【民事訴訟法入門3】初学者に難解な「当事者の確定」について徹底解説!
目次
この記事を読んで理解できること
- 通常の事件における当事者確定
- 死者名義訴訟の当事者確定
- 氏名冒用訴訟の当事者確定
- 法人格濫用事例の当事者確定
この記事は、
- 民事訴訟で当事者を確定する方法を知りたい
- 当事者の確定に関する論点について理解したい
- 当事者の確定についての学説が難しくてわからない
といった方におすすめです。
当事者の確定は、民事訴訟法の基本書や予備校本では序盤に登場する論点ですが、実は非常に複雑です。
学説も錯綜しているため、ここでつまずいてしまった人も多いのではないでしょうか。
実は、一般的に「当事者の確定」と言われる論点は、実務上は非常に例外的な事象を扱っています。
この記事でも紹介する死者名義訴訟や氏名冒用訴訟などは、普通は発生しない病理現象といえます。
そのため、重要なのは最初から例外についてあれこれ考えるのではなく、「通常の事件ではどうやって当事者を確定するのか」からスタートすることです。
実務上当たり前に行われている当事者の確定方法から学ぶことで、例外的な事象についても理解しやすくなります。
そこで、この記事では、
第1章で通常の事件における当事者確定について、
第2章で死者名義訴訟の当事者確定について、
第3章で氏名冒用訴訟の当事者確定について、
第4章で法人格濫用事例の当事者確定について、
それぞれ解説します。
基礎知識をわかりやすく簡潔に説明しますので、初学者の方はもちろん、憲法をひと通り学んだ方のまとめ用にも最適です。
第1章 通常の事件における当事者確定
この章では、普通の訴訟ではどうやって当事者を確定するのかを解説します。
1-1 当事者が個人の場合
通常であれば、訴状の記載(134条2項)によって当事者が誰かは明白になります。
例えば、
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〒123-4567 東京都〇〇区△△△ 被告 田中 太郎 |
のように住所・氏名で当事者が特定されることが一般的です。
1-2 当事者が法人の場合
例えば、訴状に
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株式会社東京商事 代表取締役 田中 太郎 |
と記載されていた場合、当事者は誰でしょうか?
答えは、田中太郎さん……ではありません。
民事訴訟法の条文を読んでみましょう。
(訴え提起の方式)
第百三十四条 訴えの提起は、訴状を裁判所に提出してしなければならない。
2 訴状には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 当事者及び法定代理人
二 請求の趣旨及び原因
(法人の代表者等への準用)
第三十七条 この法律中法定代理及び法定代理人に関する規定は、法人の代表者及び法人でない社団又は財団でその名において訴え、又は訴えられることができるものの代表者又は管理人について準用する。
134条2項1号により「当事者及び法定代理人」が必要的記載事項となり、法人において37条により代表者が法定代理人と同じ扱いを受けるため、代表取締役の名前が必要的に記載されているのです。
そのため、当事者は「株式会社東京商事」となります。
1-3 当事者の表示に誤記がある場合
例えば、田中太郎さんを被告として訴えようとしたときに、誤って「田中一郎」と記載してしまった場合はどうなるでしょうか。
訴状の表示を文字どおりに読むと、被告は田中太郎さんではなく「田中一郎」ということになってしまいそうですが、さすがにそれは不便すぎますよね。
このように、訴状の当事者欄だけで当事者を確定する見解を「形式的表示説」といいます。
このような問題を解決する見解として、「実質的表示説」があります。
訴状の記載をただ形式的に読むだけではなく、請求の趣旨や請求の原因から、誰が当事者であるかを実質的に判断するということです。
訴状全体の記載から、原告が訴えたい相手は田中太郎さんで、「田中一郎」は誤記であることがわかれば、当事者は田中太郎さんとなります。
この場合、表示の訂正によって対応すればよく、法律上の問題は特に生じません。
1-4 間違えて別人を訴えてしまった場合
さらにややこしい例として、田中太郎さんと間違えて、別人である田中一郎さんを訴えてしまった場合を考えてみましょう。
本当は田中太郎さんを訴えたかったけれど、訴状の表示は「田中一郎」で、訴状全体をどう読んでも被告が田中一郎さんとしか読み取れないような場合、実質的表示説に立っても当事者は田中一郎さんとなります。
そうすると、当事者を田中一郎さんから田中太郎さんに変更することが必要です。
この場合、最初の被告以外の人に訴えを向けかえるので、表示の訂正ではなく任意的当事者変更という手続になります(同じ訴訟の中で、田中太郎さんへの訴訟提起と田中一郎さんへの訴訟取下げを合わせて行うということです)。
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訴状の表示 |
原告が訴えたかった相手 |
実質的表示説により確定した当事者 |
手続 |
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「田中一郎」 |
田中太郎 |
田中太郎 |
表示の訂正 |
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「田中一郎」 |
田中太郎 |
田中一郎 |
任意的当事者変更 |
ここまでが基本的な考え方となります。
以上を理解していただいた上で、次章から具体的な論点について見ていきましょう。
第2章 死者名義訴訟の当事者確定
ここからは「例外的な事象」にあたる論点として、
- 死者名義訴訟
- 氏名冒用訴訟
- 法人格濫用事例
の3つを解説します。
まずは死者名義訴訟から解説します。
以下の事例を見てみましょう。
・大判昭和11年3月11日 百選5
XはYに対して訴訟を提起したが、Yは既に死亡していた。訴状を同居人Aが受領したため、相続人Zは訴訟の存在を知らなかった。よって、被告欠席のため擬制自白が成立し、請求認容判決が下された。
その後、判決が送達不能となったことにより、XはYが死亡していた事実を知った。そこで、Zに対して訴訟受継を求め、第一審判決を取り消してZとの訴訟手続を行うためにXが控訴を提起した。
少し複雑な事案なので、時系列をまとめます。
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【時系列】 ↓ XはY死亡を知らず、Yに対して訴訟提起 ↓ 同居人Aが訴状を受領 ↓ 被告欠席のため、請求認容判決 ↓ 判決が送達不能のため、XはY死亡を知る。 ↓ Zとの訴訟手続を行うためにXが控訴 |
この事例のように、訴状が送達される前に、被告とされた者が死亡していた場合を、一般的に死者名義訴訟といいます。
控訴審では、裁判所は死者を被告とする訴えは不適法であり、訴訟係属が認められないとして、Xの訴えを却下しました。
そこで、Xが上告したところ、最高裁は「実質上の被告」がZであるとして、第一審に差し戻す判決を下しました。
このように、控訴審と上告審は正反対の結論を出していますが、重要なのは「一般論としては控訴審の判断にも一理ある」ということです。
例えば、上記の事例で、仮に判決も同居人Aが受領して、そのまま判決が確定したとしましょう。
もし「実質上の被告」が相続人Zであるとすると、Zは何も知らないまま敗訴が確定してしまいます。
これは明らかにZが気の毒であり、Zにも訴訟で争う機会を与えるべきではないでしょうか。
これに対し、判例の事案では、Xはあえて控訴することで、Zに訴訟で争う機会を与えようとしているのです。
そして、Xの控訴を認めれば、これまでの訴訟手続が無駄になることもないので、XとZ両方にとってウィンウィンの結果となります。
そうすると、最高裁は、死者名義訴訟は必ず相続人が被告になると判断したわけではなく、本件はZに訴訟で争う機会が認められるからこそZが当事者であると認定したという、事例判決(ケースバイケースの判断)である可能性が高いといえます。
第3章 氏名冒用訴訟の当事者確定
続いて、氏名冒用訴訟について解説します。
氏名冒用訴訟とは、
- 原告が別人の名を騙って訴訟を提起すること
- 訴状に被告と記載された者の名を騙った人物が応訴すること
をいいます。
簡単に言えば、「別人になりすまして訴訟をする」ということです。
判例を見てみましょう。
・大判昭和10年10月28日 百選4
XがYに訴訟を提起したところ、Xが勝訴して判決が確定した。
その後、Yは、「別人が委任状を偽造して弁護士に依頼して訴訟行為を行った」と主張した。
最高裁は、別人が被告になりすまし、代理人弁護士に委任して訴訟行為を行った場合、再審事由が認められると判断しました。
【条文】
(再審の事由)
第三百三十八条 次に掲げる事由がある場合には、確定した終局判決に対し、再審の訴えをもって、不服を申し立てることができる。ただし、当事者が控訴若しくは上告によりその事由を主張したとき、又はこれを知りながら主張しなかったときは、この限りでない。
一 法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと。
二 法律により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと。
三 法定代理権、訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたこと。
2(略)
再審とは、確定した判決をやり直す手続のことです。
氏名冒用訴訟は、「必要な授権」を欠く者が勝手に訴訟行為をしているため、338条1項3号の再審事由が認められると判断されました。
学説上の見解は分かれていますが、判例の考え方を文字通りに解釈すると、本件の被告は一応Yであるため判決の効力は及ぶものの、再審が認められるということになると考えられます(下記【コラム】の二重規範説(規範分類説)に立った場合、そもそもYは当事者ではなく、判決の効力も及ばないということになります)。
【コラム】二重規範説(規範分類説)
この記事では、初学者の方でも混乱しないように判例の見解を中心に解説していますが、論文試験を控えている方は、二重規範説(規範分類説)という見解を押さえておくことをおすすめします。
これは、当事者の確定方法を、訴状を送達する段階とその後の段階とで分けるというものです。
訴状を送達する段階では、誰を当事者として訴訟を進めていくべきかは訴状の中身から判断するしかありません。そのため、この段階では実質的表示説と同じ基準で判断されます。
他方、訴状が送達されてから手続が進んだ段階では、訴訟行為が積み重ねられることで、訴状以外にも判断材料が存在します。
そのため、この段階では、当事者の意図、行動、判決の有効性、手続保障等を総合考慮して当事者を確定することになります。
このように、訴訟の進行に合わせて柔軟な判断が可能になる点が二重規範説(規範分類説)の長所です。
論文試験ではこの見解がかなり役に立ちます。
詳細はヨビロンテキストに記載しておりますので、ぜひご参照ください。
第4章 法人格濫用事例の当事者確定
最後に、法人格濫用事例について解説します。
まずは以下の判例を見てみましょう。
複雑な事例ですが、時系列を整理しながら解説するのでご安心ください。
・最判昭和48年10月28日
XはA社(○○株式会社)に対し、賃貸借契約終了に基づく居室明渡請求訴訟を提起しようとした。その直前にA社は商号を「△△株式会社」に変更し、A社の前商号と同じ「○○株式会社」という商号でY社が設立された。Y社の代表取締役、監査役、本店所在地、営業所、備品、従業員はA社とほとんど同一であった。Xはその事実を知らなかったため、被告の表示をA社の旧商号である「○○株式会社」として訴えを提起してしまった。
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【時系列】 ↓ A社が商号を「△△株式会社」に変更 同じ住所に「○○株式会社」という商号のY社設立 ↓ XがA社を訴えるつもりで「○○株式会社」に提訴 |
上記のとおり、A社は、Xからの提訴を免れるために、別の会社を設立してまぎらわしい状況を作り出しています。
これに対し、最高裁は以下のとおり判断しました。
(判旨)
「新旧両会社は商号のみならずその実質が前後同一であり、新会社の設立は、被上告人に対する旧会社の債務の免脱を目的としてなされた会社制度の濫用であるというべきであるから、上告人は、取引の相手方である被上告人に対し、信義則上、上告人が旧会社と別異の法人格であることを主張しえない筋合にあり、したがつて、上告人は前記自白が事実に反するものとして、これを撤回することができ」ない。
このように、最高裁は、新会社と旧会社が実質的に同一であり、債務の免脱を目的とした会社制度の濫用であるため、法人格が異なることは信義則上主張できないと判示しました。
第5章 まとめ
■第1章まとめ
当事者の確定は、まずは「普通の事件ではどうなるか」という観点が重要です。
当事者が個人の場合は氏名と住所で特定しますが、法人の場合は代表者の氏名も必要となります。
実質的表示説によれば、請求の趣旨や請求の原因から、誰が当事者であるかを実質的に判断するため、単なる誤記などは表示の訂正によって対応できます。
■第2章まとめ
訴状が送達される前に、被告とされた者が死亡していた場合を、一般的に死者名義訴訟といいます。
最高裁は、相続人を「実質上の被告」であると判断しましたが、必ずそうなるのではなく、訴訟で争う機会が認められるかというケースバイケースの判断になると考えられます。
■第3章まとめ
氏名冒用訴訟とは、
- 原告が別人の名を騙って訴訟を提起すること
- 訴状に被告と記載された者の名を騙った人物が応訴すること
をいいます。
最高裁は、別人が被告になりすまして訴訟行為を行った場合、再審事由に該当すると判断しました。
■第4章まとめ
提訴を免れるために、実質的に同一の別会社を設立するような場合を、法人格濫用事例といいます。
最高裁は、新会社と旧会社が実質的に同一であり、債務の免脱を目的とした会社制度の濫用であるため、法人格が異なることは信義則上主張できないと判示しました。
この記事では、初学者の方にもわかりやすいように、一般的な考え方をざっくりと解説しています。
判例などの詳細な解説や、実践的な答案の書き方を知りたい方は、ヨビロン民事訴訟法のテキストをご購入いただけると幸いです。


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