【行政法入門4】 行政裁量とは?適法・違法の重要判例5つを徹底解説!
目次
この記事を読んで理解できること
- 行政裁量の定義と分類
- 行政裁量が認められるかどうかはどう判断?
- 裁量権の逸脱・濫用がある裁量行為は違法
- 裁量権の逸脱・濫用はどう判断?
この記事は、
- 行政裁量とは何かを理解したい
- 裁量行為かどうかをどう判断するのか知りたい
- 裁量権の逸脱・濫用に関する判例を知りたい
といった方におすすめです。
行政裁量とは、行政機関が法律に基づいて処分をする際に認められている、自由な判断の余地のことです。
行政法の中でも試験で問われやすいテーマですが、裁量はどこまで認められるのか、どこから違法となるのかなど複雑な思考が求められ、苦手としている方も多いのではないでしょうか。
そこで、この記事では、
1章で行政裁量の基本的な定義と分類
2章で裁量が認められるかどうかの判断方法
3章で裁量権の逸脱・濫用がある処分の違法性
4章で裁量権の逸脱・濫用の具体的な判断基準
について、それぞれ解説します。
重要判例をいくつか取り上げながら、行政裁量の全体像を一通り解説していますので、初学者の方はもちろん、一度学んだ内容を整理したい方にも活用していただけます。
1章:行政裁量の定義と分類
行政裁量とは、行政機関が法律に基づいて仕事をするときに、一定の範囲で「自分の判断で決めてよい」余地のことです。
たとえば、法律が「〇〇な場合は許可することができる」と定めているとき、行政機関は状況を見て「許可する」「許可しない」を判断します。この行政機関が選べる幅が行政裁量です。
では、なぜ行政に裁量が認められるのでしょうか。
それは、法律があらゆる場面を細かく規定することは不可能だからです。
現実の行政は多種多様な状況に対応しなければならないため、現場の担当者にある程度の判断を任せないと、実態に合った適切な対応ができなくなってしまいます。
行政裁量に関する用語について、まず以下の4つの用語の意味を確認していきましょう。

1-1:覊束行為と裁量行為
行政が行う処分は、裁量の有無によって「覊束行為(きそくこうい)」と「裁量行為(さいりょうこうい)」の2種類に分けられます。
覊束行為とは、法律で定められた要件を満たせば、行政庁が必ず一定の処分をしなければならない行為のことです。行政庁にほとんど判断の余地がなく、法律に従って機械的に処理されます。
たとえば、一定の要件を満たした申請に対して、法律が「許可しなければならない」と定めている場合がこれにあたります。
これに対し、裁量行為とは、法律の要件を満たした場合でも、処分するかどうかや処分の内容について、行政庁が自分の判断で決められる行為のことです。
「許可することができる」「必要と認めるときは命ずることができる」といった文言が使われている場合がその典型例です。
1-2:要件裁量と効果裁量
裁量行為は、裁量が認められる場面によって「要件裁量」と「効果裁量」に分けられます。
要件裁量とは、処分を行う要件に該当するかどうかの判断について、行政庁に裁量が認められる場合です。
「相当と認めるとき」「必要があるとき」のように、条文の要件部分に解釈の幅を持つ表現があるのが典型です。
効果裁量とは、要件を満たしているとした上で、どのような処分を行うかについて裁量が認められる場合です。
具体例として、国家公務員法第82条を見てみましょう。
国家公務員法
第八十二条 職員が次の各号のいずれかに該当する場合には、当該職員に対し、懲戒処分として、免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる。
一 (略)
二 (略)
三 国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合
この第3号に定められている「ふさわしくない非行」に当たるかどうかの評価には幅があり、ここに要件裁量が認められます。
さらに、要件に該当すると判断された後、「免職」「停職」「減給」「戒告」のうちどの懲戒処分を選択するかを決める部分が効果裁量にあたります。
要件裁量は「処分の対象に当たるかを判断する段階」、効果裁量は「処分の内容を選ぶ段階」と覚えると良いでしょう。
2章:行政裁量が認められるかどうかはどう判断?
ここまで説明したとおり、行政が行う処分には、裁量が認められる場合と認められない場合があります。
では、ある処分に裁量があるかどうかは、どのように判断すればよいのでしょうか。
結論から言うと、条文の文言と処分の性質という2つの視点から判断します。
ここでは、その判断の仕方を解説します。
2-1:条文から読み取る
処分の根拠となる条文に「~(することが)できる」という文言がある場合、処分をするかどうか、またどのような処分にするかについて裁量が認められる可能性が高いです。
一方で、「~しなければならない」「~するものとする」といった文言があれば、覊束行為である可能性が高いといえます。
また、「相当な理由があるとき」「公益上必要があるとき」「適当と認めるとき」のような、意味の幅が広く一義的に決まらない言葉があるときは、要件裁量が認められ得ます。
このような言葉は「不確定概念」と呼ばれ、その意味の解釈自体に幅があり、行政庁の判断に委ねられる余地が生じるからです。
ただし、条文の文言だけで裁量の有無をすべて判断できるわけではありません。
条文で「できる」と書かれていても、処分の性質上覊束的に扱われる可能性もあります。
そのため、次に説明する「処分の性質」もあわせて考慮する必要があります。
2-2:処分の性質を考慮する
条文の文言だけでなく、その処分がどのような性質を持つかも重要な判断要素です。
特に、次のような性質を持つ処分では、裁量が広く認められやすいとされています。
- 政治的・政策的な判断が必要な処分
- 高度な専門技術的判断が必要な処分
これらは、裁判所よりも行政機関の方が専門的知見や情報を有していることが多く、適切な判断を下せると考えられている分野です。
そのため、裁判所はこのような処分については司法審査(裁判所によるチェック)の範囲を限定する傾向があります。
以下では、これらの性質を持つ処分が問題となった重要判例をそれぞれ見ていきます。
2-2-1:【判例】マクリーン事件(政治的判断の必要性)
マクリーン事件(最大判昭和53年10月4日)は、高度な政治的判断を要する処分における行政庁の裁量の範囲が問題となった事件です。
■事件の概要
アメリカ国籍のマクリーン氏(原告)は、日本での在留期間の更新を法務大臣(被告)に申請した。
しかし、在留中の無届転職や政治活動(ベトナム反戦デモへの参加など)を理由に、法務大臣は更新を不許可とした。
これを不服としたマクリーンは、不許可処分の取消しを求めて提訴した。
■争点
出入国管理令(現・出入国管理及び難民認定法)は、在留期間の更新を「相当の理由があるとき」に許可できるとしており、その判断を法務大臣に委ねている。
そのうえで、在留中の政治活動を理由に不許可とすることが、憲法上保障された表現の自由・政治活動の自由に反しないか、法務大臣の裁量の範囲内といえるかが問題となった。
■最高裁の判決内容
・外国人にも、憲法上の政治活動の自由の保障が一定程度及ぶ
← 基本的人権の保障は、権利の性質上在留する外国人にも及ぶとするのが相当なため
・ただし、在留中の政治活動を考慮して更新を不許可とすることは、憲法に違反しない
← 外国人の在留の権利自体は憲法上保障されておらず、人権保障は在留制度の枠内で認められるにすぎないため
・在留期間更新の許否は、法務大臣に広い裁量が認められ、本件不許可処分は適法
← 在留の許否には、国内治安・外交関係・国際情勢など高度な政治的判断が必要であり、行政庁の専門的判断に委ねる必要があるため。また本件では、裁量権の逸脱・濫用も認められないため。
■この判例のポイント
国家の利益・外交関係・治安維持など高度な政治的判断を伴う処分については、行政庁に広範な裁量が認められることを示した判例です。
2-2-2:【判例】伊方原発訴訟(専門技術的判断の必要性)
伊方原発訴訟(最判平成4年10月29日)は、専門技術的判断が必要な処分における行政庁の裁量が問題となった事件です。
■事件の概要
四国電力は、愛媛県伊方町に原子力発電所を建設するため、内閣総理大臣(被告)に原子炉設置許可を申請し、許可を受けた。
これに対し、周辺住民(原告)が原子炉の安全審査に問題があるとして、許可処分の取消しを求めて提訴した。
■争点
原子炉の安全審査には高度な専門技術的知見が必要であることから、裁判所が行政庁の専門的判断をどこまで審査できるかが争点となった。
■最高裁の判決内容
・原子炉の安全性審査は、専門家の意見を尊重して行う行政庁の合理的な判断に委ねられる
← 多方面にわたる極めて高度な専門技術的判断を要するため
・そのため、裁判所の審査は、行政庁の審査基準に不合理な点がないか、調査・判断過程に「看過し難い過誤・欠落」がないかという点に限定される
・ただし、審査資料を保持する行政庁側が、まず判断の合理性を立証する必要がある
・本件の許可処分は適法
← 審査過程に不合理な点は認められなかったため
■この判例のポイント
専門技術的知見が必要な処分については、原則として行政庁の判断に委ねられ、裁判所が審査するのはその判断の合理性など範囲が限定されるとした判例です。
3章:裁量権の逸脱・濫用がある裁量行為は違法
ここまで、行政機関には一定の裁量が認められることを解説してきました。
しかし、裁量が認められている処分であれば、行政機関が何をしても良いというわけではありません。
行政事件訴訟法第30条では、次のように定めています。
行政事件訴訟法
第三十条 行政庁の裁量処分については、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつた場合に限り、裁判所は、その処分を取り消すことができる。
裁量権の範囲をこえた場合(裁量権の逸脱)とは、行政が法律で認められた範囲を超えた判断をしてしまっていることを指します。
また、裁量権の濫用があった場合とは、形式上は裁量の範囲内であっても、その権限を不当または不正な目的・方法で行使することです。
では、裁量権の逸脱・濫用があるかどうかは、どう判断するのでしょうか。次の章で詳しく見ていきます。
4章:裁量権の逸脱・濫用はどう判断?
裁判所が裁量権の逸脱・濫用を判断する際、主に次の3つの観点から審査します。
- 行政庁の判断が社会観念上妥当かどうか(社会観念審査)
- 判断に至る過程が合理的かどうか(判断過程審査)
- 手続きが公正なものかどうか
それぞれの観点について、重要判例とあわせて解説します。
4-1:行政庁の判断が社会通念上妥当かどうか
1つ目の観点は、行政庁の下した判断の結論が、社会通念上妥当かどうかを審査するものです。
この審査手法は「社会観念審査」と呼ばれています。
社会観念審査では、主に次のようなパターンが裁量権の逸脱・濫用にあたるとされています。
- 事実誤認:処分の根拠となる重要な事実に誤認がある場合
- 平等原則違反:同じような状況にある人を合理的な理由もなく異なる扱いをした場合
- 比例原則違反:処分の目的に対して、処分の内容が重すぎる場合
- 目的動機違反:本来の目的とは別の、不当な目的・動機のもとで権限を行使した場合
- 信義則違反:過去の言動や約束と矛盾する処分をし、相手方の正当な信頼を裏切った場合
以下では、目的動機違反の判例として有名な余目町個室付浴場事件を解説します。
4-1-1:【判例】余目町個室付浴場事件(目的動機違反)
余目町個室付浴場事件(最判昭和53年5月26日)は、行政庁が権限を不当な目的のために悪用したとして、裁量権の濫用が認められた有名な判例です。
■事件の概要
山形県余目町で、ある会社(原告)が個室付浴場の営業を計画した。
地元住民から強い反対運動が起こり、その計画を阻止することを考えた山形県(被告)は、個室付浴場の営業予定地に近い児童遊園を児童福祉施設として認可。
個室付浴場の営業は一旦許可されたものの、風営法上児童福祉施設から200メートル以内では個室付浴場の営業ができないため、会社は営業停止処分を受けた。
これを不服とした会社が、山形県に損害賠償を求めて提訴した。
■争点
児童遊園の設置認可自体は、法律上の要件を満たしており形式的には適法であった。
しかし、その実質的な目的が特定の営業を阻止するためのものであった場合に、裁量権の逸脱・濫用にあたり違法となるかが争点となった。
■最高裁の判決内容
・児童遊園設置認可処分は、行政権の著しい濫用として違法
← 本来の目的(児童福祉)とは無関係に、特定の営業を阻止する目的でなされた処分であるため
・これを前提とした営業停止処分も違法であり、損害賠償責任が認められる
■この判例のポイント
処分の形式的な要件を満たしていても、その背後にある目的や動機が不当であれば、裁量権の濫用として違法になることを示した判例です。
4-2:判断に至る過程が合理的かどうか
2つ目の観点は、行政庁が処分の結論に至るまでの過程が合理的かどうかを審査するものです。
この審査手法は「判断過程審査」と呼ばれます。
社会観念審査が処分の「結論」の妥当性を見るのに対し、判断過程審査は処分の「プロセス」の合理性を問うものです。
判断過程審査において裁量権の逸脱・濫用が認められる代表的な例として、次の2つのパターンが挙げられます。
- 考慮不尽(こうりょふじん):行政庁が本来考慮すべき事情を考慮しなかった場合
- 他事考慮(たじこうりょ):行政庁が本来考慮すべきでない事情を考慮した場合
これらの場合、判断の前提や過程に問題があるため、最終的な結論の正否にかかわらず、処分が違法となることがあります。
以下の判例でこの考え方を確認しましょう。
4-2-1:【判例】学校施設の目的外使用の不許可処分
学校施設の目的外使用に関する不許可処分事件(最判平成18年2月7日)は、行政処分を決定するまでの判断過程が問題となった判例です。
■事件の概要
広島県の公立学校教職員の職員団体(原告)が、教育研究集会の会場として市立中学校の体育館等の使用を申請した。
その申請に対し、過去同様の集会が学校施設で行われたときに、右翼団体が押しかけ周辺住民から苦情が寄せられたことを理由に、市教育委員会(被告)が不許可とした。
これを不服とした職員団体が、国家賠償法に基づく損害賠償を求めて提訴した。
■争点
学校施設の目的外使用の許可は管理者の裁量に委ねられている。
しかし、不許可の理由として挙げられた「周辺への混乱・教育上の悪影響」が、実際の事情に照らして合理的な判断といえるかが争点となった。
■最高裁の判決内容
・本件不許可処分は裁量権を逸脱した違法な処分であり、損害賠償責任が認められる
←
- 右翼団体による具体的な妨害の動きはなく、休校日であることや集会の内容からも教育上の悪影響が生ずるとする評価は合理的ではない
- 重視すべきでない考慮要素を重視し、考慮すべき事項を十分考慮しておらず、本件不許可処分は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くため
■この判例のポイント
一見裁量の範囲内でも、考慮すべき事情の無視や、不当な事情の過大評価など、判断過程に合理性を欠く場合は裁量権の逸脱・濫用として違法となることを示した判例です。
4-3:手続きが公正なものかどうか
3つ目の観点は、処分を行う際の手続きが公正なものであったかどうかです。
結論や判断過程が適切であっても、手続きに重大な瑕疵(かし:欠陥のこと)がある場合には、その行政処分が違法となることがあります。
たとえば、国民の権利・利益を制限する処分を行う場合、処分の基準を明らかにすることや、聴聞(当事者の意見を聴く)の機会を与えることが、公正な行政の基本です。
現在は行政手続法が整備され、不利益処分に際して公正な手続きをとることが法律で定められていますが、以下で取り上げる個人タクシー事件はその先駆けとなった判例です。
4-3-1:【判例】個人タクシー事件
個人タクシー事件(最判昭和46年10月28日)は、行政手続の公正性が問題となった判例です。
■事件の概要
東京で983台分の個人タクシー免許が募集され、6,630人が応募した。
その申請人の1人であった男性(原告)は申請を却下されたが、その理由は「他業を自営しており転業が困難」および「運転歴7年未満」に該当するというものであった。
しかし、聴聞担当者はその審査基準を知らされていなかったため、却下事由に関わる事実について原告に主張・立証する機会は与えられなかった。
これを不服とした原告が、却下処分の取消しを求めて提訴した。
■争点
申請者が審査基準の内容を知らされず、また主張・立証する機会が与えられなかった不公正な手続きについて、処分の違法事由となるかが争点となった。
■最高裁の判決内容
・本件却下処分は違法であり、取り消されるべきもの
←
- 免許の許否は「職業選択の自由」に関わる事項であり、行政庁は独断を疑われる不公正な手続きをとってはならない
- よって行政庁は具体的な審査基準を設定したうえで、特に高度な認定を要する場合には、申請者に主張と証拠提出の機会を与えなければならない
- 本件において、もし手続きが適正に行われたら異なる判断に至った可能性があり、手続き上の瑕疵があるものとして違法となる
■この判例のポイント
裁量権の行使が適法かどうかは、処分の内容だけでなく、手続きの公正さによっても判断されることを示した判例です。
まとめ
行政裁量とは、行政機関が法律に基づいて仕事をする際に認められる判断の余地のことです。
裁量が認められるかどうかは、条文の文言と処分の性質の両方を総合して判断することが重要です。
ただし、行政に裁量が認められる処分であっても、行政事件訴訟法30条に基づき、裁量権の逸脱・濫用がある場合は違法として取り消されます。
裁量権の逸脱・濫用にあたるかどうかは、主に以下の3つの観点から判断されます。
- 判断の結論が社会通念上妥当かどうか(社会観念審査)
- 判断のプロセスが合理的かどうか(判断過程審査)
- 手続きの公正性が確保されているかどうか
行政裁量は予備試験でも問われやすい分野です。重要な判例が複数出てきますので、この記事も参考にしていただきながら、主要な論点をしっかり押さえてください。
この記事では、初学者の方にもわかりやすいように、一般的な考え方を解説しています。
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