【刑事訴訟法入門4】勾留とは何か─事件単位の原則・逮捕前置主義・一罪一勾留を体系的に解説

監修者
講師 赤坂けい
株式会社ヨビワン
講師 赤坂けい
【刑事訴訟法入門4】勾留とは何か─事件単位の原則・逮捕前置主義・一罪一勾留を体系的に解説
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この記事を読んで理解できること
  • 勾留制度の基本的枠組み
  • 事件単位の原則
  • 逮捕前置主義
  • 逮捕の違法と勾留
  • 再逮捕・再勾留
  • 一罪一勾留の原則

「逮捕されたら、そのままずっと身柄を拘束されるの?」

「勾留と逮捕って、何が違うの?」

「事件単位の原則とか逮捕前置主義とか、名前は聞いたことあるけど、何を意味しているの?」

刑事訴訟法の学習を進める中で、このような疑問を抱えている方は少なくないのではないでしょうか。

逮捕は短期の身柄拘束ですが、捜査を継続するためにはより長期の身柄拘束である「勾留」が必要になります。

勾留は、逮捕に引き続く重要な処分であり、その要件・手続・限界を正確に理解することは、刑事訴訟法全体の理解に不可欠です。

予備試験・司法試験では、勾留の適法性が正面から問われるだけでなく、逮捕の違法が勾留に影響するか、一罪一勾留の原則のもとで複数の勾留が認められるか、といった応用的な論点も頻出です。

本記事では、刑事訴訟法の条文と判例を正確に引用しながら、勾留の要件・期間、事件単位の原則、逮捕前置主義、逮捕の違法と勾留の関係、再逮捕・再勾留、一罪一勾留の原則について体系的に解説します。

この記事で学べること

  • 【初級】勾留の意義・要件・期間の基本的枠組み
  • 【初中級】事件単位の原則の内容と二重逮捕・二重勾留の問題
  • 【中級】逮捕前置主義の趣旨と逮捕・勾留の被疑事実の同一性
  • 【中上級】逮捕の違法が勾留に及ぼす影響と裁判例の分析
  • 【中上級】再逮捕・再勾留の可否と一罪一勾留の原則

第1章 勾留制度の基本的枠組み

1-1 勾留の意義

勾留とは、被疑者・被告人を一定期間身柄を拘束する強制処分です。

逮捕(短期の身柄拘束)と異なり、勾留は比較的長期にわたる身柄拘束であり、原則として裁判官の令状(勾留状)が必要です。

被疑者勾留の根拠規定は刑訴法60条・207条であり、被告人勾留の根拠は60条です。

刑訴法60条1項

「裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。

一 住居不定のとき。

二 罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。

三 逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。」

1-2 勾留の要件

被疑者を勾留するためには、以下の要件を満たす必要があります。

【表1:勾留の要件】

【表1:勾留の要件】

1-3 勾留の期間

被疑者勾留の期間は、勾留請求の日から10日間です(刑訴法208条1項)。

やむを得ない事由があるときは、裁判官の判断により最大10日間延長でき、通算最大20日間となります(同条2項)。

内乱・外患等の一部の重大犯罪については、さらに延長が認められる場合があります(刑訴法208条の2)。

刑訴法208条

「1項 前条の規定により被疑者を勾留した場合において、やむを得ない事由があると認めるときは、検察官の請求により、裁判官は十日間に限り第二百五条の規定による勾留の期間を延長することができる。

2項 裁判官は、やむを得ない事由があると認める場合でなければ、前項の請求を許可することができない。」

【表2:被疑者勾留の期間】

【表2:被疑者勾留の期間】

1-4 なぜ勾留が試験で重要か

予備試験・司法試験において、勾留が重要である理由は主に以下の3点です。

第一に、刑事手続全体の中核に位置する論点であることです。逮捕に引き続く身柄拘束として、その後の起訴・不起訴の判断に直結します。

違法な勾留のもとで得られた証拠の証拠能力が争われる場面も少なくありません。

第二に、多数の重要論点が集中していることです。

事件単位の原則、逮捕前置主義、一罪一勾留の原則など、相互に関連する複数の論点が連鎖的に問われることが多く、体系的な理解が不可欠です。

第三に、逮捕との関係を正確に把握する必要があることです。

【刑事訴訟法入門3】で解説した逮捕の適法性は、それに引き続く勾留の可否に直接影響します。逮捕と勾留を一体として理解することが、答案における論理的な展開につながります。

参考:【刑事訴訟法入門3】逮捕の3類型通常逮捕・現行犯逮捕・緊急逮捕の要件と判例を体系的に解説

第2章 事件単位の原則

2-1 事件単位の原則の意義

事件単位の原則とは、①逮捕・勾留は被疑事実ごとに行われ、②手続上に顕在化していない被疑事実を、身柄拘束を基礎付ける方向で考慮することはできない、という原則です。

この原則は、単一の問題に対する答えを示すものというよりも、二重逮捕・二重勾留の可否、勾留延長・保釈の際の余罪の考慮、一罪一勾留の原則など、複数の問題に共通する考え方を示すものとして機能しています。

2-2 二重逮捕・二重勾留の可否

同一の被疑者について複数の事実に嫌疑がある場合、同時に複数の逮捕・勾留を行うことができるかという問題があります。

この点については、かつて事件単位説と人単位説の対立がありました。

【表3:事件単位説と人単位説の比較】

【表3:事件単位説と人単位説の比較】

現在の実務・通説は事件単位説の立場をとり、「①逮捕・勾留は被疑事実ごとに行われ、②手続上に顕在化していない被疑事実を、身柄拘束を基礎付ける方向で考慮することはできない」という2点が、事件単位の原則の本来的な内容とされています。

2-3 勾留延長・保釈の際の余罪の考慮

事件単位説によれば、勾留の延長や保釈の判断に際して、勾留の基礎とされていない被疑事実(余罪)を、身柄拘束を基礎付ける方向で考慮することはできないのが原則です。

もっとも、勾留延長の判断については、余罪について捜査することが、勾留の基礎とされた被疑事実について起訴・不起訴の決定をするために必要である場合には、その余罪を考慮することが認められています(横浜地決昭42・2・2下刑集9・2・161)。

ただし、これは勾留の基礎とされた被疑事実の捜査の一部として余罪の捜査を行うものであって、余罪自体の捜査のために勾留延長を認めるものではありません。

第3章 逮捕前置主義

3-1 逮捕前置主義の意義と根拠

被疑者を勾留するためには、その前に逮捕が先行していなければなりません。

これを「逮捕前置主義」といいます。

刑訴法207条1項本文

「前三条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。」

「前三条」にあたる204条から206条は、いずれも被疑者を逮捕した後に勾留を請求する場合を規定したものです。

これにより、勾留をするためには逮捕が先行していなければならず、逮捕を経ずに直ちに勾留することはできないことになります。

3-2 逮捕前置主義の実質的根拠

逮捕前置主義の実質的根拠は、捜査の初期段階では犯罪の嫌疑や身柄拘束の必要性が流動的であるため、いきなり長期の身柄拘束である勾留を認めるのではなく、まず短期の身柄拘束である逮捕を先行させ、その期間内に被疑者からの弁解聴取やその他の捜査活動を進めさせたうえで、それでもなお身柄拘束が必要な場合に長期の身柄拘束である勾留を認めることが、不必要な身柄拘束を防止するという観点から望ましいという点にあります。

学説上は、逮捕と勾留それぞれの段階で裁判官による審査がなされる点を捉えて、逮捕前置主義の趣旨として身柄拘束について二重の司法審査を経させることにあるとする見解も少なくありません。

もっとも、短期と長期という順序で身柄拘束を2段階にしたうえでそれぞれに審査を行うことにより、被疑者の身柄拘束が短期の身柄拘束である逮捕だけで終わる場合がありうる点に、この制度の意義があるといえます。

3-3 逮捕と勾留の被疑事実の同一性

逮捕前置主義の趣旨から、逮捕と勾留の被疑事実は同一でなければなりません。

そうでなければ、逮捕段階での捜査によって、その後の勾留の理由や必要性が消滅する場合があるという関係が成り立たないからです。

もっとも、ここでいう「同一性」は、逮捕の基礎とされた事実と勾留の基礎とされた事実が完全に一致しなければならないということまで意味するわけではありません。

逮捕の理由とされた被疑事実と勾留が請求された被疑事実との間にずれがあったとしても、両者の間に、後者についても逮捕中に捜査がなされたと評価できる程度の事実の共通性があるときに、被疑事実の同一性があるとして、勾留を認めてよいということになります。

この点が問題とされた裁判例として、名古屋地決平成20年6月26日裁判所ウェブサイトがあります。

名古屋地決平成20年6月26日(覚醒剤所持事件)

【事案】

被疑者(X)は、Aと共謀のうえ、6月16日午前6時34分頃、名古屋市内のA方において覚醒剤0.16グラムを所持したという被疑事実で通常逮捕されました。逮捕後の弁解録取手続において逮捕事実の要旨を告げられた後、Xは「6月14日の午後に自動車内でAと覚醒剤を共同所持し、その後Aと一緒にそれを使用したこと、その残りの覚醒剤をAが自宅に持っていたのであれば、事実に間違いはない」と述べました。

そこで検察官は、「Xは、Aと共謀のうえ、6月14日午後10時10分頃、名古屋市内の路上に停車した自動車内において、覚醒剤0.3グラムを所持した」との被疑事実により勾留請求を行いました。しかし、これを受けた裁判官が、逮捕事実と勾留請求事実には同一性がないとして勾留請求を却下したため、これに対して準抗告が申し立てられました。

【判旨の要旨】

本決定は、逮捕事実と勾留請求事実との同一性は、単に事実同士の日時や場所といった形式的な点を重視して、被疑事実が両立するかどうかを判断するのではなく、もう一度、逮捕手続から司法審査をする必要があるのか、あるいは、同一の手続内で処理することが可能であるのかといった観点から、被疑事実の背景となる事情、被疑者の弁解の状況などを総合的に考慮し、基本的事実の同一性があるのかどうかを判断する必要があるとしました。

そのうえで、本件勾留請求事実における所持の対象となった覚醒剤の一部が被疑者らによって使用され、その残りが本件逮捕事実において所持の対象となった覚醒剤にあたるという関係にあることから、両事実は法的には同一の事実と評価すべきものであり、基本的事実の同一性が認められるとして、勾留請求を認めなかった原裁判を取り消しました。

【ポイント】

本決定は、被疑事実の同一性の判断を形式的な日時・場所の一致ではなく、捜査の実質的なつながりから評価するという柔軟な基準を示しています。

逮捕事実における覚醒剤の所持が、勾留請求事実における所持の経緯に関わるものとして、逮捕段階で捜査が当然に及ぶ関係にあったと評価できるか否かが判断の核心にあります。

3-4 被疑事実の変動

逮捕中の捜査により、新たな犯罪の嫌疑が生じたり、嫌疑の内容が当初想定していたものとは異なってきたりする場合があります。

このような場合に、逮捕と勾留の被疑事実の同一性をどこまで貫くべきかという問題があります。

問題となる主要な場面は以下の2つです。

(1)A事実での逮捕中に、それとは同一性を欠くB事実についての嫌疑が生じた場合に、被疑事実をB事実に切り替えて直ちに勾留できるか

逮捕前置主義を貫けばこれは認められず、B事実については改めて逮捕からやり直さなくてはなりません。

B事実について直ちに勾留を認めることは、逮捕前置主義自体の否定に至らざるをえないとして、多数説・実務はこれを否定します。

(2)A事実で逮捕した後に、A事実にB事実を付け加えて勾留請求することはどうか

かつては、この場合も、B事実については逮捕が先行していない以上、勾留は許されないとした裁判例もありました(東京地決昭35・5・2判時222・6)。

しかし、現在の実務は逆に、この場合には勾留を認めてよいとする考え方で固まっているとされます。

仮にB事実について逮捕を先行させても、A事実による勾留がなされる以上、身柄拘束は継続する一方で、B事実による勾留が認められれば、B事実による逮捕の分だけかえって身柄拘束が長くなってしまうという問題があるからです。

第4章 逮捕の違法と勾留

4-1 問題の所在

勾留が逮捕を前提とするものであるとすると、仮に逮捕が違法であった場合、そのことが、それに引き続く勾留が認められるか否かの判断に影響を及ぼすのかという問題が生じます。

4-2 逮捕の違法が勾留に影響するか

一方では、逮捕と勾留は時間的に前後関係にあるとはいえ別個の処分であるから、勾留が認められるか否かは、あくまで当の勾留の要件が備わっているかによって決定されるのであって、先行する逮捕が適法か違法かは、勾留の適否と直接の関係はないという考え方もあります。

しかし、これに対しては、逮捕が違法であった場合には、本来被疑者は直ちに釈放されなければならず(刑訴法210条1項)、そうすると、刑訴法204条から206条による勾留請求はできないから、207条1項の「前三条の規定による勾留の請求を受けた」に該当せず、勾留が認められないことになる、という反論があります。

また、現行法上、逮捕に対する直接の不服申立て手段が認められていないのは(最決昭57・8・27刑集36・6・726)、後の勾留段階で逮捕の適法性を審査することが当然の前提とされているからだという見解も有力です。

こうした理由から、学説上は逮捕の違法性が勾留の適否に影響を及ぼすことを認めるのが通説であり、現在の実務もその考え方で固まっています。

4-3 違法の程度による判断──裁判例の比較

もっとも、逮捕に軽微な瑕疵があるにすぎないような場合にまで勾留を一切認めないのは、捜査による事実解明を過度に阻害するため妥当ではないと考えられます。

そこで、勾留請求が認められないのは、ある程度重大な違法がある場合に限られるとするのが、現在の実務の立場です。

逮捕にどの程度の違法があれば勾留が認められなくなるかは一義的な基準を設けることは困難ですが、任意同行が実質的に逮捕と評価された場合を例に、以下の2つの代表的裁判例を比較します。

富山地決昭和54年7月26日(任意同行・実質逮捕事件)

【事案】

被疑者を警察署へ任意同行後、午前8時前から深夜の零時過ぎまで取調べを行ったというものであり、その間、被疑者には常に監視が付いていました。本決定は、少なくとも午後7時以後は実質的には逮捕がなされた状態にあったとしましたが、その後の手続は、翌日の午前零時20分に逮捕状執行、同日午後3時30分に検察官送致、同日午後5時15分に勾留請求という経過をたどりました。

【判旨の要旨】

約5時間にも及ぶ逮捕状によらない逮捕という令状主義違反の違法は、それ自体重大な瑕疵であって、制限時間遵守によりその違法性が治癒されるものとは解されない。

→ 勾留請求を却下した原決定に対する検察官の準抗告を認めなかった。

【ポイント】

本決定は、逮捕が無令状でなされていること自体によって、勾留請求を違法とするような重大な違法があるとしています。

逮捕の実体的要件(緊急逮捕の要件)が備わっていたかどうかには触れず、手続形式の重大な違反(令状主義違反)を理由に重大な違法と評価したものです。

東京高判昭和54年8月14日(パトカー同行・実質逮捕事件)

【事案】

被疑者をパトカーに乗せて駐在所から警察署に同行した時点(午後11時頃)から実質的な逮捕があったとされましたが、その後の経過は、翌15日午前2時18分に逮捕状執行、翌16日午後1時に検察官送致、勾留請求を経て、同日午後4時18分に勾留状の執行というものでした。実質的逮捕から正式な逮捕までは約3時間でした。

【判旨の要旨】

右実質的逮捕の時点において緊急逮捕の理由と必要性はあったと認めるのが相当であり、他方、右実質的逮捕の約3時間後には逮捕令状による通常逮捕の手続がとられていること、右実質的逮捕の時から48時間以内に検察官への送致手続がとられており、勾留請求の点についても違法の点は認められないことを合わせ考えると、右実質的逮捕の違法性の程度は、その後になされた勾留を違法ならしめるほど重大なものではない。

→ 勾留を適法とした。

【ポイント】

本判決は、実質的逮捕の時点で緊急逮捕の要件が備わっていれば、本来無令状での逮捕が許された場合であり、警察官がいわば手続の形式を誤ったにすぎないといえるから、単に通常逮捕の要件が備わっていた場合とは異なり、違法性の程度は低いとしました。

富山地裁との決定的な差異はこの点にあります。

【表4:2つの裁判例の比較】

【表4:2つの裁判例の比較】

第5章 再逮捕・再勾留

5-1 原則:一回性

逮捕・勾留はいずれもその期間が限定されている以上、同じ被疑事実について繰り返し逮捕・勾留することが認められないことは明らかです。

それを無制限に認めれば、その期間を限定した意味がなくなるからです。そのため、同一の被疑事実については、逮捕・勾留は原則として1回に限られます。

なお、刑訴法199条3項は、捜査機関が逮捕状を請求する際に、同一の犯罪事実についてその被疑者に前に逮捕状の請求または発付があったときには、その旨を裁判所に通知しなければならないとして、逮捕の不当な蒸し返しを防止しています。

5-2 例外:先行する逮捕・勾留が適法な場合の再勾留

しかし、例えば逮捕・勾留した被疑者を嫌疑不十分で釈放した後、新たな証拠が発見された場合や、逃亡のおそれがなくなったとして釈放したところそのおそれが再度生じた場合など、被疑者の身柄を改めて拘束したうえで捜査を行う必要性が生じる場合があります。

このような場合に、例外的に、同一の被疑事実によって再逮捕・再勾留が認められるでしょうか。

この点を扱った代表的裁判例として、東京地決昭和47年4月4日刑裁月報4・4・891があります。

東京地決昭和47年4月4日(爆発物取締罰則違反事件)

【事案】

5件の爆発物取締罰則違反の疑いで逮捕・勾留され、10日間の勾留期間の延長がなされたものの、嫌疑不十分で勾留期間満了により処分保留のまま釈放されたXにつき、その後、この5件のうちの1件の被疑者として逮捕したYから、当該事実についてXらと共謀して犯行に及んだ旨の供述が得られたため、その事実により再逮捕がなされ、続いて勾留が請求されたというものです。勾留請求を受けた裁判官は、被疑者に対する同一被疑事実による勾留は、やむを得ない事由があるときであっても、またその回数を1回に限らないとしても、勾留期間は通じて20日を超えることができないと解すべきであるとしたうえで、本件はすでに20日間の期間の勾留を経ているから本件の再度の勾留請求は不適法であるとして、その請求を却下しました。これに対して検察官が準抗告を申し立てました。

【判旨の要旨】

本決定は、単なる事情変更を理由として再逮捕・再勾留することは許されないとしつつも、刑事訴訟法には再逮捕を認めていると考えられる規定がある一方で再勾留を禁止した規定はないことを前提に、逮捕と勾留が相互に密接不可分の関係にあることに鑑みると、現行法は、例外的に同一被疑事実につき再度の勾留をすることも許していると解するのが相当であるとしました。

そのうえで、どのような場合に再勾留が許されるかについては、「先行の勾留期間の長短、その期間中の捜査経過、身柄釈放後の事情変更の内容、事案の軽重、検察官の意図その他の諸般の事情を考慮し、社会通念上捜査機関に強制捜査を断念させることが首肯し難く、また、身柄拘束の不当なむしかえしでないと認められる場合」に限って、それが許されるべきであるとしました。

【ポイント】

再勾留が認められるためには、第一に、事情変更があったことにより、再勾留を認めたとしても、それが単なる勾留の蒸し返しとはいえないことが必要です。

この判断にあたっては、新たに生じたとされる事情が、当初の勾留中に捜査が及んでしかるべきものではなかったかという意味で、先行する勾留期間中の捜査経過も考慮されることになります。

第二に、再勾留の必要性の程度と、被疑者が被る不利益の程度とを比較衡量して、再勾留を認めることが相当であることが要求されます。

例えば、最初の勾留につき期間延長を経て20日間の勾留がなされているような場合には、被疑者が被る不利益が大きいため、再勾留は認められにくくなります。

5-3 先行する逮捕・勾留が違法な場合の再逮捕・再勾留

当初の逮捕・勾留が違法であった場合に再逮捕・再勾留を認めると、逮捕・勾留期間の制限が無意味になるだけでなく、実質上、前の逮捕・勾留の違法を不問に付すことになり、逮捕の運用がルーズになりかねないという問題があります。

もっとも、当初の逮捕が違法であった場合であっても、その後の再逮捕が一律に否定されるわけではないと考えられます。

比較衡量にあたっては、当初の逮捕手続の違法が重大であればあるほど、将来の違法逮捕を抑止する必要性は高まるから、逮捕手続に著しい違法があって、身柄を拘束した状態での捜査を行う必要性を考慮しても、それ以上の身柄拘束を認めるべきではないという場合には、再逮捕を否定すべきことになります。

第6章 一罪一勾留の原則

6-1 一罪一勾留の原則の意義

逮捕・勾留は被疑事実を単位として行われるから、同一の被疑事実について複数の逮捕・勾留を同時に重複して行うことはできません(重複逮捕・重複勾留の禁止)。

また、時期をずらして逮捕・勾留を繰り返すことは再逮捕・再勾留となり、原則として認められません。

このように、同一の被疑事実については、原則として1つの逮捕・勾留を1回のみ行うことができるとする原則を「一罪一逮捕・一勾留の原則(一罪一勾留の原則)」といいます。

6-2 「一罪」の基準

問題は、「一罪」つまり被疑事実の同一性が、いかなる基準によって画されるのかです。犯罪事実が単一である場合にはそれがそのまま被疑事実になるため問題となることはほとんどなく、実際に問題が生じるのは、常習一罪のように、相互に独立性を有する複数の事実が実体法上一罪を構成する罪の場合です。

【表5:「一罪」の基準をめぐる学説の対立】

【表5:「一罪」の基準をめぐる学説の対立】

6-3 判例の状況

一罪一勾留の原則が適用される範囲については、学説・判例の立場が異なります。

以下の2つの判例を比較します。

福岡高決昭和42年3月24日(常習傷害事件)

【事案】

常習傷害の事実により勾留のまま起訴され、その後保釈された被告人が、保釈中に新たな傷害事件を起こし、その事実により逮捕・勾留されました。その後、検察官から、その傷害事件と同一性が認められる事実を公訴事実とする訴因を当初の訴因に追加する請求がなされ、それが許可されて勾留が継続していたというものです。

【原裁判所の判断】

弁護人からの勾留の取消し請求を受けた裁判所は、新たな傷害の事実が起訴されている常習傷害の一部となることを前提に、「包括一罪も一罪であることには変わりないのであるから一罪一勾留の原則を否定することはできず、本件のように一罪とされた事実についてすでに保釈が許されている以上、その一部についてさらに被告人の身柄の拘束を継続することはできないものといわざるを得ない」として、新たな傷害事件による勾留を取り消しました。「一罪」の基準を実体法上の罪数とし、重複勾留となるから許されないとしたものです。

【高裁の判断(判旨の要旨)】

本決定は、一罪一勾留の原則につき、「勾留の対象は逮捕とともに現実に犯された個々の犯罪事実を対象とするのが相当である。したがって、被告人又は被疑者が或る犯罪事実についてすでに勾留されていたとしても、さらに他の犯罪事実について同一被告人又は被疑者を勾留することが可能であって、その場合に右各事実がそれぞれ事件の同一性を欠き刑法第四五条前段の併合罪の関係にあることを要しない」として、本件のような場合の勾留を正当化しました。

【ポイント】

本決定は「一罪」の基準を実体法上の罪数ではなく個々の犯罪事実とすることにより、常習傷害の一部を構成するとしても、個々の傷害事実ごとに別個に勾留できるとしました。

この立場からは、各事実の同一性を欠く限り、重複勾留の問題は生じないことになります。

仙台地決昭和49年5月16日(常習賭博事件)

【事案】

被疑者が昭和48年2月3日・4日・14日の賭博を理由に常習賭博の罪により昭和49年2月18日に逮捕・勾留され、起訴を経て保釈中の同年5月9日に、昭和48年5月19日の賭博を理由として再度逮捕され、引き続いて昭和49年5月12日に勾留が行われたというものです(前述の③の類型)。弁護人から勾留の取消しが申し立てられました。

【判旨の要旨】

本決定は、「一罪」の基準を実体法上の罪数に求めたうえで一罪一勾留の原則が適用されるとしつつも、直ちに後の勾留が違法となるとするのではなく、当初の逮捕・勾留中に後の逮捕・勾留の理由とされた昭和48年5月19日の賭博についても同時に捜査を遂げうる可能性があったかどうかを問題としました。そして、本件は昭和49年1月4日にS警察署に認知されており直ちに捜査を行えば本件被疑者を割り出すことは十分可能であったのであるから、同時処理の可能性のある常習一罪の一部についての逮捕勾留であるとして、一罪一勾留の原則が適用されるとしました。

そのうえで、再逮捕の際の逮捕状請求書に前に逮捕状の発付があった事実を記載していなかったため逮捕が違法であり、それに引き続く勾留も違法であるとして、勾留を取り消しました。

【ポイント】

本決定は「一罪」の基準を実体法上の罪数に求めながら、一罪一勾留の原則が直ちに後の勾留の違法をもたらすのではなく、同時捜査の可能性があったかどうかという基準で、一罪一勾留の原則が適用される範囲を画しています。

同時捜査の可能性の判断は評価を伴うものであり、③の類型(逮捕・勾留中に以前にB事実も行っていたことが判明した場合)については、ほぼ例外なく同時捜査の可能性があったとみなすべきとする有力な見解もあります。

まとめ

【表6:勾留に関する主要判例一覧】

【表6:勾留に関する主要判例一覧】

【勾留の適法性判断フローチャート】

勾留の適法性は、以下のフローで判断します。

勾留の適法性判断フローチャート

おわりに

勾留は、逮捕に引き続く長期の身柄拘束として、刑事手続全体に深く関わる重要な制度です。

本記事で学んだ内容を整理すると、以下のとおりです。

第一に、勾留の要件は、被疑事実の存在・勾留の理由・必要性・逮捕の先行の4つです(刑訴法60条・207条)。

期間は原則10日、延長で最大20日です。

第二に、事件単位の原則とは、①逮捕・勾留は被疑事実ごとに行われ、②顕在化していない被疑事実を身柄拘束の根拠にできないという原則であり、現在の実務・通説によって認められています。

第三に、逮捕前置主義から、逮捕と勾留の被疑事実には同一性が必要ですが、それは完全な一致ではなく、後者についても逮捕中に捜査がなされたと評価できる程度の共通性があれば足ります。

第四に、逮捕の違法は勾留の適否に影響しますが(通説・実務)、重大な違法がある場合に限り勾留請求が認められなくなります。違法の重大性は、逮捕が違法とされる類型ごとに判断されます。

第五に、再逮捕・再勾留は原則として認められませんが、事情変更があり蒸し返しでなく、かつ必要性と不利益を比較衡量して相当といえる場合に例外的に許されます。

第六に、一罪一勾留の原則における「一罪」の基準について、実体法上の罪数説と個々の犯罪事実説があり、いずれの立場でも、原則が適用された場合にさらに例外が認められるかの検討が必要です。

次回の【刑事訴訟法入門5】では、別件逮捕・勾留について解説します。

この記事では、初学者の方にもわかりやすいよう判例を交えて基本的な考え方を解説しています。

詳細な解説や、実践的な答案の書き方を知りたい方は、ヨビロン刑事訴訟法のテキストをご購入いただけると幸いです。

参考判例

・横浜地決昭和42年2月2日下刑集9・2・161(勾留延長と余罪の考慮)

・名古屋地決平成20年6月26日裁判所ウェブサイト(逮捕事実と勾留請求事実の同一性)

・東京地決昭和35年5月2日判時222・6(逮捕先行なしの勾留を否定した事例)

・最決昭和57年8月27日刑集36・6・726(逮捕に対する準抗告不可)

・富山地決昭和54年7月26日判時946・137(任意同行・実質逮捕と勾留の関係)

・東京高判昭和54年8月14日刑裁月報11・7=8・787(緊急逮捕の要件具備と勾留の適法性)

・東京地決昭和47年4月4日刑裁月報4・4・891(再勾留の可否)

・浦和地決昭和48年4月21日刑裁月報5・4・874(違法逮捕後の再逮捕)

・福岡高決昭和42年3月24日高刑集20・2・114(常習傷害と一罪一勾留の原則)

・仙台地決昭和49年5月16日判タ319・300(常習賭博と一罪一勾留の原則)

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憲法A取得者による

  • 『判例の射程』
  • 受講生が実際に予備試験の当日も穴が開くほど見ていた『目的手段審査判例まとめ』
  • 「生存権」の一般的解法
  • 解法を使った過去問解説動画「生存権」

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LINE特典動画では、私が提唱する「解法パターン」とその活用方法の一端をお見せします。

動画①では、「判例の射程とは何か」を予備試験の過去問を題材にしながら分かりやすく解説します。この解説を聞いた受講生からは「判例の射程の考え方・書き方がようやくわかった!」との言葉をいただいております。

動画②では、試験開始前に見ることで事案分析の精度が格段にあがるルーズリーフ一枚に収まる目的手段審査パターンまとめです。

動画③では、どの予備校講師も解説をぼやかしている生存権の解法を明確にお渡しします。

そして、動画④では③の生存権の解法パターンを使って、難問と言われた司法試験の憲法の過去問の解説をします。
是非、解説動画を受け取って、世界を変えてください。

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