【刑事訴訟法入門2】職務質問・所持品検査の適法性を体系的に解説

監修者
講師 赤坂けい
株式会社ヨビワン
講師 赤坂けい
【刑事訴訟法入門2】職務質問・所持品検査の適法性を体系的に解説
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チェック
この記事を読んで理解できること
  • 職務質問・所持品検査の基本的枠組み
  • 停止行為の限界
  • 所持品検査の判例法理
  • 現場への留め置きとその他の措置

「職務質問って任意だけど、どこまで有形力を使えるの?」

「所持品検査の適法性って、どう判断すればいいの?」

刑事訴訟法の学習を進める中で、このような疑問を抱えている方は少なくないのではないでしょうか。

職務質問・所持品検査は、【刑事訴訟法入門1】の記事で解説した「強制処分と任意捜査の区別」の応用論点であり、予備試験・司法試験でも繰り返し出題されるテーマです。

参考:【刑事訴訟法入門1】強制処分と任意捜査の区別を完全理解! 予備試験・司法試験で必須の基礎知識

特に、職務質問に伴う停止行為の限界や、所持品検査の許容範囲は、具体的事案に即した判断が求められるため、判例の正確な理解が不可欠です。

本記事では、警察官職務執行法(以下「警職法」といいます。)の条文と最高裁判例を正確に引用しながら、職務質問・所持品検査について体系的に解説します。

この記事で学べること

  • 【初級】職務質問・所持品検査の基本的枠組み
  • 【初中級】停止行為と有形力行使の限界
  • 【中級】所持品検査の判例法理
  • 【中上級】現場への留め置きと職務質問に伴うその他の措置

第1章     職務質問・所持品検査の基本的枠組み

1-1 職務質問の根拠規定(警職法2条)

職務質問の根拠規定は、警察官職務執行法(警職法)2条に定められています。

まずは条文の正確な理解から始めましょう。

警職法2条1項

「警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者を停止させて質問することができる。」

警職法2条2項

「その場で質問をすることが本人に対して不利であり、又は交通の妨害になると認められる場合においては、質問するため、その者に付近の警察署、派出所又は駐在所に同行を求めることができる。」

警職法2条3項

「前二項に規定する者は、刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り、身柄を拘束され、又はその意思に反して警察署、派出所若しくは駐在所に連行され、若しくは答弁を強要されることはない。」

【ポイント解説】

(1)職務質問の対象

条文中の「何らかの犯罪」という文言に注目してください。

捜査(刑訴法197条1項)が特定の犯罪の解明・訴追を目的とするのに対し、職務質問は未だ特定されていない犯罪をも対象としています。

この点が、職務質問と捜査を区別する重要なポイントです。

(2)法的性格──行政警察活動と捜査の双方を含む

職務質問は、犯罪の予防・鎮圧等を目的とする行政警察活動としての性格を有しています。

しかし、職務質問をきっかけに特定の犯罪の嫌疑が生じることも少なくなく、捜査の端緒となることも多いため、行政警察活動と捜査の双方を含むものと位置づけることができます。

(3)任意手段であること

2条3項は、「身柄を拘束」「連行」「答弁を強要」されることがない旨を定めています。

ここに挙げられている事項は例示であり、要するに、職務質問は任意処分であって、強制にわたってはならないことを示しています。

すなわち、職務質問は警職法2条1項に規定された行為であり、2条3項が「刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り」と定めていることからすれば、同項の趣旨は刑訴法197条1項但書の「強制の処分」と同義の処分を禁止するものと解されます。

したがって、職務質問は任意手段であるということになります。

1-2 職務質問と捜査の関係

職務質問と捜査の違いを正確に理解することは、答案作成上も重要です。

以下の表で両者の相違点を整理します。

【表1:職務質問と捜査の比較】

区分

職務質問(警職法2条)

捜査(刑訴法197条1項)

目的

犯罪の予防・鎮圧等

特定の犯罪の解明・訴追

対象犯罪

「何らかの犯罪」
(未特定でよい)

特定の犯罪

法的性格

行政警察活動
(+捜査の端緒)

司法警察活動

根拠規定

警職法2条1項

刑訴法197条1項

強制処分の可否

不可(2条3項)

法律の定めがある場合に可
(197条1項但書)

適法性の基準

警察比例の原則

強制処分法定主義
+令状主義+比例原則

※職務質問は行政警察活動と捜査の双方を含むため、どの時点で捜査に移行したかが明確でない場合がある点に注意が必要です。

1-3 所持品検査の意義と法的根拠

所持品検査とは、警察官が職務質問を行う過程において、対象者の着衣や携帯品を調べることをいいます。

所持品検査について、警職法には明文の規定がありません。

しかし、最高裁は最判昭和53年6月20日(後述する6月判決)において、所持品検査を「職務質問に付随する行為」として、警職法2条1項を根拠に許容しました。

なお、銃砲刀剣類所持等取締法(銃刀法)24条の2第1項には、銃砲刀剣類等に限定した所持品検査の規定がありますが、これは一般的な所持品検査の根拠規定とはなりえません。

1-4 なぜ職務質問・所持品検査が試験で重要か

予備試験・司法試験において、職務質問・所持品検査が重要である理由は主に以下の3点です。

第一に、捜査の入口に位置する論点であることです。

違法な職務質問・所持品検査によって得られた証拠物の証拠能力が争われることが多く、違法収集証拠排除法則との結びつきが強いといえます。

第二に、強制処分と任意捜査の区別の具体的適用場面であることです。

【刑事訴訟法入門1】の記事で解説した昭和51年決定の枠組みが、まさに職務質問の場面で問題となります。

参考:【刑事訴訟法入門1】強制処分と任意捜査の区別を完全理解! 予備試験・司法試験で必須の基礎知識

第三に、事案に即した判断が求められることです。

画一的な基準ではなく、具体的事実関係に基づく比較衡量が必要であり、論文試験において事実のあてはめ能力が試されます。

第2章 停止行為の限界

2-1 問題の所在

職務質問は任意手段です。

しかし、何らかの犯罪と関係している疑いがある者が質問に応じず立ち去ろうとする場合に、警察官が一切の有形力を行使できないとすれば、職務質問の実効性が著しく損なわれます。

そこで問題となるのは、対象者を停止させるためにどこまでの有形力の行使が許されるかという点です。

判断枠組みとしては、【刑事訴訟法入門1】の記事で解説した強制処分と任意捜査の区別が用いられます。

すなわち、①当該行為が強制処分(警職法2条3項が禁止する処分)に該当するか否か、②強制処分に該当しない場合でも、任意処分として相当と認められる限度にあるか否か、という2段階で判断します。

この点については、次のように考えられます。

2条3項の趣旨は、職務質問という行政警察活動においては刑訴法上の強制処分にあたるような処分を禁止する点にあり、2条3項が規定する「身柄……拘束」「連行」「強要」は例示にすぎません。

そうだとすれば、2条3項の禁止する処分とは、「強制の処分」(刑訴法197条1項但書)と同義であると解されます。

2-2 歩行者に対する停止行為

最決昭和29年7月15日

【事案】

警察官が駐在所で男(X)を職務質問中、Xが突然道路に飛び出したため、警察官はそれを追跡し、駐在所から約130メートル離れた路上でXに追いつき、引き留めるために「どうして逃げるのか」と言いながら、背後からXの腕に手をかけた。

【判旨の要旨】

最高裁は、「この程度の実力行為に出ることは真に止むを得ないことであって正当な職務執行の手段方法である」とした原判決を正当と判断しました。 

【ポイント】

本判決により、相手方を停止させるために一定の有形力を行使することが許される場合があることが確認されました。

もっとも、本判決は原審の判断を正当としたのみであり、停止行為の限界について明確な基準を述べていません。

東京高判昭和49年9月30日

【事案】

深夜に警ら中の警察官Pが不審な男(X)を発見し、職務質問する過程で、Xが名乗った名前と背広に刺繍された名前が異なることに気付きました。Xが立ち去ろうとしたため、Pが「待ちなさい」と言いながら右手でXの右手首を摑みました。

【判旨の要旨】

本判決は、職務質問の停止行為について、「口頭で呼びかけ若しくは説得的に立ち止まることを求め、あるいは口頭の要求に添えて本人に注意を促す程度の有形的動作に止まるべきで、威嚇的に呼び止め又は本人に静止を余儀なくさせるような有形的動作等の強制にわたる行為は許されない」としました。

そのうえで、本件Pの行為は注意を促す程度の動作であるとして、強制手段には該当しないと判示しました。

【ポイント】

本判決は、停止行為として許容される有形力行使の上限について、「注意を促す程度の有形的動作」か否かという基準を示した点に意義があります。

2-3 自動車の運転者に対する停止行為

最決昭和53年9月22日

【事案】

交通取締り中の警察官Pが、赤色信号を無視して交差点に侵入した自動車の運転者(X)を停車・下車させました。

Xから酒臭がしたため酒気検知を告げたところ、Xが反抗的態度を示し、運転免許証を奪い取って自動車の運転席に乗り込み、エンジンのかかっていた自動車を発進させようとしました。

Pが運転席の窓から手を差し入れ、エンジンキーを回転してスイッチを切りました。

【判旨の要旨】

最高裁は、Pの行為について、警職法2条1項の規定に基づく職務質問を行うため停止させる方法として「必要かつ相当な行為」であるのみならず、道路交通法67条3項(現4項)の規定に基づき交通の危険を防止するために採った「必要な応急の措置」にあたるから、適法な職務の執行であるとしました。

【ポイント】

自動車の運転者に対する停止行為については、警職法上の適法性に加え、道路交通法上の根拠も併せて検討する必要があります。

もっとも、道路交通法67条3項の該当事由がある場合でも、任意処分として許される範囲自体が変わるわけではないため、適法性判断の実質は同じであると考えられます。

最決平成6年9月16日(平成6年決定)

【事案】

覚醒剤使用の疑いがある者(X)の自動車を停車させた警察官が、Xが目をきょろきょろさせ、落ち着きのない態度で、質問に素直に応じず、エンジンを空ふかしし、ハンドルを切るような動作をしたため、車両の窓から手を差し入れ、エンジンキーを引き抜いて取り上げました。

【判旨の要旨】

最高裁は、エンジンキーを取り上げた行為は、警職法2条1項の規定に基づく職務質問を行うため停止させる方法として「必要かつ相当な行為」であるとしました。

【ポイント】

本件のエンジンキー取り上げ行為について分析すると、以下のように整理できます。

まず、窓から腕を差し入れてエンジンキーを取り上げる行為は、本人に注意を促す程度の有形力の行使にとどまり、身柄拘束には至っていません。

また、ここで問題になっている自由は、対象者自身の身体の自由ではなく、自動車で移動する自由です。

対象者はタクシーや徒歩で移動することが可能であり、制約される権利の質は相対的に低いといえます。

したがって、制約の程度は実質的とまではいえず、強制処分には該当しないと考えられます。

2-4 停止行為の適法性判断基準

これらの判例を整理すると、停止行為の適法性は以下の枠組みで判断されます。

【判断枠組み】

Step 1:強制処分に該当するか

【刑事訴訟法入門1】の記事で解説した昭和51年決定の基準に従い、当該行為が「個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加える」ものであるか否かを判断します。

該当する場合は、強制処分法定主義違反・令状主義違反として違法となります。

Step 2:任意処分として相当か

強制処分に該当しない場合であっても、必要性・緊急性と権利侵害の程度を比較衡量し、具体的状況のもとで相当と認められる限度にあるか否かを判断します(警察比例の原則)。

相当性を欠く場合は違法となります。

【表2:停止行為の適法性に関する考慮要素】

考慮要素

適法方向に働く事情

違法方向に働く事情

犯罪の嫌疑

嫌疑が濃厚

嫌疑が薄い

犯罪の重大性

重大犯罪
(覚醒剤事犯等)

軽微な犯罪

緊急性

証拠隠滅のおそれ、
交通の危険

直ちに対応しなくとも
支障がない

有形力行使の態様

注意を促す程度の動作

タックル、羽交い絞め等

移動の自由の
制約の程度

一時的・軽微な制約

長時間の制約

停止行為のあてはめにおいて具体的に考慮すべき事情としては、事案の重大性と嫌疑の程度、職務質問等を継続することの必要性及び緊急性、有形力行使による権利侵害の程度や行使態様の相当性が挙げられます。

第3章 所持品検査の判例法理

3-1 最判昭和53年6月20日(6月判決)

所持品検査に関する最も重要な判例が、最判昭和53年6月20日(いわゆる米子銀行強盗事件判決、6月判決)です。

本判決は、所持品検査の法的根拠と適法性の判断基準を明示したリーディングケースであり、正確な理解が不可欠です。

【事案】

猟銃とナイフを所持した4人組による銀行強盗事件が発生し、犯人らは現金600万円余りを強奪して逃走中でした。

緊急配備検問中の警察官Pらが、手配人相に似た男(X、Y)が乗った自動車を停止させ、職務質問を開始しました。

Pらは、ボーリングバッグとアタッシュケースを開けるよう繰り返し求めましたが、Xは返答と開披を拒否し続けました。

そこでPが、Xの承諾のないまま、ボーリングバッグのチャックを開けたところ、大量の紙幣が無造作に入っているのが見えました。さらにアタッシュケースをドライバーでこじ開けると、被害銀行の帯封のしてある札束も発見され、Xを緊急逮捕しました。

【判旨】

(所持品検査の可否について)

「警職法は、その2条1項において同項所定の者を停止させて質問することができると規定するのみで、所持品の検査については明文の規定を設けていないが、所持品の検査は、口頭による質問と密接に関連し、かつ、職務質問の効果をあげるうえで必要性、有効性の認められる行為であるから、同条項による職務質問に付随してこれを行うことができる場合があると解するのが相当である。」(最判昭和53年6月20日刑集32巻4号670頁)

(許容範囲について)

「所持品検査は、任意手段である職務質問の附随行為として許容されるのであるから、所持人の承諾を得て、その限度においてこれを行うのが原則であることはいうまでもない。

しかしながら、職務質問ないし所持品検査は、犯罪の予防、鎮圧等を目的とする行政警察上の作用であって、流動する各般の警察事象に対応して迅速適正にこれを処理すべき行政警察の責務にかんがみるときは、所持人の承諾のない限り所持品検査は一切許容されないと解するのは相当でなく、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、所持品検査においても許容される場合があると解すべきである。

もっとも、所持品検査には種々の態様のものがあるので、その許容限度を一般的に定めることは困難であるが、所持品について捜索及び押収を受けることのない権利は憲法35条の保障するところであり、捜索に至らない程度の行為であってもこれを受ける者の権利を害するものであるから、状況のいかんを問わず常に許容されるものと解すべきでないことはもちろんであって、かかる行為は、限定的な場合において、所持品検査の必要性、緊急性、これによって害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度においてのみ、許容されるものと解すべきである。」(同判決)

【6月判決の意義】

本判決の意義は極めて大きく、以下の4点が重要です。

第一に、所持品検査の法的根拠を明示したことです。

所持品検査は、警職法2条1項の職務質問に付随する行為として許容されます。

第二に、原則として所持人の承諾が必要であることを確認しつつ、承諾なき所持品検査も許容される場合があることを認めたことです。

第三に、適法性の判断基準を提示したことです。

必要性・緊急性・個人の法益と公共の利益との権衡を考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容されます。

第四に、違法となる2つの限界を明示したことです。

すなわち、(a)捜索に該当する所持品検査、及び(b)強制にわたる所持品検査は、個別の事情を問わず一律に違法となります。

3-2 所持品検査の2段階の判断枠組み

6月判決の判旨を整理すると、承諾なき所持品検査の適法性は、以下の2段階で判断されます。

【表3:所持品検査の適法性判断の2段階構造】

段階

判断内容

違法となる場合

第1段階

当該行為が捜索に該当するか、
又は強制にわたるか

(a) 捜索に該当する所持品検査、
及び
(b) 強制にわたる所持品検査
は、事件の個別的事情を問わず
一律に違法

第2段階

捜索にも強制にも該当しない
場合に、具体的状況のもとで
相当か

必要性・緊急性・法益の権衡等を
考慮し、相当と認められる限度を
超える場合は違法

第1段階について

捜索に該当する所持品検査と、強制にわたる所持品検査は、事件の個別的事情を問わず一律に違法となります。

これは、所持品検査が任意処分である職務質問に付随するものと位置づけられていることからの当然の帰結です。

第2段階について

捜索にも強制にもあたらない所持品検査であっても、具体的状況のもとで相当と認められる限度を超える場合は違法となります。

これは、警察比例の原則の適用場面です。

あてはめにおいて考慮すべき具体的事情を整理すると、以下の①~⑦のとおりです。

  • 相手方が罪を犯した者か、それらについて知っているにすぎない者か(必要性・緊急性)
  • 容疑犯罪の種類・性質、重大性(必要性)
  • 容疑の強弱(必要性)
  • 物件所持の疑いの有無・程度(必要性)
  • 当該物件の危険性の有無・程度(緊急性)
  • 所持品検査の箇所と態様(相当性)
  • 質問開始後に当該行為に至るまでの具体的な経過(相当性)等

3-3 最判昭和53年9月7日(9月判決)

6月判決が示した判断基準の具体的適用例として最も重要なのが、最判昭和53年9月7日(いわゆる大阪天王寺覚醒剤所持事件判決、9月判決)です。

【事案】

警ら中の警察官Pらは、不審な動きをした自動車を停止させ、運転者(X)に対し窓越しに職務質問を開始しました。

Xの態度や顔色などから覚醒剤中毒者である疑いも生じたため、PらはXを下車させるとともに、所持品の提示を求めました。

Xは右内側ポケットから目薬とちり紙を取り出してPに渡しましたが、Pはさらに他のポケットを触らせてもらうと言って、Xの上衣とズボンのポケットを外から触ったところ、上衣左側内ポケットに「刃物ではないが何か堅い物」が入っている感じでした。

Pがその提示を求めましたが、Xは黙ったままでした。

そこでPは「それなら出してみるぞ」と言って、Xの上衣左側内ポケット内に手を入れて取り出してみると、ちり紙の包、プラスチックケース入りの注射針1本であり、ちり紙の包を開披したところ、覚醒剤粉末が発見されました。

【判旨の要旨】

最高裁は、上衣左側内ポケットに手を差し入れて所持品を取り出した行為について、「一般にプライバシー侵害の程度の高い行為であり、かつ、その態様において捜索に類するもの」であるから、具体的状況のもとでは相当な行為とはいえず、「職務質問に附随する所持品検査の許容限度を逸脱したもの」と判示しました。→ 違法

【表4:6月判決と9月判決の事案比較】

比較項目

6月判決(適法)

9月判決(違法)

犯罪の重大性

猟銃・ナイフを使用した
銀行強盗

覚醒剤所持

嫌疑の程度

手配人相と一致、
高嫌疑

態度や顔色からの疑い

所持品検査の態様

施錠されていないバッグの
チャックを開けて内部を一瞥

上衣内ポケットに手を差し入
れて中身を取り出し

プライバシー侵害
の程度

バッグ
(身体から離れた物)

内ポケット
(身体に密着)

結論

相当 → 適法

捜索に類する態様で
相当でない → 違法

9月判決の事案を上記の枠組みに即して分析すると、次のようになります。

確かに、覚醒剤中毒者としての嫌疑は濃厚であり、職務質問に妨害が入りかねない状況にあったことから、必要性・緊急性は高いといえます。

しかし、内ポケットは身体に密着しているため、バッグ等と比較してプライバシー保護の度合いが高く、その態様も手を突っ込んで物を取り出している点でプライバシー侵害の程度の高い行為です。

したがって、具体的状況のもとで相当とはいえないと判断されたものと考えられます。

なお、注意すべきは、9月判決が「捜索に類するもの」と述べている点です。

最高裁は、本件行為が「捜索」そのものに該当するとは述べておらず、あくまで第2段階(相当性)の判断において違法としています。

すなわち、「捜索に類する」態様であるがゆえに相当性を欠くと判断されたのであって、第1段階の捜索該当性で違法としたわけではない点に注意が必要です。

3-4 最決平成7年5月30日

【事案】

覚醒剤所持の疑いを抱いた警察官4名が、対象者(X)の自動車の内部を、懐中電灯や集光ライトを用いて丹念に調べ、座席の背もたれを前に倒し、シートを前後に動かすなどした結果、運転席の下の床から覚醒剤の入ったビニール袋を発見しました。

【判旨の要旨】

最高裁は、「Xの承諾がない限り、職務質問に付随して行う所持品検査として許容される限度を超えたもの」として違法と判断しました。

【ポイント】

本件の行為は、車のシートを動かして車の中を全面的に調べ、物を発見しようとしたものであり、捜索に該当するといえます。自動車内の丹念な検査は、第1段階で捜索に該当するものとして一律に違法となりうる事例です。

3-5 「捜索にあたるか否か」の判断基準

所持品検査が「捜索」にあたるか否かについて、判例は明確な基準を示していません。

しかし、あてはめの指針として、次のように整理することが可能です。

物の存在が確認できていない段階で、バッグをこじ開けて中身を取り出す場合のように、隠してあるものを無理やり抜き出す行為は捜索にあたる可能性が高くなります。

これに対し、外部からその存在が確認できている段階で、外側から手を触れたり、チャックや蓋のように簡単に外せるものを外したりして、それが何であるかを確認する行為は捜索にはあたらない可能性が高いです。

例えば、6月判決のボーリングバッグの開披は「内部を一瞥したに過ぎ」ず、捜索には至らないと解される一方、施錠されたアタッシュケースをドライバーでこじ開ける行為は「破壊的行為を伴う」ものであり、「捜索と同一視できる」とされています。

もっとも、これらの区別は必ずしも明確ではなく、今後の判例の集積を待つほかないというのが現状です。

第4章 現場への留め置きとその他の措置

4-1 現場への留め置き──平成6年決定の留め置き部分

職務質問に伴い、対象者を現場に留め置く行為の適法性も重要な論点です。

平成6年決定の事案では、エンジンキーの引き抜き後の留め置きが問題となりました。

【事案の経過】

平成6年決定の事案では、警察官がエンジンキーを引き抜いた後、Xに覚醒剤取締法違反の前科があることが判明しました。

警察官は職務質問を継続するとともに、警察署への任意同行を求めましたが、Xはこれを拒否し続けました。

警察官は強制採尿令状等の発付を裁判所に請求し、Xを約6時間半以上にわたって現場に留め置きました。

【判旨の要旨】

最高裁は、留め置き全体を一括して違法と判断しました。

被告人の移動の自由を長時間にわたり奪ったものであることから、「任意捜査として許容される範囲を逸脱」したものとして違法であるとしています。

【ポイント】

本件の留め置きについて分析すると、次のように考えられます。

任意同行を求めるための説得行為として6時間以上も継続した場合、もはやXが翻意する見込みがない以上、説得の必要性は失われているといえます。

他方、被侵害利益(移動の自由の制約)は時間の経過とともに増大していることから、両者を衡量すると相当性を欠き、任意捜査の範囲を逸脱したものとして違法と評価されます。

もっとも、「単に留め置き時間の長短だけでその限界が明らかになるものではない」とされている点にも注意が必要です。

4-2 二分論の判断枠組み

東京高判平成21年7月1日は、平成6年決定が留め置き全体を一括して判断した手法に対し、「本件留置が純粋に任意捜査として行われている段階と、強制採尿令状の執行に向けて行われた段階とからなっていることに留意する必要があり、両者を一括して判断するのは妥当ではない」と判示しました。

この手法(二分論)は、東京高判平成22年11月8日でも採用されており、強制採尿令状の請求準備に取りかかった時点を基準に、留め置きを2つの段階に分けて適法性を検討します。

【表5:二分論による留め置きの判断枠組み】

段階

目的

適法性判断のポイント

第1段階
(令状請求
準備前)

任意同行の説得、
任意の採尿

純粋な任意捜査としての
相当性で判断。被疑者が翻意
する可能性がないことが客観的
に明らかになれば、それ以上の
留め置きは必要性を欠く

第2段階
(令状請求
準備後)

被疑者の所在確保
(令状執行のため)

留め置きの新たな必要性が
生じるが、なお任意捜査の枠内。
①令状請求の準備・発付・執行に
要する時間、②留め置きの態様、
③被疑者の自由の確保状況等を
総合考慮

二分論が合理的である実質的理由は、以下のとおりです。

第1段階の説得目的は、一定程度の説得を試みれば、対象者が応じるか否かはおおむね判明するものであり、翻意の見込みがないにもかかわらず説得を継続しても、必要性はもはや消失し、被侵害利益のみが増大し続けることになります。

これに対し、第2段階の所在確保目的は、令状が発付されるまで被侵害利益も増していくものの、令状執行という捜査の必要性も維持され続けるため、留め置きの正当化根拠が質的に異なります。

4-3 職務質問に伴うその他の措置──最決平成15年5月26日

【事案】

警察官P及びQは、ホテルの責任者から、宿泊料金を支払わず、また薬物使用の疑いがある客(X)がいるとの通報を受け、同ホテルに赴きました。

Pは、Xがいる部屋のドアを叩いて声をかけましたが返事がなかったため、無施錠の外ドアを開けて内玄関に入り、再度声をかけました。

Xは内ドアを約20~30センチメートル開けましたがすぐに閉めました。

Pは、Xが全裸であり入れ墨をしていることに不審の念を強め、職務質問を継続するため、内ドアを押し開け、内玄関と客室の境の敷居上辺りに足を踏み入れ、内ドアが閉められるのを防止しました。

最高裁は、以下のとおり判断しました。

【判旨の要旨】

①外ドアを開けて内玄関に入った行為:Xがもはや通常の宿泊客とはみられない状況にあったという前提に立ち、当然に許されるとしました。

②内ドアを押し開け敷居上辺りに足を踏み入れた行為:警職法2条1項に基づく職務質問に付随するものとして適法であるとしました。

【ポイント】

本決定は、停止行為や所持品検査に限らず、職務質問を開始・継続するための様々な措置が、警職法2条1項に付随する行為として適法となりうることを示しました。

本件について分析すると、確かにホテル客室内のプライバシーは保護に値するものの、Pの行為は内ドアが閉められるのを足で防止した程度にとどまっており、客室内に立ち入ったわけではありません。

したがって、権利侵害の程度は実質的とまではいえず、職務質問に付随する措置として適法と評価できます。

まとめ

【表6:職務質問・所持品検査の主要判例一覧】

判例

争点

結論

重要度

最決昭29・7・15

腕に手をかける
停止行為

適法

★★☆

最判昭53・6・20

バッグのチャックを
開ける所持品検査

適法

★★★

最判昭53・9・7

内ポケットに手を
入れる所持品検査

違法

★★★

最決昭53・9・22

エンジンキーを回して
スイッチを切る行為

適法

★★★

最決平6・9・16

エンジンキー引き抜き
+約6時間半の
留め置き

停止:適法
留め置き:
違法

★★★

最決平7・5・30

自動車内の丹念な
検査

違法

★★☆

最決平15・5・26

ホテル客室への
立入り

適法

★★☆

【適法性判断フローチャート】

職務質問・所持品検査の適法性は、以下のフローで判断します。

おわりに

職務質問・所持品検査は、強制処分と任意捜査の区別という基本的枠組みの上に成り立つ応用論点です。

本記事で学んだ内容を整理すると、以下のとおりです。

第一に、職務質問は警職法2条1項に基づく任意処分であり、強制にわたってはなりません。

第二に、停止行為は、強制処分に該当しない範囲で、かつ具体的状況のもとで相当と認められる限度で許容されます。

第三に、所持品検査は、職務質問に付随する行為として警職法2条1項を根拠に許容されます(最判昭和53年6月20日)。

第四に、承諾なき所持品検査は、

  1. 捜索にも強制にも該当しないこと
  2. 具体的状況のもとで相当であること

の2段階で適法性が判断されます。

第五に、現場への留め置きについても、任意捜査の限界の枠組みで適法性が判断されます。

この記事では、初学者の方にもわかりやすいよう判例を交えて基本的な考え方を解説しています。

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引用・参考文献

・最決昭和29年7月15日刑集8巻7号1137頁

・東京高判昭和49年9月30日(停止行為の限界に関する基準を提示)

・最判昭和53年6月20日刑集32巻4号670頁(米子銀行強盗事件・6月判決)

・最判昭和53年9月7日刑集32巻6号1672頁(大阪天王寺覚醒剤所持事件・9月判決)

・最決昭和53年9月22日刑集32巻6号1774頁

・最決平成6年9月16日刑集48巻6号420頁(会津若松事件・平成6年決定)

・最決平成7年5月30日刑集49巻5号703頁

・最決平成15年5月26日刑集57巻5号620頁

・東京高判平成21年7月1日(二分論の判断枠組みを提示)

・東京高判平成22年11月8日

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