること
  • 責任の意義と法的性質
  • 損害の範囲と「第三者」の範囲
  • 責任主体をめぐる論点
  • 虚偽記載等の責任(429条2項)
  • 試験答案の構成方法

「会社が倒産したとき、債権者は取締役個人に賠償を求められるの?」

「名前を貸しただけで経営に関与していない取締役にも、責任はあるの?」

「辞任したのに登記が残ったままの取締役は、責任を負い続けるの?」

会社法を学ぶ中で、こうした疑問を持った方は多いのではないでしょうか。

前回学んだ任務懈怠責任(会社法423条1項)は、役員等が会社に対して負う責任でした。

これに対し本記事で扱うのは、役員等が会社債権者などの第三者に対して直接負う損害賠償責任(429条1項)です。

同条は、会社に資力がなくなった場面で経営者個人の責任を追及する手段として、特に中小企業の倒産処理の実務で極めて頻繁に活用されており、判例の蓄積も厚い分野です。

【会社法入門13】役員等の会社に対する責任|任務懈怠責任を体系的に解説

本記事では、429条1項の法的性質と要件を判例に即して確認したうえで、損害の範囲と「第三者」の範囲、そして名目的取締役・登記簿上の取締役など責任主体をめぐる論点を解説します。

この記事で学べること

  • 【初級】役員等の第三者に対する責任(429条1項)の意義
  • 【初中級】法的性質(法定責任説)と要件(最大判昭和44年11月26日)
  • 【中級】直接損害・間接損害の区別と、株主の「第三者」該当性
  • 【中上級】名目的取締役・登記簿上の取締役・事実上の取締役の責任
  • 【中上級】計算書類の虚偽記載等についての責任(429条2項)

第1章 責任の意義と法的性質

1-1 意義

役員等がその職務を行うについて悪意または重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負います(429条1項)。

役員等の範囲は任務懈怠責任と同じく、取締役・会計参与・監査役・執行役・会計監査人です(423条1項参照)。

本来、役員等は会社との間で委任関係に立つにすぎず(330条)、第三者との間に直接の法律関係はありません。

それにもかかわらず会社法が役員等の第三者への直接責任を定めたのはなぜか、という法的性質の理解が、本条のすべての解釈論の出発点となります。

実際の機能に着目すると、株主や役員は会社の債務について責任を負わないのが原則(株主有限責任。

104条参照)であるところ、429条1項は、会社が倒産して債権の回収が不能となった場面で、債権者が経営者個人の財産から回収を図ることを可能にする規定であり、いわば法人格の壁を一定の場合に乗り越えさせる機能を果たしています。

1-2 法的性質(法定責任説)

判例は、旧商法266条ノ3(現在の429条1項に相当)について、「法は、株式会社が経済社会において重要な地位を占めていること、しかも株式会社の活動はその機関である取締役の職務執行に依存するものであることを考慮して、第三者保護の立場から、取締役において悪意または重大な過失により右義務に違反し、これによつて第三者に損害を被らせたときは、取締役の任務懈怠の行為と第三者の損害との間に相当の因果関係があるかぎり、会社がこれによつて損害を被つた結果、ひいて第三者に損害を生じた場合であると、直接第三者が損害を被つた場合であるとを問うことなく、当該取締役が直接に第三者に対し損害賠償の責に任ずべきことを規定した」と判示しています(最大判昭和44年11月26日民集23巻11号2150頁)。

すなわち、本条の責任は、不法行為責任とは別個の、第三者保護のために法が特に認めた責任である(法定責任説)というのが判例・通説です。

この理解から、次の三つの帰結が導かれます。

第一に、悪意・重過失は、第三者への加害についてではなく、会社に対する任務懈怠について存すれば足ります。

第二に、賠償の対象となる損害には、会社が損害を被った結果第三者に生じた損害(間接損害)と、第三者が直接に被った損害(直接損害)の両方が含まれます。

第三に、本条の責任と民法709条の不法行為責任とは要件を異にする別個の責任ですから、両者は競合し得ます。

1-3 要件の整理

以上から、429条1項の責任の要件は、(一)役員等であること、(二)職務を行うについての任務懈怠、(三)任務懈怠についての悪意または重大な過失、(四)第三者の損害、(五)任務懈怠と損害との相当因果関係、と整理できます。

任務懈怠の中身(善管注意義務・忠実義務違反、監視義務違反など)は、前回学んだ423条1項の場合と共通の枠組みで認定します。

なお、第三者に過失があるときは、過失相殺の規定(民法722条2項)の類推適用が認められています(最判昭和59年10月4日判時1143号143頁)。

第2章 損害の範囲と「第三者」の範囲

2-1 直接損害と間接損害

類型

意義・典型例

直接損害

会社の損害を介さずに第三者が直接被った損害。

例:支払の見込みがないのにあえて約束手形を振り出し、または商品を仕入れて、相手方に損害を与えた場合

間接損害

まず会社に損害が生じ、その結果として第三者に生じた損害。

例:放漫経営により会社が倒産し、債権者が債権を回収できなくなった場合

法定責任説に立つ判例の下では、前述のとおり両者がともに賠償の対象となります。

実務上は、倒産した会社の債権者が、放漫経営や監視義務違反を理由に取締役の責任を追及する間接損害の事案が典型です。

直接損害の事案では、たとえば会社の資産・営業状態に照らして満期に支払の見込みがない手形をあえて振り出したといえるか、というように、取引時点の会社の財務状況についての取締役の認識を具体的に認定して、任務懈怠とそれについての悪意・重過失を基礎づけることになります。

2-2 株主は「第三者」にあたるか

「第三者」とは会社および当該役員等以外の者をいい、文言上は株主も含まれ得ます。

問題となるのは、株主が、会社財産の減少による株式の価値の低下という間接損害について、429条1項により直接賠償を請求できるかです。

通説的見解および裁判例は、これを否定します。

間接損害については、会社が損害を回復すれば株主の損害も回復するという関係にあり、株主には株主代表訴訟(847条)による会社の損害の回復という手段が用意されています。

それに加えて株主への直接の賠償を認めると、役員等が会社と株主に二重の責任を負いかねず、また、会社債権者に劣後すべき株主が会社財産(損害賠償請求権)を先取りする結果ともなりかねないからです。

もっとも、学説には、取締役と支配株主が一体となっている閉鎖的な会社では、代表訴訟による救済が実効的でないため、少数株主に直接の請求を認める余地があるとする見解も有力です。

第3章 責任主体をめぐる論点

429条1項は中小企業の倒産の場面で多用されるため、実質的に経営に関与していない「名ばかり」の取締役や、登記簿上だけの取締役の責任が頻繁に争われてきました。

3-1 名目的取締役

名目的取締役とは、適法に選任されてはいるものの、経営に実質的に関与しないことを了解して就任した取締役をいいます。

適法に選任された以上「役員等」にあたることは明らかであり、問題はその任務懈怠(監視義務違反)の成否です。

判例は、取締役の監視義務が取締役会に上程された事項に限られないこと(最判昭和48年5月22日民集27巻5号655頁)を前提に、この理は「会社の内部事情ないし経緯によっていわゆる社外重役として名目的に就任した取締役についても同様であると解するのが相当である」として、名目的取締役も監視義務を負うとしています(最判昭和55年3月18日判時971号101頁)。

もっとも、下級審裁判例には、報酬を受けず経営への影響力もない名目的取締役について、重過失や、義務を尽くしても損害を防止できなかったとして因果関係を否定し、結論として責任を認めないものが少なくありません。

答案でも、「役員等」該当性だけでなく、悪意・重過失や因果関係の要件を事案に即して丁寧に検討することが重要です。

3-2 登記簿上の取締役(不実の就任登記)

株主総会の選任決議を経ていないのに、承諾のうえ取締役として登記されている者(登記簿上の取締役)はどうでしょうか。

選任決議がない以上、その者は取締役ではなく、「役員等」にあたらないのが原則です。

もっとも、故意または過失によって不実の事項を登記した者は、その事項が不実であることをもって善意の第三者に対抗することができません(908条2項)。

同項の「登記した者」は登記申請権者である会社を指すため、登記された本人に直接適用はできませんが、判例は、取締役への就任の登記につき本人が承諾を与えた場合には、その者も不実の登記の出現に加功したものとして、908条2項を類推適用し、本人に故意・過失がある限り、登記事項の不実(取締役でないこと)を善意の第三者に対抗できないとしています(最判昭和47年6月15日民集26巻5号984頁)。

その結果、当該本人は、善意の第三者との関係では取締役でないことを主張できず、取締役としての職務を何ら行わなかったことが任務懈怠と評価されて、429条1項の責任を負い得ることになります。

3-3 辞任登記未了の取締役

適法に辞任したものの、辞任の登記がされないまま登記簿上は取締役として残っている者についても、同様の問題が生じます。

判例は、辞任した取締役は原則として責任を負わないとしつつ、(一)辞任後もなお積極的に取締役として対外的または内部的な行為をあえてした場合のほか、(二)登記申請権者である会社の代表者に対し、辞任登記を申請せず不実の登記を残存させることにつき明示的に承諾を与えていたなどの特段の事情がある場合には、908条2項の類推適用により、取締役でないことを善意の第三者に対抗できない結果、責任を免れないとしています(最判昭和62年4月16日判時1248号127頁)。

辞任した取締役には自ら登記を申請する権限がないため、不実就任登記の場合よりも帰責性が認められる場面を限定する趣旨です。

3-4 事実上の取締役

反対に、取締役として選任も登記もされていないのに、会社の主宰者として実質的に業務執行を支配している者(事実上の取締役)について、下級審裁判例には、429条1項を類推適用して責任を認めたものがあります。

その認定にあたっては、重要な業務執行についての経営指揮権の有無、支配株主であるか否か、対外的な活動の態様などが考慮されます。

類型

処理

名目的取締役

「役員等」にあたり監視義務を負う(最判昭和55年3月18日)。

ただし重過失・因果関係が否定される例も多い

不実の就任登記がある者

原則「役員等」にあたらないが、登記への承諾があれば908条2項の類推適用により取締役でないことを善意の第三者に対抗できない(最判昭和47年6月15日)

辞任登記未了の取締役

原則責任を負わない。

辞任後の積極的行為や不実登記残存への明示的承諾等の特段の事情があれば908条2項類推(最判昭和62年4月16日)

事実上の取締役

経営指揮権等を考慮して429条1項の類推適用が認められる場合がある(下級審裁判例)

第4章 虚偽記載等の責任(429条2項)

役員等が、計算書類等の重要な事項についての虚偽の記載・記録、虚偽の登記、虚偽の公告などをしたときは、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負います(429条2項)。

会社の開示情報を信頼して取引に入った第三者を保護する趣旨です。

同項の責任では、1項と異なり悪意・重過失は要件とされず、役員等の側が、当該行為について注意を怠らなかったことを証明しない限り、責任を免れません(429条2項ただし書)。

立証責任が転換された、より厳格な責任である点が特徴です。

なお、虚偽記載それ自体によって会社に損害が生じることは考えにくいため、同項で問題となる損害は、虚偽の開示を信頼した第三者の直接損害が中心となります。

第5章 試験答案の構成方法

5-1 倒産会社の債権者が取締役の責任を追及する事案

会社の倒産により債権を回収できなくなった債権者が、取締役個人に429条1項の責任を追及する典型事案では、以下の流れで答案を構成することが考えられます。

【答案構成の流れ】

  • 問題提起:債権者は、取締役に対し429条1項に基づく損害賠償を請求できるか
  • 法的性質:同項の責任は、株式会社の活動が取締役の職務執行に依存することに鑑み、第三者保護のために法が定めた責任である(最大判昭和44年11月26日)。したがって、悪意・重過失は会社に対する任務懈怠について存すれば足り、損害には間接損害も含まれる
  • 「役員等」該当性:名目的取締役・登記簿上の取締役・辞任登記未了など責任主体の論点があれば、ここで検討する(908条2項の類推適用の論証)
  • 任務懈怠と悪意・重過失:放漫経営、支払見込みのない取引の継続、他の取締役に対する監視義務違反などの具体的事実を拾い、任務懈怠とそれについての悪意・重過失を認定する
  • 損害・因果関係:債権の回収不能額等の損害と、任務懈怠との相当因果関係を検討する。義務を尽くしても防止できなかった損害については因果関係が否定される
  • 結論:責任の有無を結論づける。複数の役員等が責任を負う場合は連帯債務となる(430条)

まとめ

役員等の第三者に対する責任について、本記事では以下の点を解説しました。

  • 役員等は、職務を行うについて悪意・重過失があったときは、第三者に生じた損害を賠償する責任を負う(429条1項)
  • 同項の責任は第三者保護のための法定責任であり、悪意・重過失は会社に対する任務懈怠について存すれば足り、直接損害・間接損害の双方が賠償の対象となり、不法行為責任(民法709条)とも競合し得る(最大判昭和44年11月26日)
  • 株主の間接損害については、株主代表訴訟による回復が予定されているため、株主は原則として「第三者」として直接請求できないと解されている
  • 名目的取締役も監視義務を負うが(最判昭和55年3月18日)、重過失や因果関係の要件で責任が否定される例も多い
  • 選任決議のない登記簿上の取締役は、就任登記に承諾を与えていた場合、908条2項の類推適用により取締役でないことを善意の第三者に対抗できない(最判昭和47年6月15日)
  • 辞任登記未了の取締役は、辞任後の積極的な行為や不実登記の残存への明示的承諾等の特段の事情がある場合に限り、責任を免れない(最判昭和62年4月16日)
  • 計算書類の虚偽記載等については、注意を怠らなかったことを証明しない限り責任を負う(429条2項)

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