【刑法各論入門9】名誉毀損罪と侮辱罪の違いを比較表で解説|成立要件からSNS事例まで
目次
この記事を読んで理解できること
- 名誉毀損罪・侮辱罪の全体像
- 名誉毀損罪(230条)の成立要件
- 侮辱罪(231条)との違いと2022年改正
- SNS時代の適用と予備試験重要論点
この記事は、
「刑法各論の入門として名誉毀損罪・侮辱罪を理解したい」
「予備試験で名誉毀損罪が問われる論点を押さえたい」
という方におすすめです。
インターネットやSNSが日常生活の一部となった現代において、「誹謗中傷」は誰にとっても身近な問題になっています。
何気ない投稿やコメントが、知らないうちに刑事責任を問われる可能性があることは、あまり意識されていないかもしれません。
刑法第34章には、人の名誉を保護するための犯罪として「名誉毀損罪」と「侮辱罪」が規定されています。
どちらも似たような場面で問題となるため、刑法各論の入門段階の初学者にとっては区別が難しい分野の一つです。
しかし、予備試験や司法試験では、「事実の摘示の有無」や「違法性阻却事由の適用」といったポイントが問われるため、正確な理解が不可欠です。
そこで、この記事では、刑法230条・231条を中心に、両罪の構造、違い、判例、そして2022年改正のポイントまで体系的に解説します。
SNS時代に必須の知識として、実務にも試験にも役立つ内容を整理します。
具体的には、
1章では、名誉毀損罪・侮辱罪の全体像
2章では、名誉毀損罪(230条)の4つの成立要件
3章では、侮辱罪(231条)との違いと2022年改正
4章では、SNS時代の適用と予備試験頻出論点
をそれぞれ解説します。
この記事を読んで名誉に対する罪について理解を進めましょう。
1章:名誉毀損罪・侮辱罪の全体像
名誉毀損罪と侮辱罪は、いずれも「人の名誉」を保護する犯罪ですが、その内容や成立要件には違いがあります。
この章では、まず両罪の全体像と保護法益を解説します。
1-1:なぜ人の名誉を傷つけると罰せられるのか?
刑法が名誉毀損や侮辱を処罰する理由は、人が社会で生きていくためには「社会的評価」が不可欠だからです。
人は単独で生活する存在ではなく、社会的な関係の中で信用や評価を基盤として活動しています。
もし他人から虚偽の事実を流されたり、不当に侮辱されたりすれば、その人の社会生活は著しく害されることになります。
例えば、会社員が「横領している」と虚偽の情報を流された場合、その人は職場での信用を失い、仕事や人間関係に重大な影響を受けるでしょう。
このような事態を防ぐために、刑法は名誉を保護する規定を設けています。
1-2:保護法益は「外部的な社会評価」
名誉毀損罪と侮辱罪の保護法益は、一般に「外部的名誉」、すなわち社会的評価とされています。
ここでいう名誉は、本人の主観的な感情(名誉感情)ではなく、第三者からどのように評価されているかという外部的な社会評価を指します。
そのため、たとえ本人が傷ついていなくても、社会的評価を低下させる行為があれば犯罪が成立し得ます。
逆に、本人が強く傷ついたとしても、社会的評価に影響がなければ名誉毀損罪は成立しません。
この点は、侮辱罪との関係でも重要です。
侮辱罪は抽象的表現であっても成立しますが、あくまで社会的評価を低下させるおそれがあるかが問題となります。
なお、判例も同様に、社会的評価を侮辱罪の保護法益としており、法人に対する侮辱罪の成立を認めています(最決昭和58年11月1日)。
2章:名誉毀損罪(230条)の成立要件
名誉毀損罪は、刑法230条に規定される犯罪であり、これを理解するには、条文から導かれる構成要件を正確に理解することが重要です。
そこで、この章では名誉毀損が成立するための要件を紹介した上で、違法性が阻却される場合について解説します。
2-1:構成要件を分解して理解する
刑法230条1項は次のように規定しています。
「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。」
この条文は、次のように分解できます。
まず「公然性」です。
これは、不特定または多数人が認識し得る状態を意味します。
例えば、職場で他の多くの同僚に聞こえるような声で、不名誉なことを言う場合などが該当します。
また、SNSを使って名誉を傷つけられた場合や、誰もが閲覧できるブログなどで名誉を傷つけられた場合も当てはまります。
実際に多数人が閲覧したかどうかではなく、「閲覧される可能性」があれば足ります。
次に「事実の摘示」です。
これは、具体的な事実を示すことを意味します。
例えば、「あの人は●●の殺人事件に関与している犯罪者だ」といった表現や「●●という反社会的勢力の一員である」「上司の●●と不倫関係にある」といったデマを流すことなどが該当します。
第三に「人の名誉の毀損」です。
ここでいう名誉とは、世間の評価や名声などの外部的名誉(社会的名誉)のことを指します。
一般的にプライドや自尊心などと呼ばれる名誉感情は含まれません。
毀損とは社会的評価を低下させるおそれのある行為のことです。
実際に社会的評価が低下することまでは求められず、低下のおそれがあればよいとされています。
最後に、「真実がどうかは問わない」ということです。
つまり、虚偽でも真実でも、吹聴したり書き込んだりした場合、名誉毀損罪は成立し得るのです。
特に重要なのは「真実であっても成立し得る」という点です。
これは名誉毀損罪の大きな特徴であり、侮辱罪との違いを理解する上でも重要です。
2-2:【重要】違法性阻却事由(230条の2)
刑法230条の2は、名誉毀損罪の違法性阻却を定めています。
「前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。」
この規定は、「公共性」「公益目的」「真実性」の3つの要件を満たす場合には処罰しないとしています。
公共の利害に関する事実(公共性)とは、表明した事柄が、社会的に利益をもたらす事実であることをいいます。
例えば、政治家などの公人や、社会的影響力の大きい者などによる私生活上の行為は公共性があると判断される可能性があります。
これに対して、一般人の不貞行為に関する事項などは、公共性は認められにくいでしょう。
なお、第230条の2第2項の規定により、起訴される前の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなされます。
次に「もっぱら公益を図る目的」とは、事実を表明する行為について、主として公益の目的があることを指します。
個人的な報復や嫌がらせ、報酬を得るためなどではなく、その事実の表明が社会の利益になることを目的としている必要があります。
さらに「表明した事実が真実であること」(真実性)が必要です。
たとえ、公共性のある事項を公益の目的で公開したとしても、それが虚偽の情報であった場合には、違法性は阻却されません。
なお、実際の裁判では、真実であることの証明は行為者(事実を示した者)が行う必要があります。
この点、判例は、真実性が証明できない場合でも、「行為者がその事実を真実であると誤信し、その誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるとき」は犯罪の故意がないとしています(最判昭和41年6月23日)。
なお、同条第3項の規定により、公務員または公選による候補者に関する事実については、公共性・公益性は要件とされず、真実であることの証明があれば違法性が阻却され、罪になりません。
3章:侮辱罪(231条)との違いと2022年改正
侮辱罪については近年の社会現象を踏まえて、2022年に改正されました。
そこで、この章では、名誉毀損罪と侮辱罪の違いを整理したうえで、2022年改正によって何が変わったのかを解説します。
両罪は試験でも比較対象となり得る重要テーマであり、とりわけ「事実の摘示の有無」という区別は論述の核となるポイントです。
また、近年の厳罰化の流れを踏まえた理解も不可欠です。
条文の違いだけでなく、実務や試験でどのように使い分けるかという視点を意識して読み進めてください。
3-1:決め手は「事実の摘示」の有無
刑法231条は次のように規定しています。
「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、一年以下の拘禁刑若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。」
侮辱罪は、事実を摘示せずに、「公然と人を侮辱した」ことが成立要件になっています。
具体的には、事実を摘示せずに、不特定又は多数の人が認識できる状態で、他人に対する軽蔑の表明を行うと、侮辱罪の要件に該当することになります。
ここで重要なのは、「事実の摘示が不要」である点です。
例えば、「バカ」「無能」といった抽象的表現は侮辱罪に該当します。
一方、「横領した」という具体的事実の指摘は名誉毀損罪を検討することになります。
したがって、侮辱罪と名誉毀損罪の最大の違いは「具体的事実か抽象的評価か」にあります。
3-2:厳罰化された侮辱罪の法定刑
2022年の刑法改正により、侮辱罪の法定刑は大幅に引き上げられました。
改正前は「拘留または科料」でしたが、改正後は「1年以下の懲役・禁錮または30万円以下の罰金」となりました(その後、懲役・禁錮刑が拘禁刑に一本化されたため、現在では、「一年以下の拘禁刑若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」となっています)。
このような背景には、近時、インターネット上で人の名誉を傷つける行為が特に社会問題化していることをきっかけに、非難が高まり、抑止すべきとの国民の意識が高まっていたことが挙げられます。
侮辱罪と名誉毀損罪の間には、事実の摘示を伴うか否かという点で差異があり、人の名誉を傷つける程度が大きく異なると考えられていたことから、法定刑に大きな差が設けられていました。
しかし、近年における侮辱罪の実情からは、事実の摘示を伴うか否かによって、大きな法定刑の差を設けておくことはもはや相当ではなく、侮辱罪についても、厳正に対処すべき犯罪であるという法的評価を示し、これを抑止するとともに、悪質な侮辱行為に厳正に対処するため、名誉毀損罪に準じた法定刑に引き上げることとされたものです。
3-3:比較表で一目瞭然!両罪の相違点まとめ
名誉毀損罪と侮辱罪はそれぞれ社会的評価を保護法益とする名誉に対する罪です。
しかし、両罪は、事実の摘示の要否や違法性阻却に関する規定の有無などいくつかの相違点もあります。
このような違いを正確に把握することで、両罪の理解が進みます。
両罪の違いは以下の比較表にまとめましたのでしっかりと確認しておきましょう。
4章:SNS時代の適用と予備試験重要論点
名誉毀損罪と侮辱罪を理解するためには、SNSなどが多用されている現代社会でどのように適用されるのかを理解する必要があります。
特にインターネット上の発言は拡散性が高く、従来の法理を前提としつつも、その特性を踏まえた理解が不可欠です。
また、予備試験で重要となる論点を刑法各論の入門段階から正確に理解しておくことが重要です。
そこで、この章では、これらを分かりやすく解説します。
4-1:インターネット投稿への適用(リポストや匿名性)
SNSなどのインターネット上での投稿も、基本的に名誉毀損罪・侮辱罪の枠組みで、判断されます。
特に重要なのは「公然性」であり、不特定または多数人が認識し得る状態にあれば成立が認められます。
フォロワー限定であっても、拡散可能性があれば公然性は肯定されやすい点に注意が必要です。
また、リポストや引用投稿も問題となります。
他人の投稿であっても、その内容を認識して拡散すれば、独立した名誉毀損行為と評価される可能性があります。
さらにコメント付きで拡散した場合は、より責任が認められやすくなります。
さらに、匿名投稿であっても責任は免れません。
4-2:予備試験で狙われる解釈のポイント
試験対策として重要なのは、「事実の摘示」と「意見・論評」の区別です。
名誉毀損罪は事実の摘示を要件とするため、具体的事実か評価表現かを文脈から判断する必要があります。
次に、「公然性」の判断も頻出です。
特定少数への発言でも、外部への伝播可能性があれば公然性が認められる点を押さえておくことが重要です。
さらに、名誉毀損罪では違法性阻却事由(230条の2)が重要論点となります。
「公共性」「公益目的」「真実性」の3要件を順に検討し、具体的事情に即して違法性阻却事由の有無を判断することが求められます。
特に真実性は、真実でなくても、「行為者がその事実を真実であると誤信し、その誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由」があれば故意が否定される点がポイントです。
このように、名誉毀損罪や侮辱罪では条文理解に加え、判例の枠組みと当てはめの精度が問われます。
予備試験の論文対策では、結論だけでなく、その理由を丁寧に示すことが重要です。
まとめ
名誉毀損罪と侮辱罪は、いずれも人の社会的評価を保護する犯罪ですが、その違いは「事実の摘示」の有無にあります。
具体的事実を示して評価を低下させる場合は名誉毀損罪、抽象的な評価や侮蔑的表現にとどまる場合は侮辱罪となります。
この区別は、試験においても最も重要な判断ポイントです。
また、名誉毀損罪では、刑法230条の2による違法性阻却が重要です。
公共性・公益目的・真実性の3要件を順に検討し、具体的事情に即して判断することが求められます。
これにより、表現の自由と名誉保護のバランスを理解できます。
さらに、2022年改正により侮辱罪が厳罰化されたことから、SNS上の発言にも一層の注意が必要です。
インターネット上の投稿は拡散性が高く、軽い発言でも刑事責任を問われる可能性があります。
試験対策としては、「事実の摘示か否か」「公然性」「違法性阻却」の順で検討する思考プロセスを身につけることが重要です。
これらを体系的に整理することで、どのような事案にも対応できる力が養われます。
この記事では、初学者の方にもわかりやすいように、一般的な考え方を体系的に整理して解説しました。
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