【憲法入門11】表現の自由⑤ 検閲とは何か?事前規制について徹底解説!

監修者
講師 赤坂けい
株式会社ヨビワン
講師 赤坂けい
【憲法入門11】表現の自由⑤ 検閲とは何か?事前規制について徹底解説!
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チェック
この記事を読んで理解できること
  • 検閲について
  • 「事前規制そのもの」について
  • 「事前規制たる側面」について

この記事は、

  • 事前規制とは何か知りたい
  • 検閲とは何か知りたい
  • 事前規制についての判例を知りたい

といった方におすすめです。

「事前規制」や「検閲」といった単語は、表現の自由との関係で耳にすることが多いと思います。

もっとも、具体的な定義や判例が示している要件・効果について、正確に説明できる人は少ないのではないでしょうか。

事前規制は司法試験でも頻出の重要論点ですので、ぜひマスターしましょう。

この記事では、

第1章で検閲について、

第2章で「事前規制そのもの」について、

第3章で「事前規制たる側面」について、

それぞれ解説します。

基礎知識をわかりやすく簡潔に説明しますので、初学者の方はもちろん、憲法をひと通り学んだ方のまとめ用にも最適です。

第1章 検閲について

はじめに、事前規制には以下の3種類があることを覚えてください。

  1. 検閲
  2. 事前規制そのもの
  3. 事前規制たる側面

まずは検閲について説明します。

条文を読んでみましょう。

憲法

第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

② 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

憲法21条2項に、「検閲」の禁止が明記されています。

同項の「これをしてはならない」とは、絶対禁止であると解釈されています。

つまり、正当な理由があろうとなかろうと、検閲をすることは例外なく許されないということです。

このように、事前規制の中でも検閲は最も厳しく禁止されています。

では、検閲とはどのような行為を指すのでしょうか?

判例を見てみましょう。

札幌税関事件 最判昭和59年12月12日

「憲法二一条二項にいう「検閲」とは、行政権が主体となつて、思想内容等の表現物を対象とし、その全部又は一部の発表の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内容を審査した上、不適当と認めるものの発表を禁止することを、その特質として備えるものを指すと解すべきである。」

  • 主体→行政権
  • 対象→思想内容等の表現物
  • 目的→全部又は一部の発表の禁止
  • 範囲→網羅的一般的
  • 方法→発表前にその内容を審査
  • 処分→不適当と認めるものの発表を禁止

このように、検閲は非常に要件が厳格であるため、簡単には認められません。

試験で事前規制の問題が出た場合も、結論として検閲にあたることはほとんどないでしょう。

第2章 「事前規制そのもの」について

次に、「事前規制そのもの」について解説します。

「え、そんな言葉聞いたことないんだけど…」という人もいるかもしれませんが、実は判例で使われている表現です。

先ほどの札幌税関事件の続きを読んでみましょう。

札幌税関事件 最判昭和59年12月12日

「輸入が禁止される表現物は、一般に、国外においては既に発表済みのものであつて、その輸入を禁止したからといつて、それは、当該表現物につき、事前に発表そのものを一切禁止するというものではない。また、当該表現物は、輸入が禁止されるだけであつて、税関により没収、廃棄されるわけではないから、発表の機会が全面的に奪われてしまうというわけのものでもない。その意味において、税関検査は、事前規制そのものということはできない。」

このように、「事前規制そのもの」とは、

  • 事前に発表そのものを一切禁止する
  • 発表の機会が全面的に奪われる

という規制を意味します。

札幌税関事件では、結論として「事前規制そのもの」ではないとされました。

一方で、「事前規制そのもの」に該当するのが次の判例です。

北方ジャーナル事件 最判昭和61年6月11日

「表現行為に対する事前抑制は、新聞、雑誌その他の出版物や放送等の表現物がその自由市場に出る前に抑止してその内容を読者ないし聴視者の側に到達させる途を閉ざし又はその到達を遅らせてその意義を失わせ、公の批判の機会を減少させるものであり、また、事前抑制たることの性質上、予測に基づくものとならざるをえないこと等から事後制裁の場合よりも広汎にわたり易く、濫用の虞があるうえ、実際上の抑止的効果が事後制裁の場合より大きいと考えられるのであつて、表現行為に対する事前抑制は、表現の自由を保障し検閲を禁止する憲法二一条の趣旨に照らし、厳格かつ明確な要件のもとにおいてのみ許容されうるものといわなければならない。」

この事件では、月刊雑誌「北方ジャーナル」について、裁判所が事前差止めを命ずる仮処分命令をしました。

これに対し、北方ジャーナル側は事前差止めが表現の自由を侵害し違憲であると主張したのです。

最高裁は、「表現行為に対する事前抑制」について、「厳格かつ明確な要件のもとにおいてのみ許容されうる」と判断しました。

厳格かつ明確な要件」とは、具体的には以下のとおりです。

北方ジャーナル事件 最判昭和61年6月11日

「その表現内容が真実でなく、又はそれが専ら公益を図る目的のものでないことが明白であつて、かつ、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞があるときは、当該表現行為はその価値が被害者の名誉に劣後することが明らかであるうえ、有効適切な救済方法としての差止めの必要性も肯定されるから、かかる実体的要件を具備するときに限つて、例外的に事前差止めが許される」

■事前差止めの要件

要件1

①表現内容が真実でない

②専ら公益を図る目的のものでない

①又は②のどちらかが明白

かつ

要件2

被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞

このように、「事前規制そのもの」は原則的に許されないため、次章の「事前規制たる側面」との区別が重要になります。

第3章 「事前規制たる側面」について

三つ目に、「事前規制たる側面」について解説します。

これも判例で使われている表現です。

札幌税関事件 最判昭和59年12月12日

「税関長の右処分により、わが国内においては、当該表現物に表された思想内容等に接する機会を奪われ、右の知る自由が制限されることとなる。これらの点において、税関検査が表現の事前規制たる側面を有することを否定することはできない。」

前述のとおり、札幌税関事件は税関検査を「事前規制そのもの」ではないとしましたが、国内では表現物の思想に接することができなくなり知る自由が制限されることから、「事前規制たる側面」を有すると判断しました。

そして、税関検査の正当性については以下のとおり判示しています。

札幌税関事件 最判昭和59年12月12日

最小限度の制約としては、単なる所持を目的とする輸入は、これを規制の対象から除外すべき筋合いであるけれども、いかなる目的で輸入されるかはたやすく識別され難いばかりでなく、流入した猥褻表現物を頒布、販売の過程に置くことが容易であることは見易い道理であるから、猥褻表現物の流入、伝播によりわが国内における健全な性的風俗が害されることを実効的に防止するには、単なる所持目的かどうかを区別することなく、その流入を一般的に、いわば水際で阻止することもやむを得ないものといわなければならない。」

このように、最高裁は必ずしも「最小限度の制約」であることは不可欠ではなく、健全な性的風俗が害されることを「実効的に防止する」という観点から、「水際で阻止することもやむを得ない」と判断しました。

最小限度」であることは不要だけれど、「実効的」であることは必要という考え方は、違憲審査基準でいうところの厳格な合理性の基準(中間的な審査基準)に近いと考えられます。

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また、規制の対象となる「風俗を害すべき書籍、図画」という文言が不明確ではないかが問題となりましたが、この点について最高裁は以下のとおり判示しました。

札幌税関事件 最判昭和59年12月12日

「およそ法的規制の対象として「風俗を害すべき書籍、図画」というときは、性的風俗を害すべきもの、すなわち猥褻な書籍、図画等を意味するものと解することができる」

このように、最高裁は、

「風俗を害すべき書籍、図画」

性的風俗を害すべきもの、すなわち猥褻な書籍、図画等を意味するもの

と解釈しました。

そして、このような解釈が可能であることの理由として、以下のとおり判示しました。

長いですが、がんばって読んでみましょう!

札幌税関事件 最判昭和59年12月12日

「表現の自由を規制する法律の規定について限定解釈をすることが許されるのは、その解釈により、規制の対象となるものとそうでないものとが明確に区別され、かつ、合憲的に規制し得るもののみが規制の対象となることが明らかにされる場合でなければならず、また、一般国民の理解において、具体的場合に当該表現物が規制の対象となるかどうかの判断を可能ならしめるような基準をその規定から読みとることができるものでなければならない」

「右規定において「風俗を害すべき書籍、図画」とある文言が専ら猥褻な書籍、図画を意味することは、現在の社会事情の下において、わが国内における社会通念に合致するものといつて妨げない。そして、猥褻性の概念は刑法一七五条の規定の解釈に関する判例の蓄積により明確化されており、規制の対象となるものとそうでないものとの区別の基準につき、明確性の要請に欠けるところはなく、前記三号の規定を右のように限定的に解釈すれば、憲法上保護に値する表現行為をしようとする者を萎縮させ、表現の自由を不当に制限する結果を招来するおそれのないものということができる。」

まず、最高裁は、限定解釈ができる条件として、以下の基準を定めました。

① 規制の対象となるものとそうでないものとが明確に区別される

(規制対象がはっきりしている)

 

② 合憲的に規制し得るもののみが規制の対象となることが明らかにされる

(規制対象は、規制が許される範囲に限られる)

 

③ 一般国民の理解において、具体的場合に当該表現物が規制の対象となるかどうかの判断を可能ならしめるような基準をその規定から読みとることができる

(規定を読めば、一般人でも規制対象がわかる)

このような考え方は「明確性の基準」と呼ばれます。

そして本件では、以下の理由から明確性の要請に欠けるところはないと判断しました。

・猥褻な書籍、図画を意味すること

→現在の社会事情の下において、わが国内における社会通念に合致する

 

・猥褻性の概念

→わいせつ物頒布罪の解釈に関する、判例の蓄積により明確化されている

第4章 まとめ

以上のとおり、事前規制には以下の3種類があります。

  1. 検閲
  2. 事前規制そのもの
  3. 事前規制たる側面

第一に、検閲は憲法21条2項により例外なく禁止されるため、以下のとおり要件も厳格です。

  • 主体→行政権
  • 対象→思想内容等の表現物
  • 目的→全部又は一部の発表の禁止
  • 範囲→網羅的一般的
  • 方法→発表前にその内容を審査
  • 処分→不適当と認めるものの発表を禁止

第二に、「事前規制そのもの」は

  • 事前に発表そのものを一切禁止する
  • 発表の機会が全面的に奪われる

という規制であり、「厳格かつ明確な要件」のもとにおいてのみ許容されます。

第三に、「事前規制たる側面」とは、発表の機会が全面的に奪われるわけではないものの、表現物の思想に接することができなくなり知る自由が制限される規制です。

このような規制は「最小限度」であることは不要だけれど、「実効的」であることは必要であり、さらに明確性の基準を満たす必要があります。

この記事では、初学者の方にもわかりやすいように、一般的な考え方をざっくりと解説しています。

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