- 公開日:2025.05.21
- 更新日:2025.05.27
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【憲法入門13】集会の自由① 公共施設とパブリックフォーラムについて徹底解説


この記事を読んで理解できること
- 集会の自由の意義
- 公共施設の利用
- 明らかな差し迫った危険の基準
この記事は、
- 集会の自由の意義について知りたい
- パブリックフォーラムについて知りたい
- 集会の自由の判例を知りたい
といった方におすすめです。
前回までは、表現の自由について全6回にわたり解説をしました。
今回からは、表現の自由と同じく憲法21条1項で保障される集会の自由について解説していきます。
みなさんは、パブリックフォーラムという言葉をご存知でしょうか?
初めて聞くという人もいれば、聞いたことはあるけど意味がよくわからないという人もいると思います。
中には、予備校で習って意味は知っているものの、結局何が問題なのか理解できなかったという人もいるかもしれません。
そこで今回は、公共施設の利用で問題となるパブリックフォーラムについて、そもそも何が問題で、最高裁は何と言っているのかを丁寧に解説したいと思います。
具体的には、
第1章で集会の自由の意義について、
第2章で公共施設の利用について、
第3章で明らかな差し迫った危険の基準について、
それぞれ解説します。
基礎知識をわかりやすく簡潔に説明しますので、初学者の方はもちろん、憲法をひと通り学んだ方のまとめ用にも最適です。
第1章 集会の自由の意義
この章では、集会の自由がどのような権利で、なぜ重要であるのかを解説します。
まずは条文を読んでみましょう。
憲法
第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
②(略)
このように、集会の自由は表現の自由の一環として、憲法21条1項で保障されています。
ここでいう「集会」とは、多数人が共通の目的を持って一定の場所に集まることです。
なぜ集会の自由が憲法上の権利として尊重されるのかというと、成田新法事件(最判平成4年7月1日)で最高裁は以下のとおり判示しています。
「現代民主主義社会においては、集会は、国民が様々な意見や情報等に接することにより自己の思想や人格を形成、発展させ、また、相互に意見や情報等を伝達、交流する場として必要であり、さらに、対外的に意見を表明するための有効な手段であるから、憲法二一条一項の保障する集会の自由は、民主主義社会における重要な基本的人権の一つとして特に尊重されなければならないものである。」
少し難しい言い回しですが、以前の記事で解説した、「なぜ表現の自由は重要なのか」をおさらいしましょう。
【憲法入門7】表現の自由① 保護範囲や権利の重要性を徹底解説
表現の自由の価値は、大きく分けると
・自己実現 →言論活動を通じて自己の人格を発展させる ・自己統治 →言論活動によって政治的意思決定に関与する ・思想の自由市場 →自由な言論活動を行わせることで、民主的決定に真理が残る |
の3つがあります。
集会の自由は、
・自己実現 →集会に参加することで様々な思想や情報に接して人格を発展させることができる ・自己統治 →集会を通じて対外的に意見表明できる ・思想の自由市場 →集まった人たち同士で相互に意見を伝達できる |
ということで、表現の自由の3つの価値を実現するために重要な手段であるということです。
第2章 公共施設の利用
2-1 集会の自由の限界
前章で述べたとおり、集会の自由は表現の自由の価値を実現する手段として非常に重要な権利です。
しかし、この自由は、あくまで「国民が集会を行うことを公権力によって規制されない」というものに過ぎません。
どういうことかというと、国民が公権力に対して、「集会のために公共施設を使わせろ」と要求する権利までは保障されていないのです。
例えば、あるグループが集会を行いたいけれど、大人数で集まれる適当な場所が見つからなかったので、役所に行って「集会の自由を行使します。空いている会議室を使わせてください」と言うことはできません。
このように、集会の自由は「公権力から規制を受けない権利」であり、「公権力に給付を求める権利」ではないのです。
2-2 パブリックフォーラム論
しかし、現実的には、大勢で集まれるような施設を個人が所有していることはほとんどないですよね。
そのため、グループで集まるときは市民会館のような公共施設を使うことが多いはずです。
にもかかわらず、市民会館の管理者は、「この団体は気に入らないから施設を使わせない」と言い出したらどうなるでしょうか?
市民会館は人々の集会のために存在する施設なのに、公権力が勝手に利用を制限することは理不尽といえます。
それでも「給付をしないだけで、集会の自由は制限していない」ということになってしまうのでしょうか?
ここで登場するのが、パブリックフォーラム論という考え方です。
地方自治法の条文を読んでみましょう。
地方自治法
(公の施設)
第二百四十四条 普通地方公共団体は、住民の福祉を増進する目的をもつてその利用に供するための施設(これを公の施設という。)を設けるものとする。
2 普通地方公共団体(次条第三項に規定する指定管理者を含む。次項において同じ。)は、正当な理由がない限り、住民が公の施設を利用することを拒んではならない。
3 普通地方公共団体は、住民が公の施設を利用することについて、不当な差別的取扱いをしてはならない。
このように、地方自治法244条は、公の施設の利用は「正当な理由」がない限り拒否できず、「不当な差別的取扱い」をしてはならないと規定しています。
この条文について、泉佐野市民会館事件(最判平成7年3月7日)は以下のとおり判示しています。
「地方自治法二四四条にいう普通地方公共団体の公の施設として、本件会館のように集会の用に供する施設が設けられている場合、住民は、その施設の設置目的に反しない限りその利用を原則的に認められることになるので、管理者が正当な理由なくその利用を拒否するときは、憲法の保障する集会の自由の不当な制限につながるおそれが生ずることになる。したがって、本件条例七条一号及び三号を解釈適用するに当たっては、本件会館の使用を拒否することによって憲法の保障する集会の自由を実質的に否定することにならないかどうかを検討すべきである。」
このように、最高裁は、原則的に利用が認められている公の施設の利用を拒否することは、集会の自由の不当な制限につながるおそれがあるとしました。
その上で、施設利用を拒否する要件が条例で定められているときは、集会の自由を実質的に否定することにならないように解釈する必要があるとしたのです。
このように、原則的に利用が認められる公共の場について、正当な理由なく拒否することを集会の自由に対する制約と評価する考え方を「パブリックフォーラム論」といいます。
厳密には、
①伝統的パブリックフォーラム(道路や公園のように、一般人が自由に出入りできる場所)
②指定的パブリックフォーラム(公権力が、表現の場として設けた施設)
の2種類があり、市民会館は②にあたります。
第3章 明らかな差し迫った危険の基準
では、どのような場合に公の施設の利用拒否が許されるのでしょうか?
先ほど紹介した泉佐野市民会館事件(最判平成7年3月7日)は、以下のとおり判示しました。
「本件条例七条一号は、「公の秩序をみだすおそれがある場合」を本件会館の使用を許可してはならない事由として規定しているが、同号は、広義の表現を採っているとはいえ、右のような趣旨からして、本件会館における集会の自由を保障することの重要性よりも、本件会館で集会が開かれることによって、人の生命、身体又は財産が侵害され、公共の安全が損なわれる危険を回避し、防止することの必要性が優越する場合をいうものと限定して解すべきであり、その危険性の程度としては、前記各大法廷判決の趣旨によれば、単に危険な事態を生ずる蓋然性があるというだけでは足りず、明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要であると解するのが相当である」
まず、本件で問題となった条例は、市民会館の使用を許可してはならない条件として、「公の秩序をみだすおそれがある場合」を規定していました。
一見すると、「過激な思想を持った人たちが集まること」「大きな声で騒ぐこと」など、幅広く適用されそうな文言ですよね。
しかし、最高裁は、集会の自由を保障することの重要性を上回ることが必要であるとして、二重の限定をかけました。
①危険の内容 →人の生命、身体又は財産が侵害され、公共の安全が損なわれる危険 ②危険の程度 →明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されること |
①②を両方満たしたときだけに、市民会館の利用拒否が認められるとしたのです。
このように、法令上は広範囲な文言が用いられている規定について、憲法上許される範囲に限定して解釈することを合憲限定解釈といいます。
第4章 まとめ
まず、集会の自由は表現の自由の価値を実現するために重要な手段ですが、あくまで「国民が集会を行うことを公権力によって規制されない」というものに過ぎず、国民が公権力に対して「集会のために公共施設を使わせろ」と要求する権利までは保障されていません。
もっとも、市民会館のような公の施設については、地方自治法244条で「正当な理由」なく使用を拒否してはならないと定められています。
最高裁も、原則的に利用が認められている公の施設の利用を拒否することは、集会の自由の不当な制限につながるおそれがあるとしました。
このような考え方をパブリックフォーラム論といいます。
具体的には、
①危険の内容 →人の生命、身体又は財産が侵害され、公共の安全が損なわれる危険 ②危険の程度 →明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されること |
という基準を満たす必要があると判示されました。
この記事では、初学者の方にもわかりやすいように、一般的な考え方をざっくりと解説しています。
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