【憲法入門12】表現の自由⑥ 内容中立規制とは何か?表現の自由の制約態様を徹底解説

監修者
講師 赤坂けい
株式会社ヨビワン
講師 赤坂けい
【憲法入門12】表現の自由⑥ 内容中立規制とは何か?表現の自由の制約態様を徹底解説
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この記事を読んで理解できること
  • 内容規制と内容中立規制
  • 直接制約と間接的・付随的制約

この記事は、

  • 内容規制と内容中立規制の違いを知りたい
  • 直接制約と間接的・付随的制約の違いを知りたい
  • 表現の自由の制約についての判例を知りたい

といった方におすすめです。

表現の自由に対する制約には様々な種類があります。

前回解説した、事前規制もその一つです。

【憲法入門11】表現の自由⑤ 検閲とは何か?事前規制について徹底解説!

今回の記事は、

第1章で内容規制内容中立規制について、

第2章で直接制約間接的・付随的制約について、

それぞれ解説します。

種類が多すぎて、早くも混乱してしまっている人もいるかと思いますがご安心ください。

用語の定義だけでなく、なぜそのような区別が存在するのかといった、根本的なところから丁寧に解説します。

基礎知識をわかりやすく簡潔に説明しますので、初学者の方はもちろん、憲法をひと通り学んだ方のまとめ用にも最適です。

第1章 内容規制と内容中立規制

この章では、内容規制と内容中立規制について解説します。

結論として、内容規制は厳格に審査される傾向があり、内容中立規制は比較的緩やかに審査される傾向があります。

一概には言えませんが、

  • 内容規制→厳格な審査基準
  • 内容中立規制→中間的な審査基準

と言われることが多いです。

【憲法入門1】憲法答案の書き方 三段階審査と違憲審査基準

では、なぜそのような違いがあるのでしょうか?

予備校では詳しく教えてもらえない部分も含めて丁寧に解説していきます。

1-1 内容規制と内容中立規制の意味

内容規制とは、表現の内容に着目した規制であり、それ以外の規制内容中立規制といいます。

「なんだ、簡単じゃん!」と思った人もいるかもしれませんが、そう単純な話ではありません。

というのも、公権力が表現を規制する際に、「これは表現内容に着目した規制です」と明確に宣言することはまずないからです。

むしろ、表現の自由を規制する側は、

「表現の内容ではなく方法に着目しています」

「表現の内容ではなく時間や場所に着目しています」

などと、内容規制ではないと思えるような規制をする方が自然ともいえます。

とすると、内容規制か内容中立規制かを判断するにあたっては、規制する側が何と言っているかを見るだけでは意味がなく、「なぜ内容規制と内容中立規制を区別する必要があるのか」という根本的な視点が必要なのです。

1-2 内容規制の問題点

内容規制には、以下の3つの問題があると考えられています。

  • 思想の自由市場を歪める
  • 「誤った思想の抑止」という許されない動機に基づく
  • 「伝達効果」による規制である

それぞれ説明します。

1-2-1 思想の自由市場を歪める

以前の記事で解説したとおり、表現の自由が重要な理由として「思想の自由市場」という考え方があります。

【憲法入門7】表現の自由① 保護範囲や権利の重要性を徹底解説

市場において好きなものを選ぶのと同じように、各人が自由な意見を持ち、それが流通することで議論が発展し、真理に近づくことができるという考え方です。

ところが、表現内容に着目した規制がなされた場合、特定の思想だけが流通を妨げられるので、議論をする以前に好きな思想を自由に選ぶことすらできず、思想の自由市場が歪められてしまいます。

1-2-2 「誤った思想の抑止」という許されない動機に基づく

表現の自由は、思想の自由市場のほかに「自己実現」「自己統治」という考え方があります。

前者は個人が自己の人格を発展させることであり、後者は国民が政治的意思決定に関与することをいいます。

どちらも「自己」という単語が入っていることからも明らかなように、自律的な意思決定が重視されています。

つまり、「何が個人にとって幸福か」「何がよい政治か」といったことは国民一人ひとりが自分の意思で決めるからこそ意味があるのであり、公権力が勝手に決めることは許されないのです。

にもかかわらず、「この思想は誤っているので規制します」とするのは、自己実現や自己統治の趣旨に真っ向から反していることになります。

1-2-3 伝達効果による規制である

伝達効果とは、表現の受け手が表現の内容に影響されることを意味します。

表現内容をどのように評価するかは受け手側が決めることであり、「受け手側に悪影響があるから規制する」ということは原則的に許されないのです。

なお、伝達効果による規制ではあるものの合憲とされている例としては、わいせつ表現規制有害図書規制が挙げられます。

【憲法入門9】表現の自由③ 低価値表現について徹底解説!

わいせつ表現や有害図書は、性的な表現が受け手に悪影響を与えることを防止するために規制を受けるので、まさに伝達効果による規制ですが、いずれも合憲と判断されています。

1-3 内容中立規制の認定方法

上記のとおり、内容規制か内容中立規制かは公権力が何と言っているかだけでなく、内容規制の問題点を踏まえた判断が必要です。

①思想の自由市場を歪めることについては、規制されている行為以外の手段によって同じ内容の表現が可能かどうかが判断要素になります。

②「誤った思想の抑止」という許されない動機に基づくことについては、思想そのものを問題視しているのか、美観風致のような思想と無関係な公益に着目しているのかが判断要素となります。

③「伝達効果」による規制であることについては、表現の受け手への影響に着目しているのか、それとも受け手が介在することなく、表現行為自体から直接害悪が生じるのかが判断要素となります。

表向きは表現内容に着目していないからといって直ちに内容中立規制とするのではなく、上記の根本的な問題に立ち返った検討をしましょう。

第2章 直接制約と間接的・付随的制約

この章では、直接制約と間接的・付随的制約について解説します。

内容規制と内容中立規制の区別と似ているので、混乱しないように注意してください。

2-1 従来の判例による区別

まずは、従来の判例による基準を紹介します。

  • 猿払事件(最判昭和49年11月6日)

「公務員の政治的中立性を損うおそれのある行動類型に属する政治的行為を、これに内包される意見表明そのものの制約をねらいとしてではなく、その行動のもたらす弊害の防止をねらいとして禁止するときは、同時にそれにより意見表明の自由が制約されることにはなるが、それは、単に行動の禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約に過ぎず、かつ、国公法一〇二条一項及び規則の定める行動類型以外の行為により意見を表明する自由までをも制約するものではなく…その禁止は利益の均衡を失するものではない。」

  • 戸別訪問事件(最判昭和56年6月15日)

「戸別訪問の禁止によつて失われる利益は、それにより戸別訪問という手段方法による意見表明の自由が制約されることではあるが、それは、もとより戸別訪問以外の手段方法による意見表明の自由を制約するものではなく、単に手段方法の禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約にすぎない

このように、従来の判例は、

  • 意見表明そのものの制約をねらいとした規制

  →直接制約

  • 手段方法の禁止に伴う限度での規制

  →間接的・付随的制約

という見解を採用した上で、後者は緩やかな基準で審査しています。

しかし、どちらの判例も一定の手段で政治的意見の表明を行うことが禁止されていることには変わりがありません。

にもかかわらず、他の手段で表現が可能だと、なぜ意見表明そのものの制約を狙いとした制約に当たらないのかが明らかでなく、強い批判を受けています。

2-2 近時の考え方

実は、最高裁が現在もこのような考え方を採用しているのかというと、必ずしもそうとは言い切れません。

というのも、猿払事件と同じく公務員の政治活動が問題になった堀越事件(最判平成24年12月7日)では、間接的、付随的制約という言葉は用いられていないからです。

そして、猿払事件とは異なり、政治的中立性を損なうおそれを実質的に判断する考え方を明示しました。

堀越事件と猿払事件の事案の違いを徹底解剖!二つの判例の差を完全理解しなければ高得点は狙えないということについて解説

そのため、従来の判例と同じように、あっさりと間接的、付随的制約を認めてしまうことは避けた方がよいと考えられます。

では、どのような基準を採用すればよいかというと、意図しない偶発的な制約であったかということに着目しましょう。

例えば、ビラを投函するために集合住宅に入りたいけど、無断で立ち入ったら住居侵入罪になるので入れなかったとします。

この場合、刑法130条が、表現の自由を制約することを意図して作られたかというと、そんなわけはないですよね。

あくまで住居の管理権を保護する規定が、今回の場合は偶然表現の自由の制約になったというだけです。

このように、偶発的に表現の自由が制約されたという場合、公権力が恣意的に意見表明を禁止しているおそれは低いので、違憲の疑いは弱くなります。

他方、まさに表現の自由を制約することを意図した規制であれば、直接制約に当たるといえるでしょう。

この基準で考えると、猿払事件や戸別訪問事件も直接制約ということになります。

ちなみに細かい話としては、意図しない偶発的な制約は付随的制約のことであり、間接的制約とは異なるという考え方もありますが、間接的制約と付随的制約の区別は相対的であり、明確に切り分ける必要はありません。

大事なのはネーミングではなく、なぜ違憲の疑いが強いのか、または弱いのかを説得的に論じられることです。

第3章 まとめ

  • 内容規制と内容中立規制
  • 直接制約と間接的・付随的制約

は、いずれも違憲審査基準に影響を与える概念です。

内容規制 ◀ 制約 ▶ 内容中立規制

   直接制約 ◀ 制約 ▶ 間接的・付随的制約
↓   

 厳格 ◀ 違憲審査基準 ▶ 緩やか

内容規制とは、表現の内容に着目した規制であり、それ以外の規制内容中立規制といいますが、単に公権力の言い分を鵜呑みにするのではなく、なぜ内容規制が許されないのかという根本的な視点から考える必要があります。

従来の判例は、

  • 意見表明そのものの制約をねらいとした規制

  →直接制約

  • 手段方法の禁止に伴う限度での規制

  →間接的・付随的制約

という見解を採用しています。

もっとも、近時の見解としては、意図しない偶発的な制約であったかということに着目する方法が有力です。

この記事では、初学者の方にもわかりやすいように、一般的な考え方をざっくりと解説しています。

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