【刑事訴訟法入門1】強制処分と任意捜査の区別を完全理解! 予備試験・司法試験で必須の基礎知識

監修者
講師 赤坂けい
株式会社ヨビワン
講師 赤坂けい
【刑事訴訟法入門1】強制処分と任意捜査の区別を完全理解! 予備試験・司法試験で必須の基礎知識
Share
  • lineナバー lineでシェアする
  • x(旧twitter)ナバー xでシェアする
  • hatenaナバー hatenaでシェアする
  • pocketナバー pocketでシェアする
チェック
この記事を読んで理解できること
  • 【初級】捜査法の基本的枠組み
  • 【初中級】伝統的見解と最高裁判例
  • 【中級】判例の展開
  • 【中上級】強制処分と任意捜査の限界

「任意捜査と強制処分の区別って、結局どう判断すればいいの?」

「判例がたくさんあって、整理できない……

刑事訴訟法を学び始めた方の多くが、このような悩みを抱えているのではないでしょうか。

強制処分と任意捜査の区別は、刑事訴訟法の学習において最初に直面する重要論点であり、予備試験・司法試験でも頻出のテーマです。

この区別を正確に理解しておくことは、その後の逮捕・勾留、捜索・差押え、違法収集証拠排除法則といった応用論点を学ぶ上での基盤となります。

本記事では、条文と判例を正確に引用しながら、強制処分と任意捜査の区別について体系的に解説します。

最高裁判例の流れを追いながら、試験で使える知識を身につけていきましょう。

1章【初級】捜査法の基本的枠組み

1-1 捜査の根拠規定(刑訴法1971項)

捜査に関する基本規定は、刑事訴訟法1971に定められています。

刑事訴訟法1971

「捜査については、その目的を達するため必要な取調をすることができる。但し、強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない。」

この条文は、本文但書2つの部分から構成されています。

  • 本文:捜査全般について、その目的達成のために必要な方法で行い得ることを定めています。これが任意捜査の原則の根拠規定です。
  • 但書:「強制の処分」については、「この法律に特別の定のある場合」でなければ行うことができないと定めています。これが強制処分法定主義の根拠規定です。

1-2 強制処分法定主義の意義

強制処分法定主義とは、強制処分を行うには法律上の根拠規定が必要であるという原則です。その憲法上の根拠は、憲法31(適正手続の保障)に求められます。

憲法31

「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」

この規定は、刑事手続全体について「法律の定める手続」によることを要求しています。

捜査手続においても、人の重要な権利・利益を本人の意思に反して制約する強制処分は、国民の代表である国会が法律で定めなければならないという趣旨が導かれます。

【表1:任意捜査と強制処分の比較】

区分

根拠規定の要否

具体例

任意捜査

不要(1971項本文が一般的根拠)

職務質問、任意同行、写真撮影等

強制処分

必要(個別の規定が必要)

逮捕、勾留、捜索、差押え等

任意捜査の具体例として挙げた職務質問、任意同行、写真撮影等についても、その態様によっては強制処分に該当する場合があります。後述する判例の基準に照らして個別に判断する必要があります。

1-3 なぜ区別が重要なのか

強制処分と任意捜査の区別が重要である理由は、主に以下の3点です。

  1. 強制処分法定主義違反 法律に定めのない強制処分を行った場合、刑訴法1971項但書に違反し、当該捜査は違法となります。
  2. 令状主義違反 逮捕や捜索・差押えなどの法定された強制処分であっても、原則として裁判官が発付する令状が必要です(憲法33条・35条)。令状なく強制処分を行えば、令状主義に違反し違法となります。
  3. 違法収集証拠排除法則との関係 違法な捜査によって収集された証拠は、一定の要件の下で証拠能力が否定されます(最判昭和5397日)。強制処分法定主義違反や令状主義違反は「令状主義の精神を没却するような重大な違法」に該当しうるため、証拠排除につながる可能性があります。

2章【初中級】伝統的見解と最高裁判例

2-1 伝統的な強制処分の定義

かつての通説は、強制処分を以下のように定義していました。

伝統的見解(有形力行使説) 「強制処分とは、物理的な有形力を用いる処分、または、対象者に法的な義務を負わせる処分をいう」

しかし、この定義には以下のような問題点が指摘されました。

【表2:伝統的見解の問題点】

問題点

具体例

科学技術の発達

電話傍受やGPS捜査のように、有形力を行使しなくてもプライバシーを重大に侵害する処分が登場

捜査の性質

捜査には多かれ少なかれ強制的要素が入り込む。軽微な有形力行使まで一律に強制処分とすると、任意捜査が著しく制限される

2-2 最決昭和51316日(強制処分の定義)

このような問題状況の中、最高裁は昭和51年決定において、強制処分の定義を初めて明示しました。

【事案】

被告人Xは酒酔い運転のうえ物損事故を起こし、警察署に任意同行された。警察官が呼気検査を説得したところ、Xが急に立ち上がり出口へ向かったため、警察官PXの左手首をつかんだ。Xが暴れたため、公務執行妨害罪の現行犯として逮捕された。Pの行為が違法な強制処分であれば、公務の適法性が否定され、公務執行妨害罪が成立しない。

【判旨】

「捜査において強制手段を用いることは、法律の根拠規定がある場合に限り許容されるものである。しかしながら、ここにいう強制手段とは、有形力の行使を伴う手段を意味するものではなく、個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段を意味するものであつて、右の程度に至らない有形力の行使は、任意捜査においても許容される場合があるといわなければならない。」

(出典:最決昭和51316日刑集302187頁)

【ポイント】

  • 「有形力の行使を伴うか否か」を基準から切り離した
  • 「個人の意思を制圧」し、「身体、住居、財産等に制約を加える」という実質的基準を提示
  • 本件では、Pの行為は「程度もさほど強いものではない」として任意捜査と判断

2-3 任意捜査の限界(比例原則)

同決定は、任意捜査にも限界があることを明示しました。

「ただ、強制手段にあたらない有形力の行使であつても、何らかの法益を侵害し又は侵害するおそれがあるのであるから、状況のいかんを問わず常に許容されるものと解するのは相当でなく、必要性、緊急性などをも考慮したうえ、具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容されるものと解すべきである。」

つまり、任意捜査として許容される場合であっても、比例原則(必要性・緊急性・相当性)に照らして適法性が判断されます。

3章【中級】判例の展開

昭和51年決定の枠組みは、その後の判例において具体化・精緻化されてきました。

特に重要な2つの最高裁判例を確認しましょう。

3-1 エックス線検査事件(最決平成21928日)

【事案】

覚醒剤密売の嫌疑がある被告人らの勤務地宛の宅配便荷物について、捜査機関が荷送人・荷受人の承諾を得ずにエックス線検査を実施した。検証許可状は取得していなかった。

【判旨】

「本件エックス線検査は、……その射影によって荷物の内容物の形状や材質をうかがい知ることができる上、内容物によってはその品目等を相当程度具体的に特定することも可能であって、荷送人や荷受人の内容物に対するプライバシー等を大きく侵害するものであるから、検証としての性質を有する強制処分に当たるものと解される。」

(出典:最決平成21928日刑集637868頁)

【意義】

  • 有形力を伴わない技術的手段による情報取得が強制処分に当たりうることを明示
  • 「プライバシー等を大きく侵害する」か否かを基準として判断
  • 既存の強制処分類型である「検証」への当てはめを行った

3-2 GPS捜査事件(最大判平成29315日)

【事案】

広域窃盗事件の捜査において、警察が被告人らの使用する自動車等19台に、承諾なく令状も取得せずにGPS端末を秘かに取り付け、約6か月半にわたり位置情報を取得した。

【判旨】

「GPS捜査は、対象車両の時々刻々の位置情報を検索し、把握すべく行われるものであるが、その性質上、公道上のもののみならず、個人のプライバシーが強く保護されるべき場所や空間に関わるものも含めて、対象車両及びその使用者の所在と移動状況を逐一把握することを可能にする。」

「憲法35条は、『住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利』を規定しているところ、この規定の保障対象には、『住居、書類及び所持品』に限らずこれらに準ずる私的領域に『侵入』されることのない権利が含まれるものと解するのが相当である。」

「個人のプライバシーの侵害を可能とする機器をその所持品に秘かに装着することによって、合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法であるGPS捜査は、個人の意思を制圧して憲法の保障する重要な法的利益を侵害するものとして、刑訴法上、特別の根拠規定がなければ許容されない強制の処分に当たる」

(出典:最大判平成29315日刑集71313頁)

【意義】

  • 裁判官全員一致でGPS捜査を強制処分と認定
  • 合理的に推認される個人の意思に反して」という基準を明示。対象者が捜査を認識していない秘密裡の捜査にも「意思の制圧」概念を適用可能とした
  • 憲法35条の保障範囲を「私的領域に侵入されることのない権利」にまで拡張
  • 既存の検証許可状等では対応困難とし、立法的措置の必要性を異例にも最高裁自身が言及

4章【中上級】強制処分と任意捜査の限界

4-1 強制処分にも限界がある

強制処分法定主義によれば、法律に定めがあれば強制処分を行えることになります。

しかし、法定されていればどんな権利侵害も許されるのでしょうか

この問題について、強制採尿事件(最決昭和551023日)が重要な判断を示しています。

【事案】

覚醒剤使用の嫌疑がある被疑者に対し、捜査機関が尿の任意提出を求めたが拒否されたため、導尿管(カテーテル)を用いて被疑者の体内から強制的に尿を採取した。

【判旨】

「被疑者の体内から導尿管(カテーテル)を用いて強制的に尿を採取することは、捜査手続上の強制処分として絶対に許されないものではなく、被疑事件の重大性、嫌疑の存在、当該証拠の重要性とその取得の必要性、適当な代替手段の不存在等の事情に照らし、犯罪の捜査上真にやむをえないと認められる場合には、最終的手段として、適切な法律上の手続を経たうえ、被疑者の身体の安全と人格の保護のための十分な配慮のもとに行うことが許される。」

(出典:最決昭和551023日刑集345300頁)

この決定は、強制採尿を「捜索・差押え」の性質を有するものと位置づけつつ、その実施には厳格な要件(被疑事件の重大性、嫌疑の存在、証拠の重要性、代替手段の不存在、最終的手段としての位置づけ、身体の安全と人格への配慮)を課しました。

4-2 任意捜査の相当性判断

昭和51年決定が示した任意捜査の相当性判断の枠組みを整理します。

【判断要素】

  1. 捜査の必要性(犯罪の重大性・嫌疑の程度)
  2. 緊急性(その時点で行わなければ捜査目的を達成できないか)
  3. 権利・利益の制約の程度

【判断方法】

①②による当該捜査を行う必要性の程度 との制約の程度 を比較衡量し、「具体的状況のもとで相当と認められる限度」にあるかを判断する

4-3 違法となる2つの類型

捜査が違法となる場合は、以下の2つの類型に整理できます。

【表3:違法の類型】

違法の類型

内容

強制処分該当型

任意捜査として行ったが、実は強制処分に該当しており、法律上の根拠規定を欠く(強制処分法定主義違反)、または令状を欠く(令状主義違反)

相当性欠如型

任意捜査の枠内ではあるが、必要性・緊急性・権利制約の程度を比較衡量した結果、相当性を欠く

【まとめ】重要判例の体系的位置づけ

本記事で解説した重要判例を体系的に整理します。

【表4:主要判例一覧】

判例

争点

結論

意義

最決昭51316

手首をつかむ行為

任意捜査・適法

強制処分の定義を明示

最決昭551023

強制採尿

条件付きで許容

条件付き令状の創出

最決平21928

エックス線検査

強制処分・違法

技術的手段と強制処分

最大判平29315

GPS捜査

強制処分・違法

立法措置の必要性を指摘

【図:捜査の適法性判断フローチャート】

Step 1:当該捜査は強制処分に該当するか?

         (個人の意思を制圧し、重要な権利・利益を制約するか)

    ↓

YES→ Step 2:法律上の根拠規定があるか?

              → YES:令状があれば適法 / 令状がなければ違法

              → NO :違法(強制処分法定主義違反)

    ↓

NO → Step 3:任意捜査として相当性があるか?(必要性・緊急性・権利制約の程度を比較衡量)

              → YES:適法

              → NO :違法(相当性欠如)

おわりに

強制処分と任意捜査の区別は、刑事訴訟法の学習において最初に習得すべき基礎知識です。

本記事で学んだ内容を整理すると、以下のとおりです。

  • 強制処分法定主義(刑訴法1971項但書)により、強制処分には法律上の根拠が必要
  • 強制処分とは「個人の意思を制圧し、身体・住居・財産等に制約を加える処分」(昭和51年決定)
  • 任意捜査であっても、必要性・緊急性・権利制約の程度を比較衡量した相当性が必要
  • 判例は技術の発展に対応して強制処分の外延を拡大してきた(エックス線検査、GPS捜査)

この基本的枠組みを押さえることで、逮捕・勾留、捜索・差押え、おとり捜査など、個別の捜査手段の適法性判断も可能になります。

「予備試験1桁合格者」から学ぶ東大式予備試験論証集ヨビロンはこち

憲法公式テキスト購入は公式LINEで!

さらに!公式LINE友達登録するだけで4つの無料特典もプレゼント

公式LINE で無料特典を受け取ってください

特典

予備試験1桁合格
憲法A取得者による

  • 『判例の射程』
  • 受講生が実際に予備試験の当日も穴が開くほど見ていた『目的手段審査判例まとめ』
  • 「生存権」の一般的解法
  • 解法を使った過去問解説動画「生存権」

LINE登録

LINE特典動画では、私が提唱する「解法パターン」とその活用方法の一端をお見せします。

動画①では、「判例の射程とは何か」を予備試験の過去問を題材にしながら分かりやすく解説します。この解説を聞いた受講生からは「判例の射程の考え方・書き方がようやくわかった!」との言葉をいただいております。

動画②では、試験開始前に見ることで事案分析の精度が格段にあがるルーズリーフ一枚に収まる目的手段審査パターンまとめです。

動画③では、どの予備校講師も解説をぼやかしている生存権の解法を明確にお渡しします。

そして、動画④では③の生存権の解法パターンを使って、難問と言われた司法試験の憲法の過去問の解説をします。
是非、解説動画を受け取って、世界を変えてください。

Share
  • lineナバー lineでシェアする
  • x(旧twitter)ナバー xでシェアする
  • hatenaナバー hatenaでシェアする
  • pocketナバー pocketでシェアする