【民事訴訟法入門4】重複起訴の禁止は趣旨から考えよう!要件効果・重要論点を徹底解説
目次
この記事を読んで理解できること
- 重複起訴の禁止の意義
- 重複起訴の要件と効果
- 重複起訴と相殺の抗弁
この記事は、
- 重複起訴の禁止とは何か知りたい
- 重複起訴の禁止の趣旨、要件、効果を知りたい
- 重複起訴の禁止と相殺の抗弁との関係を知りたい
といった方におすすめです。
重複起訴の禁止は、訴えの提起の効果として発生します。
基本書の中でも比較的前半に記載されていることが多いですが、意外とつまずきがちな論点です。
なぜなら、重複起訴の要件である事件の同一性を判断するためには訴訟物の理解が不可欠ですし、重要論点である相殺の抗弁との関係については、判決の効力である既判力という概念が関わってくるため、総合的な理解が求められるからです。
そのため、この記事では、初学者の方でも理解できるように、「なぜこの論点が問題になるのか」という基礎から丁寧に解説したいと思います。
第1章で重複起訴の禁止の意義について、
第2章で重複起訴の要件と効果について、
第3章で、重複起訴と相殺の抗弁について、
それぞれ解説します。
基礎知識をわかりやすく簡潔に説明しますので、初学者の方はもちろん、憲法をひと通り学んだ方のまとめ用にも最適です。
第1章 重複起訴の禁止の意義
1-1 重複起訴とは何か
まずは、重複起訴とは何なのかを解説します。
民事訴訟法の条文を読んでみましょう。
(重複する訴えの提起の禁止)
第百四十二条 裁判所に係属する事件については、当事者は、更に訴えを提起することができない。
「更に訴えを提起する」とは、例えば以下のような場合です。
【事例】
|
Xは、Yに対し、甲土地の売買契約に基づく代金支払請求の訴訟を提起した。 訴訟の途中で、XはYにプレッシャーを与えてやろうと考え、同じく甲土地の売買契約に基づく代金支払請求の訴訟を提起した。 |

このように、既に裁判所に前訴が係属している事件について、重ねて後訴の訴えを提起してはならないというのが重複起訴の禁止です(二重起訴の禁止ともいいます)。
1-2 重複起訴が禁止される理由
そもそも、なぜ重複起訴は禁止されるのでしょうか。
その理由は、大きく分けて以下の3つがあります。
- 被告の応訴の煩
- 訴訟不経済の回避
- 矛盾判決の防止
それぞれ説明します。
■被告の応訴の煩
「応訴の煩」というのは、簡単に言えば「訴訟に付き合わされる手間」のことです。
当然ながら、訴訟の当事者は裁判所への出頭や準備書面の提出など様々な負担を被ります。
同じ内容の訴訟について二重に対応を強いられるのは、あまりにも被告が気の毒ということです。
■訴訟不経済の回避
訴訟で手間がかかるのは当事者だけではありません。
裁判所に勤務する裁判官も書記官も、限られた人員で事件を処理しています。
言うまでもなく、その財源は国民からの税金です。
そのため、同じ内容の訴訟に裁判所がいちいち対応するのは不経済であり、認められません。
■矛盾判決の防止
同じ事件であっても、担当する裁判官が違えば異なる内容の判決が言い渡される可能性もあります。
そうすると、判決相互間に矛盾が生じてしまうおそれもあり、これを防ぐ必要があるということです。
第2章 重複起訴の要件と効果
この章では、どのような要件を満たすと重複起訴に該当し、どのような効果が発生するのかを解説します。
2-1 重複起訴の要件
重複起訴に該当するためには、「事件の同一性」が認められる必要があります。
原則的に、事件の同一性は、
①当事者の同一性
②訴訟物の同一性
から判断します。
■当事者の同一性
例えば、売買代金の請求であっても、「XのYに対する請求」と「XのZに対する請求」は全くの別物です。
これらは重複起訴の禁止には抵触しません。
前回の記事で解説したとおり、当事者が誰なのかは、基本的に訴状の記載から特定します。
■訴訟物の同一性
訴訟物と要件事実の記事で説明したとおり、訴訟物とは「民事訴訟において裁判所の審判対象となる、一定の権利又は法律関係」をいいます。
例えば、XのYに対する請求であっても、「売買契約に基づく代金支払請求権」と「消費貸借契約に基づく貸金返還請求権」は全くの別物です。
また、「売買契約に基づく代金支払請求権」であっても、「甲土地の売買契約」と「乙土地の売買契約」であれば、対象が異なるので訴訟物も異なります。
2-2 重複起訴の効果
2-2-1 後訴の却下
重複起訴に該当した場合、原則的に、後訴の訴えは却下されることになります。
一般的には、裁判所の「棄却」と「却下」は同じような意味だと思われているかもしれませんが、実はこの二つは全く違う概念です。
棄却とは、訴訟物についての判断をした上で、原告の請求は認められないという判決を出すことです。
これに対し、却下とは、そもそも訴訟要件を欠く、つまり訴訟物についての判決を出すための要件が備わっていないとして、訴えそのものを門前払いする判決を出すことをいいます。
重複起訴の場合、後訴は民訴法142条に反し、訴訟要件を欠くため却下されるということです。
2-2-2 債務不存在確認訴訟の場合
■ 事例検討
では、次のようなケースではどうなるでしょうか?
【事例】
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XはYに甲土地を売却したところ、Yは何かと理由をつけて代金の支払を拒否しているため、訴訟を提起しようと考えていた。 ところが、逆にYからXに対し、「甲土地の売買契約に基づく代金支払請求権が存在しないこと」の確認を求める訴訟を提起してきた。 |
この事例のような訴訟のことを、「債務不存在確認訴訟」といいます。
訴訟とは、「商品を引き渡してほしい」「代金を支払ってほしい」といった給付を請求する側だけができるものでなく、逆に請求されている側が先手を打って「債務が存在しないこと」の確認を裁判所に求めることもできるのです。
■ Xによる訴えの可否
では、この場合、XはYに対して売買代金支払請求訴訟を提起することができるのでしょうか。
形式的に考えれば、訴訟物はどちらも「XのYに対する、XY間の甲土地の売買契約に基づく代金支払請求権」ですので、当事者と訴訟物が同一であり、Xの訴えは却下されてしまうことになりそうです。
しかし、実際には、このようなケースでXがYに訴訟を
提起することは問題なく認められています。
具体的には、Xは「反訴」という手段を用いるのです。
条文を読んでみましょう。
(反訴)
第百四十六条 被告は、本訴の目的である請求又は防御の方法と関連する請求を目的とする場合に限り、口頭弁論の終結に至るまで、本訴の係属する裁判所に反訴を提起することができる。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。
一 反訴の目的である請求が他の裁判所の専属管轄(当事者が第十一条の規定により合意で定めたものを除く。)に属するとき。
二 反訴の提起により著しく訴訟手続を遅滞させることとなるとき。
2(略)
このように、反訴とは、本訴(先に提起された訴訟)と関連する訴えを、本訴と同じ裁判所に提起することです。
債務不存在確認訴訟が提起された場合、多くのケースでは、債権者が反訴を提起して給付を求めます。
この場合、同じ裁判所が同じ争点について審理するだけですので、当事者にとっても裁判所にとっても負担はなく、矛盾判決のおそれもありません。
したがって、債務不存在確認訴訟に対する反訴は重複起訴を禁止する趣旨が当てはまらないことになります。
そのため、Xの反訴は却下されません。
■ Yの訴えの取扱い
では、この場合、Yが提起した債務不存在確認訴訟はどうなるでしょうか?
この点については、最高裁が結論を出しています。
・最判平成16年 3月25日
上記保険金支払債務の不存在確認請求に係る訴えについては、…保険金等の支払を求める反訴が提起されている以上、もはや確認の利益を認めることはできないから、平成7年契約関係被上告人5社の上記訴えは、不適法として却下を免れないというべきである。
この事案では、Yが「保険金支払債務が存在しないこと」の確認を求めたのに対し、Xは「保険金等の支払を求める反訴」を提起しました。
そうすると、結局は保険金支払債務の有無が問題になるため、あえて債務不存在確認訴訟を残しておく意味がないということです。
したがって、債務不存在確認訴訟は確認の利益を欠くという理由で却下されました。
【コラム】給付訴訟と確認訴訟
以上の解説に対して、「Yの債務不存在確認訴訟じゃなくてXの訴訟を却下しても同じなんじゃない?」と思われた方もいるかもしれません。
しかし、この事例では必ずYの訴訟を却下する必要があるのです。
その理由は、「給付訴訟」と「確認訴訟」の違いにあります。
給付訴訟とは、原告が被告に対して一定の給付を求める訴訟であり、確認訴訟は一定の法律関係の存否の確認を求める訴訟のことです。
給付訴訟も確認訴訟も、一定の法律関係の存否が問題となる点は変わりませんが、給付訴訟は給付を実現するための執行力(強制執行ができる効力)があるのに対し、確認訴訟は執行力がありません。
そうすると、執行力のある給付訴訟が確認訴訟を包含する関係にあるため、給付訴訟は残した上で、確認訴訟の方を却下する必要があるということです。
第3章 重複起訴と相殺の抗弁
この章では、重複起訴と相殺の抗弁との関係について解説します。
3-1 前提知識
まずは条文を読んでみましょう。
(相殺の要件等)
第五百五条 二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2(略)
例えば、XがYに対して500万円の売買代金債権を有し、YがXに300万円の貸金債権を有していて、どちらも弁済期が到来しているとしましょう。
この場合、YがXに対して、貸金債権を自働債権、売買代金債権を受働債権として、300万円の限度で相殺ができます。
そうすることで、XのYに対する債権は、差額分の200万円のみとなるのです。
このように、被告側が原告側の主張する債権と相殺をすることを相殺の抗弁といいます。
3-2 問題の所在
相殺の抗弁は、あくまで原告側が提起した訴訟の中で被告が主張を行っているに過ぎませんので、形式的には「更に訴えを提起」しているわけではありません。
もっとも、相殺の抗弁は既判力という効果が伴います。
(既判力の範囲)
第百十四条 確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有する。
2 相殺のために主張した請求の成立又は不成立の判断は、相殺をもって対抗した額について既判力を有する。
既判力とは、確定判決の主文に表された裁判所の判断の通有性ないし拘束力をいいます。
つまり、判決が確定した場合、訴訟物の存否について、後になって蒸し返しをするのは許されないということです。
そして、相殺の抗弁が主張された場合、裁判所が自働債権の存否について判断を行った額については、訴訟物と同じく既判力が生じます(114条2項)。
とすると、既判力の対象となる相殺の抗弁について矛盾判決が出たら困りますよね。
そのため、重複起訴の禁止との関係で、どのような処理が必要になるかが問題となるのです。
3-3 判例
上記が問題となった判例を紹介します。
・最判平成3年12月17日 百選35①
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【事案】 XはYに対し、売却した甲商品の残代金の支払を求める訴訟(本訴)を提起した。 他方、YはXに対し、売却した乙商品の残代金の支払を求める訴訟(別訴)を提起した。 本訴と別訴はそれぞれ一部認容判決がされ、本訴はYが控訴した。 Yは、本訴の控訴審において、別訴で認容された売買残代金債権を自働債権として、相殺の抗弁を主張した。 |
最高裁は、以下のとおり判示しました。
【判旨】
民訴法二三一条(現142条)が重複起訴を禁止する理由は、審理の重複による無駄を避けるためと複数の判決において互いに矛盾した既判力ある判断がされるのを防止するためであるが、相殺の抗弁が提出された自働債権の存在又は不存在の判断が相殺をもつて対抗した額について既判力を有するとされていること(同法一九九条二項)、相殺の抗弁の場合にも自働債権の存否について矛盾する判決が生じ法的安定性を害しないようにする必要があるけれども理論上も実際上もこれを防止することが困難であること、等の点を考えると、同法二三一条の趣旨は、同一債権について重複して訴えが係属した場合のみならず、既に係属中の別訴において訴訟物となつている債権を他の訴訟において自働債権として相殺の抗弁を提出する場合にも同様に妥当するものであり、このことは右抗弁が控訴審の段階で初めて主張され、両事件が併合審理された場合についても同様である。
このように、最高裁は、重複起訴の禁止の趣旨は相殺の抗弁についても妥当するとして、Yの相殺の抗弁を認めませんでした。
142条を類推適用した判決といえます。
・最判平成18年4月14日
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【事案】 XY間で請負契約が締結されたところ、Xは完成した建物に瑕疵があるとして、損害賠償請求訴訟(本訴)を提起した。 これに対し、Yは、請負報酬の支払を求める反訴を提起した。 Yは、反訴請求債権を自働債権として、本訴について相殺の抗弁を主張した。 |

最高裁は、以下のとおり判示しました。
【判旨】
本訴及び反訴が係属中に,反訴請求債権を自働債権とし,本訴請求債権を受働債権として相殺の抗弁を主張することは禁じられないと解するのが相当である。この場合においては,反訴原告において異なる意思表示をしない限り,反訴は,反訴請求債権につき本訴において相殺の自働債権として既判力ある判断が示された場合にはその部分については反訴請求としない趣旨の予備的反訴に変更されることになるものと解するのが相当であって,このように解すれば,重複起訴の問題は生じないことになるからである。
予備的反訴とは、本訴が請求棄却されることを解除条件としてなされる反訴のことです。
つまり、本訴の請求が認められた場合は反訴についても判断してほしいけれど、本訴が請求棄却されたのであれば、反訴については判断しなくてよいという趣旨で反訴を提起することになります。
予備的反訴は、本訴と反訴が条件関係で結びついているため、必ず同一の手続で判断されることになり、矛盾判決のおそれはありません。
本件では、Yは特に予備的反訴だという主張を明示的にはしていませんでしたが、最高裁は、Yが異なる意思表示をしない限りは予備的反訴になると解釈したのです。
このように、最高裁は、別訴が提起された場合は相殺の抗弁を原則的に禁止した上で、反訴が提起された場合は予備的反訴という構成により相殺の抗弁を認めています。
なお、比較的最近の判例として、最判令和2年9月11日百選35②は、予備的反訴という構成が認められない事案においても相殺の抗弁を認めました。
これは応用的な論点ですので、初学者の方は上記の2つの判例をしっかり押さえておきましょう。
第4章 まとめ
■第1章まとめ
重複起訴の禁止(142条)とは、既に裁判所に前訴が係属している事件について、重ねて後訴の訴えを提起してはならないという原則です。
重複起訴が禁止される理由は、
- 被告の応訴の煩
- 訴訟不経済の回避
- 矛盾判決の防止
の3つがあります。
■第2章まとめ
重複起訴に該当するためには「事件の同一性」が認められる必要があり、
①当事者の同一性
②訴訟物の同一性
から判断します。
重複起訴に該当した場合、原則的に、後訴の訴えは却下されますが、債務不存在確認訴訟に対して給付を求める反訴が提起された場合、反訴は却下されず、債務不存在確認訴訟の方が確認の利益がないとして却下されます。
■第3章まとめ
相殺の抗弁は訴えの提起そのものではありませんが、既判力(114条2項)が生じるため、重複起訴が問題となります。
最判平成3年12月17日は、別訴と同じ内容の相殺の抗弁が主張された事案において、重複起訴の禁止の趣旨が妥当するとして、相殺の抗弁を認めませんでした。
他方、最判平成18年4月14日は、反訴と同じ内容の相殺の抗弁が主張された事案において、予備的反訴と解釈することによって相殺の抗弁を認めました。
この記事では、初学者の方にもわかりやすいように、一般的な考え方をざっくりと解説しています。
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そして、動画④では③の生存権の解法パターンを使って、難問と言われた司法試験の憲法の過去問の解説をします。
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