【刑法各論入門3】遺棄の罪(遺棄罪・保護責任者遺棄罪)217条〜219条を総整理!

監修者
講師 赤坂けい
株式会社ヨビワン
講師 赤坂けい
【刑法各論入門3】遺棄の罪(遺棄罪・保護責任者遺棄罪)217条〜219条を総整理!
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チェック
この記事を読んで理解できること
  • 遺棄の罪の全体像と保護法益
  • 単純遺棄罪(217条)の要件 
  • 保護責任者遺棄罪(218条)の要件
  • 重要論点:保護責任の発生根拠と不作為
  • 結果的加重犯と罪数・他罪との区別

この記事は、

「刑法各論における遺棄の罪(遺棄罪・保護責任者遺棄罪)の入門的な知識を体系的に理解したい」 

という方におすすめです。 

刑法第30章「遺棄の罪」(遺棄罪・保護責任者遺棄罪)は、条文数こそ多くありませんが、特に不作為犯や抽象的危険犯などの刑法総論の論点と密接に関係する部分を含んでいます。 

そのため、遺棄の罪の学習にあたっては、単に条文を暗記するだけではなく、「なぜ処罰されるのか」「どのような危険が問題となるのか」「誰にどこまでの義務が課されるのか」といった構造的な理解が不可欠です。

遺棄の罪は、直接的な暴行や傷害とは異なり、「保護を断つこと」によって生命・身体を危険にさらす犯罪です。

例えば、高齢者を介護せず放置する事案、乳幼児への育児放棄、交通事故後の救護義務違反などは、実社会においても頻繁に発生しており、これらの事案では、遺棄の罪の成否が問題となります。

そこで、本記事では、刑法217条から219条までの条文を紹介しつつ、遺棄の罪のアウトライン、単純遺棄罪と保護責任者遺棄罪の違い、保護責任の発生根拠や不作為犯との関係、さらには、結果的加重犯として処罰される場合などを体系的に紹介します。

具体的には、

1章で、遺棄の罪の全体像と保護法益

2章で、単純遺棄罪(217条)の要件

3章で、保護責任者遺棄罪(218条)の要件

4章で、保護責任の発生根拠と不作為

5章で、結果的加重犯と罪数・他罪との区別

について、それぞれ解説します。

予備試験・司法試験でそのまま使える思考を身に付けて、具体例と結びつけながら理解を深めていきましょう。

1章:遺棄の罪の全体像と保護法益

遺棄の罪を理解するためには、まず、保護法益は何か(犯罪を処罰することで何を守ろうとしているのか)という視点から全体像を把握することが不可欠です。

遺棄の罪は、生命・身体の安全という個人的法益を守ろうとするものです。

殺人罪のように生命・身体を直接侵害する行為を処罰するのではなく、「危険の創出(作り出したこと)」を処罰する犯罪類型(危険犯)です。

この章では、まず遺棄の罪の基本的性質を確認し、体系的に整理します。

1-1:遺棄の罪とは

217条は「老年、幼年、身体障害又は疾病のために扶助を必要とする者を遺棄した者は、一年以下の拘禁刑に処する。」と規定しています。

この規定は「遺棄した」という行為自体を処罰対象としており、実際に死亡や傷害が発生しなくても犯罪は成立し得ます。

このことから、遺棄の罪は生命・身体に対する危険を生じさせる行為自体を処罰する「抽象的危険犯」と位置付けられています。

抽象的危険犯とは、具体的危険や結果の発生を要件とせず、類型的に危険性を有する行為を処罰する犯罪類型です。

例えば、乳児を寒冷な山中に置き去りにする行為は、その行為自体が生命に対する高度な危険性を有しています。

仮に、その後第三者に発見され無事であったとしても、行為の危険性は否定されず処罰の対象となります。

ここで保護されている法益は、生命および身体の安全という「個人的法益」です。

この点は、傷害の罪や殺人罪と同様ですが、傷害罪や殺人罪が積極的な加害行為を前提とするのに対し、遺棄の罪は「保護関係を断つこと」によって危険を発生させる点に特徴があります。

1-2:遺棄の罪の体系図 

遺棄の罪は、217条から219条までの三段階の構造になっています。

条文に沿ってご紹介します。

まず、217条は、「老年、幼年、身体障害又は疾病のために扶助を必要とする者を遺棄した者は、一年以下の拘禁刑に処する。」と規定しています。

次に、218条は「老年、幼年、身体障害又は疾病のために扶助を必要とする者を保護する責任がある者がこれを遺棄し、又はその生存に必要な保護をしなかったときは、三月以上五年以下の拘禁刑に処する。」と規定しています。 

さらに219条は「前二条の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、三月以上五年以下の拘禁刑に処する。」と規定しています。 

この三条を体系的に整理すると、次のような構造になっていることが分かります。

■第一段階が217条の単純遺棄罪です。

これは主体に限定がなく、誰でも主体となり得ます。

これは、遺棄行為(本条でいう遺棄とは他所へ移動させて放置する行為)を中心とする犯罪です。

■第二段階が218条の保護責任者遺棄罪です。

主体が「保護する責任がある者」に限定され、さらに「生存に必要な保護をしなかった」という不作為を処罰することを予定しています。

保護する責任がある者の犯罪であるため、法定刑は217条より重く設定されています。

■第三段階が219条の遺棄致死傷罪です。

この規定は、217条または218条という基本犯に、死傷結果が生じた場合には結果的加重犯として処罰することを定めています。

これらの条文の体系は、「危険創出義務違反の加重結果発生による加重」となっており、刑法は、生命・身体という法益侵害の危険性や結果の重大性に応じて、処罰の程度を調整していると言えます。

1-3:現代における重要性 

遺棄の罪は、現代社会において極めて現実的な問題と密接に関係しています。 

例えば、高齢者虐待の事案では、介護義務を負う家族が十分な食事や医療を与えず放置するケースがあります。 

このような場合、保護責任者遺棄罪が問題となります。 

乳幼児の育児放棄も典型例と言えます。

親は法令上の保護義務を負っています。

その義務を放棄し、乳児を自宅に放置した結果、衰弱や死亡に至れば、218条や219条が適用され得ます。

さらに、交通事故後に被害者を救護せず現場から立ち去る「ひき逃げ」事案では、道路交通法違反のみならず、先行行為に基づく保護責任が問題となり、保護責任者遺棄罪が成立する余地があります。

このように、遺棄の罪の規定は、現代の問題を検討するために非常に重要な規定だと言えます。 

2章:単純遺棄罪(217条)の要件 

217条で定める単純遺棄罪は、遺棄の罪の基本形態です。 

条文自体はシンプルですが、客体や「遺棄」という概念の解釈には重要な論点が含まれています。

特に、保護責任者遺棄罪との区別を明確にするためにも、217条の構造を正確に理解しておくことが不可欠です。

そこで、本章では、主体・客体・行為内容という三つの視点から、単純遺棄罪の成立要件を解説します。

2-1:主体と客体 

217条には「老年、幼年、身体障害又は疾病のために扶助を必要とする者を遺棄した者は、一年以下の拘禁刑に処する。」と規定されています。 

この規定は、主体について限定されていません。 

したがって、特定の身分を有しない者でも主体となり得ます。 

例えば、偶然出会った幼児を山中に連れて行って放置した者や、病人を車で遠方に移動させて置き去りにした者も、本罪の主体となり得ます。 

次に客体について検討します。

「老年、幼年、身体障害又は疾病のために扶助を必要とする者」と限定しています。

ここで重要なのは、「扶助を必要とする」という要件です。

単に高齢である、幼いというだけでは足りず、具体的に他者の援助を必要とする状態であることが必要です。

もっとも、一般的に、乳幼児や重度の身体障害者は扶助を必要とする者に該当すると解されます。 

また、「疾病」が明示されている点も重要です。

傷病人は、自らの生命・身体を維持する能力が低下しているため、保護が必要とされます。

このように、客体は抽象的な「弱者」ではなく、具体的に生命・身体の維持に援助を要する者に限定されています。

ここで218条(保護責任者遺棄罪)との関係が問題となります。

218条も客体に関して同様の文言を用いています。

しかし、217条では主体は限定されていませんが、218条は、主体を保護責任者に限定しています。

このように両者の違いは主体および行為態様にあります。

2-2217条における「遺棄」の意味

217条は「遺棄した者」を処罰します。

そのため、「遺棄」という概念が、単純遺棄罪の核心です。

この点、通説・判例は、217条の「遺棄」を「移置」、すなわち対象者を現在の場所から、より危険な別の場所へ移動させる「作為」に限定されると解されています。

例えば、乳児を山中に連れて行って放置する、病人を病院から連れ出して路上に置き去りにする、といった行為が典型例です。

これらは、保護状態から切り離し、危険な環境へ移動させるという積極的な行動を伴っています。 

一方で、単に放置した場合などの不作為が含まれないと解されています。 

その理由は、217条が主体を限定していない点にあります。 

つまり、もし不作為まで含めてしまうと、扶助が可能であった一般人まで処罰対象となり、処罰範囲が著しく拡大してしまうからです。

そこで、不作為による放置は、保護責任がある場合に限って218条で処理されることになります。

さらに、「移置」に該当するかどうかは、単なる移動の有無だけではなく、保護関係の断絶が生じていると言えるかという実質的な観点から判断されます。

また、重要なのは、217条は抽象的危険犯であるため、実際に危険が顕在化していなくても成立する点です。

例えば、寒冷地に乳児を置き去りにしたが、偶然通行人に発見され無事だった場合でも、行為時点で生命に対する危険は類型的に発生しており、本罪は成立します。

2-3:「置き去り」との峻別

「置き去り」とは、対象者を現在の場所に残して、自らその場を離脱することを意味します。

つまり、「置き去り」は「移置」のように積極的な被害者の移動を行わないにも関わらず、「何もしないで立ち去ること」が処罰の対象となってしまいます。

前述したように、もし217条に「置き去り」を含めてしまうと、義務のない者にまで処罰をしてしまうことになっていまい、結果として処罰の範囲が拡大しすぎてしまうことになりかねません。

そこで、217条では「置き去り」は処罰せず、218条に該当する保護責任者のみが対象となります。

3章:保護責任者遺棄罪(218条)の要件

保護責任者遺棄罪は、遺棄の罪の中核をなす規定です。

実務・試験においても頻繁に検討対象となるのは、218条であり、その理由は、現実の多くの事案が「保護義務を負う者による放置」という形態をとるからです。

単純遺棄罪が一般人による移置行為を対象とするのに対し、保護責任者遺棄罪は、特定の保護関係に立つ者がその義務を放棄することを処罰する点に本質があります。

そこで、本章では、主体である「保護責任者」の意味、客体の理解、そして行為態様である「遺棄」と「不保護」の内容を順に説明します。

3-1:「保護責任者」とは誰か

刑法218条は「老年、幼年、身体障害又は疾病のために扶助を必要とする者を保護する責任がある者がこれを遺棄し、又はその生存に必要な保護をしなかったときは、三月以上五年以下の拘禁刑に処する。」と規定しています。

本罪の特徴は、「保護する責任がある者」と主体が限定されている点です。

そこで、保護責任者とは誰かを理解することが重要です。

保護責任者とは、法令、契約、事務管理、先行行為に基づいて自力で生活できない人(幼年、高齢、病者など)を保護すべき義務を負う者を指します(保護責任が具体的にどのような場合に発生するのかについては後述します)。

この責任を負う者が保護を必要とする者を遺棄・放置すると成立します。

3-2:拡大された客体

218条の客体は、老年、幼年、身体障害又は疾病のために扶助を必要とする者です。 

しかし、単純遺棄罪の客体よりも実質的な射程は広くなります。

なぜなら、217条は「移置」という「行為」に限定されますが、218条では保護責任者が継続的支配関係の中で保護を怠る場面を想定しているからです。

例えば、寝たきりの高齢者を自宅で監護している家族が、食事や水分を与えず放置した場合、その高齢者はまさに扶助を必要とする者です。

このような事案では、客体の「扶助を必要とする者」という要件は当然に満たされます。

重要なのは、保護責任者という主体が限定されていることより、刑法はより強い義務違反を処罰しようとしている点です。

一般人による偶発的な移置よりも、保護義務を負う者の放置の方が、法益侵害の危険性が高く、社会的非難も強いと評価されています。

3-3:行為の態様:遺棄と不保護

保護責任者遺棄罪においては、「遺棄し、又はその生存に必要な保護をしないこと」を処罰の対象としています。

ここでいう「遺棄」とは、移置(要保護者を場所的に移動させ放置すること)だけではなく置き去り(要保護者から行為者が移動し放置すること)も指します。

218条ではこれに加えて「不保護」という不作為が明示されています。

遺棄は場所的移動を伴う保護関係の断絶を意味しますが、不保護は場所的移動を伴わず、必要な保護措置を怠ることを指します。

例えば、子供を自宅に放置して食事を与えない場合や医療機関に受診させない場合は不保護に該当します。

ここで重要なのは、218条は真正不作為犯(構成要件が不作為の形式で定められている犯罪)であるという点です。

条文が明示的に「保護をしなかった」と規定しているため、不作為それ自体が構成要件行為とされています。

本条を適用する場合には、「遺棄」なのか「不保護」なのかを丁寧に区別して検討する必要があります。

4章:重要論点:保護責任の発生根拠と不作為

遺棄の罪を理解する上で、最も重要なのが「保護責任はどのようにして発生するのか」という問題です。

218条は、単に放置行為を処罰するのではなく、「保護する責任がある者」に限定して処罰しています。 

したがって、まず保護責任の有無を確定しなければ、犯罪の成否を判断することはできません。

ここでは、保護責任の発生根拠を整理するとともに、不作為犯一般理論との関係を検討します。

4-1:保護責任の発生根拠(四分説)

保護責任者が保護すべき義務を負っているにも関わらず、その責任を放棄することは、扶助を要する人を危険にさらすことと直結するので単純遺棄罪よりも法定刑が重くなっています。

伝統的な見解は、保護責任の発生根拠を以下の四類型に整理しています(四分説)。

  • 法令
  • 契約
  • 事務管理
  • 先行行為

実務では、必ずしもこの四類型に当てはまるかを検討しているわけではなく、より実質的な判断をしていますが、まずは伝統的な見解を押さえておきましょう。

以下、順に解説します。

まず法令に基づく保護義務です。

典型例は親権者です。

民法上、親は未成年の子に対して監護義務を負います。

したがって、親が乳幼児を放置した場合には、法令上の保護責任を根拠として218条が成立し得ます。

次に契約に基づく義務です。

介護契約を締結した介護士や、病院における看護師などは、契約上、被介護者・患者を保護する義務を負います。

この義務を放棄すれば、保護責任者遺棄罪が成立する可能性があります。

第三に事務管理です。

例えば、緊急事態において自発的に高齢者の世話を引き受け、その後保護関係が形成された場合には、事務管理に基づく保護義務が認められる余地があります。

第四に先行行為です。

交通事故を起こして被害者を負傷させた者は、その事故という先行行為によって危険状態を作り出しています。

その結果、救護義務が発生し、これを放棄すれば、保護責任者遺棄罪が成立する可能性があります。

判例は、これらの形式的根拠に加えて、被害者の生命・身体を実質的に管理し、他者が介入しにくい状態(排他的支配)にあるかどうかが重要な判断要素とされています。

すなわち、被害者の生命・身体を実質的に管理支配し、他者が容易に介入できない状態に置いているかどうかが判断の基準となります。

例えば、幼児を自宅に閉じ込め、外部からの救助が困難な状況に置いている場合、排他的支配が強く認められます。

4-2:不作為犯の一般理論との交錯 

218条は、「その生存に必要な保護をしなかったとき」と明示的に規定しており、不作為を構成要件とする真正不作為犯です。

したがって、218条では不作為そのものが構成要件行為となります。

これに対して、不作為による殺人罪は不真正不作為犯です。

199条は、「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の拘禁刑に処する。」と規定しており、条文上は作為を前提としているようにも読めます。

しかし、一定の作為義務がある場合には、不作為によっても殺人罪が成立し得ると解されています。

不作為による殺人罪を検討する場合には、作為義務の存在が構成要件該当性を基礎づける重要な要素となります。

一方で、218条の場合、不作為が条文上明示されているため、まず保護責任の有無を検討し、そのうえで保護行為を怠った事実を認定することになります。

5章:結果的加重犯と罪数・他罪との区別

遺棄の罪の理解を完成させるためには、結果的加重犯である219条の構造、さらに不作為による殺人罪との境界、そして罪数関係の整理まで理解する必要があります。

「どのような場合に重い法定刑が適用されるのか」「罪数はどうなるのか」を意識することが重要です。

そこで、この章ではこれらのことについて解説します。

5-1:遺棄致死傷罪(219条)の構造

219条には「前二条の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、三月以上五年以下の拘禁刑に処する。」と規定されています。

この条文は、217条または218条を基本犯とする結果的加重犯です。

すなわち、単純遺棄罪または保護責任者遺棄罪という基本犯が成立したうえで、その結果として死傷という重大な結果が発生した場合に適用されます。

ここで重要なのは、「よって」という文言です。

これは、結果に対して因果関係が要求されていることを意味します。

すなわち、遺棄行為と死傷結果との間に因果関係が認められなければなりません。

例えば、保護責任者が高齢者に食事を与えず放置した結果、衰弱死した場合には、放置行為と死亡との間に因果関係が認められます。

しかし、放置とは無関係な突発的事故で死亡した場合には、219条は成立しません。

また、結果的加重犯の特徴として、死亡や傷害についての故意は不要です。

例えば、遺棄した際に行為者に殺意がなくとも、死傷結果が発生し、因果関係が認められれば219条が成立します(死傷結果について少なくとも過失があることが必要です。)。

5-2:不作為の殺人罪との境界線

遺棄致死傷罪と最も問題となるのが、不作為による殺人罪との区別です。

まず、両者が大きく異なるのは主観面、すなわち殺意の有無です。

199条には「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の拘禁刑に処する。」と規定されています。

不作為による殺人が成立するためには、作為義務の存在に加えて、死亡結果に対する故意、すなわち殺意が必要です。

なお、この殺意には、確定的故意だけでなく、未必の故意(死亡しても構わないと結果を認容する心理状態)も含まれます。

例えば、寝たきりの高齢者に対して、意図的に水分を与えず、「このまま死んでもいい」と考えていた場合には、未必の故意が認められる可能性があります。

これに対し、「死ぬとは思っていなかったが、結果として死亡してしまった」という場合には、殺意は否定され、219条が問題となります。

境界線の判断では、救命可能性の有無も重要です。

適切な保護を行えば容易に死亡を回避できた状況で、かつ行為者がその危険を認識していた場合には、未必の故意が認定されやすくなります。

他方、死亡の可能性が低いと合理的に信じていた場合には、殺意は否定される傾向にあります。

まず殺意の有無を検討し、殺意が認められれば199条、不成立であれば219条という検討順序を身に着けることが重要です。

5-3:罪数関係

最後に罪数関係を整理します。

まず、保護責任者遺棄致死罪(219条)と過失致死罪との関係です。

通説は、219条が特別法として優先し、保護責任者遺棄致死罪が成立する場合には、過失致死罪は成立しないと解します。

すなわち、遺棄という基本犯を前提とする加重類型が存在する以上、より一般的な過失致死罪は排除されると考えられています。

また、道路交通法違反(救護義務違反)との関係も問題となります。

事故後の放置が問題となる場合、両罪が成立する可能性がありますが、保護責任者遺棄罪は生命・身体の保護を目的とする刑法上の犯罪であり、道路交通法違反とは保護法益を異にするため、観念的競合となる場合が多いと考えられます。

さらに、不作為による殺人罪との関係では、殺意が認められる場合には殺人罪のみが成立し、219条は成立しません。

これは法条競合(1つの行為が外見上は複数の刑罰法規に該当するように見えても、実質的にはそのうちの1つの法条(規定)だけが適用され、一罪として処理)の問題として整理されます。

まとめ:刑法各論 入門:遺棄の罪(217条〜219条)学習のポイント

遺棄の罪は、刑法各論の中でも特に総論との関連性が強い単元の一つです。

単純遺棄罪(217条)、保護責任者遺棄罪(218条)、遺棄致死傷罪(219条)は、それぞれ主体・行為・結果という観点から段階的に整理されています。

学習のポイントは、まず217条と218条の違いを明確にすることです。

217条は、主体が限定されていない一般犯であり、移置という作為行為に限定されます。

これに対し、218条は保護責任者という主体が限定されており、不作為(不保護)を明示的に含む真正不作為犯です。

次に、保護責任の発生根拠を具体的に説明し、排他的支配の概念と結びつけて説明できるようにすることが論文試験対策としては不可欠です。

さらに、219条の結果的加重犯構造を理解し、因果関係を検討する思考を身に付ける必要があります。

そして、不作為の殺人罪との境界では、未必の故意を丁寧に検討する必要があります。

このように、遺棄の罪は単なる条文理解を超えて、刑法体系全体を理解するための重要な架橋となる単元です。

この記事では、初学者の方にもわかりやすいように、一般的な考え方をざっくりと解説しました。

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