【行政法入門1】法律による行政の原理とは?3原則と重要判例を徹底解説
目次
この記事を読んで理解できること
- 法律による行政の原理とは?
- 法律による行政の原理を構成する3つの原則
- 法律の留保の原則が及ぶ行政活動の範囲
- 法律の根拠がない行政活動に関する判例(浦安ヨット事件)
この記事は、
- 法律による行政の原理を理解したい
- 法律の法規創造力の原則・法律の優位の原則・法律の留保の原則の違いを知りたい
- 法律による行政の原理が問題となった判例を知りたい
といった方におすすめです。
行政法の学習を始めてすぐ「法律による行政の原理」という概念が出てきますが、抽象的で明記された条文もないため、「よく分からない」と感じる方は多いのではないでしょうか。
しかし、本質は「国民を縛れるのは、原則として法律だけ」というシンプルなルールです。
あとは、この原理がある理由と具体的な適用場面、例外を整理すれば、基本構造を理解することはそれほど難しくありません。
予備試験でも出題実績のあるテーマですので、まずは全体像をしっかり押さえておきましょう。
そこでこの記事では、
1章で法律による行政の原理とは何か
2章でその原理を構成する3つの原則の違い
3章で法律の留保の原則が及ぶ範囲
4章で法律の根拠がない行政活動に関する有名な判例
について、詳しく解説します。
基礎知識をわかりやすく簡潔にまとめていますので、初学者の方はもちろん、行政法をひととおり学んだ方の復習用にも最適です。
1章:法律による行政の原理とは?
法律による行政の原理とは、行政活動は法律に基づいて行われなければならないという、行政法の基本原理の一つです。
この原理には、自由主義的意義と民主主義的意義の2つの側面があります。
自由主義的意義とは、行政活動をあらかじめ定められた法律で制限することで、行政機関の恣意的な判断で国民の権利・自由が侵害されることを防ぐというものです。
たとえば、税金の徴収や営業停止処分など、行政は私たちの生活や財産に直接影響を与える強い権限を持っています。
こうした権限が法律上の根拠なしに行使されるとすれば、国民の自由は保障されません。
また、民主主義的意義とは、行政が法律に従うことで国民が間接的に行政をコントロールできるという点です。
法律は国民の代表である国会が定めるため、行政が法律に従って動くことは、国民が決めたルールに従うことを意味します。
このように、法律による行政の原理は、国民の自由を守り、行政の民主的統制を実現する行政法の根幹をなす原理といえます。
2章:法律による行政の原理を構成する3つの原則
法律による行政の原理は、以下の3つの原則から成り立っています。
- 法律の法規創造力の原則
- 法律の優位の原則
- 法律の留保の原則
それぞれ説明します。
2-1:法律の法規創造力の原則
法律の法規創造力の原則とは、国民の権利・義務に関するルール(「法規」という)は、国会が制定した法律によってのみ作ることができるという意味です。
「法規」とは、たとえば「○○をしてはならない」「○○の要件を満たす者は許可を受けられる」といった、国民の権利・自由を制限し、または義務を課す規範を指します。
国民生活に直接影響する法規は、国民の代表者が集まる国会において民主的に定められるべきものとされます。
つまり、内閣や各省庁が国会の許可なしに独自のルールを設けて国民を縛ることは、この原則に反して認められません。
憲法41条が国会を「国の唯一の立法機関」と位置づけていることが、その直接的な根拠です。
もっとも、行政機関が法律の枠内で内部的な事務処理のルールを定めること自体は認められます。
これを「行政規則」といい、国民の権利義務に直接の法的効果を及ぼしません。
ただし、行政に迅速で柔軟な対応が求められる場合には、法律が個別に授権したときに限り、行政が法律以外の形で国民の権利や自由を制限できます。
たとえば食品衛生法では、使用できる食品添加物は内閣総理大臣が定めるとされています(食品衛生法第12条)。
2-2:法律の優位の原則
「法律の優位の原則」とは、行政活動は法律の規定に違反してはならないという意味です。
行政活動が法律に抵触する場合、法律が優先され、法律に反する行政活動は取消しまたは無効の対象となります。
そのため、行政が法律に反する処分等を行った場合、不利益を受けた人には、行政不服申立てや処分の取消訴訟など、各種の救済手段が認められています。
では、「法律に反しなければ行政は何をやってもいいか」というと、そうではありません。
それを定めているのが、次に説明する「法律の留保の原則」です。
2-3:法律の留保の原則
「法律の留保の原則」とは、行政が一定の行政活動を行うためには、あらかじめ法律に根拠(授権)が必要だという意味です。
この原則には、法律の根拠なしに行政が国民の権利・自由に介入することを防ぎ、行政権力の乱用を抑制するという意義があります。
もっとも、すべての行政活動に法律の根拠が必要だとすると、行政の迅速・柔軟な対応が困難になるという問題も生じます。
そのため、「どこまでの範囲の行政活動に法律の根拠が必要か」については複数の学説が対立しており、次の章で各学説について解説します。
3章:法律の留保の原則が及ぶ行政活動の範囲
法律の留保の原則は一定の行政活動に法律の根拠を要求しますが、「一定」の範囲については学者間で意見が分かれ、主に以下の4つの学説があります。
- 侵害留保説
- 全部留保説
- 権力留保説
- 重要事項留保説
それぞれ説明します。
3-1:侵害留保説
侵害留保説とは、国民の権利・自由を侵害・制限する行政活動(「侵害行政」という)に限り、法律の根拠が必要だとする学説であり、通説的な考えです。
この説によれば、税の徴収や営業停止命令などは「侵害行政」にあたり、法律の根拠が必要です。
一方、補助金の交付や公共施設の整備のように、国民に便益を与える「給付行政」には、法律の根拠は原則として必要ではないということになります。
3-2:全部留保説
全部留保説とは、侵害行政か給付行政かを問わず、すべての行政活動に法律の根拠が必要だとする学説です。
「行政はすべての場面で国民の代表である国会の授権を受けて動くべきだ」という民主主義の要請を徹底した考え方で、行政活動を最も厳しく制約する立場です。
しかし、すべての行政活動に法律の根拠を求めることは現実的に難しく、行政の迅速・柔軟な対応を著しく妨げるという批判があります。
3-3:権力留保説
権力留保説とは、権力的な行政活動には法律の根拠が必要だとする学説です。
侵害行政か給付行政かという内容面で区別するのではなく、その行為の形式が「権力的か否か」で線引きをします。
権力的行政とは、国民の意思とは関係なく、行政機関が一方的に法的効果を生じさせる行政活動のことです。
典型例には、課税処分や許可の取消しなどが挙げられます。
ただし、給付行政であっても、補助金交付決定のように、行政が一方的に国民の権利を決める行為であれば、法律の根拠が必要となる場合があるということです。
一方、行政契約(当事者の合意に基づくため)や行政指導(任意の協力を求めるため)は権力的ではないため、法律の根拠は不要ということになります。
3-4:重要事項留保説
重要事項留保説とは、国民の基本権や生活に重要な影響を与える行政活動については法律の根拠が必要だとする学説です。
この説においてどのような行政活動が対象となるかは、次の2つの基準で判断されます。
① 国民の権利を侵害するかどうか
自由や財産を直接侵害する場合だけでなく、制裁的な氏名公表など、基本的人権に影響を与えるものも対象とします。これは、侵害留保説を拡張する考え方です。
② 行政ではなく国会が決定すべき重要事項かどうか
国民への直接的な利益・不利益とは別に、国にとって重要な決定は、国民の意思を国会で反映させるべきだという民主主義の考え方に基づきます。
たとえば、国土開発計画や基幹的補助金、行政組織の基本構造など国の将来を左右する大きな方針がこれにあたります。
ただし、この説では「何が重要事項か」の判断基準が明確でなく、解釈に幅が生じやすいという批判があります。
4章:法律の根拠がない行政活動に関する判例(浦安ヨット事件)
最後に、法律による行政の原理が実際の裁判でどのように問題となったかを確認しましょう。
ここでは、法律の根拠がない行政活動について争われた有名な判例「浦安ヨット事件」(最判平成3年3月8日)について解説します。
■事件の概要
千葉県浦安町の境川で、ヨットクラブが必要な許可なくヨット係留用の鉄杭約100本を全長約750mにわたって打ち込んだ。
これにより航行可能な水路が浅瀬の左岸側のみとなり、船舶の航行が危険な状態に陥った。
撤去要請に応じないヨットクラブに対し、浦安町長(被告)は公金で鉄杭を強制撤去。
この公金支出が違法だとして、町民(原告)が住民訴訟を提起し、町長への損害賠償を求めた。
■争点
鉄杭が打ち込まれた場所は浦安漁港の区域内にあり、旧漁港法上、浦安町が漁港管理者に指定されていた。
しかし、漁港の維持・管理に必要な漁港管理規定を定めていなかったため、鉄杭撤去の法的根拠が存在しなかった点が問題となった。
■最高裁の判決内容
・鉄杭の強制撤去自体は漁港法および行政代執行法上違法
← 漁港管理規定が未整備で法的根拠がなかったため
・しかし、民法720条(緊急避難の規定)の趣旨から公金支出についての違法性は否定され、被告の損害賠償責任は問われない
←鉄杭の強制撤去は緊急の事態に対処するためやむを得ない措置であったため
■この判例のポイント
法的根拠のない行為そのものは違法としつつも、緊急性を考慮して損害賠償責任は否定した判例です。
ただし、「緊急時であれば法律の留保の原理は不要」と一般的に認めたわけではない点に注意しましょう。
まとめ
「法律による行政の原理」とは、行政活動は法律に基づいて行われなければならないという行政法の基本原理であり、次の3つの原則から成り立っています。
- 法律の法規創造力の原則:国民の権利義務に関するルール(法規)を作れるのは国会のみ
- 法律の優位の原則:行政活動は法律に違反してはならない
- 法律の留保の原則:一定の行政活動には法律の根拠が必要
また、法律の留保の原則が及ぶ行政活動の範囲については、主に次の4つの学説があります。
- 侵害留保説:侵害行政にのみ法律の根拠が必要
- 全部留保説:すべての行政活動に法律の根拠が必要
- 権力留保説:権力的行政活動に法律の根拠が必要
- 重要事項留保説:国民生活に重要な事項に法律の根拠が必要
まずは3つの原則の違いを確実に区別し、そのうえで法律の留保の範囲の学説を整理していきましょう。
この記事では、初学者の方にもわかりやすいように基本的な考え方を解説しています。
本記事を参考にしながら、判例とも結び付けて復習し、行政法の理解を深めていってください。
判例などの詳細な解説や、実践的な答案の書き方を知りたい方は、ヨビロン行政法のテキストをご購入いただけると幸いです。


コメント